魔法戦国群星伝





< 第六十一話 ラスト・プレリュード >






御音共和国



空気を伝播する割れんばかりの轟声に打ち震える木々。
辺りに衝撃を撒き散らしながら放たれるそれは、灼熱の銃弾。

暗褐色の軽鎧を纏った兵士たちが繰り早に銃弾を放ち続けている。

「撃てっ!!」

命令が下されると同時に、数十の銃口から放たれた弾丸は、咆声を上げながら突進してくるラルヴァ四鬼をボロクズに変え、沈黙させた。


「撃ち方やめ!」

その四鬼を最後にラルヴァの気配が完全になくなったのを確認し、斉藤啓は攻撃停止を命じる。

「よし、一旦退くぞ」

言いながら、斉藤はざっと配下の兵士たちを見渡した。
今のところは損害はないに等しい。
だが、彼にはそれがまさに今のところに過ぎない事は痛いほどに解かっていた。

果たしてどれだけが生き残れるのか…

斉藤は束の間、憂鬱そうに眉を寄せると、後退する兵士たちの後に続いた。

 

 

 

 

 

 

盟約歴1096年晩冬。

三華連合参謀本部『大本営』は、『灰燼の卵』完全破壊&魔王討伐作戦【三華(ドライエック・ブルーメ)】の実行のために三華三国の兵力を根こそぎ招集した。その数は二十万を大きく越えると云われている。
だが、先の作戦【輝く季節(ストラーレン・ヤーレスツァイト)】にて殲滅されたはずのラルヴァは、新たな集団が魔界より再召喚され徐々にその勢力範囲を広げていた。

『大本営』はここで非情な決断を下した。
大陸消滅の危機のタイムリミットが迫った今、【三華(ドライエック・ブルーメ)】を優先し、この大陸各所に再出現したラルヴァたちを無視する事を決定したのだ。

事実上、ラルヴァ出現地域近郊の住民の安全確保を放棄したと取られても仕方の無い決定であった。

大のために小を諦める。

戦争を指導する階層にとっては、これ以上無い最悪の選択であり、同時に絶対に妥協してはいけない必要不可欠な決断でもあった。

……まさに苦渋の選択である。

とはいえ、完全にこれを放棄することは、戦後の住民感情に禍根を残すはめになりかねない。
それゆえに『大本営』は供出できる限界の戦力を対ラルヴァ集団に投入した。

彼…カノン皇国伯爵 斉藤啓率いる三〇〇〇。
そして帝国より矢島忠広の機動騎士団八〇〇〇と、御音より南明義の五〇〇〇である。

西北部に六万、東南部に五万のラルヴァが確認されている中、僅か一万六〇〇〇。いや、それぞれ東西に軍勢を分けるために各々八〇〇〇の兵力しかない中で倍を遥かに超えるラルヴァの相手をしなくてはならない。
戦力差は明白だった。

だが、それ故に彼らは選ばれたとも云える。
矢島は機動騎士団の名の通り、機動戦の雄。機動防御戦術にも長けている。斎藤・南は両将ともに自国では曲者として名が通っている。
三人とも、その能力故にこの任務を任されたのだった。

彼らに下された命は、領域を拡大するラルヴァから逃げる住民たちの避難補助。
つまりは住民たちが安全地域に逃げるまでの時間稼ぎである。



「よう、伯爵閣下、ごくろうさん」

戦闘を終え、後方へと下がった斉藤を待っていたのは御音の軍勢と妙に軽い男が一人。

「突出してたラルヴァたちは片付けた。でも、直に大量に押し寄せてくるな。ここ一帯の避難はどうなった、南?」

楽天系こと南明義はその飄々とした表情を崩すことなく肩を竦めて見せた。

「さっき雛山の良太くんから連絡があったとこ。まあ、小一時間程度ここを保持したら大丈夫でしょう。つっても、それ以上戦ってたらラルヴァ集団全部が呼び集められちゃうから、最初からそのぐらいが限度だけどねぃ」

なはは、と意味無く笑う南。
斉藤は、この今回ともに戦列を連ねる事になった御音の将を内心呆れともつかない困惑を浮かべながら眺めた。

これで、あの深山・川名の両天才軍師の懐刀だって云うんだからな…人は見かけによらないというか…

と、唐突に『あははー』という実に朗らかな笑い声と共に血みどろの戦場で駆け回る自分の国の宰相の顔を思い出してしまい、斉藤はなんとも云えない表情を浮かべた。

「……もしかしたらよくいる人種なのかもしらんな」

「んー? なんかアホな事考えてない? 斎藤君」

「いえ、これっぽっちも」

「そお?」

真顔で断言され、ジト目で訝しみながらも南は追求を止める。
御音の兵士が慌てて飛び込んできたのは、ちょうどその時だった。
その勢いに皆が振り返り、注視する中で、転がるように駆け込んで来た兵士は上ずった声を張り上げる。

