保科智子は、最近ある種の真実というものを発見した。
難しい話ではない。至極簡単な事だ。

戦場にて威風堂々と座を構える自分。
その元に情報、報告を携えて駆け込んでくる伝令たち。

その伝令たちは実は、全員片っ端から敵の回し者なのだ。

何故かって?

簡単な話だ。

どいつもこいつも、持って来る報告はろくでもない事ばかり。
これでもかとばかりに自分を打ちのめそうとする悪報ばかり持ってくる。

どう考えても、自分の心をへし折ろうとする敵の策略としか考えられない。

そうだ、そう考えなければ可笑しすぎる。

でなければ、三華大戦の始まりから今現在に至るまで自分の元にもたらされる報告が、何故こうも一様に最悪な代物ばかりだと云うのだ?
こいつらが敵の回し者とでも考えなければ、説明がつかない。




内心でそんな事を考えてるなど、露も見せず智子は優しげに繰り返した。

「すまん、もう一度云うてくれへんか」

そう云った彼女の右手は強く握り込まれ、血が止まり白く染まっている。
小刻みに震えるそれが、彼女の動揺を露わにしていた。

彼が入ってくるなり叫んだ一言――坂下好恵とセリオが負傷戦線離脱――それは引っ切り無しに飛び込んでくる最悪な情報の中でも飛び切りのものだったからだ。

「坂下さんとセリオが? そんなん……」

坂下勢の伝令は膝をつき、俯きながら、何とか先ほどの報告をさらに詳しく繰り返した。
周囲の幕僚たちも、顔面を蒼白にして二人を見比べている。


「来栖川総軍代理指揮官兼共同軍参謀 セリオ殿は完全機能凍結…再起動は帝都で然るべき処置を施さない限り不可能との事。坂下殿は……」

彼は一度言いよどむと、血を吐くように言ってのけた。

「坂下殿は重体……現在後方に移送し治療を施していますが、予断を許さぬ状態との事です」

ビクリ、と智子の身体が震えた。
周囲の者達も、想像以上の状態に耐え切れないようにざわめきを漏らした。

「じゅ…」

思わず喚きちらしそうになった智子は、唇を噛み切らん勢いで口を噤んだ。
それでも心の中では泣き叫ばんばかりに感情が溢れ返る。

重体やて? ふざけんな。ふざけんな!! 頑丈だけがとりえのクセに……なにをさらしてくれとんねん! 文句も云わさへんつもりか!
畜生っ、予断を許さぬやと! 死ぬとでも云うつもりか! 許さへん! 絶対に許さへんぞ、坂下!
あんたに死なれたら、藤田くんや綾香に何て言うたらええか分からへんやないか! 私にばっか、何もかも押し付けられてたまるかぁ!!

「…分かった」

智子はようやくそれだけ言葉にして外に出すと、震える左手で顔を抑えた。
様々な感情が混沌となり、ブレンドされ煮えたぎる。
だが、それを無理やり押さえ込み、彼女は大きく息を吐いた。そうして、感情を整理していく。

「両軍の指揮継承は了解した。伝令増やして指示を行き届かせるようにする。やからそっちでも何とかやりくりしてくれ」

「了解しました」


彼は深々と一礼すると、早足に保科の陣幕を飛び出していった。
入れ替わるように、別の伝令が駆け込んでくる。
先ほど、脳裏に過ぎっていた事が再び浮かび、智子は思わず敵でも見るような眼で睨みつけ、怒鳴りつけた。

「今度はなんやっ!!」

その剣幕に一度息を飲んだその使い番は、動揺を振り払うように声量高らかに答えた。

「『灰燼の卵』近辺にて召喚法陣の多数出現を確認! 新たにラルヴァ二万が出現しました!」

聞くや否や智子は陣幕を飛び出し、戦場の遥か後方――ヨークの放つ黒光が乱舞する『灰燼の卵』を望む。

そして見た。

それはさながら黒の間欠泉。
闇の噴水。
蠢く肉の塊の周囲から、黒の群棲が堰を切ったように湧き出す光景を。


罵声も無い。怒声も無い。
ただ、保科智子は茫然とする幕僚連中の頬を叩くような声音で吠えた。

「全軍に通達! 前線を現在位置から半里後退! 縦深を深くして弾幕密度を上げる! なにぼさっとしてる、早よせんかいっ!!」

鞭で叱咤された馬のように、周囲の者は伝令の仕立て、軍勢移動の統制準備に取り掛かる。
智子も踵を返した。
だが、振り返ったその顔は、たった今、覇気の満ちた声をあげた本人とはとても思えないほどに疲労の影が色濃く張り付いていた。

智子は視線を空に上げる。
そこには光り輝く箱舟の姿。

「あかん、このままやったら負ける」

そこに満ちた感情は焦燥。
手は無い。策も無い。何も無い。
魔王大乱の頃より常にその天才的手腕で戦場を操り続けてきた保科智子。
ものみヶ原会戦でのあの絶望的な撤退戦ですら挫けなかった彼女の心は、今初めて敗北への確信に揺らいでいた。

