「やっと着いたぁ」
「ここでいいの?」
「ああ、多分此処だよ」
「へぇ、いいところだね」

 パンフレットと睨めっこしている北川を他所に、祐一と名雪は安堵を塗した歓声をあげている。
 彼らの前には何十年という年輪を重ねたと思われるこじんまりとした旅館が佇んでいた。
 単線の田舎電車と一日に二本しか運行していないバスを乗り継ぎ、半日かけてやっとのことで到着した山奥の温泉旅館。卒業旅行に温泉というのは正直どうかと微かに不満を抱いていた美坂香里だったが、こうも風情のある旅館を前にしてはさすがに感嘆の吐息を漏らさずにいられなかった。

 一泊二日の卒業旅行。
 訪れたこの地にて、美坂チームにとって一生の思い出となる一日が始まる。












温泉卓球









 到着した彼等を出迎えてくれたのは、おっとりした、という言葉がそのままお婆さんになったかのような品の良い女将だった。彼女の先導を受けて、四人は自分達が泊まる部屋へと案内された。概観通りの風格のある和室。畳の薫りも芳しく、香里は無意識に深呼吸をしていた。見ると、隣で名雪も寛ぐように背筋を伸ばしている。

「わたしたちはこっちの部屋だね」

 名雪が興味深々に部屋を見渡し、障子を開けながら言った。奥には、もう一室案内された部屋と同じ間取りの部屋があった。
 どうやら隣の部屋とは障子で間が区切られているだけのよう。つまり、その気になりさえすれば行き来は思うがまま。香里は思わずジト目になって男二人を威嚇した。

「あ、これなら祐一たちの部屋と自由に行き来できるね」
「ちょ、ちょっと名雪」

 そんな香里の気持ちなどまるで頓着せずに、名雪が嬉しそうに男連中に向かって声を弾ませる。

「うむ、これなら夜這いの掛け放題だな、北川」
「今からプランを練り上げるか、相沢」
「あんたたち、よほど火曜サスペンスも真っ青の惨劇を堪能したいようね」

 嬉々として藁半紙を荷物から取り出し、本日の夜這壱号作戦計画表を書き出そうとしていた二人は、地獄の底から響いてきたかのような声に、いそいそと取り出したものを荷物に仕舞いなおした。

 若い客たちのやり取りを孫を見るような眼差しでニコニコと見守っていた女将が、一段落ついたのを見計らうように言った。

「お客さーたち、お昼の用意、もうでけとるんじゃけぇ、すぐ食べなさんね?」
「あ、はい」

 香里が曖昧に頷き、柔らかい訛りに促されるように時計を見れば、既に時刻は正午をまわっている。丁度いい具合にお腹もすきはじめていた。
 香里は振り返って皆に訊ねた。

「食べる?」
「おう、いい加減腹減ったぞ」
「オレも〜」
「わたしも〜」

 苦笑を浮かべ、香里は女将に言った。

「じゃあ、お願いします」






 食事はもう出来ているという女将の言葉に嘘偽りはなく、自分達の母ほどの年齢の仲居二人が数分と置かず彩りも眩い料理の品々を運び入れ、立ち去っていった。
 朝から何も食べていなかった四人は、嬉々として箸を取る。実際、目の前に並べられた料理は実に鮮やかに食欲を掻きたててくれた。

「わぁ、この赤いのもしかしてイチゴですか?」
「野苺の佃煮ですじゃよ」
「いちごの佃煮ぃ」

 陶酔している名雪は別格としても、他の三人もずらりと並べられた山の幸をふんだんに使った料理に、惜しげも無く舌鼓を打っていた。

「いやあ、こういう料理って新鮮だなあ」
「そう?」
「だって、肉も魚もないと普通なんか物足りないじゃん」

 食堂などではガバガバ掻き込むように食事する北川が、一口一口幸せそうに顔を綻ばせながら料理を味わっている様子が可笑しくて、香里は手の甲を口元に当てて肩を震わせた。

「お夕食にはシシ鍋ばご用意いたしますんで、肉も充分に味わぁてくだしゃあよ」
「シシってなんだ? ライオンか?」

 目を輝かせる祐一に、

「ばかね。猪のことよ」

 と、半眼になる香里。

「ら、ライオン鍋か……それはちょっと興味あったな」
「……あたしは勘弁して欲しいわ」

 少し残念そうな北川に、香里はライオンの尾頭付きの鍋を想像してしまい、げんなりとなりながら芹菜を口元に運んだ。シャキシャキとした歯応えに口元が綻ぶ。

「ライオンば、さすがに山じゃ獲れねえで、そいつは勘弁しとおせ」
「ライオンよりも苺だよぉ」
「ふぉっふぉっふぉ、野苺さ気にいってくりたみてえで良かったですじゃ。佃煮、お代わりばいりなさるか?」
「あ、いいんですか?」
「どーぞどーぞ。さーびすですじゃ。なんなら、ご夕食ば後に野苺のしゃーべっともご用意しますだよ」
「わっわっ、お願いします!」