「来ました、ラルヴァです!」

ピクリ、と南の右眉が跳ね上がった。

「うーん、報告は詳しくね、君」

ニコリと南は笑って云う。
その笑みという表情の中に浮かぶ瞳に極寒の何かを察した彼は、一気に浮かされた熱が冷め、息を詰めながらも報告する。

「せ、西方5キロの森林にラルヴァの集団を確認。現時点で既に千鬼を超えている模様。なお集結しつつ此方へと進軍中です」

「うんうん、よく解かりました。それで良いのよ」

さて、と伸びをしながら立ち上がった南は、

「よし、斎藤君、部隊配置は終了してるね? なら遅滞戦闘はじめましょーか」

朗らかな笑みを絶やさずこちらを振り返って云う南に、斎藤は迫る戦闘への恐怖とも高揚ともつかない微かな戦慄を感じながら、南のノリに侵されたようなおどけた口調で答えた。

「了解です、南将軍殿」

 

 

 

 

 

 

それから小一時間に繰り広げられた戦闘は、斉藤・南両将の実力を、これ以上なく反映したものだった。
先行してきた敵ラルヴァグループは約一万。
それを南と斉藤は小刻みに部隊配置を移動しつつ、戦闘を繰り返し少しずつ数を削り取っていった。
そして、優位に立ったと見るや、南は自軍を囮に斉藤軍を迂回させ、側面から強襲を食らわせ一気に敵勢を蹴散らしたのだ。
それは急造の合同軍とは思えないほどの見事なコンビネーションだった。

一万のラルヴァは完全に撃滅され、残余も後方に逃亡。
予定の時間を稼いだ南たちは悠々と後退の途につく。


事態が唐突に転換したのは、その後退の途中だった。






「で、貴方ですか? 我々に立ち入った話があるというのは」

街道沿いに残されていたあばら屋に急遽、場を設けた斉藤と南は一人のしわがれた老人と相対していた。
即席に容易させた椅子に腰掛けることなく、斉藤はこの見るからに怪しい老人を不信を隠そうとせず無遠慮に見下ろしていた。

「既にここらへんの住民の避難は済んだって聞いてたんだけどなあ。ご老体、なんであんたこんな所にいるわけ?」

目の前の老人に顔すら向けず、天井から降って来る埃を髪の毛から払う作業に没頭していた南は、その手を止める事無く訊ねた。

「住民の避難…とな。人間の住民の避難は…の話じゃろう」

その言葉に斉藤が目をむき、南も作業を止めて老人に目を向けた。

「ほう…なるほど、ご老人。あんた妖族か」

一瞬、老人の全身を舐めるように観察した南は、そう云うとウンウンと頷きながら老人の微かに青みがかった瞳を透し見る。

「さすがに俺らも妖族の住む隠れ里まで把握してる訳じゃないからねぃ。で、その妖族のご老体が何の用?」

「我々、河路の一族の避難を助けてもらいたい」

くぐもったその声は切羽詰ったものであり、またその眼差しも同様だった。

「ち、ちょっと待ってくださいよ」

一言云っただけで黙り込んだ老人と答えず黙して老人を見つめるだけの南との間に、一瞬茫然としていた斉藤が割り込んだ。

「あなた方の住む隠れ里というモノは確かこの世界の異相空間上にある一種の異世界でしょう? 入り口さえ一時的にでも閉じてしまえばラルヴァの侵攻なんて関係ないんじゃないんですか?」

困惑に満ちた斉藤の言葉は老人の悲痛な眼差しを消す事はできなかった。

「儂らもついさっきまでそう思っとった。我らの里の西に里を構えていた別の妖族の隠れ里が全滅するまではな」

「なっ!?」

「先程命からがら逃げ延びてきたんじゃよ、その里の生き残りがな。所詮異相空間とはいっても隠れ里はさほど強力な術によって形成されているわけではない、この世界とは紙一重の場所にあるものじゃ。ラルヴァ…上位種の輩に見つかって入り口をこじ開けられたらしい」

その老人の面差しに浮かぶのは恐怖だ。それが恐慌でないことを称賛すべきかもしれない。
安全と思っていた自分たちの居場所が、実際は砂上の楼閣である事を唐突に目の当たりにさせられたのだ。今、ここに表面上とはいえ冷静を保ちながらいる事は、大したものだった。仮にも、その妖族を束ねることだけある。

だが、次の南の一言は辛辣だった。

「ふん、もーちょっと早く知らせてくれれば良かったのにな……どうせ、逃げるか逃げないかで揉めてたんでしょ?」

パタパタと襟元を仰いで、服についた埃を叩き始めた南が云う。老人は痛みすら滲ませた苦渋を浮かべながら頷いた。

「申し訳ない。我ら河路の一族、小さい里なれどあえて居残ると頑迷な者も多くて…それに人に頼るのも……」

遮る様に南はパタパタと手首を振って「ま、そりゃ良いさ。終った事だし」と云う。
だが、老人が一瞬栓を抜かれたように息を吐いた、そこを見計らうように南が横を向いて窓の外を眺めながら言葉を重ねた。

