混浴露天風呂。
 それは人々の疲れ果てた心を癒してくれる雄大な自然を孕んだ桃源郷。
 具体的に言うと、神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・慢性疲労回復・冷え症・美肌効果・便秘の解消などなど幾多の効能があるアルカリ性単純温泉(混浴は関係無し)

 そんな極めて健康に優しく、精神的な潤いを与えてくれる温泉にて――――

「ガボボボッボ」
「ファ、あぶぶ、な、ひゅひ、ブブブブ」
「うにゅ〜、ブクブクブク」
「腕、腕挟まって、なゆ、こら、アババババ」

 美坂チーム、現在まとめて溺れてますがな。


「ごぼっ、がっ、い、いい加減にどきなさぁぁい!!」
「にゃぁぁ!?」
「おわぁぁ!」

 バシャーンとお湯柱がそそり立ち、香里の上に覆い被さっていた名雪と祐一がまとめて吹き飛ばされた。

「はぁはぁ、げほげほっ、こ、この、名雪、あんた人を溺死させるつもりっ!?」
「うー、だ、だってぇ、身体に力が入んなくて」
「ほぅ? そのわりにしっかりと人の体にしがみついてくれてたじゃない」
「……だってぇ、香里の身体柔らかくて」
「なっ!?」

 思わず自分の身体を抱きしめる香里の横から、祐一は独り反応のない人に声をかける。

「北川ぁ、生きてるかぁ?」

 一番下で押し潰れていた北川潤、香里の背後でプゥカプカとうつ伏せのまま漂流中。

「ったくもうっ、変な事ばかり言って。だいたい今の本気でヤバかったわよ。けほっ、お湯飲んじゃったじゃない」
「温泉は飲んでも身体にいいんだぞ」
「相沢くん、そういう問題じゃないでしょ!」

 ムスッと不貞腐れながら、香里はずれあがった胸のタオルをいそいそと直す。

「香里、お前今更隠すなよ」
「じょ、冗談じゃないわよ」
「だいたいそれ、もう先っぽ透けて見えてるじゃないか」
「――ッ!」

 言われてみれば、確かにお湯に濡れて張りついたタオルには、くっきりとピンク色の先端が浮き出ている。
 呆れたように、だがジロジロと愉快げに舐めまわしてくる祐一の視線に、香里は慌てて胸を隠した。

「あー、香里ったら、人に散々エッチな事しておいて」
「な、なによ」

 嫌な予感に、香里は一歩後退る。ニタニタと嗤う名雪の表情は親戚らしく祐一のそれそっくりで。

「なによって、香里ってば白々しい。祐一と北川くん、それでわたしの番が終ったんだから」

 名雪はニタァと笑って手をワキワキと動かした。

「次は当然、香里の番でしょ?」

 香里は自分の顔面から血の気が引いていく音を確かに聞いた。
 乾いた笑顔を浮かべながら、フラフラと首を振る。

「あは、ははは、じょ、冗談よね?」
「香里、お前この流れで自分が無事に済むと思ってたのか?」
「見通しがイチゴサンデーより甘過ぎるよ」
「だ、だって、そう、だめよ、だって、だってあたし、汗まみれで汚いし。うん、そうよ、汚れてるから恥ずかしいし、今日のところは遠慮しておくと言うことで………」

 その時、背後でザバンと勢いよく何かが立ち上がる。と、同時に熱の篭もった叫びが轟く。

「じゃあ、みんなで美坂を綺麗にしてあげようじゃあないかぁっ!!」
「ちょっと待てぇぇ!?」

 なにをほざくかおんどれはぁぁ!?

 パクパクと金魚みたいになってる香里を他所に、
「具体的にはどうするの?」とほくそえみながら問う名雪。
 北川は心底無邪気に言い放った。

「なに、至極簡単だ。オレたち三人で、美坂の肢体を隅から隅までゴシゴシと洗ってあげるのだよ、水瀬君!」
「おお、さすがは北川先生、ナイスアイデアだぞ」
「ちょ、ちょっとなによそれぇぇ!」

 どうやら墓穴を掘りまくってしまった事を悟り、香里の顔が引き攣りまくった。
 ユラリとお湯から立ちあがり、にまぁと笑うやジリジリとにじり寄ってくる名雪と祐一。二人とも素裸を隠そうともしないのが恐怖を倍増し。香里は半泣きになりながら北川を振り返って懇願した。