 良かったわね、との香里の台詞に、名雪は来て良かったとばかりに大きく頷いた。






「お客さん、わたしたちしかいないんだって」
「ほんとに穴場なんだな」

 飯を食ったら運動だ。というわけで、美坂チームは浴衣に着替え、遊歩道を優雅に散歩することにした。旅館のすぐ脇を流れる川のせせらぎと山特有の爽やかな空気に、四人の足取りも軽い。木々の青さは目が覚めるようで、皆の心は自然と浮き立っていた。

 なにもないところだけど、それがいいわよね。

 都会の喧騒からは想像出来ない天然の穏やかさ。
 時間の流れを気にする必要のない、静かでのんびりした雰囲気に、香里は大きく深呼吸をした。

 そうして、緑を堪能しながら来た道とは別のルートで旅館へと戻っていた美坂チームは、ふと 遊歩道から逸れるように沢に降りる階段を見つけた。その先を目で追うと、川辺に小さな小屋が見える。旅館を出た時のルートでは丁度建物の死角となって見えなかった場所に、檜か何かで立てられた小さな小屋が建てられていた。

「あれ、なにかしらね」

 興味を示した香里に、先ほど女将に色々話を聞いていたらしい名雪が答えた。

「ああ、旅館の露天風呂だって。あそこ、屋根だけの部分が見えるじゃない。あの下がそうなんだと思う」
「パンフには乗ってなかったぞ」
「最近出来たんじゃないのかな。それにあのパンフレット、お母さんが学生の時のらしいし」
「……あれ、そんなに古いもんだったのか」

 そういえば黄ばんでたような、と北川は慄くように呟いていた。

「露天風呂…ということは混浴か!?」

 喜色を滲ませる祐一に、香里が間髪入れず殺気混じりの視線を突き刺す。
 名雪が苦笑混じりに答えた。

「……うーん、行き来は出来るみたいだけど、ちゃんと男湯と女湯には立て柵がしてあるって女将さん、言ってたよ。家族連れなんかのお客さんは一緒に入るみたいだけど」
「じゃあ、一緒に入れるな」
「入るわけないでしょうが」
「グギガガガ」

 香里にウメボシを喰らい、祐一は撃沈された。

「美坂と混浴、美坂と混浴」
「あんたも!」
「ぐほあ!」

 返す刀のバックハンドブロウが鳩尾に炸裂し、陶然とブツブツ呟いていた北川も轟沈した。







「さて、晩飯までまだ時間はあるけど、これからどうする?」

 一旦部屋に戻ったところで、祐一は三人を振り返って訪ねた。
 北川が嬉しそうに手を上げて発言を求める。

「はい、北川」
「四人いるんだから、みんなで麻雀というのはどうだ!?」
「却下」
「わたし、ルール知らないよ」
「すまん。俺、さっき宿の人に聞いたんだけど、雀牌ないらしい」

 くっ、と北川は9回裏にサヨナラホームランを打たれたリリーフエースのように膝を付いた。

「ゲームコーナーはどうだ?」

 と、祐一が自分から提案する。

「ここみたいな古い旅館なら、きっとあれがあるはずだ!」
「あれってなによ?」
「ふふふっ、かの伝説のゲーム『イッキ』!」
「な、なんと!?」

 項垂れていた北川が慄くように顔をあげた。

「この旅館、ゲームコーナー無いよ」
「ありゃりゃ」

 へなへなと崩れ落ちる祐一と北川。
 その様子に『イッキ』って何かしら。と香里は小首を傾げた。

「あ、そうだ」
「なんだ、名雪」

 思い出したように突然大声をあげた名雪に、ブツブツと「じゃあ脱衣花札もないのか」などと呟きながら意気消沈していた祐一がフラフラと顔をあげる。名雪は嬉しそうに言った。

「この旅館、離れに卓球場があるんだって」
「卓球?」

 興味をひかれたように、香里が細い瞳を少しだけ広げた。
 そんな香里の方を見ながら名雪が声を弾ませる。

「香里、卓球上手かったよね」
「え、ええ、まあ」

 それなりに実力に自負のあるらしい香里は、乱れてもいない浴衣の襟を直すと、コホンと澄ましたように咳払いした。

「卓球か。そういや、美坂。合同体育の時、男も蹴散らしてたよな」
「へぇ、上手いのか?」
「二年の時だけどな。隣のクラスと一緒の授業の時にトーナメントみたいにして遊んだんだ。で、優勝したのが美坂」
「偶々よ」

 謙遜する香里。

「名雪は?」
「わたし? 準々決勝で負けちゃった」

 それでも大したもんだな、と呟きながら祐一は北川へと視線を移した。

「二回戦で美坂にけちょんけちょんにされた」
「なるほど」

 酷く納得してしまい、深々と首肯する祐一であった。








 結局、午後の時間、卓球で遊ぶことにした美坂チームは、カランコロンと下駄や草履を鳴らしながら、離れへと向かう。
 歩いて3分ほどの距離をのんびりと山の空気を吸いながら進む。