「で、ご老体、アンタのその申し出……それがさあ、どういう意味か解かってる?」

声音は何でもなかった。それまでと変わらぬ飄々とした物言い。
だが、老人は思わず絶句し、斉藤も冷汗を垂らしながら息を飲む。

「…そ、それは…」

「…その意味をわかってるかい?」

南はゆっくりと繰り返し、顔を老人の方に向けた。
じっと、老人の瞳を見つめる眼差し……それは見るものが石化しかねない程の凍てついた刺視だった。

妖族の老人にはその意味が痛いほどわかっていた。
故に、その視線から逃れることは出来ない。わかっていながら懇願に来たのだから。
老人は元より青白い容貌をさらに青ざめさせながらも、じっと南の視線を受け止めていた。

唐突に、その眼差しがトロンと普段の惚けたものに戻る。
呼吸することも忘れていた老人が大きく息を吐く。
それをぼやりと見ながら、南は欠伸でもしそうな表情で云った。

「3時間だ。俺らが作れる時間はな。それ以上は無理だね。わかったらご老体、さっさと一族連れて逃げな。とりあえず東に逃げたら俺らの仲間が保護してくれる」

「み、南!」

声を上ずらせる斉藤を一瞥で黙らせ、南は続けた。

「さ、急げよ、あんまり時間はないからな」

「す、すまぬ」

老人が紛れも無い感謝を込めて深々と礼するのを南は苦笑を浮かべることで受け止める。
それを見て、斉藤も呆れたというか、諦めたように首筋を撫でた。






「悪いね、斎藤君、勝手に決めちゃってさ」

妖族の老人が足早に去った後、何気なく沈黙したままだった空気を終らせるように、南がすまなそうに斉藤に謝った。

「仕方ないさ」

首筋を撫でる仕草を止めることなく、斉藤は苦笑気味に漏らした。
どうにも首元が涼しくて仕方が無い。

「しかし、どうする? 今ここに迫ってるのはラルヴァ集団本隊だ」

「そらな、わかってるよ。ったく、このまま逃げを打ってりゃその内連中もばらけて拡散するのにねぃ。お陰で集団全部とやり合う羽目だわ」

「五万強ものラルヴァと正面衝突か…こりゃ死んだなあ。前に柳川勢と戦った時も死にかけたけど、今回もこりゃ…」

続ける言葉も見つからず天を仰ぐ斉藤に、南も後を引き継ぐように諧謔に満ちた言葉を連ねる。

「俺も色々切羽詰った事ばっかやらされたけど、こりゃ極め付きだわさ」

妙に楽しそうに云って、面倒そうに立ち上がると、ふらふらと芯の通っていなさそうな足取りで小屋を出て行く南。
その背を見ながら、斉藤は彼の様子に心底呆れた。同時に何となく納得する。

彼――南明義が深山・川名の懐刀と言われる訳を。

その任務がどれだけ無茶な代物だろうと、平然と笑ってこなす事ができる巧将。

時に重厚な鎧に包まれた敵の急所にねじ込まれるナイフ。
時に自軍の心臓を守るために仕込まれた袂の懐剣。
時に破錠した状況を立て直すためにつぎ込まれる最後の堤防。

それこそが、瀬戸際の魔術師と呼ばれる彼の真価だ。

だが、と彼は思い巡らす。

「今回ばかりは見通し立たないなあ」

溜息は達観に似ていた。

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

轟音・轟音・ただひたすらに鳴り続ける轟音。
銃声は止まるのを恐れるかのように、間断なく響きつづけた。
いや、それこそ銃声が途絶えたその時は、最後そのものなのだ。

バラ撒かれる銃弾の数はまさに豪雨。
だが、その銃雨に行く先を留められつつも、ラルヴァたちの数は一向に減る様子を見せなかった。

さすがの南も冷汗を垂らさざるを得ない状況。

「うわっ、やべーじゃん」

「やべーじゃん、じゃありませんっ!!」

側近の一人…南とさほど年齢の変わらぬ笹井という名の幕僚が、この後に及んでまだ軽い自分たちの大将に半ば泣きながら怒鳴りつける。

「わ、わかってるよ〜。別に怒らなくてもいいのに」

唇を尖らせてゴニョゴニョと文句を呟く。その南に新たなる凶報が届けられた。

「報告! 敵ラルヴァグループに増援あり。さらに一万が後続してます!」

一斉に、幕僚たちが息を飲んだ。
現在、この場で支えている敵ラルヴァの兵力は既に二万を超えている。そこにさらに一万が加わるとなれば……

今度こそ、南の瞳の中から余裕の色が消えた。
フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らす音が響く。
だが、何故か唇の歪みは笑みにも見えた。

こりゃ、先輩方に怒られるなあ。後のこと考えりゃ、あの妖族たちを見捨てる方が良かったんだろうけど……
うんにゃ、やっぱり怒られるのは理不尽だな。どうせ、雪さんたちも同じ判断しちまうだろうし…。

