「ちょっとお隣、いいですか?」

見上げると、美坂が覗き込んでいた。
ハッと自分の顔がどうなってるかを思い出す。慌ててグシグシと裾で涙を拭いた。

「なに」
「そうね、うん…」

ぶっきらぼうに言うと、美坂ははっきりと答えず、スカートを抑えながら隣に腰掛けた。
二人して、海を眺めてる。なんだろうな、これ。

「泣いてたんだ」
「……」

余計なお世話だ。男にそんなこと面向かって聞かないでくれ。

「ごめん」
「なに謝ってるんだよ」
「なんとなくよ」

プラプラと足を揺らしながら、そっけなく美坂は言う。
二人して、顔も向けずに視線も交さない。
だから、何だってんだよ、これは。

「あのさ、北川くん」
「なに」
「泣かないでよ」
「うるさいなあ」

止まらないんだ。仕方ないだろう。みっともないったらありゃしない。

「なによ、心配してあげてるのに」
「よけい惨めじゃないか」
「もう」

嘆息が聞こえる。
分かってるんだって。ああ、さらに惨め。

「元気出しなさいよ」
「無理。オレ、もうダメ」
「もう」

呆れられてもどうしようもない。もー、なんもする気になんない。
畜生畜生、このまま海に飛び込んで


―――チュッ


「え?」
「おまじないよ、元気になったでしょ?」

えーっと。

唇に手を当てる。うーむ、コレハコレハ?

「すまん。よく分からんかった。もう一回頼む」
「うーん、じゃあサービスということで」


―――チューーッ


うーむ、コレハコレハ?

「も、もう一回」
「欲張りすぎ」


―――ポカッ


「うぐ」
「でも、オマケ」


―――ムチューッ


「し、舌が、舌が」
「どう?」

どうもこうもありません。

「み、美坂ぁ!!」
「え!? きゃ、きゃあー」


―――ガバァァ


「ちょ、待って、外でそんな――」
「もう我慢できーん」
「我慢全然してないでしょー!」


―――グワァァァ


「あ、あッ、ダ――――」
「うおおおー。好きだぁぁぁ」
「やん」


元気になりました。




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