「お、お願い、北川くん許して。なんでも、なんでもするから」
「なんでも?」

 切羽詰った香里は、普段の彼女なら絶対云わないような事を口走る。

「どどどうしてもって云うなら、また今度ああたしの裸見せてあげてもいいし、なっなんだったら、胸も触らせてあげてもいいのよ。ふっ、奮発して、云ってくれたら何時でも好きな時にフェラまでしてあげちゃう♪ だから」
「じゃあ、身体洗わしておくれ」
「それを止めろと言ってるんでしょうがぁぁ!」
「じゃあダメぇ」
「なによそれ、あっ、ちょっちょっちょ」

 鬼のような素早さで跳びかかってきた祐一と北川に、香里はあっさり捕縛され、肩と足を掴まれて担ぎ上げられた。

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!」

 もう泣いているのか笑っているのかよう分からん状態のままエイコラサッサと香里は神輿の様に担がれて運搬された。
 そのまま洗い場まで運ばれて、うつ伏せに横たえられる。ツルツルに磨かれた石床は冷たくて、香里は反射的に立ち上がって逃げようとしたが。

「うんしょ」

 と、あっさり名雪が背中に腰掛け、動けなくなる。

「うぐぅ、お、重い」
「し、失礼だね、香里てば」

 しばらくバタバタと悪足掻きをしてみたものの、腰の上に座り込んだ名雪は微妙な体重移動で悉く香里の動きを封じていった。

「香里ぃ、そんなに動かれるとわたし、また変な気分になってきちゃうよ」
「ち、違う、あたしはそんな」

 名雪が腰掛けた部分に感じるヌメった熱さと、秘唇の擦れる感触に、香里はガックリと暴れるのを停止した。

「半裸の少女に乗っかって押さえつける全裸の少女……むう、名雪、エロいぞ」
「く、くんずほぐれつ。水瀬、おっぱい揺れ過ぎだ」
「う、もう、祐一も北川くんもジロジロ眺めてないでよぉ」
「おお、すまん。さて、香里」
「ひっ」

 屈みこんでグッと顔を覗き込んでくる祐一に、香里は思わず背筋を反らせて視界一杯に迫った祐一の逸物から顔を反らせる。

「……こいつは失敬」

 ややバツが悪そうに後ろに下がった祐一は、改めて手に持ったハンドタオルを香里に見せる。

「スポンジとタオルがあるけど、どっちで洗って欲しい?」
「いえ、別に洗わなくてもいいから。お構いなく」
「まあ、そう言わず」
「香里、遠慮しなくていいよ」
「オレたちの仲じゃないかぁ」
「じ、自分で洗えるから」
「そんなつれないこと言うなよ」
「香里、わたしたち友達だよね」
「オレたちは、心の底から美坂のこと、綺麗にしてあげたいんだ」

 香里はなんかもう全身から力が抜けてしまって、ぐったりと床に突っ伏した。
 こいつらのアホさ加減たるや、正直もうどうしようもない気になってしまう。抵抗する気さえ削がれてしまい、香里は投げやりに答えた。

「……スポンジ」
「え?」
「もう! 分かったから! スポンジ! スポンジでいいから、勝手にどこでも洗いなさいよ!」

 わざわざ首を反らして顔を見なくても、三人の顔がパァと明るくなったのが分かった。
 そして、祐一が号令を掛ける。

「よし、お許しが出たぞ。名雪、北川。手にハンドソープを付けろ」
「うん、らじゃー。素手でゴシゴシ、素手でゴシゴシ♪」
「手に泡を付けて、美坂の身体を隅から隅まで〜 るんるん」
「…………って、スポンジはどこへいったのよぉ!?」
「ああ、あれ嘘」
「あんたたちぃぃぃぃ!!!」

 香里の半泣き入った絶叫は、虚しく渓流にこだまして消えていった。





 数分後、露天風呂の洗い場には必死に唇をかみ締めながら、遠慮も呵責も無く身体中を這い回る幾人もの手の感触に、じっと耐え忍んでいる香里の姿があった。
 いや、正直言うとけっこう気持ち良かったりして、「はふん」てな吐息を漏らしてしまうのを我慢していただけなのだが。