「あー、でも死んだら怒られるよなあ、やっぱり」

「南ぃ!!」

南の呟きが、轟音にかき消されたその時、そこに馬蹄の音とともに怒鳴り声が近づいてくる。

「斉藤君」

振り返った先には、馬に跨り駆け込んできた斉藤の姿。

「ここの指揮権はあんたにある! 時間が無い! さっさと俺に命令しろ、南!」

とても命令を受ける立場の人間には思えないその言葉。
だがそれこそ最後の決断を促す言葉だった。

その言葉を聞き、思わず自分たちの大将の顔を振り返った幕僚たちは凍りついた。
そこには既に笑みはない。
誰もが見たことの無い凄まじい凶貌だった。

「チィ」

吐き捨てるように舌打ちすると、南は睨みつけるように斉藤を見ると声も震わさず、淡々とその命令を下す。

「斉藤勢は敵中枢に浸透攻撃を開始しろ。目標は敵指揮個体グレーターラルヴァ。指揮個体を倒す事でラルヴァ集団の統率を乱す」

「了解した、行ってくる」

「ああ」

斉藤はすっきりとしたとでもいいたげに笑うと、自分の部隊めがけて馬脚を返した。
準備は既に済んでいるのだろう。恐らくはすぐにもで動き出すはずだ。

「む、無茶です、一体なにを…」

茫然と、言葉をひねり出す垂れ目気味の幕僚―笹井を振り返り、南は言った。

「彼の十八番は埋伏だ。『霞』の異名は知ってるだろ。無論現状では敵が固まり過ぎてるからこちらで支援しなくちゃならない」

「しかし!」

それでも言い募ろうとする笹井を制して言う。

「解かってる、解かってるよ。でもね、納得するんだ。彼の役割は時間稼ぎだ、そして我々もだよ」

むしろ、優しげに諭すような声で幕僚を黙らせた南は、全軍に命を発した。

「後退開始! 後方に設置してある陣地まで駆けろ! そして忘れるな!」

南は大きく息を吸うと、静かな、だが銃声と叫喚の渦巻く戦場を圧するがごとき悪魔のような声で告げた。

「そこが最後だ。それ以上の後退は無い。その後ろには逃げ遅れた住民がいる。故に後退は無い。そこで死ね! 以上だ」

 

 

 

 

 

 

壮絶にして苛烈。

まさに死闘。

その激闘は、後に保科智子の『篠街道撤退戦』に並び称されるほどの激戦となった。

 

 

 

 

 

 

南明義は後方に用意してあった陣地まで、敵を誘引しつつ後退。
その後退戦は巧み以外の何物でもなく、自然と敵ラルヴァ集団は追撃に没頭し、ラルヴァたちの集団形態は細長くなっていった。

南は銃兵を密集させ、来襲するラルヴァを片っ端から打ち倒していく。
敵の集団が追撃のために長大化し、各個撃破の形となったのだ。

加えて、潜伏していた斎藤勢が追撃により厚みを無くした敵本体を急襲。後続が一時途切れ、先行したラルヴァたちが孤立したことも幸いした。
だが、その戦力差はいかんともしがたい。
銃撃の集中も、五〇〇〇の兵力ではその威力に限界がある。
敵ラルヴァの突進は、徐々にその弾幕を突破しつつあった。


そして、崩壊の時は訪れる。


突如、爆炎が左翼の陣、その奥に吹き上がる。
兵士が数名、それに飲まれるのが見えた。

「魔術防壁が…破られた」

茫然と、誰かが漏らすのを南は聞く。
さらに二度、続けて爆発が南勢の陣地内で起こった。
もはや否定は出来ないだろう。魔術防壁を展開していた魔導士たちが疲弊し尽くしたか、敵の爪にかかったのだ。
それは同時に、敵の魔術を防ぐ術を失った事…即ち銃列を維持する事が不可能になったという事だった。
魔術を防げない状態で、味方が寄り固まっている状態は集団自殺と同意である。

「頃合だ、どうせもう銃弾の予備もない。銃身も持たんでしょ」

幕僚たち全員が悲愴な表情を浮かべて南の顔を窺った。
南は云った。

「総員、槍持て……小隊乱撃戦闘だ」


その瞬間だった。

彼の目前で紅蓮の炎が破裂したのは……


「……っ!?」

凄まじい熱量と爆風に、半ば吹き飛ばされかけ、南は大地へと身を伏せる。

「なにが…」

熱風を顔の前に翳した両腕で防ぎながら、南は周りを伺い、思わず罵り声を張りあげた。

南勢の本陣にいた者たちの5分の1近くが今の爆発で消し飛ぶか、死体となっていた。

「南さん! 危ない、上!!」

誰かの声が聞こえ、身を起こしかけていた南は思わず空を仰ぐ。

「畜生」

数鬼だけだが、ラルヴァの黒い巨体が上空にあった。
連中に指揮系統を狙うという思考は上位種レベルでないかぎり存在しない。
単純に本陣を攻撃したのは偶然だろう。それだけに不幸だった。

ドン、と大地が揺れる。
目前に黒が降って来た。
紅の瞳が此方を見た、と思った瞬間、身体が反応した。
身を捩る。
何かが潰れる音。
視界を赤い飛沫が覆った。

そして、無様に地面を転がる。

痛みは…ない。

感じない。

それが、恐怖を巻き起こす。

だが、恐怖を受け止める暇もなく、ラルヴァは二撃目を放った。
無造作に倒れる自分を蹴り飛ばす。

悲鳴を出す暇もなく、身を震わす暇もなく、視界が一瞬にしてブレる。


全身がひしゃげたと思った。

刹那、気絶していたのだろう。
南は全身を地面に叩きつけられた事で、途切れた意識を引き戻す。

「…が…はっ」

咽る。同時に体内から何かがこみ上げてきた。
咳とともに吐き出したそれは、土にばら撒かれる。

…血? 身体の中をやっちまった…か。

幸い、吐いた血はさほど多くない。すぐに死ぬことはないと思うことにして、南は身を起こそうとしてバランスを崩した。
身体を支えようとした左手の感覚がない。
南は自分の左手を一瞥し…意識が歪むのを感じた。