「初音ちゃん……頼む、早よしてくれっ。もう………」

長くは持たん――

その言葉を封じ込め、智子はじっと箱舟を見つめると、最後まで足掻くために全軍指揮へと戻っていった。



『煉獄会戦』−降山戦線は今、崩壊へと雪崩落ち始めていた。






魔法戦国群星伝





< 第六十六話 崩落の戦場 >



東鳩帝国 降山  柏木家 



「キシャァァァァァァァァァ!!」

奇声があがる。
哄笑にも似たそれを放つのは一匹の怪物。

全身を青黒い色に染めたその姿は毒々しく。
全身の至る所に生え聳える尖った凹凸は凶々しい。
眼窩から飛び出た目が、ギョロリと世話しなく動いている。その瞳に知性が宿っているという光景は異様を通り越して怖気すら抱いてしまう。
真っ赤に裂けた口の中からチロリと細く三叉に分かれた舌先が別の生き物のように動いていた。

その口から嘲るような声が漏れる。

「さあどうした、エルクゥの女ども。かかってこねえのかい?」

言葉を浴びせられたのは二人の女性。
怪人の10mほど先に立つ二人の女は眼光を鋭く刺し、身構えながらも動こうとはしない。
いや、動けないのだ。
それを知っていながら…知っていたからこそ怪人は嘲りの笑みを投げかける。

理由は簡単。
怪人の背後で幾つもの咆哮が放たれる。
ラルヴァだ。
50を越えるラルヴァが、怪人の背後に蠢いている。

女性たち――柏木千鶴と柏木梓はどうしようもない焦燥に唇を強く噛み締める。
彼女たちの守るべきは後ろの丘で無防備に意識を≪ヨーク≫と繋げている妹――柏木初音。
対するはガディムの僕を名乗る螺奸と云う怪人――魔族、そしてラルヴァたち。
どちらか片方なら対処できる。
だが――

「かかって来れねえよな、そりゃ。あのガキを守らないといけない訳だ。だがよ、こうやって突っ立ってても一緒だぜ?」

引き裂かれた口から、堪らないとでも云うように卑猥に漏れ出る哄笑。
そして、螺奸は再び奇声を発した。

「キシャァァァァア!」

その声に反応し、ラルヴァたちが動き始めた。
丘の上――光の柱に包まれて、祈りを捧げるように厳かに佇む少女――柏木初音に向かって。


「梓!」

怪人を睨みつけながら千鶴が左手を振り、叫んだ。

「奴等を止めなさい! 絶対に初音に近づけてはダメ!!」

「で、でも!?」

逡巡する梓に千鶴は怒声を畳み掛ける。

「早く! 手遅れになる前に! この魔族は私一人で――――」


「舐めてもらっちゃ困るなぁ」


千鶴はヒュッと思わず息を飲んだ。
全身の毛穴がそそけ立つ。
ネットリとしたその言葉は千鶴のすぐ耳元で囁かれた。
顔を舐めまわすように腐ったような吐息が吹きかけられる。

動けない。
咄嗟の事に、千鶴の身体は硬直した。

視線は外さなかった。一度も外さなかった。
だが、一瞬だけ逸らした意識は、この怪人の動きを捕らえられなかった。
ベロリ、と三叉に分かれた舌が、名残惜しげに千鶴の頬をねぶった。

動揺に揺れる千鶴の紅瞳と愉悦に震える剥き出しの眼球が、ほんの間近で絡み合う。
次の瞬間、しなるように振り回された螺奸の足に胴体を薙ぎ蹴られた千鶴がくの字になって吹っ飛んだ。

「ち、千鶴姉ぇぇ!! 貴様ぁぁ!!」

その光景に梓の頭が沸騰。
怒声と共にブラブラと両手を前で揺らす怪人に向かって殴りかかる。
だが、岩をも砕き、鋼をも窪ませる少女の一撃は、螺奸のぐにゃりと軟体の様な動きを捕らえられずあっさりと躱された。
そのまま殴った腕を掴まれ、引き寄せられ交差気味に腹腔に入れられる前蹴り。
そして勢いのままに螺奸は梓を蹴り上げ、掴んだ腕を支点にして後方へと蹴り投げた。

