途切れぬ意思は頑強に

途絶えぬ希望は強靭に

諦めもせず、止まりもせず

ただひたすらに前へと進む


何故に進むと問いかけば

彼らは迷わず叫びたる


守り抜くべきものの名を


ただひたすらに信じ往く
















魔法戦国群星伝





< 第六十九話 紡がれし力 >



御音共和国 千葉




「この世にわたしという世界の意思が具現化した時から、この世には世界に意思を繋げる事ができる生命が稀に生まれるようになったの。
その者たちに課せられた宿亜とは、世界の思いを体現する事……彼らは世界意思の端末としての存在として意味付けられた。
これまで、わたしは彼らに何かを課した事はなかったけれど、今はその封を破ります。
司、そして茜に瑞佳。今この世にいる四人の世界の楔たち…。残りの一人、浩平は今ここにはいないけれど、あなたたち三人が居れば……。お願い、あなたたちの力を貸して」

みずかの言葉に、茜と瑞佳は思わず司の顔を見る。
司は頷くでもなく、静かに答える。

「今なら分かる。僕たちは、いつもあなたに見守られていた事を。だが…僕らに何の力があるというんだ? 僕らはあなたの意思を誰よりも身近に感じる事が出来る…ただそれだけの存在じゃないのか?」

司の言葉にみずかは首を振った。

「世界の端末とさっきわたしは云ったね。これはそのままの意味。あなたたちには世界そのものが持つ力を自らの物として扱う才能が備わっているの。司…何故、あなたは呪も唱えずに氷冷の気を扱えるの? どうして浩平は空間に自在に干渉できるの?」

「まさか…それは…」

「そう、それはあなたたちが無意識に世界から力を引き出していたため。 あなたの≪冷冥支配(フローズン・クエスト)≫、浩平の≪空間支配(スフィア・クエスト)≫…その本当の意味するところ、それこそ「世界の楔(ワールド・ウェッジ)」…世界のあまねく事象はあなたたちの意思に答える。冷気や空間だけではない。思うだけで炎が立ち上り、山が聳え、雪が降る……もっとも、世界を自在に操ろうとすればそれだけのとばっちりがくるけどね。どんな力を扱うにしても、それなりの力は必要だということ。あなたや浩平が冷気や空間を自在に操れるという事は、とてもとても凄いことなんだよ」

「だが、あなたはさっき僕ら三人の力が必要だといった。それに僕の力ではあの『灰燼の卵』を破壊することなど出来ない……僕らがすべきこととはなんだ?」

「盟約の召喚」

みずかはその不思議な色を湛えた深い瞳を三人に見据えてそう云った。

「盟約…永遠の盟約?」

「そう永遠の盟約だ。この次元階層に存在するすべての世界を包み込む『虚』を導く呪法。もしくは『まったき虚ろ』…『絶対虚無』を意味する言葉」

「つまり……虚無の召喚という意味ですか」

茜の口から出た言葉に、ピロはその通りと首を動かす。

「虚無とは本来、世界を超越した力…お主たちが扱う事象とはまったく意味を異とする。だが、盟約と言う呪縛を通してお主たち世界感応者は虚無の召喚を行なえる。すべてを消し去る虚ろの力……あまりにも異質な力なれど、今こそ必要とされる力だ」

「僕ら十二使徒…盟約者は言わば世界と虚を繋ぐ結び目……その縁を通じて君たちに一時、虚を呼ぶ術を与えよう。僕らは虚を扱う事は出来ないが、世界の力を司る君たちならばそれを御する事が可能なはずだ」

