その男が求めるものは、真なる意味で理解できるものはいないであろう。
例え、それが本当の親友である阿部貴之や、彼と一番長く時を過ごしている松原葵であるとしてもだ。
その欲望が血から来るものである以上、可能性としては柏木耕一が一番近しい存在であったかもしれない。
だが、結局は彼と柏木耕一が重なる事は無かった。耕一は鬼であったかもしれないが、修羅ではなかったのだから。

かくして、羅刹と謳われた男の欲望は誰にも理解されず、そして好んで露わとされずに孤高なる男の内に常に秘められ続けていた。
それは耐えられる欲望であったから…彼の精神力がそれを無差別に発露する事を許さなかったが故に、常に秘められ続けてきた。
だがそれでも……彼は常に求め続けていたのだ。それが欲望であるが故に。

彼の名を柳川裕也。
求めたものの名を、闘争と云う。











魔法戦国群星伝





< 第七十三話 羅刹吼飢 >






グエンディーナ大陸中央部 失われた聖地






柳川裕也は爪先にまで満ち満ちる快感に、抵抗する事無く身を委ね尽くしていた。
そう、自らの肉体の全て――それこそ細胞の一つ一つに至るまで我が意図のままに駆動する…そんな恍惚とした感覚。

この感覚こそが至上。
この感覚こそが命題。

そして―――
我が身のすべてを支配下に置き、その全能力を凝縮し、爆発させ、強大なる敵にして獲物たる存在を完膚なきまでに叩き潰す。


それこそが、柳川裕也の求める闘争だ。


我が居る。
そして、同族にして、敵にして、強大にして…獲物たる者が其処に居る。


故に、彼は今、絶頂の中にいた。


押し寄せる鬼気もまた芳しく。
吹き荒ぶ殺気すらも心地よく。
御魂を射抜くその凶き紅瞳さえも彼の喜悦を歪めるのみ。

彼の男は羅刹。
彼の男は修羅。

故に闘う。


命を糧として――








「さあ、来い」

小さく、舌の上で葡萄酒を転がすように囁く。
渦巻く鬼気に掻き消されたその囁きは、相手に聞かせるものではない。

自らの意識の中で沸騰する高揚を、僅かでも薄める冷水。
身体は極限までの熱を植え、意識は可能な限りの冷たさを。

だが、その囁きは戦いの開幕を促す発火点と成った。
吸い込まれるように、ラギエリの巨体が微動する。

ラギエリの煮えたぎるような呼気が窄まる。
僅かに沈み込む膝、噛み締められる牙、前傾に倒れ同じ高さまで下がり輝く紅眸――移動へと事前動作。

柳川は自分を射抜く紅の瞳を見た。自分と同じ、戦いの高揚に歪む鬼面。
その瞬間、胸郭…心臓の部分に氷の如き冷たい感覚が集束する。
それは殺意の集約点。

「フッ!」

柳川は短く、切るように吐息を吸い込み、躊躇無く身体を横に投げ倒した。
大気がたわみ、寸前まで彼が居た場所を揺ぎ無い暴力が通り過ぎる。
紙一重で避けた。だが、大気をかき乱した余波が叩きつけられる。服がその波に耐え切れず引き千切れ破片が舞い散り、それを彩るように胸に付けられた小さな裂傷から散った血糸がなびく。

自分を抉りそこなった化け物の爪が唸りを上げて通り過ぎた、と同時に柳川の耳に爆音が届く。
意識の端で、それがラギエリの蹴った地面が破砕した音と判断。

迅いッ!

傾く自分の身体を右手一本で跳ね上げ、後方へと飛びながら柳川は唸った。
柳川はラギエリの動きを微かな残影としか視認出来なかった。
恐らくは【閃光】の名を持つ柏木楓に匹敵するかと思われる速度。それでいながら、その豪腕は人間の身体など触れるだけで分子結合から粉砕されかねない怪力だ。

一撃喰らえばそこまでか。

柳川はラギエリから視線を外さぬまま、地面を引き摺り動きを止める。

ククッ、それもまた一興だが…

かつて無いほどに研ぎ澄まされた感覚神経が、まるで身体の外にまで張り出してしまったかのように、何もかもを知覚できる。
これほどの感覚は、そう…相沢祐一と対峙した時以来か。だが、これはその時をも上回るかもしれない。
当たり前だ―――これは紛れもない殺し合い。互いの命を散らす事を目的とした闘争。
そこに手加減などあろうはずがない。命のすべてを燃やし尽くし、全能を振り絞る戦いだ。

ラギエリから、ユラリと蒸気が吹き上がっている。
この寒空の下、放射される鬼気が熱を持ち、ラギエリの巨体を燃やしているのだろうか。
ラギエリは、ゆっくりと右足を摺り、柳川の方へと向き直りながら言った。