「あず…さぁッ!」

蹴られた胸を押え、苦痛に顔を歪めながら立ち上がった千鶴は、慌てて飛んで来た梓を受け止める。
絡み合い、派手に地面を転がる二人。

「あ、いつつつ…? ち、千鶴姉」

「は、早くどいて」

「ご、ごめん」

自分が思いっきり姉を押し潰していた事に気がつき、梓は慌てて立ち上がった。
千鶴も続いてよろよろと膝を付いて身を起こす。

「う…うう〜」

何とも複雑な感情の篭もった唸り声。
実は肉体的ダメージより、自分の顔が妹の胸に挟まれていたという精神的ダメージの方が強かったりする。

また、大きくなりやがったわね、この子。

ギロリ、と紅に染まった眼に睨まれ、衝撃の余韻を晴らそうと頭を振っていた梓がビクリと反射的に震わせた。

「と、そんな事してる場合じゃなかった」

と慌てて視線を螺奸に戻す。
怪人は姉妹二人の醜態に嘲りの笑みを浮かべていた。

「ふふっ、二人掛かりでも勝てるはずないのに、たった一人で相手しようなんざ自惚れが過ぎるぜぇ」

チロチロと赤い舌が覗く。
千鶴は肌を泡立たせ、無意識に舐められた頬を拭った。

「千鶴姉!!」

傍らから梓の切羽詰った声が響く。
見れば、ラルヴァの集団はどんどん初音の方へと近づいていた。

「余所見してる暇はねーぞ、てめえら!」

咄嗟に千鶴は両手の爪を伸ばし、眼前でクロスさせた。
青ざめた光跡を残し、螺奸の肘に生えた鋭利な鰭が振り下ろされ、千鶴の爪とかち合い高らかな響きを放った。
そしてそのまま押し込もうとする螺奸と受け止める千鶴の膠着状態になる。
ガクガクと千鶴の膝が震える。
凄まじい怪力だった。
鬼の力を持つはずの千鶴が徐々に押し込まれている。

「くっ…うぅ」

と、不意に爪と鰭越しに千鶴を舐めまわしていた螺奸の飛び出た目が、左眼だけギョロリと横を見た。
途端、押し込む力が緩む。

「えっ!?」

戸惑う間もなく、視界から螺奸の姿が消失した。
代わりとでも云うように左方から梓の姿が自分の前に飛び込んでくる。
その体勢は横合いから殴りかかるような……
恐らく、完全に動きが停止した螺奸に、好機とばかりに飛び掛ったのだろう。だが、それは敢え無く躱され……

次の瞬間、今度は梓が千鶴の視界から消失した。
今度は見えた。
下方から刈り取るように振り上げられたのは蹴撃。前のめり気味だった梓は、その一撃に顎を蹴り上げられ、凄まじい勢いで宙で一回転して後ろに吹っ飛んだ。

そこまで事態が進んでから、ようやく千鶴は螺奸の姿を見つけた。
いや、向こうから再び千鶴の視界に映り込んできたのだ。

片手を地面に付き、逆立ちした姿。
それを見て千鶴は何が起こったのかようやく理解する。

あの瞬間、螺奸の姿が消えたように見えたのは奴が下に身を躱したため。
そこに梓が飛び込んでくる。
螺奸はそのまま身体を逸らし後ろに手を付いて、海老反りに引き絞り充填したエネルギーを蹴りとして打ち上げたのだ。

なんて…自在な動き、柔らかい体! でもっ!

千鶴は右手の五本の爪を閃かせ、一歩踏み込む。
相手は逆立ちという無防備極まりない状態。
自分の爪が、あの青ざめた肌を切り裂く感触を、千鶴はごく近い未来の現実として実感した。

それは完全なる勝利への確信。

だが、その確信は螺奸の身体が突然ぶれたことであっさりと粉砕された。

いきなり螺奸の身体が回転し、勢い良く振り回された足が風圧とともに横面に飛んで来る。
咄嗟に腕で庇ったものの、飛び込んだ動きが一瞬止まる。
止められたのだ。
次の瞬間、螺奸は逆立ちしたまま両手両膝をギュッとバネを縮めるように折り曲げる。
そして――
襲い来た衝撃に、千鶴の意識が固まった。
その中で、メキッ、というひび割れた音が聞こえる。

砲弾の様に撃ち出された螺奸の両足が千鶴の腹腔にめり込んでいた。

くの字に歪む彼女の肢体。
そして、バットで打たれたゴムボールのように吹っ飛んだ千鶴の後に、螺奸が軟体生物のようにバネを利かせて着地した。
その視線の先では、一度強く地面に打ち付けられたものの、跳ね上がる身体を上手く反転させ、土煙をあげて地面を滑り着地する千鶴の姿。
ギョロリ、と動いた左眼は口端から血を流しながらも、起き上がる梓の姿を捕らえる。