「さあ、目を閉じ、心を感じて……わたしの心を。そして貴方たちの心を。すべての言霊は既にわたしを通して貴方たちの内側にある。それを呼び起こし、目覚めさせて……」

ぴろが、氷上が、みずかが詠う。

茜がそっと、司の手を握った。少し驚いた司が彼女の顔を見下ろすと茜は目元を綻ばせ、目蓋を降ろす。
見ていないと知りながら、司は彼女に笑みを返し自分も瞳を閉じた。

「…浩平」

瑞佳が呟くのは愛しい人の名。
今この場にいないあの人の存在を、温もりを、瑞佳は傍らに感じていた。


フワリ、とみずかの身体が浮かび上がる。
差し伸べる少女の両手から、流れ出る何か。

司たちの身体が温かな光に包まれて行く。



氷上は肩の上のピロと頷きあうと、後ろにステップを踏み、彼らの領域から外れた。

「何が始まるか知らないけどさ。アンタらはもういいの?」

「ああ、我輩たち―正確には氷上だけとも言えるが――は単なる触媒。既に介在は済んだ。残る仕事は……」

リュカの問いに答えると、ピロは傍らの氷上の視線を追った。

「彼らの邪魔をさせぬ事だな」

迫り来る雲霞のごとき、ラルヴァたち。中には一際巨大な体躯を目立たせるグレーターラルヴァも混じっている。

「アタシはパスね」

呆れた猫の視線を受けて、冷汗を垂らしながらリュカは捲くし立てた。

「アタシだってあんな木偶人形ども好かないけどさ。これでも一応、まだアタシはガディムの僕だよ。別に監視されてるとか、裏切ったら魔核が即座に覚醒するとかいう話は聞いてないけど……もしかしてって事もあるじゃない。だから勘弁して――」

 むにゅ

はい? と一瞬リュカの顔に疑問符が浮かび、次の瞬間――

「キッ! キャァァァァァ!!」

と悲鳴をあげて自分の右胸を掴んだ氷上の手を振り払い、獣のように後ろに飛び退った。

「なっなっなっ!?」

混乱しまくってるリュカに、氷上は苦笑しながら、

「キャアって……悲鳴あげる年齢でもあるまいし」

「竜族は長寿なんだからアタシはまだわか――っていきなり何をっ!?」

もしかして、こいつは冷酷非情の上に変態だったのかとビビリまくるリュカに心外そうに肩を竦めながら氷上は告げた。

「別に変な意味じゃないよ。君の体内の魔核を封じたんだ。別に手伝えとは云わないけど、裏切ってるのは確かなんだからそのままじゃ気分悪いだろう?」

「ふ、封じたってそんな簡単に……」

「簡単という訳でもないんだけどね。ちょっと魔核の個体時間を凍結したんだ。時間を解凍しないかぎり外からはどんな干渉も受け付けない…バルタザールに除去してもらうまで、それで安心のはずだ。胸、触ったのは謝るよ」

「時間を凍結ぅ!? アンタ、そんな事も出来たのか!?」

「ま、この呪われた身体のおまけみたいな能力だよ。あまり融通は利かないから役に立つ事は滅多にないけどね」

その微笑みに自嘲とも諦観ともつかない感情の流れを感じて、リュカは忌々しそうに赤毛をかきあげながら、

「わかったわよ。テキトーに手伝ったげる。まったく…変にまるくなりやがって…調子狂うじゃない」

ぶつぶつ呟きながら、勢いをつけて両手を振り下ろす。と、どこからともなく回転する円形のモノが手の内に現れ、リュカはそれを器用にクルクルと回しながら両手をビッ、と真横に広げ、回転していたそれを握り止める。
それは二振りの鎌の如き曲刀。
柄から刃先までが一体成型の、弧の内側に刃のついた鎌剣……竜の鉤爪を模したそれを一般的に『ハルペー』と呼ぶ。

「ホントにテキトーだかんね。ラルヴァなんかに真面目にやっても面白くないんだから」

本当に不本意そうに唇を尖らせるリュカに構わないよと言いながら氷上は笑みを含んだ。
彼女はコロコロと変わる自分の表情に気付いているのだろうか。つい先ほどまで能面のような無関心の仮面を被っていたのが嘘のようだ。
良くも悪くも今の彼女こそ彼女らしい…『暴竜姫』リュクセンティナ・ファフニールだ。