「香里、気持ちいい?」
「…………ぷい」
「もう、意地っ張りなんだから」

 腰掛けたまま、名雪は香里の背中を両手で弧を描くようにして丹念に泡立てた手で擦っている。体重をかけて力を込めて擦っている所為か、マッサージの効果もあるのだろう。背筋の筋肉がほぐれていくような感触だ。
 祐一はと言えば、寝そべった香里の横に胡座をかいて腰掛け、腕を持ち上げて肩口から二の腕までこれまたマッサージの要領で揉み解しながら垢を擦り落としていっている。顔をそちらに向けると、いささか眼にあまるものが飛び込んでくるので洗っている様子を見ているわけではないが。というか、お願いだからタオルぐらい巻いてほしい。加えて、時々それの先っぽが腕に当たるで気をつけて欲しい。
 それと、うつ伏せに寝転がってる香里からは見えないが、北川はといえば先ほどから足の指を一本一本丁寧に……

「……むう、足の裏って見てると……擽りたくなってくるな」
「やだ!!」
「あたっ、あ、足ばたつかせるなって、当たる当たるっ」

 どこに?
 香里、実は擽ったがりなので、かなり必死。

「ったった、わかった、わかったから、擽らないから」

 心なしか残念そうに言って、北川は脹脛を擦り始めた。ふにふにと卓球場での奮闘で凝り固まった筋肉をほぐす手付きが気持ちいい。はっきり言って何をされるかわからないとビビリまくっていた香里だっただけに、三人の意外なほど丁寧な手付きに安堵して、心地よさから眠気さえもようしてきてしまった。

「ううん」

 気分的にもなんだか大きくなってくる。生憎とエステなんかには言ったことのない香里だったが、こんな風に心地よいものならお金を払って言ってみるのもいいかもしれない。何より、自分自身は何もせず寝転がっているだけで、周りの人間が勝手に身体の手入れをしてくれるというのは想像以上に天国気分。なんだか、女王様かお姫様にでもなったかのようだった。

 ―――ペロン

「……ん?」

 香里はトロンと閉じていた目をふと開いた。なんだかお尻の方が急にスースーしてきたような。
 まるで、腰に巻いていたタオルを捲くりあげられ……

「むぅ、これが美坂の尻か」
「うむ、名雪に負けず劣らず白い肌じゃ」

 ―――むにゅ

 と、お尻が鷲掴みにされる感触。

「―――――ッ!!」

 香里の声にならない悲鳴がこだました。

「やっ、やわらけぇ」

 むにむに。

「いや、でも名雪の方がデカイと言えばデカイな」

 ぐにゅぐにゅ。

「うー、そういう言い方されるとあんまり嬉しくないよ」

 ぷにぷに。

「って、なに人様のお尻触り捲くってるのよ、あんたたちはぁ!」

 怒鳴りながら足をばたつかせようとした香里だったが、太股の上にどっかと北川が座りこんで押さえつけているので浮きあがりもしない。

「違うぞ、美坂。これは触ってるんじゃなくて洗ってるんだ」

 と言いつつ、タオルを捲りあげて露わとなった真っ白な二つの丘を鷲掴みにしてもみもみと揉んでいる北川君。

「くぅぅ、やっぱ柔らけぇ」
「はぅぅ、説得力が皆無なのよっ!」
「そんな事言われてもなあ。だってオレ、お尻よりもおっぱいの方が好きなんだぞ」
「意味わかんないわよ!」
「はいはい、ちゃんと割れ目の奥も洗うから」
「いやぁぁぁぁ!」

 尾骨のらへんを指で擦られ、香里はジタバタと身悶えした。
 勿論、北川と名雪二人掛りでのしかかられてるので無駄な抵抗だ。

「名雪、ちょっと変わってくれ」
「りょうかーい」

 と、そこで香里の腰に座っていた名雪と祐一が入れ替わる。

「なっ、なにを」
「へへへへ」

 怯える香里に、祐一はにやにやと手を蠢かせてみせた。

「さて、北川よ。そろそろ香里の鳴く声も聞いてみたい頃じゃないか?」

 言って、祐一はツツゥと指をわき腹に走らせる。

「ひゃっ」

 ビクンと跳ねた香里の肩を名雪が「よいしょ」と押さえる。

「ちょ、ちょっと待って」

 祐一が何をしようとしているか悟った香里は、声を引き攣らせて制止するが、

「聞こえないぞー」

 コチョコチョコチョ。

「うひゃっ、あは、ひゃははは」

 香里の脇腹を蜘蛛のように這いずり回る祐一の指。途端、狂ったように暴れ出す香里。

「いやあはっははははは」
「それそれ」
「にゃぁ、はっひっ、ふっ、あはは、やめ、はは」
「おりゃおりゃ」
「ひぃひぃ、あっはは、にゃはははは」
「どうだ、まいったか」
「まい、まいり、なはは、あっはっ、ははっ」
「……祐一、鬼だよ」