「どうした…雑種。何故エルクゥとならない? まさか戻れないとでも云うのではないだろうな」
「…そんな事は無い」

柳川は巨体から見下ろすラギエリを見上げながらゆっくりと立ち上がる。
自然、不敵な笑みが閃いた。

「どうしても見たいと云うのなら…そうせざるを得ないようにさせてみるんだな」
「咆えるか、雑種」

楽しげに、或いは忌々しげに、ラギエリが痰を吐き捨てるように云う。
途端、ラギエリの姿が再び掻き消えた。
次の瞬間には既に柳川の目前にまで迫り、そのエルクゥから見れば矮小な人間の身体を掴まえようとはさみ込むように両腕を広げる。
火照った身体に冷え切った思考が心地よく疾走。
死そのものの一撃を前にして、柳川は冷静に身体を捌いた。
ラギエリの両腕は何も掴めず空を切る。大気を押し潰す一撃を掻い潜った柳川は、ひらりと宙を駆けた。
超高速のラギエリの戦闘機動を逆に利用し、突進してきたラギエリの鼻っ柱に飛び膝を喰らわす。
鋼鉄の壁へと正面衝突したような炸裂音が轟いた。
超高速機動の運動力を一点に返されたその凄まじい衝撃に仰け反るラギエリ。
飛び膝を叩き込んだ柳川は、そのまま地面に着地せず、空中で右手を伸ばし、ラギエリの角を掴んだ。その顔に閃くのは凶暴な哄笑。

「ラァッ!」

短く、鋭い裂帛の呼気が柳川の口から吐き出される。その瞬間、グシャリと肉が潰れる音とともにラギエリの顔面が力任せに地面へと叩き伏せられた。
角を握った柳川の身体が反動でさらに宙へと漂う。
角を握る拳が震え、掴む右腕の筋肉が膨れ上がった。その怪力のままに宙に浮かぶ自身の身体を地面に向かって叩きつける。衝突先は倒れ伏すラギエリの後頭部。天から降る鉄槌と化した右膝がトドメとばかりに頭蓋へとめり込んだ。
あまりの衝撃に、爆音にも似た響きと共に地面が網の目状に陥没した。

エルクゥの力を全開にした凶悪極まりない連続攻撃。だが、柳川は狂笑を収めると、ヒラリとステップを踏むように飛び退る。
案の定と云うべきか。
柳川が下がった途端、ラギエリは付着した土塊をボロボロと零しながら何事もなかったかのように立ち上がった。
折れた鼻を指先で直しながら、ニヤリと牙を剥く。

「これは効いたな。面白い」

まともな生物なら三度は頭を微塵に破砕されているはずの攻撃を受けながら、ラギエリに大したダメージは見られない。
柳川の視線が、やや不本意そうに窄まった。
それなりに有効打は叩き込んだつもりだったのだが…やはりエルクゥのタフさは異常極まりない。
そんな柳川の表情を見ながら、ラギエリはフッと笑んだ。

「だが、所詮は子供だましよ」

そう言い捨て、ラギエリはいつの間にか右手に握りこんでいた岩を振りかぶり、投擲した。
人の拳ほどの岩石が3つ、砲弾と見間違わん勢いで、唸りを上げて飛来する。
予想だにしない攻撃に、柳川も不意を突かれ、地面に身体を投げ出して辛うじて躱す。頭上を空気との摩擦で赤熱した岩が通過し、髪の毛が数本、焼き千切られるようにして持っていかれた。

「チッ」

柳川が忌々しげに舌打ちした。投擲した岩に追随するように、突進してくるラギエリの姿。対して此方は体勢を完全に崩し、身体を地面に横たえる無防備な姿。
身体を起こす暇すらなく、自分を踏み潰そうとするエルクゥの足が視界を覆う。必死に地面を転がり避けながら、咄嗟に身体を丸める。
僅か数十センチも離れぬ大地が、力任せの一撃に粉砕された。
何とか踏み潰されずには済んだものの、飛び散る土塊と衝撃破に全身を打たれ、柳川の身体は宙へと吹き飛んだ。
その体が地面に叩きつけられる前に、無造作に左肩に激痛が走る。

「掴まえた、終わりだ」

ラギエリの、勝ち誇った声が聞こえた。
柳川の左肩に食い込むのは、ラギエリの巨大な右腕。すっ飛んで行く柳川の身体を放すまいと元々異常に膨れ上がった筋肉が瞬間的にさらに膨張する。手の中で、軋みを上げて柳川の肩骨が悲鳴を上げた。
ラギエリの心中に勝利の確信と、戦いがあっさり終わってしまった事への不満がよぎる。
ひ弱な人間の身体など、エルクゥの自分が捕らえてしまえばもうお終いだ。後は適当に握りつぶすか、叩き潰すかすればいい。