真っ赤に染まった左手は、もはやどう好意的に見ても手と呼べるような形状をしてはなかった。

自分の左手が原型を留めない肉の塊になっているのを見ては流石に平静でもいられない。
だが、南は強制的にそれを意識の外に追いやり、前方を睨みつける。

自分をボールのように蹴り飛ばしたラルヴァが止めを刺そうとゆっくりと近づいてくる。

「……痛え」

自分の惨状を認識してしまったためか、急激に激痛が左手を中心に身体を駆け巡り始めた。
傍らに落ちていた誰かの槍を杖にして、よろよろと立ち上がりながら云ったその言葉を、ラルヴァが理解できたか解からない。だが、そのラルヴァは嗜虐に満ちた笑みを浮かべる。

不快感。

その笑いは頭にきた。

南は杖代わりの槍を右手に握り変えると、無造作にそれを投擲。

もはやボロボロの南を敵ではなく死にかけの獲物と認識していたラルヴァには、その突然の攻撃は避けられるはずも無く…
槍は不快な笑みの真ん中に突き刺さり、笑顔は潰れた肉になった。

「へっ…へへへ…いい様だねぃ、ケホッ」

自然と漏れる笑いと血を止めようともせず、南は灰と化していくラルヴァを一瞥し、引き摺るような足取りで前に出た。
眼前に広がる自軍とラルヴァたちの戦場を睥睨する。
もはや、南勢はラルヴァの波に飲まれようとしている。
南はむしろ冷ややかに、その絶望的な光景を見つめた。

「…雪さん、ごめん。ちょっと帰るの無理っぽい」

「南さんっ!!」

生き残った幕僚の一人、笹井の悲鳴のような声が響いた。 さっきの声も彼だったのだろう。
そんな事を考えながら南は特に慌てるでもなく振り返る。
ほんの数メートル先。新たなラルヴァが火球を今、解き放とうとしている姿が眼に映った。

手にはもう、武器もない。
身体はもう、動かない。

南は、もう浮かべるべき表情も思いつかず、死が訪れを見つめていた。



ガッ――――――――ィィィン


だが唐突に死は……

眼前のラルヴァは消え去った。

否、消し飛ばされた。


降り注ぐは一条の鎚。
その色は金色。取り巻く火花。
衝撃は大気を震わせ、大地を揺らがせる。

天より落ちた雷は、ラルヴァを消し炭さえ残さず、瞬時にして蒸発させた。



同時に、ラルヴァに埋め尽くされようとしていた戦場にも、稲妻は舐めるように縦横に降り注ぐ。
鎖の様に爆煙が連なり、稲妻の進路上にいたラルヴァたちが吹き飛ばされていく。

その凄まじいまでの雷の雨に、ラルヴァの大軍に動揺が走った。

「なに…が」

唖然とする南。その前にふわりと黄金色の何かが空から降りてきた。

それは黄金の獣。
紫電を撒き散らす鬣を持った高貴なる姿。

獣はその面長の顔を南に向けて云った。

「御音軍将 南殿とお見受けいたす」

「あ、ああ、そうだけど…アンタは」

「申し遅れた。我は稲辺山に居を構える嵯峨未と申す者、どうぞ、お見知り置きを」

思わず南は言葉を失う。
明滅する意識の中でも、その名はよく認識できた。

「嵯峨未って、あの閃雷(ヒノカグヅチ)の嵯峨未? 三大妖の雷獣の?」

「如何にも」

「あ…いやあ、お噂は兼ねがね―――」

南が恐縮するのも無理はない。
閃雷(ヒノカグヅチ)の嵯峨未。
それは――凶ッ風(マガツカゼ)の霧生という烏天狗、識神(シキジン)の字を持つ(ヌエ)の戸張らとともに大陸の三大妖と伝え知られる大妖怪だ。
稀にしか姿を現さぬとはいえ、同じ地に住まうだけ魔界の魔王などより身近で、同時に畏怖を覚える存在である。