「ねえ、名雪。あの二人なにしてるのかしら」
「さあ?」

 先を行く香里たちの後ろでは、なにやら祐一と北川はなにやらひそひそと相談しながら着いて来ていた。
 どうせろくでもない事だろうと、すぐに興味を失い、香里は名雪と昼食の料理についてのお喋りを再開した。




 香里の想像は当たっていた。
 祐一と北川の密談の内容は、文字通りとんでもなくろくでもない事だった。
 あそこで問い詰めておかなかった事を、香里は痛切に後悔するはめになる。

 まあ、問い詰めてても事態は変わらなかったのだろうけど。



 卓球場は、外見のボロイ印象と違って内装は最近改装されたかのように綺麗に整っていた。これならよっぽどはしゃいでも、外まではうるさく響かないだろう。とはいえ、外といっても山奥で旅館とも少し離れているから騒音に悩まされる対象はいないのだが。

 常備してあったラケットを引きずり出し、球を揃え、台のネットを張る。
 さて、じゃあ始めようかという雰囲気になったところで、唐突に祐一がこう切り出した。

「しかし、ただ卓球やるっていうのもつまらないよな」
「……なにが言いたいのよ」

 嫌な予感がした香里は窺うように発言の主である祐一を見やった。

「だからさ、なんか賭けようぜ」
「賭けるって」

 祐一と北川が示し合わせたように顔を見合わせる。

「俺と北川、名雪と香里で分かれてダブルスをやるんだ。で、勝った方がなんでも言う事を聞く」
「なっ!」
「なんでもってなんでも!?」

 絶句した香里を押しのけるように名雪が眼をキラキラさせて身を乗り出した。

「ああ、なんでもいいぜ。なあ、北川」
「おうよ」
「ちょ、ちょっと」
「わっ、やろうやろう」
「な、名雪!?」

 香里は俄然やる気になってしまった名雪を慌てて、
「そんな安易に決めちゃってどうするのよ」
 と諌めようとするも、名雪は、
「だって、なんでもだよ、なんでも」
 と、聴く耳持たない。
 これは、頭の中が苺か猫で埋まってると、香里は説得を断念した。
 そんな二人に北川がルールを提案する。

「四セットマッチでやろうぜ。こっちは男だからお前らは二セット取ったら勝ちでいいや。オレたちは三セットを取ったら勝ちってことで」
「ふうん、紳士的じゃない」
「その代わり」

 と、祐一が口を挟む。何よ、と祐一の顔を見た香里はギョッとした。
 ニコニコと大黒さんのような笑顔の祐一。

「香里、お前上手いんだろ? だからちょこっとこっちのハンデも考慮して、特別ルール追加しようぜ」
「特別ルール?」

 祐一はビシッと人差し指を立てて言った。

「1ゲーム負けるごとに一枚脱衣。ま、ラストゲームは脱ぐのは無しでいいか」
「なっ!」

 顔を七色に染め上げる香里の横で、名雪が不思議そうに小首を傾げた。

「脱衣って服を脱ぐの?」
「そう」
「ふーん」
「ふ、ふーんじゃないわよ!」

 香里はとりあえず一番近くにいた名雪に食って掛かった。

「なに平然としてるのよ。冗談じゃないわ。なんでそんな事しないと――」
「別に負けなきゃいいんじゃないの?」
「ま、負けなきゃって」
「だって、香里腕には自信があるんでしょ」
「そりゃ」

 自分の実力を微塵も疑う様子のない名雪に、香里は勢いを削がれてしまった。

「そうそう、負けなきゃいいんだよ」
「北川くん」
「うひっ」

 すけべそうな顔でのたまう北川を、香里は殺意漲る眼差しで温かく睨みつけた。
 びびりながらも、北川必死でフォロー

「だ、だいたいさ、脱ぐって言っても二枚だけなんだからさ、全裸になるわけじゃないだろ」
「三枚って、今のあたしたち浴衣なのよ!?」

 下着の上下と浴衣に帯しか身につけていないのだ。
 草履で来たから、靴下すら履いていない。

「で、でも美坂。下着から脱いできゃ、負けても見えないんじゃないか?」
「し、下着ってあんたね! そ、それでも!」
「ふーむ、香里君。卓球には自信があるんじゃなかったのかね?」
「うくっ」
「ねえ、香里ぃ」

 余程なんでも言う事を聞くという条件に魅了されているのか、名雪が促すように袖を引っ張る。
 味方は誰もいなかった。というか、自分も勝てばいいじゃないと半ばやる気になっている事に気がつく。そう、負ける気はしない。だったら、さっさとこいつら蹴散らして、イイように扱き使ってやることにしよう。
 香里は怒りと諦めをない混ぜにした溜息をついた。