 暴れる香里の肩を押さえつけながら、名雪が半笑いで呟いた。

「くっ、相沢なんぞに負けるか。俺だって美坂を鳴かすくらい出来るんだぞ」

 と、対抗意識を剥き出しにして、座る向きを変えた北川。暴れる香里の足を何とか掴まえ、足の裏を……

 サワサワ

 羽毛で擦るかのような柔らかいタッチで足の裏を擽る北川。

「っ! っ! っ!」

 これは余りにも強烈過ぎた。香里の声にならない絶叫と、ペシンペシンとタイルをタップする音だけがこだまする。

「ああっ、逆に鳴かなくなってしまったー!」
「北川、お前ダメダメ」
「ガァァン!」
「というより、二人とも、そろそろ香里酸欠で死んじゃうよ」

 見ると、顔を真っ赤に染めてグッタリとなってしまってる香里さん。時々、ビクンビクンと震えているのが何気にヤバげ。

「むう、やり過ぎたか」
「っっは、はぁっ! はぁっ!」

 慌てて祐一と北川が擽る手を止めたお陰で何とか息を吹き返し、切羽詰った様子で酸素を吸い込む香里さん。

「あ…んた、たちは……」
「こちょこちょ〜」
「うひっ、ひぁはは」
「香里ってば、口で言われただけで擽ったがってる。祐一、触ってないのに」
「ははは、面白いなぁ、こちょこちょこちょ」
「ひゃははは、はは、や、やめてぇぇ、あはは」

 数分後、散々笑わされた挙句、息も絶え絶えとなった香里が、ぐったりとへたばっている姿があった。

「ふっ、イッたか」
「イッたんじゃなくて、逝っちゃったじゃないのかな」
「美坂ぁ、大丈夫かぁ」
「ふぇぇん」

 さすがにもう抗議する気力も根こそぎ奪い去られ、半泣きの香里。

「うっ、ううっ、お願い、もう許してぇぇ。あたし、もう笑えないのよ〜」
「それ、わたしの台詞」
「ふむ、笑えないのか。じゃあ、ちょっと脇腹を……」
「じゃあ、オレは足の裏を」
「やめんかっ、あはっあははははははっ」
「むう、まだまだ笑えるな」
「相沢、お前鬼だな」
「そういう北川こそ、いつまで香里の足首離さないんだ?」

 完膚なきまでのマイペースな三人に、香里はもう完全に逆らう気を無くしてしまった。今まで必死に保ってきた糸がプチンと切れる。こんなに苦しい思いをするくらいなら、いっそもう好きなようにしてもらった方がいい。
 香里はヨロヨロと貌を上げると、潤んだ目で三人を上目で見上げ、懇願した。

「お願い、もうホントに許して。なんでもするからぁ」

 笑いすぎてかほんのりと赤味を帯びたその面差し、切なげに潤んだ瞳、そして乱れきった姿で懇願する香里の姿に、三人は思わず唾を呑んだ。そして、血走った目で目配せを交わす。

「香里、ほんとになんでもする?」

 顔を近づけて、名雪がにっこりと笑う。怯えながらも香里は頷く。

「擽る以外はなにされても嫌がらない?」
「それは……」

 思わず言葉に詰まる香里に、上から退いた祐一が舌なめずりするかのような口調で告げる。

「はっきり言っておくけどな香里、引き返すんだったら今しかないぞ。正直、今の俺たちは香里でエッチな事をすることしか頭にない、若いから。途中でお預けはちと不可能だ」
「うっ……」
「本気で嫌なら、ここでやめる」
「北川くん」
「えー、やめるの?」
「名雪はだまっとれ」
「相沢と決めてたんだ。美坂と水瀬、どっちかでも嫌がったらそこで止めるって。オレとしては美坂の裸も見られたし、お尻も触れたし、フェラまでしてもらえたんだからもう充分以上に最初の目標は達成してるしな、でへへ」
「うむ、当初の目標は背中を流してもらうだったからなぁ」
「既に予想を遥かにオーヴァーした展開になってるんだよなあ」
「そのわりには二人とも、最初から計画してたみたいにスムーズに事を運んでるみたいだったけど」