だが、次の瞬間、驚愕の咆声をあげたのはラギエリの方だった。
吹き飛ぶ柳川の身体を掴み、引き寄せようとした瞬間、柳川は跳ね飛ぶ自分の体を、掴まれた左肩を支点として一気に捻る。そして、その勢いを殺さぬまま、渾身の蹴りをラギエリの右腕目掛けて叩き込んだ。

「グッ…オオオオオ!?」

関節の無い部分からへし折れ、肉が裂け切れて血が吹き出る。半ば千切れかけたラギエリの右手から逃れ、柳川は着地した。だが、その左肩も無残な状態だ。掴まれた部分に無理矢理負荷をかけたため、握られていた部分の肉がこそぎ取られている。
だが、柳川は苦痛どころか笑みすら浮かべて、悶えるラギエリの懐へと飛び込んだ。

「ハハハァッ、くたばれッ!」

ラギエリの紅瞳がギョッと剥かれる。そのまま自分の懐に飛び込むと思われた柳川の体が、凄まじい速度で縦軸に回転。完全に不意を突かれ避ける間もなく、再び鼻柱に一回転した柳川の踵がめり込んだ。

「グォ!?」

またも同じ所に一撃を喰らっては、さすがのエルクゥも一瞬意識が弾き飛ばされる。
その隙に、柳川は未だ血を噴き出し続けているラギエリの右腕を掴み、そのまま身体を巻きつけるようにして右足を高々と旋回、回し蹴りを叩きつけるように右足をラギエリの右肩へと絡みつけた。

「ハハハハッ」

高揚のままに哄笑する柳川の咆哮。
そして鳴り響くは、ラギエリの巨体が大地に沈む音。そして…

「グォォォォ!!」

ベキャァァ

ラギエリの右腕が根本からへし千切られた音。
柳川はエルクゥの力と梃子を応用した力とでへし千切ったラギエリの右腕を無造作に放り捨てると、裂けたような笑みで呟きかけた。

「本物のエルクゥとやらもこの程度か。まあ、そこそこは楽しめた」

背後で巨木にも似た腕が大地に落ちる。
それを背に、柳川はビクリと腕を震わせた。服の袖が内側から破れ裂け、その中から脈打ちながら変貌していく二の腕が覗く。
トドメを刺さんと、両腕をゆるゆると鬼化させながら言った柳川のそのセリフに、だが返って来たのは屈辱に塗れた咆哮でも、苦痛にうめく悲鳴でもなかった。

「ク……ククク…」

ピタリ、と近づきかけた歩が凍る。
緩みかけていた闘気が、一瞬にして収縮した。無意識の反応。それで悟る。

まだだ!

「それはこっちのセリフだ、雑種ッ!!」

針のように研ぎ澄まされた柳川の感覚が、突如巻き起こった戦慄に震えた。
咄嗟に身構えた柳川の胸部に、凄まじい衝撃が叩き込まれた。
ぶれる視界の中で、柳川が捉えたのは…

バカな!?

失われたはずのラギエリの右腕。それが自分の胸へとめり込んでいる。
ありえない、ヤツの腕は今背後で枯れ木の如く転がっているはず。

だがそこにある右腕は紛れも無く現実であり、そこから送り込まれた衝撃に胸骨がミシミシと悲鳴を上げた。咄嗟に、身構え、力を集中していなければ胸から体が真っ二つに分断されていただろう。
だが、衝撃は柳川の身体を問答無用で吹き飛ばした。宙を錐揉みしながら飛んだ身体は、地面でもんどりうって崖へと激突する。
雷でも落ちたかの如き轟音と共に、もうもうと土煙が巻き上がり、岩石の山崖に巨大な亀裂が走る。
柳川は前後からの衝撃に、内臓を圧迫され、うめきながら血の塊を吐き出した。
そして、まるでそれを合図にしたように、柳川の頭上から倒壊した土砂が降り注ぐ。
彼の姿は一瞬にして閉ざされ、埋め尽くされた。


「死んだか? それとももう少しあがらうか?」

圧倒的な力に酔いしれるかのように、ラギエリの呟きは過剰なまでの抑揚に満ちていた。
まるで、激闘の余韻を楽しむかのように、そよ風が舞い上がった土煙とラギエリの囁きを押し流す。

そよ風は、束の間の静寂すらも押し流してしまったのか…

カラリ、と一つの石が転がった。
地鳴りに似た唸りが、大気を震わせ伝わった。

「そうか…それほど引き裂かれたいか、雑種」


鳴動は咆哮と化し、世界が怯え打ち震えた。
土砂が爆音とともに噴火する。

「ぐおおおおおおおおお!!」

咆哮が物理的な衝撃波と化したように、堆積した土砂が天高く、粉々に吹き飛ばされる。
降り注ぐ土砂のなかに佇むは二メートル近い巨体。
紅の瞳を再び舞い上がった土煙のスクリーンの奥から輝かせる異形。赤黒い鋼鉄の肌に身を包み、凶悪な牙と角を誇るその姿はまさに鬼。
そう…エルクゥとしての真の姿。