「分かったわ。その勝負、受けてあげる。でも、覚悟することね。速攻であんたたち裸に剥いてあげるわ」
「ふふふ、望むところだぜぃ、美坂」
「余裕も今のうちなんだから。北川くん、負けた暁には人権の保障は期待しないことね」
「…な、なにさせられるんだろう、オレ」
「祐一、なんでもだよ、なんでも」
「わかってるって、なあ北川」
「お、おう、なんでもなんでも」

 実に男の子らしい笑顔で笑い合う二人の姿。

「ほ、本気で貞操の危機を感じるわ」

 これは絶対勝たないと、と決意を新たにする香里であった。








 そして、決意を嘲笑うかのように、ギュィィン!! と、唸りをあげて顔のすぐ真横を貫いていくドライブスマッシュ。

「くぅっ」

 後ろの壁に当たって跳ね返ってきた球を拾い上げながら、香里は煮え滾るような視線でハイタッチをしている二人をにらみ付けた。

「あ、あんたたち」

 謀ったの!? という台詞を香里は辛うじて飲み込んだ。
 そんな事を口にすれば、自分が間抜けだと証明するようなものだ。

「ふっ、俺たちの実力を過小評価していたようだな」
 と、鼻の穴を膨らませる祐一。
「ドイツのプロリーグで東洋のエーリッヒ・ハルトマン&ゲルハルト・バルクホルンと恐れられたオレたちコンビに敵うと思うなよ」
 と、ほくそえむ北川。
「二人とも、ドイツのプロで活躍してたんだ、すごーい」
 と、感心する名雪。
 香里は頭を抱えた。

「そんなわけないでしょうが!!」

 ちなみに祐一と北川が初めて出会ったのは去年の冬である。生憎と香里はこの一年、二人がドイツに渡った記憶を持ち合わせてはいなかった。
 だが、二人の実力は確かに大したものだった。急造とは思えないほど息のあったコンビネーション。いや、これはもう以心伝心。想いが繋がっているとしか思えない連携だ。カットの北川、スマッシュの祐一。個人個人の実力としては自分の方が上手い自信があったし、名雪も決して下手ではない。というか、多分祐一たちより上手い。だが、まるで二人で一人のような動きをする男連中には勝てる気がしなかった。
 というより欲望一色に染まった彼らに、勝てる気がしないというべきか。
 恐るべし、すけべえ心。

「あー、1ゲーム落しちゃったね」
「……迂闊だったわ。あのバカたちが勝算も無くこんな試合するはずなかったのに」
「まあ、次頑張ろうよ香里。わたしたちは二回勝てば勝ちなんだからさ」
「それはそうだけど」

 香里は薄い唇を噛締めながら、恨めしそうに名雪を見上げる。

「その前に、あたしたち一枚脱がないといけないのよ」
「あ、うん、そうだね。ちょっと恥ずかしいかな」

 照れたようにはにかむ名雪に、あたしはちょっとじゃないわよ、と香里は顔を手で抑えた。
 そんな香里を他所に、名雪は背中に手を回す。

「ねえねえ、二人とも。最初はブラでいい?」
「あ、相沢。ブラとか言ってるぞ!」

 北川は今更のように衝撃を受けたのか、立ちくらみを起こしてフラフラとよろけた。
 そんな北川を頼もしく支えながら、祐一は言った。

「お、おう。どこから脱ごうがそっちの勝手だぞ」
「じゃあ、ブラから脱ぐね」

 ゴキュンと唾を呑みながら手を取り合って祐一と北川が注目する前で、名雪は浴衣の上からブラのホックを外し、もぞもぞと身動ぎすると、脱いだブラジャーを袖口から抜き出した。薄桃色の可愛いブラジャーが祐一と北川の前に現われる。
 香里も威嚇するように二人をにらみつけながら、そろそろと浴衣の上から白いレースのブラジャーを外し、二人に背中を向けて、襟元から取り出した。

「ほら、これでいいんでしょ」

 胸元を抑えながら不本意そうに香里は言った。

「の、ノーブラですぜ、相沢の旦那」
「ふっ、その程度で取り乱すではない、北川屋」

 祐一は興奮する北川を宥めるように言った。

「本番はこれからだぞ。これで、次のゲームは名雪も香里も大変なことになる」
「た、大変なこととは!?」
「ノーブラ故に、左右に走り、スマッシュを打つ度に、支えの無いおっぱいがぽよんぽよん」
「ぬおおおお!!」
「こ、こいつらは……」