「さすがに頑丈じゃねえか。だがよ、あっちはどうかねえ」

その言葉に、腹を押えながら苦痛の呻きを上げていた千鶴がハッと顔を上げた。
そして轟然と振り返りる。
歪む紅瞳、あがる悲鳴。

「はつねぇぇぇ!! 逃げてぇぇ!!」

その悲痛な叫びは届かない。
意識を≪ヨーク≫と繋げてしまっている初音には届かなかった。

無防備なる獲物を弄ぶ予感と快感に打ち震えるラルヴァたちが迫る。
初音を守るべき姉たちは怪人 螺奸に良い様に打ちのめされもはや駆けつける間は無い。

化け物どもと無垢なる少女を遮るものは何も無かった。


絶体……絶命。


「そしてその絶体絶命の窮地を救うのはこのあたしぃ!!」

響く声は高らかに。

そしてジャジャーン!! とばかりに初音の前に立ち塞がる女が一人。
女は颯爽と外套を翻し、手品のように取り出した二挺の拳銃を今まさに初音を引き裂かんと飛びかかろうとしていたラルヴァの頭蓋めがけてぶっ放した。
脳漿を撒き散らしラルヴァの集団がピタリと歩を止める。
その前で、白い外套に身を包んだショートカットの女は声高に笑った。

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 真打はここぞとばかりに登場よっ! という訳で、サイケデリック・ヒロイン 長岡志保、参上ぉ!!」


「…………」

ラルヴァたちはしばらく無言のままその赤い瞳で両手を腰に当ててポーズを決める志保を眺める。
と、次の瞬間、何事もなかったように一斉に前進を再開した。
志保の笑顔がピシリと硬直。

「って、わっ!? ちょ、ちょっと何よっ! こ、こら待ちなさい! 撃つわよ! 撃つわよって一斉に来るなぁぁ!!」

慌てて両手の短筒を放り捨て、外套の裏に仕込んだ新たな短筒を抜き出し、手近なヤツめがけて銃爪を引いた。
だが、冷静さを欠いた一撃はラルヴァの胸部に当たる。そんなところに小さな弾が当たったところでてんで致命傷にはならない。
多勢に無勢、志保はあっという間に黒い化け物どもに囲まれる。

「た、タンマタンマぁぁ」

「まったく、何をしとるんじゃ、お嬢ちゃん」

いきなり耳元から聞こえた声に、一瞬目の前のラルヴァたちを忘れてうひゃあと志保は飛び上がった。
そのビクンと跳ね上がった彼女の視界が唐突に暗色に覆われる。
それがラルヴァがすぐ目前まで迫ったからだと勘違いしかけ、悲鳴をあげかけた志保の瞳が大きく見開かれた。

それは黒。
地面からいきなり吹き上がった黒い何かが一瞬にして二〇近いラルヴァを飲み込んだのだ。
そして出現した暗黒の塊の中でのラルヴァの末路は、志保にもすぐ理解できた。

  ゴキャメキャメキャメキャブチブチブチッ!!

何か肉の塊が押し潰され、引き千切られミンチになっていく音。
そして、暗黒の塊は地面に吸い込まれるように消え去り、後に残されたのはおびただしい量の血液。

呆然と立ちすくむ志保の真横に、いきなりゾワッと黒の柱が立ち昇る。

「キメるなら、最後までキメんと様にならんぞい」

「カ、カゲロヒの爺ちゃん」

どこからともなく出現したフードを纏った黒い柱…否、影の具現体は、そのフードの奥でクククと含んだ笑い声を漏らす。
そのカゲロヒの横に、銀光が煌めき、一匹の銀狼が姿を現した。
銀狼は上目に志保を見て、白い牙の並ぶ口を開いて見せた。
どうやら笑っているらしい。

「我ら二人、≪ヨーク≫の操者の護事…手伝わせていただこう。よろしいな?」

喜色に緩んだ志保が声を上げて名前を呼ぶ。

「バ、バルトー君も!!」

「き、貴様ら!?」

いきなりと云えばいきなりの展開に、志保の登場から唖然として事態を眺めていた怪人――螺奸が狼狽に塗れた声を上げた。

「し、知ってるぞ!! 魔狼王の四傑死牙――≪一文字(オンリー・ワード)≫の『(イン)』と『(ヤァ)』じゃねえかっ!? なぜこの大盟約界に居るんだよ!!」

カゲロヒとバルトーは顔を見合わせた。

「召喚されたからに決まっておろう。馬鹿か? おぬし……って誰じゃい、ありゃ」

「知らん。どうせガディムが飼ってるとかいう魔族の一匹だろう」

道端の石でも評するような口調に、驚愕と怖れの滲んでいた螺奸の表情が怒りに歪んだ。

「畜生、偉そうに! いくら四傑死牙とはいえ所詮召喚された身じゃねえか! ろくに力も出せねえくせに咆えるんじゃねえ!」

怒声と共に再び螺奸の周囲に召喚法陣が出現する。今度はさきほどのなどお遊びに近い数、一気に四〇〇を越えるラルヴァが溢れ出した。

「てめえら、ヤツラをぶち殺せぇ!!」

最低限の知性しか持たぬ傀儡の魔物…ラルヴァたちは螺奸の言葉に従い初音の元に集う面々に向かって動き始める。
同時に先ほどの集団。残った二〇鬼ほどのラルヴァが獲物を窺うように唸り声を上げた。