不満顔もどこへやら、言葉とは裏腹に鼻歌でも歌いそうな彼女から視線を外し、氷上は顔を前へと向ける。
そのまま瞼をゆっくり下ろし、半眼のまま酔ったように囁いた。

「さあ、来たよ…来たよバルタザール」

「虚ろなる魂の骸…黒き狂騒の魔…ラルヴァの群か。我輩とお前が肩を並べて戦うという千年振りの相手としては少々物足りぬな」

「雑魚が相手だ、力の加減も考えようねバルタザール。何事も程々が大事だよ。それと正確には肩を並べてじゃなくて肩に乗せてだと思うけど」

「ふん、言葉尻を捕らえるなど、歳を経た偏屈さが滲み出てるな」

「真実を認められない所にも、老醜が鑑みられるよ」

「どっちもどっちだねぇ。だいたいアンタらの程々って言葉ほど真実味の無いモノは……」

呆れて呟く赤毛の少女を氷上とピロが半眼となって睨んだ。

「僕らより倍は年上の癖に」
「年増の婆ぁが」

「……性格と口の悪さだけは微塵も変わってないよ」

こいつらに頼るのはガディムに魂を売るより性質が悪いかもしれない……

怒気に髪を逆立てながら、リュカは引き攣った笑みを貼り付けた。

そうこうしている内に、ラルヴァの群れは異様に高まりつつある力の波動を感知し、狂乱のあふれる咆声を上げながら迫り来る。
あまりのうるささに苛立ち混じりのリュカのオレンジ色の瞳が凶暴に見開かれた。
だが、その眼差しを受けてもラルヴァたちは止まろうともしない。もはや魔核の機能が停止したリュカを味方とはまったく認識していないのだ。

「ククッ、分かってたけど頭に来るねえ。可愛げの欠片もありゃしないじゃない、ラルヴァどもが」

元上司の怒りの混じった呟きをも無視して、三〇鬼ほどのラルヴァが進路を塞ぐ氷上たちめがけて殺到。
慌てもせず、動きすらもしない三人の姿は、一瞬にして完全に黒色に覆い尽くされる。

だが次の瞬間、黒の蠢きは時を止められたように停止した。そして一拍の間を経て、内から膨れ上がった力の波動にラルヴァが一斉に宙へと吹き飛ばされた。
それだけでは終らない。虚空を泳ぐラルヴァの身体に次々と巻き起こる小爆発の連鎖。体内からの爆発に腕が千切れ飛び、内臓が撒き散らされ、脳漿が破裂した。
粉微塵の肉片と化したラルヴァたちが降り注ぐ。

それらを冷たく睥睨するは、猫の眼差し。
焦げた茶色から紫紺の色に変貌した瞳を炯々と輝かせながら、青年の肩に乗る猫が破壊の余韻に浸るように髭を震わせる。
身の毛のよだつような…狂眼が笑った。

その猫を肩に乗せながら、青年の前髪がフワリとたゆたう。
いつの間にか彼の左右の虚空に浮かぶ、光輝く薄い花びら。青年が無言で両手を横に広げると、光膜が両腕に纏わりつき発光。瞬時にして氷上の両腕を光剣へと変貌させた。

竜の少女が小さく膝を曲げ身を屈める。背中の服を突き破り、その姿を現す翼が一対。
バサリと大きな羽ばたきを見せ、思う存分広がった翼の色は炎熱の赤色。威容を誇る竜の羽根。

欠片の暖も見当たらぬ、静かな微笑を湛えて告げる。
『蒼血の魔人』は静かに告げる。

「ここより後に路は無い。それでもなお突き進もうという君たちに残された終着はただ一つ……完膚無きまでの絶殺(ゼッサツ)だ」


智と血に濡れた紫紺の眸が清々しげに瞬き世界を見透かす。
『葬送の狂獣』が諭すが如く宣告する。

「真なる魂、真なる生、意味と意思を持たざるモノ、哀れなるモノども。ただ殺戮のままにある人形どもよ。今より我らが教授しよう。死と破壊のもたらす恐怖を。虚ろな魂に刻むがいい。滅びてなおも刻むがいい」


大気を打ち据え翼がはためき、両手のハルペーが火焔と化す。
空を踏みしめ、天を掴み、『餓炎の竜姫』が絶吠する。

「さあ、火傷したいヤツから掛かってきなぁ!!」




かくして悪夢は舞い降りる。


















そのすべてが劇的。

変容は瞬時を以って訪れた。


あ…れ?


疑問の声は表には出ず。

視界からは色が抜け落ち、世界はモノクロへと。


やがて力が抜け落ち、思考が抜け落ち、骨すらも抜け落ちる。

何もかもが抜け落ちていく。



名雪はそれが喪失だと理解した。


封を解いた瞬間から喪失は始まった。

まるでポンプで汲み出すように魔力が消えていく。
魔力の泉が枯れたならば、枯れた大地を掘り起こしてすら奪い去っていく。
掘り起こしてすら無くなれば、その土をかき集め絞り上げてまで吸い尽くしていく。

それはあまりにも無慈悲で、容赦呵責の無い搾取。
恐怖に慄く心すらも枯れていくような気配。


やだ…


足元から身体が崩れていく。


やだよっ


身体が砂となって消えていく。


怖いよっ、祐一!


水瀬名雪という存在が……滅していく。


いやぁぁぁぁぁ!!