 半眼の名雪に、祐一と北川は得意げに欲望は偉大なのだとのたまった。

「という訳でだ、嫌ならここでやめるよ。あー、でももう一回手コキくらいはして欲しいかも。これ、収まらないし」

 と、苦笑気味にいきり立ったものを指す北川。
「そんなに……」

 香里は躊躇いがちに訊ねた。

「エッチなこと、したいわけ?」
「そりゃもう絶対したい! 美坂の裸、もっと見たいし、触りたい。喘ぎ声とかも聞きたい」
「香里にも気持ち良くなって欲しいよ」
「そんなの、ここまで来たら色々やってみたいに決まってるだろう?」

 ストレートすぎて困ってしまいそうな欲望の発露。
 脱力した香里は観念したように目を閉じて、囁いた。

「いれるのは無し」
「え?」
「本番だけはお願いだから無しにして。この際もういいかなって思わないでもないけど、でもやっぱりこのままなし崩しなのは嫌だから」

 チラリと一瞥を北川に向けて、やっぱりちょっと怖いし、と言う。

「美坂、それって」
「あたしだって……」

 遮るように声をあげ、香里は恥ずかしさで死にそうな顔をしながら呟いた。

「その……もっと、色々して欲しい……かな、なんて」

 自覚症状はないのかもしれないが。
 それはどうしようもないくらいに殺人的仕草であり、台詞であり、表情であり。
 香里はそのまま、手をついて仰向けに寝そべった。
 しどけなく両手を頭の上に投げ出し、無防備に横たわった姿で、香里はマジマジと自分を見つめる学友たちの視線に、自分を晒した。転がった勢いで、プルンと揺れている胸。その膨らみを包んでいるタオルは散々身悶えていた所為でずれ下がり、先端の薄桃色が覗けており、ただでさえ濡れて透けているタオルにはくっきりと尖った突起のカタチが浮きあがっている。
 そして香里は、まるで拗ねているかのように、不貞腐れたように、もしくは期待に咽ぶようにして、囁いた。

「だから、いいわよ、もう。あたしのこと、あなたたちの好きなようにしてよ」

 側頭部にハンマーを食らったかのように揺らぐ三人に、香里は慌てて付け加えた。

「あっ、その……出来れば優しく、してよね」

 その一言で、フラフラと揺れていた北川が、仰向けにばたりと倒れた。

「ううっ、一気にエッチな雰囲気になってきちゃった」
「香里め、やっぱりこいつ、エロい。エロすぎる」
「美坂ぁ、美坂がぁぁ」
「おい、北川。こらっ、起きろ! 戻って来い!」
「ハッ、走馬灯by未来日記を見てた。ちなみに享年108歳」
「長生きしすぎだ。いいからさっさとやれ」
「ぐっ、お、おう。任せろ」

 頭を叩かれ我に返った北川は、恐る恐る香里に近づいた。

「美坂」
「…北川君、きゃっ」

 寝そべる香里の頭の方に回った北川は、そのまま香里の両脇を抱え上げ、有無を言わさず背中から抱き寄せた。

「あっ」

 一瞬、身体を固くしたものの、すぐさま北川に背中を預ける香里。丁度、北川の胡座に腰掛けるような形になる。
 腰の辺りに押し付けられる北川の強張りに、香里は少し赤面した。

「あー、それいいなあ」
「はいはい、あとでやってやるって」
「約束だよ」

 他愛も無いお喋りをしながら、祐一と名雪も傍に寄ってくる。

「北川、こういうのは慌てたらダメだからな」
「ゆっくりだよ、ゆっくり」
「わっ、わかってるって。じゃあ、美坂。タオル、外すぞ」
「馬鹿かー、お前はぁ!!」
「な、なんだよ」

 ぎこちない手付きで香里の胸を覆うタオルを外そうとしたのを止めたのは、当の香里ではなく祐一だった。

「慌てるなって言っただろうが。いきなり胸に行くやつがあるか」
「うっ、ダメなのか」
「それにだな、タオルは外すものじゃなくてずらすものじゃないか、馬鹿め馬鹿め」

 拳を振り上げ力説する祐一。

「……わたしのはいきなり外したくせに」
「それはそれ、これはこれ」
「うー」

 抗議を一蹴されぶーたれる名雪。

「ちょ、ちょっと、あたしは――」
「香里、お前の意見は却下」
「な、なんで」
「さっき好きなようにしてーって言っただろ」
「い、言ったけど」
「じゃあ文句言わない」
「……分かったわよ」