「き、来たわよ! だ、大丈夫なんでしょうね、二人とも」

ゾロゾロと近づいてくる黒い魔物たちに圧倒されたように銀狼の後ろに隠れた志保が上ずった声を上げる。

「ふむ、どうじゃ? バルトー」

「よろしくは無いな。腹立たしいが、あの魔族の言葉に間違いは無い。さて、ラルヴァ程度なら今の我らでも何ともなろうが……」

「やれやれ、本来の力が出せんというのは思いのほか気鬱じゃな」

フードの奥の闇に鈍く光る目が少し半眼となり苦笑を象り、

「と云ってもそれほど苦労はしなくて済みそうじゃ」

と独りごちるように続けた。
そして、未だ事態を良く捕らえられず茫然としている千鶴と梓に向かって意外と良く通る声で声をかける。

「エルクゥのお嬢方、ちとそこを離れなされ。仮主殿はどうにも力の加減が分かっておらんようじゃからの」

「「え?」」

何のことかと同時に戸惑いの声をあげた千鶴と梓は見た。
いつの間にか、銀狼たちの後ろに立っていた一人の女性――黒いローブと高帽子をかぶった魔導師の女の姿を。

千鶴と梓の顔が一気に引き攣る。
それは彼女に関する悪評を、先の大戦で身をもって体験していたからだ。

「きぃやぁぁぁぁ!」
「わっわっ、やめろー!」

慌てふためき駆け出す二人。

「な、なんだ?」

事態を認識していない螺奸は必死に自分から遠ざかっていく二人の姿に混乱した。
その瞬間だった。
全身が泡立つような感覚が螺奸を襲う。
膨大な…魔界ですら滅多に感じないような凄まじい量の魔力の波動。
それが完全に自分の方角を指向している事を察知して…

「『絶神光爛(フレイアード)』」

絶句した。
螺奸がカゲロヒたちの背後に立つその女の存在を認識したのは。彼女の口から起動呪が発せられた後。
一瞬にして視界のすべてが光に覆われる。

光…圧倒的な光…

飲み込む…全てを飲み込んでいく。

光は一瞬にして間近に居た二〇鬼ほどのラルヴァを蒸発させ、一気に周囲へと広がり始めた。

「い、いかんわい」

カゲロヒは思わず冷汗を垂らして呻きを漏らした。
彼ら魔狼王一派の仮主こと、来栖川芹香の解き放つ光術はほぼ彼女の視界全面を覆い尽くさん勢いで放たれ様としていた。
それでもって、思いっきり逃げる柏木姉妹二人を飲み込むコースだったりする。

押し寄せる光の波動。
全てを薙ぎ払う滅亡の大波。
それは一瞬にして二〇〇を越えるラルヴァと、立ち竦む螺奸を飲み込んだ。
そして、それは平等に必死こいて逃げる千鶴と梓をも飲み込む。

「きゃーきゃーきゃー」
「うわー、死ぬ死ぬ死ぬーー」

と、その直前走る彼女らの影が盛り上がり二人を飲み込んだ。
すべてを押し流す圧倒的な光。
光波は丘を舐めるように滑っていく。

そして全てを押し流した光の大波は、やがて穏やかな凪となり微かな余韻を残しつつ消失した。


「む、見事に何もなくなったな」

呆れたようなバルトーの声に、唖然茫然としていた志保が人形のようにコクコクと頷く。
狼の言うとおり、光波の通った後には何も残ってはいなかった。
あれほど居たラルヴァたちも、あの怪人然とした魔族も、そして柏木千鶴と梓の姿も……

「って、ちょ、ちょっと待てぇぇぇ! 千鶴さんたちもって、全部消したらダメでしょうがぁぁ! アンタは加減ってもんを知らんのかぁぁ!!」

ハッと今さらのように我に返った志保は真っ青になりぽややんとしている芹香に組み付いた。

「(……まあ、たいへん)」

「まあたいへん…じゃなああああい!!」

泣きながら襟首を掴んでブンブン振り回す志保。ブンブンと抵抗もせず振り回される芹香。何気に楽しそうなのは気のせいだろうか。

志保には長年疑問だった事がある。
恐らくは歴史上でも最強クラスの魔導師であろう来栖川芹香。
何でみんなはその彼女を戦いの場に連れて行こうとしないのだろう…と。

ようやく疑問も晴れた。

「ちょっとは考えて魔術使えぇぇぇ! 危なすぎるのよ、アンタはぁぁぁぁ!!」

敵味方見境無く攻撃された日にゃ、おちおち戦ってなどいられるはずもない。
芹香は頬に手を当てると一言。

「(……ぽっ)」

「何故照れるぅぅ!!」

「や……ってくれるじゃねえかぁっ!!」

唐突に、騒ぎを薙ぎ払うような怒声が響いた。
芹香のマントの襟首を握って首を締めようとしていた志保は慌てて振り返る。
草も、木も、岩も、すべてが消失し平らな地面が広がるそこに、一つの人影だけが立っていた。