「名雪ぃぃ!!」


消える意識が胡散霧消の寸前で停止した。
聞こえた呼び声に必死にしがみつく。

だ…れ…?


「こらっ、ばかっ、眼を閉じるなぁぁ! 起きてよ名雪! 名雪ってばぁ! 死ぬなぁぁぁ!!」

ブンブンと身体が揺らされる。
ただそれよりも、顔に降り注ぐ熱い雫に促され、名雪は鋼鉄のように重たい目蓋を押し上げた。
視界に映ったのは、くしゃくしゃに泣き叫びながら必死に自分を抱き締める沢渡真琴の泣き顔だった。

「まこ…と?」

「起きたの!? 死んでないよね! まだ生きてるよね、名雪ぃ!!」

ようやく返った返事に、堰を切ったようにワンワンと泣き出し身体を抱き締める真琴。
身体に広がる喪失感はそのままに、名雪は必死に右手を動かして妹の背中をゆっくり摩る。

「ホント、バカなんだからぁ」

「ごめんね、でも…わたし…」

絞め殺さんばかりに抱き締めていた身体を離し、完全に脱力した名雪の身体を支えながら真琴が苛立たしげに彼女の言葉を遮る。

「わかってるわよっ、やるんでしょ? それでもやるんでしょ? わかってるんだから、ホントに馬鹿なんだからっ!」

「そんなに馬鹿馬鹿言わないでよ〜」
「あううううー!! バカにバカって云って何が悪いのよぅ! バカ(ネエ)! バカ名雪ぃ! 一人で全部しようとしないでよ、出来ないのに。アタシが手伝ってあげるから。真琴が手伝ってあげるから、だから勝手に死なないでよぅ!! そんなの…絶対許さないんだからぁ!!」

本気の怒りの篭もった叫び。それに打たれ何も言葉を返せない名雪。
そんな彼女をギュッと睨みつけ、真琴は茫然と佇んでいる名雪の配下たちに怒鳴った。

「はやく! 名雪とアタシの魔力間通洞(マナ・バイパス)繋いで! はやく! 今この瞬間にも名雪から魔力が奪い取られてるんだから! 死んじゃうでしょー、急いでよぅ!」

その声に弾かれるように、ただ無力に打ちひしがれるだけだった人間達が正気を取り戻し動き始める。
そんな情景を一顧だにせず真琴は腕の中にいる姉同然の少女の顔を見た。
元々雪のように白い顔色が、陶器のように生気を無くしている。まるで死人のように…
細く短く吐き出される吐息だけが、彼女の生を証明していた。
そのあからさまな死の訪れに、真琴はただ恐怖した。

「死なないで、名雪ぃ」












東鳩帝国 降山盆地




空に浮かぶ光の船…≪ヨーク≫

見上げる人々の瞳に映る感情は、ただ訳の分からぬ現象への恐怖のみだった。

「だ、大丈夫なの!? あれぇ!!」

首が痛くなるまでずっと頭上を見上げていた長岡志保が耐え切れず絶叫する。
元々じっと黙っていられない体質だ。不安のままに思慮も配慮も無く叫んでしまう。
ただ、彼女の絶叫の内容は、この場にいる全ての者の共通した怖れだ。

誰の目にも≪ヨーク≫の異常は明らかだった。
明滅を短いサイクルで繰り返しながら、さらに光度を上げていくその様は見る者の不安感を増大させていく。

そして、柏木千鶴が禁断のセリフを口にする。

「ま、まるで自爆する直前みたい」

全員が岩のように押し黙った。
誰もが脳裏に思い浮かべながらも、決して口に出さなかった言葉。
云ってしまえば認めざるを得ないその言葉をあっさりと口にするこの女に、志保や梓、果てはカゲロヒやバルトーまで畏怖とも絶望ともつかない視線を向ける。

「あれ? なんか拙い事云いました?」

しかもまったく自覚が無い。

バルトーは背中に背負った柏木楓を起こさぬように気をつけながら、カゲロヒに問う。

「仮主殿はいったい何を≪ヨーク≫に吹き込んだのだ? そこのエルクゥのご令嬢の言葉では無いが、あれは異常だぞ!?」

「知るか! 本人に聞け!」

「無茶を言うな、本人はアレだろうが」

バルトーは唸りながら顎を向ける。
その先、盆地を照らし発光する箱舟の直下、仄かに灯る光の柱の中に立つ初音の傍らに、彼らの仮主来栖川芹香が佇んでいる。
その唇からは、つい先ほどから途切れる事無く圧縮され、草笛のような音を立てる呪が流れ続けていた。