さすがにあれほどの衝撃、まともに喰らっては人間の身体では持つはずも無い。戦闘生物としての本能が、柳川の身体を半ば自動的にエルクゥへと変じせしめたのだ。
その姿はやはり化け物。人ならざる異形。命あるものを無造作に引き裂き、蹂躙する力の具現。破壊たる者。
ただ本能のままに生命を奪う者。
故に人はその生物を鬼と呼んだ。

だが、今の柳川は決して獣とは云えまい。鬼とは云えまい。
それはどうみても化物でありながら、何処か凛とした気配をまとい、その狂なる紅瞳にも理性の光が宿っている。
その威容はむしろ高貴とすら形容しうる。

当たり前だ。柳川は自らの狂気を支配下へと置いている。すべてを引き裂かんとする本能の暴走を、完全な制御下へと置いているのだ。
ここにあるのは、力を得、それを収めたる者。

だが、今その高貴なる鬼は、静かな怒りを全身に満たしていた。

「腕を新たに生やす再生力…それにその姿…貴様…それはいったいなんだ!?」

柳川が牙の隙間から呼気を漏らすように、ラギエリに向かって憎憎しげに言った。
声帯が変わっているにも関わらず、明瞭な人語だ。

その言葉を耳朶に受け、ラギエリは喜悦とともに答えを返す。

「言っただろう? オレはエルクゥを越えた者。オレこそが真なる狩猟者と!」

ラギエリの姿は…異形だ。それもつい先ほどまでの姿とはあまりにも変貌した姿。
もはや、それはエルクゥとは似ても似つかない。
まるで塗りつぶしたような暗色。天を突く二本の角は螺旋を描き、羊頭の悪魔を思わせるものになっている。
牙は、その歯全体が鋭利な刃と変わり、凶暴さを越え、醜悪とすら表現できる面差しへと変貌していた。
千切れた右腕は根本から生え変わり、膨れ上がった左腕とともに一回り太さを増している。その姿はさらに一回り巨大化し、怪物としか表現できない代物へと変貌していた。
そして何より、背中の肩甲骨から伸びた皮膜は邪翼そのもの。

「貴様…そうか、ガディムの側に付いている時点で理解しておくべきだった。貴様もガディムに魂を売ったというわけか」
「クククッ、そうだ。オレは自らに魔核を埋め込み、さらなる力を手に入れた。そう、何者をも狩り尽くす力をだ。オレを真なる狩猟者とする力をだ! 今さら貴様がエルクゥと化そうと無意味! 我が力の前には無力!」

高らかに、ラギエリは吠えた。
その吠声に打ちのめされたように、柳川はグラリと視界が歪むのを感じた。

「なんだ?」

体から、じわじわと自由が奪われていくような感覚。
その様子を見たラギエリの凶貌がさらに歪みを増した。

「漸く効き始めたか」

その言葉に、柳川がハッと顔を上げる。

「毒…かッ!」
「その通り。我が爪にはベヒーモス・タイガーをも一撃で殺す毒…『サウザント・クライン』が仕込んである。同じエルクゥ族と言えど、死にはせずともまともに動きも取れなくなるわッ!」

まるで、もやは逃げられぬ獲物を弄ぶかのように、楽しげに怪物は笑った。
そう、目の前にいるエルクゥは弱りきった獲物そのもの。今よりこの新たなる力で踏み躙り、蹂躙し、引き裂いて、その美しく儚き命の焔を散らしせしむるのだ。
そこにいるのはもはや狩猟者にあらず。か細き弱者。

だが次の瞬間、その笑顔は柳川の漏らした呟きに微妙に硬化させられた。

「詰まらない…実に詰まらない。同じエルクゥ族? ふざけた事を」
「なんだと?」


柳川は、フン、と詰まらなそうに鼻を鳴らした。それまでの戦いの高揚を打ち捨てるような、そんな侮蔑。

「興ざめだ。本当に下らない。俺は…」

ギリリ、と歯軋りする音。鋭利な牙が軋みあい、柳川の鬼面が凄絶に彩られた。

「犬と戦うためにこんなところに残ったのではなかったんだがな」
「なん…だと?」

犬…それが自分を指すことを否応無く悟らされ、ラギエリの余裕めいた形相が一変した。憤怒が鬼気を倍化させる。
吹き荒れる鬼気は、はや物理的な衝撃すら有し、ラギエリの周囲の大地が渦巻く力に引き裂かれたように地割れする。
だが、その怒りは柳川になんらの痛痒を与えない。
むしろ怒りは柳川の方が大きかった。

「犬…と云った! ふんッ、孤高にして誇り高い狩猟者が、力ある者に尾を振り、増してや与えられた力をまるで自らのモノの如く誇り、見せびらかす…無様! そして醜い! それを犬と云わずして何という!?」