「あ、いやしかしなんでまた――」

助けてくれたのかを聞こうとした南を遮り、嵯峨未は云った。

「此度の事態、我ら妖族も他人事ではござらぬ。我らも此度の戦に手を貸すよう、大姉さまから下知を受けもうした」

「大姉さまって…玉藻御前?」

「左様、加えて、貴公らのこの苦境は……」

嵯峨未は一瞬口篭もると、これ以上無いほどの敬意を込めて告げる。

「妖族を庇っての事。人ではない者たちのために自らの危険も顧みぬその行為、彼らに代わって感謝を」

南は思わず苦笑した。

「いや、単に仕事っす。別に妖族だとか、そんなのは関係ないっすよ」

嵯峨未は無言で深々と頭を垂れると、続けた。

「それでも…否、それ故に我らは貴公らに敬意と感謝を…。今より我ら妖群、貴公らに助太刀いたす」

雷獣がそう云った途端

ざわり、と

森がざわめいた。


日差し届かぬ森の奥から、湧き上がるように異形の者たちが姿を現し出す。
空から、黒煙と見間違うばかりの数の妖怪たちが降り立ってくる。


大陸に住まう人とは違う異種族。
妖族たちが初めて、その大軍を現世に出でせしめた瞬間だった。


雷が、火魂が、樹木の矢が混乱するラルヴァたちを薙ぎ倒していく。
割れる大地が、滲み出る腐食の闇が、全てを喰らい尽くす巨大な口が、ラルヴァたちを飲み込んでいく。


異形と悪魔の戦いが繰り広げはじめていた。


「こりゃ…すげえな…ははっ」

その光景に思わず笑いを漏らした南は、肝心な事を思い出し、まだ傍らに居た嵯峨未に告げる。

「ちょっと、悪いんすけど友軍が敵の本陣に強襲を掛けてるんだ。助けてくれるとありがたいんだけど…」

「この大軍相手にでござるか…。む、そのような勇猛の士、この嵯峨未死なすつもりはござらぬ」

雷獣は唸るように呟くと、ふわりと空に駆け上がる。

「南殿、承りもうした」

「斎藤君をよろしく」

「承知」

雷獣は、そう力強く頷くと、周りに飛翔できる者を集め、稲光となって空を駆け去っていった。
それを見送った南はふう、とまるで今まで息を止めていたとでも云うように溜息をつく。
そして傍らで茫然としていた残った幕僚に声をかけた。

「笹井」

「は、はい」

ハッと正気に返り、慌てて返事をする彼が見たものは、膝から崩れ落ち、苦しげに片目を閉じる南の姿。
彼は唸るような、かすれたような声で告げる。

「とりあえず生き残ってる連中を掌握してくれ。それから妖軍の支援に当た……」

「ちょ!? 南さん!」

激しく咳き込みながら蹲った南に、笹井は顔を真っ白にして駆け寄った。
仰向けに倒れながら、南は端からボロボロと崩れ落ちて消えていく意識の中で苦しげに自嘲しながら独りごちる。

「こりゃ…さすがに限界…」

「み、南さん!! 南さん!!」

意識を失う寸前に見た空は、どこまでも落ちていってしまいそうな果ての無い蒼だった。










大陸西部地域には嵯峨未の、東部地域には霧生・戸張が引き連れた妖群八万鬼が対ラルヴァ戦に援軍として出現したことで、致命的にまで悪化していた戦況は一気に転換し始める。
着々と拡大を続けていたラルヴァの侵攻はこれを期に完全に停止。逆に駆逐される側に回る羽目に陥った。
そして…絶えず続いていたラルヴァの再召喚も、ある時を境に停止した。

嫌がらせに近い、この地域侵攻にラルヴァを回す余裕がガディム陣営になくなったからである。
いや、ただ単に外地域侵攻に意味がなくなったからとも云える。



そう

始まりは今。

決戦の時はきた。






東鳩帝国 降山盆地



「…あれが、『灰燼の卵』か」

林間部に置いた仮設の本営。
四方には万を越える兵が控えているにも関わらず、何故かそこにはざわめきもなくシィンとした空気に包まれている。
藤田浩之に代わって帝国軍の総指揮を取る保科智子は、まだ距離がかなりあるにも関わらずその姿をはっきりと見せる巨大な塊を睨みつけた。

「なんちゅう…おぞましい姿や」

思わず、そんな言葉を漏らして身を震わせる。
それは、この地にいる人間たちの総意でもあり、怖れでもあった。

『灰燼の卵』

魔界でも忌避の感情とともに口ずさまれる大破壊生体爆弾。
魔力を極限まで蓄積し、それを暴走させ辺り一体を地獄に変える一種の反応兵器。
その概容はまさに肉の塊。
赤錆色のその表面は、絶えず脈動を繰り返し、不気味に蠢いている。
それは見るものに嫌悪を与えずにはいられない胎動する肉の繭。
しかも、その大きさは盆地の周囲を覆う山々に引けを取らないようにすら見える。


「状況報告」

「現在ラルヴァは目立った活動を行なっていません。恐らく休眠に近い状態と思われます。ただ、目視できるだけで八万以上を確認。未確認のラルヴァも多数存在すると思われます」

「味方は?」

「既に待機状態を完了しています。ラルヴァに発見された様子もありません」

「……そうか、ほしたら始めようか」

智子は踵を返すと、右手にある小高い丘を見上げた。
そこには、彼女ら大盟約世界陣営の切札が出番を待っている。



御音共和国 山葉



「よし、深山さんから連絡来たよ。御音共和国軍の配備完了。それと久瀬君からも同じ内容の報告が今届いた」

「わかりました」

今回、カノン皇国軍最高指揮官を務めることになった美坂栞はやや緊張に強張った顔を頷かせる。
それを見て、相沢祐馬はニコリと笑みを見せた。

「大丈夫、俺がついてるよ」

「はい、おじ様」

コクリと顔を上下させ、強張りながらも笑みを返した栞は大きく息を吸い込むと祐馬に告げた。

「えっと、では名雪さんに攻撃開始を通達してください」

「了解」




異界幻主召喚法起動(ファンタズマロード・サモン・シーケンス・スタート)