 胸元を腕で隠しながら、香里は頭痛をこらえるようにプルプルと震えた。

「わっ、香里。ほんとにぽよんぽよんだよ」
「あんたも無邪気に跳ねるな!」

 ピョンピョンとジャンプして、上下に弾む自分のおっぱいに感心していた名雪は、香里に頭を叩かれ涙目になった。

「……痛い」




 そして、第二セット。
 巻き返しを図る香里・名雪組であったが―――

「っく」
「どうした、美坂。動きが鈍いぞ」
「はぁはぁ、う、うるさいわね」

 ノーブラなせいか、不用意に弾み、揺れ動く自分の胸を気にしてしまい、香里は思うように球を追うことが出来なくなっていた。北川たちの視線が気になってしまい、どうしても集中できない。
 とはいえ、一方の男二人もラケットを振り回す度にぽよんぽよんと自己主張する名雪と香里の胸に気を取られてか、第一セットほどの圧倒的な優勢は勝ち得ていなかったのだが。
 しかも、後半にゲームが縺れるに連れて、段々と祐一と北川の機動力が鈍ってきた。

「あ、相沢、まずいぞ」
「お、おお」

 二人は顔を突き合わせて、お互いの懸念を伝え合った。

「気付いたか、北川。名雪と香里の格好」
「ああ」

 二人は額の汗を拭った。

「浴衣が汗で身体に貼りついて、とんでもないことになってる」
「見ろ。先端がくっきり浮き出てるじゃないか、北川」
「おまけに、おっぱいの形もはっきりと浮き出てる。くぅぅ、美坂ってあんなに大きかったのか」
「おう、二人とも形もいい……ところで北川」
「うむ、拙い。必死でこらえているんだが……」

 二人は徐に自分達の股間を見やった。

「このまま順調に大きくなると、機動力が削られてしまうぞ」
「相沢、ここは一気に押し切るしかない」
「了解だ」
「なにひそひそ相談してるのよ、早くしなさい!」

 自分達の格好に気付いていないのか、仁王立ちする香里と名雪。
 くっきりと浮き出たメリハリのある肢体のラインと、ピンと尖った胸の先端が名雪たちの色っぽさをさらに艶深く見せている。
 色々な意味で慌てながら、祐一たちはサーブを放った。

 そのまま、何とか第二セットは祐一と北川が連取した。




「えっと、じゃあ二枚目はパンティーを脱ぎます!」
「な、名雪、わ、わざわざ宣言しなくていいの!」
「え? そうだったの?」

 目を潤ませ感涙に咽びながら拍手している祐一と北川を真っ赤な顔で睨みつけ、香里は二人にお尻を向けた。
 浴衣の上からモゾモゾとパンティーラインをずらす。それから、香里と名雪は北川と祐一が正座して見ている前で、浴衣の裾から両手を潜り込ませた。
 中腰になったものだから、後ろを向いていた香里は丁度お尻を二人に突き出すような形となり、祐一たちの方を向いていた名雪はといえば、前屈みになったことでノーブラの胸の谷間を強調する形となって、二人の前に現われた。薄い浴衣の布生地一枚の向こうは何も身に付けていないという――しかも、汗でぴったりと肌に貼り付いた――お尻と胸元が祐一と北川を圧倒した。

「あ、相沢。オレ、死んでもいいかも」
「ばか。まだ早い。俺たちの野望はまだ道半ばなんだぞ」
「くっ、そうだった」

 熱の篭もったひそひそ話をしている祐一たちの前で、スルスルとパンティーをずり下ろした名雪と香里は、足から脱いだパンティーを抜き去り、ブラジャーを入れてある籠にそれを収める。

「脱いだよ〜」
「これでいいんでしょ」

 半ば開き直ったのか、多少顔を赤らめつつも特にどこかを隠す風もなく佇む名雪と香里。

「相沢〜」
「北川〜」
「ノーブラノーパンの美坂と水瀬がぁぁ。浴衣一枚しか着てない美坂と水瀬がぁぁ」
「すまん。俺もちょっともう死んでもいいかもと思ったぁぁぁ!」
「「うおおお、俺たちは今、猛烈に感動しているぞぉぉ!」」

 抱き合って感涙に咽びあう男二人。

「な、なんだか凄く感動してるよ」
「……男って馬鹿よね」
「あ、そうだ!」

 げんなりと呆れていた香里は、いきなりパンと手を打った名雪に驚いた。

「ど、どうしたの?」
「わたし、必勝の秘策を思いついちゃった」
「え? 本当に?」

 今更そんな作戦なんてあるんだろうか、と香里は不信げに顔を顰めた。

「うん、これなら多分絶対勝てるよ。名づけて、男って馬鹿だよね大作戦」
「……名前からしてダメダメね」
「ちゃんと内容聞いてよ〜」

 完全に呆れ返った香里の耳に口を寄せ、名雪はひそひそと作戦の内容を明かした。

「ちょ、本気!?」
「うん、これならきっと祐一も北川くんも卓球どころじゃないよ」
「で、でも……あ、あたしは嫌よ。そんな恥ずかしい――」
「でも、香里。負けちゃったらもっと恥ずかしい目に合わせられるんじゃないかな、わたしたち」
「そ、それは……」