血に濡れた紅を宿すラギエリの瞳が、屈辱に歪む。
その双眸を睨みつけ、柳川は吐き捨てるように言葉を叩きつけた。

「加えて毒だと!? ふざけるな! これが狩猟者たる者以外との闘争なら称賛しよう。勝利を得ることに手段など選ぶ必要無し。卑怯などというつもりは無い。だが、これのどこに狩猟者の誇りがある!? 敵を自らの力で狩り、命の焔が燃え上がる様を手に入れるという狩猟者としての誇りがどこにある!?
下らない、下らない。俺はこんな輩と戦うために、この場に残ったというのか!? ふざけるな!?」

罵倒…容赦呵責も無い痛烈な罵倒だった。
だが、それは紛れもなく柳川の思いのたけ。だが、ラギエリにとっては憤激にしかならない。

「貴様! 貴様貴様貴様貴様!? 薄汚い雑種が何をほざくか!! 今、この瞬間にも我が手に引き裂かれ様としている屑が何を咆えるかぁぁ!!」
「ならば引き裂いてみるがいい。それとも? 俺が毒で動けなくなるまで待つつもりか? ククッ、それもいい。犬どころか死肉を漁る禿げ鷹だな」

ただでさえ冷え切っていた空気が凍りついた。
もはや、膨れきった激怒は、言語機能すら停止させていた。
螺旋を描いて渦巻いていた鬼気が、さらに爆発的に増加する。
引き裂くように天に向けて引き裂かれたラギエリの口内から、マトモに聞けば魂すら消し飛ばされかねない凄まじい咆哮が解き放たれた。

殺す。

言葉としては聞き取れない、だが意思としては間違え様も無い叫び。
柳川は無言で、やや右足を下げ、同時に右手を僅かに開いた。
ラギエリと違い、その周囲は凍りついたように静か。
自身がエルクゥであることを忘れたかのように、鬼気の欠片すら漂っていない。
ただ、その内側から危険なほどの灼熱が感じられた。
微かに右手が震え、ギャン、と悲鳴をあげて爪が冴えた。

その瞬間、ラギエリの姿が掻き消えた。
三メートルを越える巨体とは思えないほどの神速。もはや残影すらも見えない。

ドクン、と心臓が脈打った。
視界は何も捉えられない。だが、極限まで研ぎ澄まされた感覚が、半ば結界と化し、神速で迫るラギエリを捉えた。
思考が電気となって身体に伝わるより迅く、身体が反応する。
柳川の内側で凝縮され、灼熱の溶岩のように荒れ狂っていた鬼気が、瞬間的に柳川の身体に力を漲らせ、極限を越えて動かした。
神経伝達が光となって加速、その瞬間、柳川の身体は黒き雷光と化す。


ドン

ラギエリが踏み砕いた地面の爆砕音が今さらのように響くなかで、その音は酷くひ弱に聞こえた。
瞬間移動さながらに、間合を押し潰し、柳川の身体を貫いたはずの爪。
だが、ラギエリはそこに肉を刺し貫く感触を感じる事が出来ず、舌打ちした。

躱した!? だが…何時までもつ?

このまま圧倒し、叩き潰す。毒が効いて動けなくなるのを待つつもりはなかった。
圧倒的な、そう、今ここにある自らの…エルクゥを超えた力であのふざけた口を叩く薄汚い雑種を叩き潰す。
手足をもがれ、苦痛に泣き喚く雑種の姿を愉悦とともに想像しながら、ラギエリは柳川の姿を追った。

「あ?」

巨体が…重い。グラリと身体が傾ぐ。
自分の身体が重いなどという想像したことすらない感覚に、ラギエリは混乱を覚えながら、そのまま柳川の姿を探した。
そして、漸く見つける。
自分の背後…3メートル。

何時の間に?

そう、思った瞬間、ガクリ、と膝が落ちた。

「なんだ…と?」

あまりにも思い通りにならない自分の身体に、ラギエリは視線を自らの身体に落とし……自失した。

「これが……魔核というものか。あまり美しくは無いな」

柳川の呟きが耳朶を打つ。
ラギエリは呆然と、血が吹き出ている自らの胸部に空いた二つの穴から視線を引き剥がし、柳川を見た。
その紅の視線の向こうで、柳川の左手からポロリと血に濡れた紫色に輝く結晶体が零れ、その足で踏み潰される。キラキラと、紫の破片が怪しく待った。
その紫の霧の中で、柳川は右手の中でビクビクと脈打つ肉塊をチラリと見やり、そのまま背後を振り返ってニヤリと笑った。

「自分の心臓が握りつぶされる様というものは見たことがあるまい」

驚愕/恐怖に身体が凍った。
思考が…磨耗する。
魔核を失い、そこから付与されていた力が崩れ落ちていく。それは元の身体ごと肉を溶かし、いつの間にかラギエリの身体は急速に腐り落ちようとしていた。