螺奸。
上半身を無残に焼け焦げさせた怪人の姿があった。
だが、その酷い有様を覆すように、両の目が爛々と怒りを湛えている。

「味方ごと攻撃してくるとはなあ。お陰で本気で死にかけたじゃねえか!!」

「ふん、咄嗟に地面に穴を空けて攻撃を凌いだのか。しぶといヤツだ」

バルトーが呆れたとも感心したともつかぬ声で呟く。
その声音に隠されたものは一筋の焦り。
今の自分が本来の力を殆ど発揮できないという現状。それは魔界でなら敵とならないはずのこの魔族に抗する事が難しいという事。
その事実が危機を感じ取らせていた。

ヨロリ、とひょろ長い両手を前に垂らしながら螺奸が前に進み出す。
ひしゃげた口元から漏れるのは根底に怒りを宿した笑い声。

「キヒッ…シャヒヒヒヒャシャァァァ…殺してやる…ぶっ殺してやる…皆殺しだ…四傑死牙だろうがオンリーワードだろうが、ここじゃあろくに力も出せない雑魚魔族じゃねえか。まとめて殺してやる! キシャァァァァ!!」

歩が止まった。
途端、俯き気味に怨嗟の言葉を吐いていた螺奸の顔がバネ仕掛けのごとく此方を睨んだ。
垂れ下がっていた肩が跳ね上がる。

「くたばれェェェェェ!!」

裏返った奇声。
その声に呼び寄せられたように、螺奸の目前の空間に無数の針が出現した。
視界を塞いでしまうほどの凄まじい数。
それが一斉に芹香や志保たちに向かって飛んだ。

「ムゥッ!」

押し殺した声とともにカゲロヒのフードが舞い上がる。
深遠の闇のような濃い影が彼らの目前に水壁のように吹き上がった。
すべての針が影に遮られ、何処かへと消え防がれる。

だが

「キシャァァァァァァ!!」

壁となった影を飛び越え、螺奸が襲い掛かってくる。
咄嗟に立ち塞がる銀狼。
怪人の喉笛を食い千切ろうと飛び掛り、背中に一撃を喰らい叩き伏せられる。

「ぐっ!?」

地面に叩きつけられながらバルトーは愕然とした。

くぅッ、想像以上に身体が動かぬ。

魔界にいるときには無意識に発動させている各種の魔術を、今は半減した魔力故に意識的に停止させている。
そのギャップが想像以上に彼らに圧し掛かっていた。

螺奸は地面に着地すると後ろのバルトーを無視して硬直する志保と芹香に弾丸のように跳ね飛んだ。
両手の二の腕に生える刃が閃く。

動く事すら出来ず立ち竦む志保と芹香。
元々ろくに戦闘能力を持たない二人が、千鶴や梓を圧倒した螺奸の一撃を避けれるはずなどなかった。

鋭刃が唸りを上げて大気を刻む。
だが、刃が二人の肢体を切り裂こうとしたそのとき、
背後に輝く光の箱舟に照らされて、前方へと伸びる志保と芹香の影がいきなり膨れ上がり、爆発した。

「――ッ!?」

閃く銀光。
唸る豪腕。

そして螺奸の喉元から噴水のごとく血飛沫が噴出し、横殴りの一撃が彼を弾き飛ばした。
叩きつけられ地に伏せる螺奸の口から大きな血塊が吐き出される。
螺奸の脇腹が見事なほどに陥没している。完全に臓腑を破壊した一撃。
そして喉元から噴き出す血を相まって、地面はどす黒く変色した。

「ガァッ、ギィ…馬鹿なッ きさ…まらぁぁぁ!!」

志保と芹香の前に立ち塞がる二人の人影。
それは顔前で指を鳴らす柏木梓と、ぶら下げた両手の爪から血を滴らせる柏木千鶴の姿。

「うー、ちょっと目が回るわ」
「あんまり長居はしたくないよ、あの真っ暗な中って」

「死んだんじゃ…ねえのかよぉっ!!」

声帯を傷つけられ掠れる声が愕然と震えていた。

「そう簡単に死んでたまるもんですかッ」
「死ぬかと思ったけど」
「いや、実際危なかったぞ、お嬢方」

ちょっと憤慨気味の千鶴と、ゲッソリと呟く梓。そして苦笑気味に云うカゲロヒ。
二人が半眼になって芹香を振り返ると、彼女は(どうかしました?)といわんばかりに小首を傾げた。

「……あんた、全然反省してないわね」

がっくりと今にも膝を付きそうにしている千鶴たちを憐れみの眼差しで眺めて、志保は疲れたように云った。


「ぐ…ぅぅ」

螺奸は未だ噴き出し続ける喉を押えながら、その飛び出した両目を巡らせた。
立ち上がり、こちらを睨む銀狼。
その横でフラフラとフードをはためかせる影人。
そしてエルクゥの女が二人と人間の魔導師……