 怯む香里に名雪は低い声で続けた。

「きっと、おっぱい吸われたり、全裸で耳掻きやらされたり、一糸纏わぬ姿でダンスとか踊らされたりするんだよ〜」
「……あんた、想像力意外と逞しいわね」
「そうかな。男の人のエッチな妄想の方がもっと凄いと思うけど」
「うっ」

 確かに男の妄想の凄さは想像するだに恐ろしい。ということは、負ければもっと凄い事をさせられるはめになるのか。

「くっ、肉を切らせて骨を断つしかないって事?」
「そうだよ。負けちゃったら、祐一たちになんでも言う事きかせられなくなっちゃうんだから」

 何となく名雪は恥ずかしい事をさせられるより、祐一たちになんでも言う事をきかせられない事の方を危惧しているような気がしたが、香里は名雪の作戦にノる事に決めた。そう、覚悟を決めなければ、開き直らなければ此処は勝てない。
 香里は泣く泣く自分の身につけている浴衣に手をかけた。




「祐一、なにしてるの。第三セットはじめるよ」
「グズグズしない!」

 名雪と香里の叱咤に、トリップしていた祐一と北川はハッと我に返った。

「ふっ、そうだな。さっさと勝負を決めて、俺たちの野望を―――」
「? どうした、あいざ―――」

 女性陣の姿を目の当たりにした瞬間、祐一と北川は完全に石化した。

「へへ〜ん、どうだ」
「…………」
「お、おま、おまえら」
「し…しむ」

 偉そうに胸を張る名雪と、屈辱に耐えるように真っ赤な顔を背けている香里。
 二人の浴衣の胸元は、膨らみの先端が見えてしまうのではないかというくらいに大きくはだけられていた。肩からずり落ちそうなくらい襟が開かれ、二人の儚げな鎖骨が浮き出ている様がはっきりと見える。また、胸の谷間も全開で、今にも襟元から豊かな双乳が零れ落ちそうだった。
 オマケに裾も動きやすいようにか太股まで捲くりあげられ、折りたたまれている。おかげで、名雪と香里の真っ白なふくらはぎから太股のラインが祐一と北川の目の前に曝け出されていた。これほど短い裾だと、激しい動きを見せれば付け根まで見えてしまいかねない。
 トドメに、浴衣の帯まで何気なく緩められていて、名雪たちのしどけない雰囲気を倍増させていた。

 当然のように、腰を引っ込める祐一と北川。

「し、しまった、謀られた」
「こ、これじゃあ動けん」
「ほらね、香里。効果あったでしょ?」
「……本当に男って馬鹿ね」

 香里は大きな溜息を一つ零すと、サーブを打つべく球を手のひらの上に置き、身体を屈めてラケットを振り上げた。
 途端、ヨロヨロと何とか定位置に着こうとした祐一と北川がカチンと香里を見たまま凍りつく。

(……香里、おっぱい北川くんたちに見えてるんだけど……言わないほうがいいね)

 無理な姿勢でずれて浮いた浴衣。隙間から乳首が覗いているにも構わず――香里が気付いていないだけだが――放たれたサーブは、身動き一つ出来ない――するのを忘れた――祐一と北川の間を、見事貫いたのだった。


「北川ぁぁ、動けぇぇ、動くんだぁぁ」
「美坂の美坂の美坂の先っちょが先っちょが、うきゃぁぁぁぁ!!」
「……?」
「香里って、意外と無防備だね」


 第三セットは、名雪・香里組がストレートで圧勝した。









「ま、拙いぞ相沢。どうする、このままじゃ次のセットもヤバいぞ」
「むう」

 今にもこぼれでてしまいそうな名雪たちの胸元。時々、チラリと見える薄桃色の乳輪や乳首。台の横に勢い良く飛び出した時に奥まで見えそうなほど捲くれ上がった裾と白い太股。それらの前に、祐一と北川は手も足も出なかった。

「ほら、あんたたち。早く脱ぎなさい」
「わーい、脱衣ぃ」

 勝ち誇ったように見下す香里と名雪。

「仕方ない、脱ぐぞ、北川」
「いや、ちょっと待て」

 浴衣を脱ごうと帯に手をやった祐一を、咄嗟に北川が制した。

「なんだよ」
「ここはトランクスから脱ごう」
「……なんでだ?」
「だって、その方が動きやすくならないか?」

 おお、と祐一が手を打った。

「なにこそこそやってるのよ」
「待ちくたびれたよ〜」

 いやらしい笑顔で急きたてる香里たちに、祐一と北川は覚悟を決めたようにすっくと立ち上がった。
 そして、一気にトランクスを脱ぎ捨てる。

「って、なんでそっちから脱ぎだすのよ、あんたたちはー!」
「きゃーきゃー♪」
「なんだよ〜、美坂たちだって下から脱いでるじゃん」
「男の柔肌、そう簡単には見せられないなぁ」
「……でも、二人とも……それ、見えてるよ」
「ん?」
「お?」
「……きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 香里の劈くような悲鳴がこだまする。
 祐一と北川の股間からは、窮屈な下着から解放され、大きくそそり立った一物が浴衣の合わせを押しのけて、外へと顔を覗かせていた。