「かえ…せ…オレの心臓を返せぇぇぇ!!」

取り戻したところでどうにもならない。そんな事すら分からぬまでに思考を散り散りに乱しながら、ラギエリはボトボトと腐った肉を撒き散らしながら柳川に迫ろうとする。
柳川はその醜態に顔を歪めた。
これが元は同じ狩猟者とは考えるだに不愉快だった。
だから、躊躇無く告げた。

「眼に焼きつけてさっさと死ね」

グシャリ、と音を立て、エルクゥの心臓は血と肉片と肉汁を撒き散らして破裂した。
ボタボタと手の中から破片が零れる。

「う…あぁ」

ラギエリの崩壊した口から、断末魔というには余りに哀れな悲鳴が漏れた。

こんなはずではなかったのに。

溶けていく思考のなかでラギエリは呆然と思う。
魔界での、同族との闘争に破れ、エルクゥとしての限界を見せつけられ、それでも力を欲する欲求から逃れられず、行き着いた先がガディムの下。
命よりも大切な誇りをも、魂さえも売り払い、手に入れた最強の力。
それがエルクゥとはいえ、人間との雑種に……しかも明らかにエルクゥとしての力に劣るはずの相手に、粉みじんに砕かれた。

「何故、お前はオレより強い?」

無意識に、問いかける。
自分に劣ると思っていた者に負けた。その理由を最後に知りたかった。
柳川は鼻を鳴らし、素っ気無く云う。

「それが分からんから、お前はそうやって無様に死んでいくんだ」
「…なるほど」

小さく、掠れた声と微かな笑みを残し、ラギエリの双眸から光が消えた。

ドウ、とラギエリの巨体が力を失い、無様に倒れるさまを確認し、柳川は本当に忌々しげに顔を歪める。

「クソッ、下らないッ!」

ボロボロと、エルクゥの身体を構成していた肉体が、老廃物となって身体からこそげ落ちていく。
上着は全て千切れとび、辛うじてズボンの切れ端だけが残っていた。
自らの老廃物の中へと倒れこむように膝を折りながら、柳川は吐き捨てる。

「これなら魔王と戦ってた方がマシだったじゃないか。くそっ、こんな詰まらんヤツに期待していたとは」

本当なら、このまま耕一達の後を追うつもりだったのだが、身体がまったく動かない。
例のラギエリに注ぎ込まれた毒の所為だ。
ヤツの云う通り死に至る感覚は無いが、意識が朦朧としてきている。これでは暫くは身動き一つ取れないだろう。

「くそったれがぁぁ」

聞くに耐えない罵声を残し、柳川はゆっくりと意識を失った。









§








今、再び――
この終焉の地で戦う。
同じ名の刃を振るい、同じ決意と意思を持て。

いや、違うと北川は双眸の光を薄らげた。

一つは我が身。
かつてと違い、今は何の力も無き人の身。
かつてと違い、今は力を磨き、刃を振るう技を得た身。

ただ、そこに大した意味は無い。
敢えて云うなれば、この『絶』に不自由な思いをさせずに済む事。
昔の如く、力任せに振り回すだけでなく、存分に、その刃の威力を使ってやれる事ぐらいか。

そして、もう一つ。

かつてはただ復讐のためにヤツを殺した。
今度は……

背後から朗々と棚引いてくる美坂香里の透き通るような声に、北川は刹那、身を切られるような恐怖を抱いた。

自分…そしてあの男。
この過去の亡霊たちの目に見えぬ呪縛から、彼女の運命を解き放たなくてはならない。


眼前に黒影が聳えた。慌てず、身体を捌き、突き立てて来る爪の間に滑らせるように刃を通す。
魔をも切り裂く妖刀は、ラルヴァの掌を真っ二つに分かち、その腕すらも二股へと変えた。
振りぬいた刀を返し、北川は絶望の叫びを解き放つラルヴァの顎を下から貫き、脳髄を破壊し咆哮を止める。

「やれやれ、やっと減ってきたかね」

美坂香里が解き放った疾風の余波を頬で受けながら、北川は心中の澱んだ思いを微塵も見せず、ただ大量のラルヴァにゲッソリした顔で呟いた。

「こちらはね。他はどうなってるか分からないわよ」

いい加減髪の毛が纏わりついて鬱陶しかったのか、紐で後ろにウェーブの髪を纏め上げた香里が、あまり愉快そうではない声音で北川の独り言に声を返した。
北川はヒョイっと肩を竦めて周囲を見やる。
周りを囲むラルヴァは百を少し超えたばかり。当初の大海を思わせる大群と比べれば水溜りのようなものだ。
尤も、それは北川が香里を抱き抱えて、ラルヴァの居ない方へとひた走った結果であり、レミィや詩子・澪が好んでラルヴァの大量に蠢くなかへと突き進んでいった結果ではあったが。