「ね、ねえ爺ちゃん! 芹香さんの唱えてるのって何の術なの!? あの圧縮呪って並みの魔術なら一瞬で起動できるんでしょ? だのに今唱えてる術って彼是二十分近く唱えっぱなしじゃない!」

志保の云う通り、≪ヨーク≫の砲撃停止から既にかなりの時間が経過していた。その間、芹香は呪を唱え続けている。
眼下の戦場は、当初の狂乱も落ち着き始め、戦況は再び一進一退へと移行しようとし始めていた。
志保の大声を耳元で叫ばれ、カゲロヒは顔を顰めるようにフードを揺らしながら律儀にも答える。

「詳しくは分からん! そもそもが圧縮された呪だから内容が上手く把握できん! だが、ありゃ魔導術じゃないぞい!」

「はぁ? 芹香さんは魔導師だよ?」

「あの好奇心の塊のお嬢ちゃんが魔導術だけで修得を満足してるとはとても思えんがの。 確かに基本ベースは魔導術のようだが…かなりごちゃ混ぜのようじゃ。ワシの見る限り、陰陽符法術の術体系が大きく見受けられる。符は使用しないようじゃが、魔導術というより陰陽術に近い! 他にも大ユーリカ大陸東部地域の五行法や風水具現法、仙峡界の神仙術、他にも分かるだけで精霊旗幟通(エレメント・ルーラー)、ディスペルマジック、魔界の反儀修詩術まで片っ端から混ぜこんどる。分かりやすくいえば――」

完全なオリジナルの絶対魔術じゃよ。とカゲロヒは云った。

その瞬間だった。

いきなり、梓の目の前の地面が弾け、抉れ飛んだのは。

「う、うわぁ!」

慌てて飛びのく梓。だが、無形の爆発はそれだけでは収まらなかった。
彼らの周囲の空間が次々に破裂したように爆発していく。

「な、なんなの!?」

直撃を喰らいそうになった千鶴が悲鳴をあげる。とにかく当り構わず、しかも前兆なしで巻き起こる破裂の連鎖に皆が悲鳴を上げた。

「空間が軋んでおるのか!? 拙いぞバルトー、この場は危険じゃ!」

「クッ、あれを!」

バルトーの視線を追い、カゲロヒは動揺に影を乱れさす。
見れば来栖川芹香の周囲に黄金色に輝く光の壁が吹き上がり、それが全周へと広がり始めていたのだ。それはつい半刻前にラルヴァの群を焼き払ったモノより見るからに濃密な光。

「いかん! 術の起動余波か!? だがこんな凄まじい代物、聞いたこともないぞ!? 芹香殿め、本気で周囲を気にしておらんなぁ!」

「カゲロヒ!」

「わかっとる! 皆、この場は危険じゃ! 逃げるぞ!」

「逃げるってどこに!?」

梓の悲鳴そのものの問いに、カゲロヒは半ば自棄になりながら叫び返した。

「そんなもの、考えてる暇なぞあるか! この戦場のどこかじゃ! 往くぞ!」

「えぇ!? ちょ、ま――」

志保たちの驚愕の抗議が響き渡る前に、吹き上がった影が全員を飲み込む。
影が大地へと戻り、誰の姿も無くなった直後、空間の破裂はさらに吹き荒れ、その後を光の大波が押し流していった。





    続く





  あとがき


八岐「いきなりですが、謝罪」

あゆ「今回で『煉獄会戦』編は終わりって言ってたんだけど…」

八岐「次回まで待ってくれ〜」

あゆ「ま……いつもの事だけど」

八岐「それに甘んじてはいかーーん!」

あゆ「うぐぅ、掛け声ばっか」

八岐「わお」

あゆ「な、なんか変」

八岐「寛の影響だ」

あゆ「ヒ、ヒロシ? だれそれ?」

八岐「ないしょないしょないしょのへ〜(異様な踊りを舞いながら)」

あゆ「うぐぅぅ、壊れたぁぁ!」

八岐「(キリリと停止)さて次回だ」

あゆ「も、戻った」

八岐「今度こそ最後だぞ」

あゆ「ほんと?」

八岐「本当…これは本当。という訳で次回をよろしく〜」

あゆ「あれ? 予告は? 題名は?」

八岐「ひみつぅぅ!(絶叫)」

あゆ「うぐぅぅぅぅ!!」




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