「は、ははは早く仕舞いなさいよ、変態ども!!」
「……相沢、オレちょっと恥ずかしかったです」
「いや、俺も」

 慌てていそいそと浴衣の奥に仕舞いこみ、キツく帯を締めなおす祐一と北川であった。

「でも、これ激しく動くとまたはみ出るな」

 テントを張った浴衣の前を見て、北川が何とも言えない顔で呟く。

「仕方ないだろ。勝つためだ、我慢しろ北川」
「うん、仕方ないな。出た時は諦めよう」
「出すなぁぁ!」
「「ごめん、無理」」
「いやぁぁぁぁ!」
「ねえねえ二人とも、それ普通ぐらいの大きさ?」
「あんたもそんなこと聞くな!!」

 容赦なしの拳骨を頭に喰らい、名雪は涙目になった。

「いたい」




 そして運命の第四セット。


 序盤――

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 あっさりと再びはみ出た祐一と北川の一物を目の当たりにした香里が、動揺しまくる。

「よし、相沢。美坂を狙え」
「おう!」

 顔を覗かせた分身を隠そうともせず放った祐一の鋭いスマッシュが、空振りする香里のラケットをすり抜けて、後ろの壁にぶち当たった。

「香里〜」
「うう、ごめんなさい」

 ガックリと膝を付き、半泣きの香里。

「よっしゃー、この調子で行くぞ、北川!」
「敵の弱点を攻めよ。ってなわけで、美坂狙いだ!」
「おぅ」

 とまあ、そんな調子で、序盤は祐一・北川組の優勢に進む。




 だが、中盤。名雪・香里組は更なる悪辣な手で勢いを盛り返したのだった。


 香里のカットした球が、ちょうどいい高さと緩さで祐一の前に上がる。

「よっしゃ、貰った」

 渾身の力で祐一が球を叩こうとした瞬間、

「祐一!」

 名前を呼ばれ、一瞬祐一はそちらに目をやった。

 ――チラッ

 にっこりと笑って、左手で自分の浴衣の襟を引っ張る名雪。
 そして、ポロンと零れ落ちる白桃のようなおっぱい。

「ぶっ!!」

 左手で襟を引っぱり、ポロリと左の乳房を露わにした名雪に目を奪われ、祐一はボールを空振りした。

「あ、相沢ぁぁぁ!」
「お、おのれ卑怯なっ……でも、最高
「お前、あんな見え透いた手に引っ掛かるなよ!」
「くっ、そうは言ってもだなあ」
「言い訳するな! オレたちの野望をこんなことで潰えさせるわけにはいかんのだ!」

 叫び、サーブを放つ北川。
 慌てず騒がず、それを返す名雪。
 それを北川が台の隅を狙ってカットしようとした瞬間、名雪が再び叫んだ。

「北川くん、あっち注目!」
「なに?」

 お約束のように、名雪が指差す方を見てしまう北川」

「ひーん、あたしもうお嫁に行けない」

 さっき自分が狙われ大量失点したのを名雪にこっぴどく責められたのか、香里は涙目になりながらも名雪の指導通り、北川の見ている前で一瞬だけパッと自分の浴衣の裾をたくし上げた。
 北川の目に、一瞬だけ白日のものに晒された香里の何も身に付けていない下腹部と、黒い翳りが焼きつく。
 その瞬きも忘れてギンギンに見開かれた北川の目ン玉に、名雪のリターンが直撃した。

「ぎゃああああ!!」

 痛みと感動でもんどり打つ北川。

「……お前だってダメじゃないか」
「だってだって、美坂のあそこが、あそこがぁぁ!」
「ふっふっふっ、この調子でいくよ、香里」
「ひぇぇん、まだ見せるのぉ!?」





 そして、灼熱の終盤。

「相沢、耐えろ! オレたちは勝たねばならんのだぁぁ!」
「おおお!」

 名雪と香里のおっぱいポロリ&ノーパンチラリ攻撃に失点を重ねながらも、恐ろしいほどの執念で祐一と北川は得点を追加していった。
 そして、遂にあと一点取られれば負けるというところまで追い詰められ、名雪は慄くように咆哮する二人を見やった。

「ダメ、このままじゃ負けちゃう」

 負けてしまえば、祐一たちに何でも言う事を聞いてもらうという約束を果たして貰えなくなる。
 名雪は相棒である香里を見やった。香里は一連の特殊攻撃の反作用か、辛うじてラケットを構えているものの、左肩からは浴衣がずり下がり、目も虚ろで半ば真っ白に燃え尽きていた。