「どうする? こいつら片付けたら相沢たちを追いかけるのか?」
「そうね…」

香里はうっすらと瞼を下げ、考え込むように手を口元へと当てた。考えを巡らす時の彼女の仕草。
北川はラルヴァを窺いながら、何気なく香里を振り返り……顔を蒼白に染め上げた。

悪夢は常に、唐突に訪れる。
だが、今だけはその可能性を予見していたのではなかったか?
それにも関わらず、すべての事象において注意を払う事を怠っていた自分に、北川は殺意すら覚えた。
ただ、無駄と知りつつも叫ぶ。叫ばずにはいられない。
彼女の名を。

「美坂ぁッ!!」
「え?」

叩きつけるように投げかけられた自分の名前に、美坂香里は反射的に北川を振り返り、息を飲んだ。
そこに居たのは、疾風のように自分めがけて駆け寄ってくる北川潤。だが、その形相は見たこともないほど凄惨で、壊れてしまいそうなほどに純粋で。
自分に向けられたのではない、夜叉の仮面。

香里は思わず、その貌と瞳に魅入ってしまった。
その相貌に宿る目くるめく狂気を――その両眼に軋む飽くなき闇を。
その狂気と闇は余りにも色濃く、明瞭で、確信的だった。
かつて、ものみヶ原で見た殺戮の後の後悔。
かつて、水瀬の城のあの悪夢の夜に見た狂気への戸惑い。
そんなものは今の彼には微塵も無く、ただその奥底に迷い一つ無い闇と狂気と静謐が横たわっているのが分かった。

一目見ただけで、分かってしまった。


きたがわ…くん……あなたは……。


その瞬間、香里は理解させられた。分かりたくなど、無かったのに、理解させられてしまった。
否応無く、北川が何も元に戻ってなどいなかった事を…認めさせられてしまったのだ。
彼の闇は、未だ晴れてなどいないのだと…
彼の往く先には、自分の姿はないのだと…

無意識とはいえ、この時初めて彼女は認めたのかもしれない。
4年前、初めて自分の前に現れてから、鬱陶しいぐらいに纏わりついてきたへっぽこ浪人。
いつも自分の事だけを考えてくれて、見ていてくれて、そして気が付かない内に身も心も守っていてくれた人。
…ただのバカで居てくれた彼は―――

もう、居なくなってしまっていたのだと。


もう、彼は私を見ていてはくれないのかもしれない。



何か…強引に自分を取り戻す事で、北川潤を取り戻した気になっていた自分が、とてつもなく愚かに思え。
全身の力が零れ落ちるように抜け去る。

その瞬間だった。

おぞましい感覚に、虚脱しかけた全身が打ち震えた。
心臓が跳ね上がり、思考が走るより早く身体が逃げようと、前へ踏み出す。駆け寄ってくる北川に向かって。
だが、その行為は、一歩目が大地に着く事すら無く、妨げられた。
いきなり、背後からヌラリと伸びた手に、身体を抱き抱えられ、その身体を拘束する。
彼の名を叫ぼうとした口もまた、純白の袖から伸びる手によって塞がれた。


「美坂ッ! 彼女を…美坂を離しやがれぇぇ!」

こんな状況でありながら、香里は刹那、心を震わせた。
まだ、彼は自分の事を呼んでくれるのだと分かって。
そんな当たり前の事に、泣きそうになった。


約7mの距離を、瞬き一つにも満たぬ時間で押し潰し、刀を振りかぶった北川はその全貌を見る。
何も無い虚空から、生やされたように伸びる純白の袖に包まれた二本の腕を……

そして―――

虚空に滲むように浮かんだ、此方に向かって嘲笑を閃かせる男の貌を。
口元はさも可笑しげに引き裂かれ、その陰虐に吊り上げられた目に宿るのは光悦。
北川は否応無く見せつけられた。
むざむざと守るべきものを奪われる愚か者を嘲笑う男の顔を――


どれだけの時を経ようとも。
どれほどの闇を見ようとも。

その男は、幾度と無く、果ても無く、少年に自らの名を叫ばせるのか。
その吼声に、深遠にも似た憎悪の響きを宿らせて。

「たぁかつきぃぃぃ!!」


「きた――」

口元を塞ぐ手を振り解き、呼びかける香里の声は唐突に断ち切られた。
香里の身体が虚空へと文字通り引きずり込まれ、飲み込まれる。

彼女の双眸は、呑み込まれる瞬間まで、縋るでも無く、求めるでも無く、ただただ真っ直ぐに、北川を見つめていた。


「キヒャハハハハハ」

また、あの哄笑が聞こえた。
魂に刻まれた、あの哄笑が。
あの虫唾の走る高槻の笑い声が耳朶を打つ。

憤怒が、北川の心を煮え滾らせた。
それでも、現実は微塵ほども変わらない。どれだけ狂気が暴窄し、殺意が爆ぜようと、今この場を変える事に幽かな意味すらも無い。
あと一歩、あと数十センチ届かない。
決定的に届かない。