 言うだけ無駄なのだと悟り、抵抗感を無視して北川に背中を預けなおす。

「あっ、香里。手をさ、北川君の首に回してみて」
「……こう?」

 何かを思いついたらしい名雪に言われた通りに、香里は少し照れながら腕を上げて、後ろの北川の首に絡めた。
 そうすると、しなやかな香里の上半身がスラリと伸び、豊かな胸のラインが強調される。
 扇情的な姿だ。

「うんうん、色っぽいよ、香里」
「美坂、いい匂い」
「ば、馬鹿ね、石鹸の匂いよ」

 さわさわとお腹を撫でまわしながら顔をうなじに埋めて呟く北川に、香里は「やん」と小さく声を漏らして悶える。

「相沢、ずらすってどっちだ?」

 そろそろと焦らすようにして、前に回した腕を上へとずらして行きながら、北川が訊ねる。
 祐一は厳かに答えた。

「下乳だ」
「分かった、上にずらすんだな」
「うううっ、そういう以心伝心ってなんかいや」
「男同士でしか通じないってやつだね。意味が違う気がするけど」

 女性陣の呆れ返ったコメントを気にする事もなく、北川の手は香里の胸を覆うタオルへと掛かっていた。
 丁度下から持ち上げるようにして乳房を掌に乗せ、弾力と重みを楽しむ。動かす度にタプンタプンと揺れる香里のおっぱい。

「ううっ、感動のあまり泣けてきた。柔らかい、柔らかいよぅ、まるでおっぱいのように柔らかい」
「そりゃ、おっぱいだからな」
「他に表現のしようがないんだぁぁ!」
「お願いだから、あほな事叫びながら遊ばないで」

 グリグリと絡めた腕を締め上げながら赤らんだ顔を引き攣らせる香里。

「ほら、北川君。香里が焦れてるよ〜」
「誰が焦れて―――」
「了解了解、では」

 背後から胸を鷲掴みにした手。その小指がタオルの裾に掛かり、その裏側へと潜り込む。そのままゆっくりと掌をずらしていく。当然、小指を引っ掛けられたタオルもまた、上へとずり上がっていった。

「よし、そこでストップ!」

 祐一の声が飛び、北川の手が止まった。

「ちょ、ちょっとどうしてそこで止めるのよ」
「何故止めるのか。それは下乳だからだ」
「だから意味わかんないのよ!!」
「わたしもわかんない」
「ふっ、雅を理解しない女たちだな」

 ふふんと鼻で笑い、祐一はつつ〜と指先を露わとなった乳房の下の部分に這わせた。

「ひゃぅ」
「くくくっ、敏感だな」
「あのー、途中だけ止めてお前だけ楽しむのって腹立ってくるんだけど」
「馬鹿だな、止めろって言ったのはタオルだけで、手まで止めろとは言ってないぞ。香里が醒めないようにタオルがずれないように優しく揉んどけ」
「ああ、なるほど」
「こ、こら、待って、ちょ、あふん」

 やわやわと弾力を楽しむかのような柔らかい手付きで掌の下にある香里の胸を刺激し出す北川。
 またぞろ顔を上気させ始めた香里に、祐一が改めて名雪たちに説明し出す。

「下乳というのはだ、この乳首から下の胸の膨らみを言うんだ。名雪、ちょっと胸を強調してみてくれ」
「えっと、こう?」

 言われるがまま、腕を前に回して裸の胸を寄せて上げる名雪。

「そうそう、それでだ。男ってのはこの胸元の部分も好きなんだ。水着とか胸元の大きく開いた服なんかにフラフラと目線が言ってしまうし、女だってそこらへん意識してるだろう?」
「し、してるね」

 ツンツンとおっぱいの上を突つかれてどもりながらも頷く名雪。

「ところが、実は男の大半はこの下の部分にも大いなるエロティックさとダイナミックさを感じて興奮するのだよ」
「ひゃん」

 指を滑らせて乳房の下側に回りこみ、プニプニと乳肉に指を沈めて語った祐一は、その指を今度は再びじわじわと染み透るような胸を揉まれる快感に息を殺している香里の方へと戻す。