「こうなったら!」

 キランと名雪の瞳が妖しく光った。

 そして、最後のラリーの応酬。
 フラフラっと香里が半分呆けながらも球を返す。だが、力の無い球は辛うじてネットを越えただけで、前へと詰めた北川への絶好球となった。

「とどめだ!!」

 勝利を確信した北川の喜色に塗れた叫びがこだまする。
 その瞬間、名雪は最凶にして最悪の必殺技を繰り出した。

「えい!」

 という掛け声とともに、精根尽き果てたように立ち尽くしている香里の帯を抜き取る名雪。

「「え?」」

 北川と香里の間抜けた声がこだまする。その前で、右腕に引っ掛かったまま、帯を抜き取られた勢いで剥がれ落ちる香里の浴衣。ぽかんと口を開けて固まった北川の前では、ラケットを持った右手の肘から脱げた浴衣をぶら下げただけで、汗の浮かんだ両の乳房も、浴衣と擦れてピンと硬く尖った乳首も、しっとりと肌に張り付いている下腹部のデルタの繁みも、その白く透き通るような裸身のすべてを曝け出した香里が、呆然と立ち尽くしていた。

「やった!」
「北川!」

 名雪の歓声と祐一の悲鳴がこだまする中で、香里の打った球がフラフラと浮遊する。そして、球は香里の裸に固まった北川のラケットにコツンと当たり、女性チームの陣地に落ちて、二回ポンポンと小さく弾むと横から床に転がって落下した。

「え?」

 と、間抜けた名雪の吐息と、床に弾む球の音が、静まり返った卓球場に意外なほど大きく響き渡った。







「名雪ぃぃぃぃ! あんたはなにしてくれやがったのよぉぉぉ!!」
「か、香里、死ぬ、死んじゃう」
「オマケに負けちゃうしっ! 乙女の柔肌をなんと心得るかぁぁ!」
「いき、息できない。た、たすけて」

 香里に首を締められ、宙吊りにされたままあの世を垣間見ている名雪の横では、

「勝った、勝った勝った勝ったぁぁぁぁ、偉いぞ、お前最高だ北川ぁぁぁぁ!!」
「わははははは、実力だ実力! ってかもうやったぁぁぁぁ!」
「野望が、俺たちの野望が叶うぞ!」
「もう、最高だァァァ!」
「「俺たちは今、猛烈に感動しているぞぉぉぉ!!」

 祐一と北川がマジ泣きしていた。












「さて、名雪、香里」
「約束は覚えてるよな、二人とも」

 仁王立ちする二人に、香里と名雪は顔を見合わせた。

「くっ、な、なにをさせようっていうのよ」
「荒縄はいやだよ〜」
「荒縄?」

 キョトンと顔を見合わせる祐一と北川。

「いやぁぁ、三角椅子だけは嫌よぉぉ」
「縛られて吊るされるのだけは勘弁してよ、祐一ぃ」
「お、お前ら俺たちがなにすると思ってるんだ?」
「さ、三角椅子?」

 どうやら女性陣の妄想はかなりのところまでイッてしまっていたらしい。

「え? SMじゃないの?」
「うにゅ、調教じゃないの?」

 祐一と北川は思わず顔を見合わせた。

「そ、それもいいかも」
「三角椅子。美坂が三角椅子。三角椅子に座る美坂」

 段々と表情が蕩けていく男二人。
 しまった、と香里と名雪の顔が強張った。

「忘れなさい!」
「えい! 忘却トゥキック!」

 ―――バキボカッ!!

「ぎゃっ」
「くわっ」

 昏倒する二人。
 と、すぐさま目を覚まし、キョトンと辺りを見回す祐一と北川。

「あれ? なんだか今大切なことを忘れたような」
「お前もか、相沢。なんだか三角とか四角とか」
「さて、汗もかいたし、そろそろ宿の方に帰りましょうよ」
「そうだね、お腹もすいちゃった」
「「待て」」

 あわよくば罰ゲームも忘れてくれてればという乙女たちの希望は叶わなかったらしい。

「くっ、早く言いなさいよ」
「調教じゃなかったらなんでもいいよ」
「調教?」
「名雪!」
「むぐむぐ」

 なにやらもみ合ってる香里と名雪に顔を見合わせた祐一と北川であったが、やがて大きく頷いて身を正すと、二人に向き直った。

「じゃあ、約束を」「果たしてもらうぞ二人とも」

 そして、二人は声を合わせて、オマケにポーズも合わせて、内容を告げた。

「名雪」
「美坂」
「「俺たちと一緒に、お風呂に入るのだ!!」」

「え?」と、目を瞬く香里。
「お風呂?」と、口をぽかんと開く名雪。

「うん、つまりだ」
「混浴だな」

 と、嬉しそうにのたまう北川と祐一。
 カクンと名雪と香里の顎が落ちた。

「「え、ええぇぇ!?」」

 山奥の静かな卓球場に、二人の乙女の驚声が高らかにこだました。








 温泉卓球――

 卓球篇→温泉篇








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