「グウウウウウウ!」

煮えたぎる溶岩のような唸り声。
殺せない。
これでは殺せない。
殺し尽くせない。
皆殺しにする前に、殺されてしまう。
嫌だ、殺せないのは嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

ギョロリと、螺奸の狂眼が一点に定まった。
エルクゥどもの、頭のおかしい魔導師の、うるさい小娘の背後。
眼差しを閉じ、神々しいばかりに佇む幼い少女の姿を捉えた。


「グウウッウウッ…ウッ…ククッ…ククッ…クヒッハハッシャヒャハハハシャハハシャシャシャシャァァァ!!」

狂ったような笑い声に、全員がギョッと螺奸を見た。
血走った眼球が蠢く。
大きく引き裂かれた口からは、血泡と赤い涎がだらだらと零れ落ちている。
笑いながら、
螺奸はゆっくりと歩き始めた。

「シャァァァァァァ、ぶっ殺してやるッ!」

その瞬間、螺奸の姿が掻き消えた。
凄まじい迅さ。
地を舐めるように重心を低くしながら螺奸は初音めがけて疾走した。
誰もが一瞬、その姿を見失った。
あの状態で、ろくに動けるとは思っていなかったのだ。
それも…今まで速度を殺していたとでも云うような疾風の迅さ。

追いつけない。
銀狼が駆ける。だが、後方にいた彼では追いつけない。

間に合わない。
慌てて初音に駆け寄ろうとする千鶴と梓。
だが、決定的に間に合わない。

撃てない。
短筒を構える志保。だが動きが速すぎて照準が合わない。


草笛のような音が流れた。
芹香の呪…圧縮言語による高速詠唱。
一瞬にして術が起ちあがり、出現した光矢の雨が降り注ぐ。

だが止まらない。
立ち込める土煙を突き破り、螺奸は止まる事無く疾走した。
光矢に削り取られた左腕の切断面から血が迸っている。

螺奸の進路上に影の錐が立ち塞がるように噴き上がった。
一閃。
螺奸は残った右腕の刃を一薙ぎ。それだけで影錐たちは粉々に粉砕される。


すべてが退けられた。
もはや遮るものはない。
狂人だけが浮かべられるおぞましい笑みが、螺奸の醜顔に浮かんだ。

その顔が……
キョトンと呆けた。

トスッ、という軽い音。
それは螺奸の背中に緋色の柄の小太刀が突き立てられた音。

糸が切れた人形のようにつんのめった螺奸の頭上で、先ほど粉砕された影の欠片が瞬く間に集束し球体を成す。
その影の球の中から、フワリと螺奸の前に降り立つのは、白き装束を纏いし一人の少女。

少女は静かに告げる。

「ここより前に進み入る事…柏木初音を脅かすことは、柏木楓の名に置いて許しません。速やかに逝きなさい」

掻き消える少女の姿。
その出現はあまりにも唐突であり、想定の外で会ったが故に、
そして彼自身が重度の損傷を負っていたが故に、その閃光の機動を回避する事は不可能だった。
眉間から脳髄に突き通る竜骨刃『緋樂』。
同時に背後から追った梓が体当たりをかけるように背中に突き立てた緋刀『緋柳』を押し込んだ。
最後に、艶やかな黒髪をなびかせながら滑り込んだ長姉が、爪を閃かす。
肋骨を通すように螺奸の胸郭を抉る千鶴の鬼爪。
その全てが致命傷。

梓が『緋柳』を左に裂き抜く。
楓が『緋樂』をゆっくりと引き抜く。
そして最後に、千鶴が血糸を虚空に彩りながら、身を翻した。

断末魔の言葉も無く崩れ落ちていく螺奸を背に、千鶴は静かに告げた。

「私たちの妹を害しようとした報いです。無明の冥府へ墜ちなさい」

火が灯る。
青白く燃えさかる炎が倒れる魔族を包み込む。
どこからともなく燃え出した白炎が、螺奸の骸をゆっくりと焼き滅ぼしていった。




「は…ぁ」

不意に苦しげな吐息をつくとともに、フラリと楓の膝が崩れ落ちた。

「か、楓?」

いきなりの妹の様子に動揺も露わに駆け寄る姉二人に、楓は苦しげながらも首を振って制した。

「大丈夫…です。少し疲れただけですから」

千鶴は妹の傍らに屈み込むと、労るように彼女の肩を抱いた。
それはとても小さな肩。
彼女はこの小さな体躯で、今まで戦場を休む間もなく駆けていたのだ。
それがどれだけ体力を消耗するか、千鶴には良く分かっている。