水瀬名雪が厳かな声で告げる。
同時に直属の魔導師たちの呪があたりに響き始めた。

開門式接続開始(ゲート・オープンコード・コネクト)

召喚法陣創描準備完了(サモン・ヘキサグラム・スフィアイメージング・オールセット)

「理軸回路設定の基本概念の指定を開始」

やがて、名雪を中心に、大地に光の魔法陣が浮かび上がってくる。
全体にビッシリと異様な文字と紋様が刻み込まれた魔法陣が徐々に光を強くしていく。


「《全能力強化(フルポンテンシャル・オーヴァーブースト)》!!」

素早く呪を唱え、起動呪を発した名雪の眼がトロンと下がる。
全能力覚醒状態…<眠り姫>モードへの移行である。

そして、虚数空間上に存在する異界の存在に意識を接続。
現世との接点を与え、異界の者を引き寄せる。


地面の魔法陣が一際強く輝いた。
吹き上がる力に、名雪の人括りに縛った青い髪が舞い上がる。

天が光り輝いた。

まるで地上の魔法陣を投影するように、名雪の上空に巨大な光の魔法陣が浮かび上がる。

星神級超巨大召喚法陣(アークエネミークラス・ヘヴィ・サモン・ヘキサグラム)


それは現れ出でる。

彼の者は盟友。

そして、破壊者たる絶対兵器(アブソルート・ウェポン)


「≪カノン・けろぴー》召喚っ!!」


遥か上空に形成された超巨大召喚法陣が鳴動し始めた。




東鳩帝国 降山盆地



ゴクリ、と自分の傍らに立つ次妹の喉が鳴ったのが聞こえた。
ビリビリと魂が震えるのが解かる。
種族の血が、歓喜に踊り狂っていた。

「…初音」

思わず、千鶴は前方で瞑目している末妹の名を呟く。
意味は無い。
今は意味など考えられない。

楓もまた、圧倒されたように上空を見上げている。

「…来る」

自分の口から意識せずに言葉が漏れた。

来る…

来る…

今こそ……

それは現れる。

千鶴は吸い込まれるように、初音から視線を剥がされ妹たちと同じく空を見上げた。





「(…空間が歪曲し、穴が開いていきます。凄まじい力…)」

「芹香お嬢様、一体何が!?」

魔術を解さぬ身にも、波動のように伝わってくる予感とも予期ともつかない感覚。
圧倒的な力の出現。

セバスチャンは彼には珍しい事に、自分が護衛する来栖川芹香に視線を向けすらせず、怒鳴りつけるように問いかけた。


「来るのだよ、セバス。魔界に一勢力を築き、それを保ちつづける戦闘種族エルクゥ。その力の象徴が」

席を外している魔狼王の代わりに、仮主を守るべく傍らに在ったカゲロヒがどこか浮かれたような調子で漏らす。
その横には、じっと歪んでいく空を見つめる銀狼の姿。

次の瞬間、瞼をすら貫く凄まじい光芒が、この降山盆地を照らし出す。

歪み切り、光の届かぬ黒洞を穿った空間から、徐々に眩いばかりの光の塊がその姿を現し出していた。



そして、それまでじっと瞑目していた初音が、カッと目を見開き叫んだ。

「私はここにいる。私の声を聞いて!!」

さらに一瞬、光が強く閃いた。
全貌を現す光の塊。
歪みの閉じていく空。


茫然と、智子が呟く。

「光の…船……箱舟?」


祈るように千鶴が呟く。

「これが…私たち種族の守護船…」


そして、芹香が囁いた。

「(来ました。そう…あれの名こそ…箱舟の調べ、分かたれる運命)」


初音の両腕がすべてを受け止めるように空へと掲げられた。

「私の声に応えて!!」

そして、その猛き麗しの名を謳う。


「《ヨーク》!!」








御音共和国 山葉



「大魔力発生中!! 凄い、何ていう力だ!!」

直属の魔導師の言葉に頷きながら、雪見は上空に浮かぶ巨大な魔法陣から目を離す事ができない。



「とても激しい力。でも、とても調和の取れた力の流れ…私にも感じ取れるよ、雪ちゃん」

川名みさきは詠うように言葉を奏でた。だが、その面差しもすぐに険しさを湛える。

「これほどの力。向こうも黙って見ているわけにはいかないみたいだね」



その瞬間、身動ぎ一つしないラルヴァたちを監視していた者たち、そして魔力を感じ取れる者たちすべてが真っ青になって顔を上げた。

裏返った声が各所で響き渡る。

「か、灰燼の卵近辺から魔力波動の発生を確認!! ラルヴァたちが活動を開始し始めています!!」
「ラルヴァの起動魔力波動急激上昇中!! さらに未確認の個体の波動を探知!」
「目視にてラルヴァの活動開始を確認!! 五万を越える個体が此方に進軍を開始しました!! さらに後続ありと認む!!」