「特に! このように――」
「んんっ」

 ギリギリタオルが隠す沿線へと指を這わせ、

「薄っぺらい布がギリギリ乳首を隠すぐらいまで捲くれあがった状態から露わとなってる下乳など、まさに至高。さらにさらに、捲くれあがった布がおっぱいを上へと引っ張り上げて、今にも零れ落ちそうなところを、硬く尖った乳首が辛うじてタオルを引っ掛かってピンク色の乳輪をかすかにのぞかせながらも必死にその状態を保っているなんて事になったら、もう、もう!」
「ひぁっ、あっ、ああっ」

 祐一は声音を高鳴らせながら、タオルの上からもくっきりと分かるほど尖っている乳首を指で摘み上げた。その刺激に、香里が切羽詰った声をあげる。

「相沢ぁ、盛り上がってるのはいいんだけど、オレの位置からは見えないんだぞ」
「そんな情けない声出すなよ。仕方ないなあ、名雪、ちょっと北川と代わってやってくれ」
「はいはい」

 苦笑を滲ませながら、名雪が北川と位置を交換する。

「おおおおおおお!!」

 途端、湧きあがる大歓声。

「あたし、なんかもう泣きそう」
「はいはい、わたしが揉んであげるから泣かない泣かない」
「揉まなくてもいいわよっ、ってあぅ、んん」

 香里の胸をやわやわと揉みしだきながら、チュッチュと香里のうなじから首筋にかけてキスの雨を降らし出す名雪。
 一方の男二人は下乳に夢中。

「こ、このアングルは神の領域だ」
「だろう、北川よ。乳首が隠れているにも関わらず、露わになってるこの膨らみからおなかにかけてのライン。くぅぅぅ」
「こうじっくり見ても、ちょうど掌で持ち上げるのに最高の形なんだよな、美坂のおっぱいって」
「しかも、このしっとりとした肌触り。名雪のスベスベ感も最高だが、香里のもいいなあ」

 口々に論評しながら、掌を当てて揺らしたり、指で弾力を楽しんだり、お腹に頬を当てて下から見上げたりしている。

「あんなこと、言われてるよぉ。良かったね、香里。香里のおっぱい、最高だって」
「んんっ、やぁ」

 名雪の手付きに悶えながら、嫌々と小さく恥ずかしげに香里は首を振った。

「で、ではそろそろ」
「うむ、名雪、ねくすとすてーっぷ! タオルを上に引っ張れ。それこそ、ナメクジの進む速さで」
「りょうかーい」
「やっ、こ、こら、そんな遊ぶような、んん」

 ペロリと首筋を名雪に舐め上げられ、香里の抗議は封じられた。そして、祐一と北川が固唾を飲んで見守る前で、ジリジリとタオルがせりあがっていく。ただでさえ上に引かれて張っている下乳が突っ張ってくる。それでも香里のおっぱいが零れ落ちてこないのは、偏に尖りきった乳首がタオルの裾を必死に引っ掛けているからだった。だが、それも徐々に無駄な努力と化してくる。

「み、見え始めたぞ、美坂の先っぽ」
「おおお、頑張れっ! 乳首!」
「ばかっ、いやぁぁ、止めてぇぇ」

 泣き笑いの表情で悲鳴をあげる香里の胸元では、もはやタオルは浮きあがり桜色の乳輪も北川たちの前に晒され、辛うじて胸の先端がタオルの上昇を食い止めているだけ。だが、次の瞬間、遂に健気な乳首の奮闘は無に帰した。

 ―――プルン♪

 この世のものとは思えぬ綺麗な胸が揺れ、弾む。

「きたぁぁぁ!」
「おおおおっ、見よ、これが美坂のおっぱいだっ!!」

 タオルの下から現れ、プルプルと真っ白な双丘が揺れる前で、歓喜を爆発させる祐一と北川の声に、香里は茹蛸のようになった顔を両手で隠しながら低く呻いた。

「本っ当にバカばっかりだ。名雪、あたしもうだめ、死ぬ。恥ずかしすぎて死ぬ」
「あはは、まだまだ始まったばかりだよ、香里ぃ」
「………ううっ、もういやぁぁ」





 温泉卓球――

 触罪篇→唇嬲篇








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