「クヒャハハハ、小僧、小僧、無力さに悶え苦しめ。そして、絶望を与えてやるよ。それも飛びっきり極上の絶望をなぁ!」

「うわあああああ!」

間に合わぬと悟り、北川は渾身の力を込めて、嘲笑を放ち続ける高槻の顔目掛けて刀を投擲した。
だが、高槻の顔は刃が突き刺さる寸前に、水面に潜るかのように虚空へと消え、刀は何者をも貫く事が出来ず虚しい唸りを上げて通り過ぎる。

「畜生、美坂ぁぁ!」

必死に北川は駆け寄る。虚空へと沈み込んでいく美坂香里。その僅かにこちら側に残された手を掴もうと――。
香里の手が、何かを求めるように広げられた。指先が小刻みに震えている。香里もまた、必死に腕を伸ばしているのだと、それで分かった。
北川は地面を蹴り、身体を投げ出すようにして…その手に縋りつくようにして手を伸ばし、飛びつく。

だが―――

「おあっ」

北川の身体は何も触れる事が出来ずに、地面へと無様に倒れ伏した。

ネジの切れた人形のように、北川は身動き一つできず、大地に身を横たえた。

見上げずとも分かる。顔を上げずとも分からずにはいられない。
もはや…虚空には何も残されては居ない。
まるで…つい数瞬前まで、そこに彼女が居た事すら嘘だったように…何もないのだと。

何も…存在しないのだと。

「みさ…か」

美坂香里の姿はどこにもない。
連れ去られてしまった。むざむざと連れ去られてしまった。

「うそ…だろ?」

冷たい地面に額を押しつけ、北川は呆然と呟いた。
ただ、地面の凹凸に圧されて額に走る痛みだけが現実を知らしめる。

守ると…決めていたのに。
守ると…決意したのに。

そう…死人と成り果ててまで――

バチン、と音を立てて北川の意識が純白に染め上げられる。
一度は収まっていた感情が、箍が外れたように吹き上がる。
否、自らの意思を持って、魂の奥底から引きずり出す。

「ちく…しょう…ふざけるな!! まだだ! まだだ!」

大地を激情のままに殴りつけ、北川は飛び跳ねるように立ち上がった。

「遠くじゃないはずだ。異空間を介しての空間侵食ならまだ、この近くにいるはずだ!」

なにより、高槻の性格ならば、あっさりと獲物を殺すはずが無い。そして、ヤツは誰よりも絶望を好む。
ヤツの最後の言葉がそれを証明している。
必ず近くにいるはずだ。そう、彼女を守るものに、その守るべきものが殺されるさまを見せ、その底知れぬ絶望を見て喜ぶ…それが高槻という男のやり方だ。
だからこそ、すぐ近くにいる。この裾野のどこか…すぐさま駆けつけられる場所に。

「殺らせるかッ。殺らせるかよ、高槻ぃ! 今度こそ殺らせない! 今度こそ、殺してやる! 殺してやる! 殺シテヤルッ!!」

地面に、無言のまま突き刺さっていた『絶』を抜き放ち、殺意のままに振り払う。
大気と刀が悲鳴をあげた。

北川は、一斉に襲い掛かってくるラルヴァたちを血も凍る凄まじい形相で睨みつけ、咆哮した。

「どけぇぇ! 邪魔するんじゃねえええ!!」


かくして、殺戮の使徒が、再びこの地に降り立つ――

――その刻が来た。




そして―――

この地に吹く風は、未だ泣きやまず。








  あとがき



八岐「北川君はやっぱりギャグキャラがいいなと思うのであった今日この頃」

栞「その割に、まったく微塵も欠片もこれっぽっちもそんな所はないですねえ、今日この頃」

八岐「うむ、まったく困ったヤツじゃ、北川も」

栞「書いてるのはあなたじゃないですか」

八岐「むぅ、ご尤も。でも、話も佳境ですし、ギャグなんか挟む余地ないんですよ」

栞「お姉ちゃん、ピンチですもんね。ところで、お二人の仲って進展してるんでしょうか?」

八岐「むしろ後退してるかも。きたがー君が思いっきり迷走した挙句に自分の想いまで信じれなくなってるしね」

栞「なんでです?」

八岐「簡単に云うとだ。自分が香里を好きになったのは、封印されてた記憶の中で香里に前世の彼女の姿を透かし見てただけで、香里本人を見てはいなかったんではないか? てな話だな」

栞「はぁ〜、複雑ですね。ちゃんと決着つくんですか?」

八岐「考えてはいるけどね」

栞「でもまあ、北川さんが後ろ行っちゃった分、お姉ちゃんが自分の想いを自覚し始めてるみたいですし…差し引き零かもしれませんね」

八岐「死んじゃっても零だけどね」

栞「……ゼロの意味が違います」

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