束の間、雪見は目を閉じた。
予想された反応だ。そして、覚悟は決まっている。
これから行なわれる戦いは真正面からの潰しあい。凄惨な情景が現れることとなる。
だが、引き下がる道は無く、ただ取るべき道は前方にしか無い。

雪見は目を閉じたまま続けざまに指示を叫ぶ。

「全軍に戦闘開始を通告! 各隊は埋伏より前に出でて陣形を取れ! 各魔導師は魔術防壁の展開! それから各指揮官並びに総員に伝えて…」

目を開く。
戦場が瞳に映った。

「全ては明日の日常のために…生き延びるために……みんな、頑張って」



「《カノン・ケロピー》降臨!!」

名雪の静かな叫びと共に、光の波紋が空に広がる。

現れ出でたる幻獣の王。

緑色の巨体。円らな瞳。先の丸い手足。
神々しさの欠片も無い、カエルのようなその物体こそ異界幻主たる究極兵器《カノン・ケロピー≫
大空にその巨体を浮かばせる《ケロピー》の周囲の大気は、その莫大なまでの存在力に歪みすら生じている。

「照準調整式の起動を確認」
召喚法陣(サモン・ヘキサグラム)固定完了」
「《カノン・けろぴー》魔力相(ルーン・インデックス)安定確認終了」

名雪を中心に、法陣を描くがごとく展開した魔導師たちが怒涛のように状況と補助魔術の完成を報告していく。

「魔力充填完了まで残り三十秒!」
「照準固定完了を確認!」
「方位角測定式転送完了!」

輝ける光が《ケロピー》の前へと束ねられていく。



東鳩帝国 降山盆地



こちら、帝国の戦場でもまた、ラルヴァたちの活動は活発化。
もはや、激突は分単位へと迫っていた。
その中で、初音は意識を空へと…大気にその身体を浮かばせる箱舟に意識を繋げる。

(ワタシはヨーク。ワタシに意思を届かせた者よ、こんにちは)

感情の色の無い、だがどこか不思議な暖かさの篭もった声が初音の意識に響く。

(私の声…届いたの?)

(ハイ。既に精神パターン照合を完了。貴女を皇血操者と認め、ワタシは貴女の制御下に入ります)

(うん、ありがとう、私の声を聞いてくれて。見える? 私たちの敵はあれ…『灰燼の卵』だよ)

(標的の認識を完了。命令は標的の破壊と受け取りました。よろしいですか?)

(うん、あなたの力で、あの破壊の力を消し去って!!)

(了解。攻撃命令を受領。これより対象の破壊を開始します)

既に光芒は抑えられている。
だが、その輝く船体は神々しさに包まれて、虚空へと浮かんでいる。
やがて、《ヨーク》は空中にて回頭を開始した。

突撃してくるラルヴァの群れの前方。
待ち受ける人間たちの上空。

箱舟は回頭を完了。右舷を大地に根を張る悪魔の卵に向けた。
次の瞬間、バタバタという轟音とともに船体に次々と穴が開いていく。
そして、角を突き出すように姿を現していくそれは、砲門。
光輝く船体に、黒く光る砲口が出現した。その数、四四門。

(右舷四四連・中性魔力粒子砲砲撃準備完了)

ヨークの声が、初音の意識に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…今…

この大陸の運命を決するはずの一撃が、

山葉で/降山で

放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い! 《ヨーク》!」
「『カノン・ケロピー・プラズマ・ブラスト』!! 斉射(サルヴォー)!!」

連なる砲口から放たれた四四条の光の束が――
緑の幻獣から撃ち放たれた三条の光の螺旋が――



不気味に蠢く悪魔の卵へと突き刺さった。




    続く





  あとがき


八岐「つー訳でやっとこ始まりましらラストバトル」
あゆ「なまってるよ、八岐くん」
八岐「うるせっ! ちょっとした誤字に過ぎん」
あゆ「…なら直せばいいのに」
八岐「…それは否定できんが、書いちまったものはしょーがないじゃないか」
あゆ「仕方なくなんてないよっ」
八岐「さて、今回は何といっても南君」
あゆ「うわぁ、無視」
八岐「我ながらここまで変えてもいいのかってぐらいの変わりよう」
あゆ「わっわっ、本気で無視?」
八岐「うるさいぞ! 話が進まんじゃないか」
あゆ「うぐぅ、だって無視…」
八岐「解かった。無視しないから、進めさせて(泣)」
あゆ「うん、ところで八岐くん」
八岐「なによ」
あゆ「次回でこの『灰燼の卵』編終っちゃうの?」
八岐「なんでよ」
あゆ「だって…『灰燼の卵』やっつけちゃったんじゃないの?」
八岐「…………」
あゆ「…………?」
八岐「さて、次回予告いくべー」
あゆ「ああ! また無視したぁー(泣)」
八岐「次回! 第62話『破壊と再生』…そうそう簡単に終ってたまるかー」
あゆ「うぐぅー、予告になってないよー」
八岐「さらば」
あゆ「逃げたぁーー!!」





SS感想板へ

inserted by FC2 system