「まったくそんなになるまで…いったいどれだけ狩ったんだい?」

どうやら深刻な状態では無いらしいと悟り、梓が安堵混じりに口ずさむ。

「三百ほどまでは数えましたけど…」

後は面倒になったんで数えてません、と疲労の影の濃い面差しに苦笑を浮かべながら楓は答えた。

「千と四百ばかりじゃな」

割り込むように掛けられた声に柏木の姉妹が振り返る。
声の主が深くフードを被った者、並ぶように銀色の狼が近寄ってくる。

「助けて…いただいたのですよね。…あなた方は? 魔族のようですけど」

あくまで警戒を解いていない千鶴に、声が笑いを含む。

「儂はカゲロヒ。こっちはバルトーじゃ。そこの芹香嬢に召喚されたヴォルフ・デラ・フェンリルという魔族に従うモノ」

バルトー君殴られたとこ大丈夫? と志保が銀狼の背中を撫でている。どうやらその毛並みの手触りがお気に入りらしい。バルトーも特に嫌がるでもなくされるがままにされている。

「味方…なんですか?」

芹香が小さくコクリと頷く。それを見てようやく千鶴が大きく息を吐いた。

「そういえばさっきの数は?」

梓が訊ねる。さきほどのカゲロヒの言葉のことだ。

「そこの小さなお嬢さんが倒したラルヴァの数じゃよ」

「なんで分かるのさ」

「四方数キロ…この戦場の影は今、すべて儂に繋がっておる。だからまあこの戦場で起こっとる事は大体把握しとるのよ。そのお嬢さんに急遽来てもらったのもそのお陰じゃ」

ふえええ、と感心したように梓が声を上げた。
それよりも…、とカゲロヒが声音を変えてフードの開いた部分を芹香の方に向けた。
影の中に鈍く光る目が芹香の瞳を捉える。

「どうやらアチラの方がもう限界のようじゃぞ」

皆が振り返った。
見ゆる先は、銃声と咆哮渦巻く戦場。

「そん…な」

志保の声が震えた。
芹香と楓を除く二人の顔も青ざめる。


帝国軍が、今まさにラルヴァの大波に飲み込まれ様としていた。


「限界だな。ラルヴァの数が多すぎる。これまで支える事が出来たことを誉めるべきだ」

バルトーが容赦の無い厳粛な声音で現実を告げた。
楓が強く唇を噛み締める。
前線に近いところにいた彼女には、既に兆候は肌で感じていた。
覚悟に近い心構えを自然と用意していた彼女だったが、こうやって事態を俯瞰してみれば平静ではいられない。
前線が決壊すれば、あの10万を超えるラルヴァすべてがここに押し寄せてくるのだ。
そうなれば…すべてがお終いだ。
自分たちの命も、妹の命も…そして大陸の命運も…

バルトーとカゲロヒがじっと芹香を見つめた。
どうするのだ? と問いかけるように。


芹香はただコクリと頷くと、眼下を埋め尽くそうとしている漆黒のうねりをゆっくりと見つめた。







    続く




  あとがき

八岐「いきなりだけど、本編の補足説明をしておきます」

あゆ「あれ? 何か分からないところあった?」

八岐「いや、この世界の設定を覚えてたら問題ないんだけどね」

あゆ「世界の設定?」

八岐「そう。魔界と大盟約世界の間を、魔族は本来の力を維持したまま移動できないという話。魔界でも有数の力を持つ魔族であるカゲロヒやバルトーが螺奸相手に苦戦したのはこの所為という訳だ」

あゆ「そっか、ガディムやその部下の魔族って、魔界と世界の間を直接繋げる穴を開けて、本来の力を維持したまま大盟約世界に来てるんだったっけ」

八岐「そう。だからガディムの部下たちは強いやつらばかりという訳」

あゆ「でも、しんたいのーりょくも落ちちゃうの」

八岐「身体能力ね、意味わかってる?」

あゆ「うぐぅ」

八岐「まあいいや。身体能力自体は落ちないよ。ただ、魔族っていうのは普通に存在してるだけで色々な魔術を殆んど無意識に自分に掛けてるんだ。それがこの世界に来ると魔力自体が半分以下になっちゃうんで、そういう魔術も解除しなくてはいけない。だから、いざ戦闘となると本来の自分とのギャップに悩まされる。自分の身体を上手く使えない状態になるわけだ。これは慣れるまでにけっこう掛かる。他人の身体みたいに感じるからね」

あゆ「それ、バルトー君の話?」

八岐「そういう事。彼は本来、魔術よりも肉弾戦闘派なんだけど、今回は不覚を取ったという話」

あゆ「ふーん」

八岐「さて、次回だ」

あゆ「うん、じゃあ予告行くよ……溢れ出るラルヴァの大群に戦線は崩れようとしていた。希望である幻獣も箱舟も、未だ破滅の卵を破壊することはできない。絶望の中に映え盛る赤い空…そして戦闘は新たなる段階へと移行する……うぐぅ、自分で何言ってるか分かんないよ」

八岐「棒読みだな」

あゆ「うぐぅ」

八岐「という訳で、次回第67話『トワイライト・タイム』 よろしくお願いします」

あゆ「またね」





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