魔法戦国群星伝




< 第四十話  farewell of Wing and meet again  >



相沢子爵家領内



その大木は言葉を持たない。ただ静寂のままに見守るのみ。
紅色の斑紋を彩る雪の地
紅雪に塗れて倒れる少年
そして震え、立ち尽くす少女を
相貌を額から流した血で紅く染めた翼を持つ男を

大木は静かに見下ろしていた。

日が陰る。

灰色の雲が太陽を覆い、空を圧し始めた。


沈む。

雪の純白色が沈んでいく。






ハティム・カミールは人間の少年を殴りつけた拳を擦りながら忌々しげに舌打ちした。
血が滴り落ち、瞼を濡らす。視界が紅く染まる。
感覚を繋げた使い魔を殺されたために、共感が逆流してかなりの深手を負ってしまった。
激痛が全身を苛む。特に頭が痛い、痛い、痛い!

彼自身は気が付いていないが感覚のフィールドバックはその精神にまで影響を及ぼしていた。
今、彼は極度の興奮状態にある。

ハティムはささくれ立った苛立ちを目の前の少女にぶつけた。

「月の宮……余計な事をしてくれたな! クソッ、お陰で俺はこの有様だ。だいたい、貴様が逃げ出しさえしなったら俺たちはこんな場所に送り込まれずに済んだんだ!」

吐き棄てるように目の前の少女を怒鳴りつけると、ハティムはヨロヨロと起き上がろうとする少年の方を睨みつけた。

「畜生、あのガキ…ぶっ殺してやる!」

「や、やめてー!!」

必死に縋りつく少女をハティムは狂気すら孕んだ眼で見下ろした。
総てが自分を逆撫でする。
激痛と、下等と蔑む人間の、しかも年端も行かない子供に自分の使い魔を壊されたという屈辱が彼に見境をなくさせていた。

何故止める? 翼の民であるはずのこの娘が、何故俺を止めようとする? 何故邪魔をする?
そうか、そういうことか、この娘は狂っているのだ。

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、邪魔だ! 引っ込んでろ、月の宮ぁ!!」

「げふっ!?」

蹴り上げられたその小さな身体が、鞠の様に雪の上を弾み、動かなくなった。
それを目撃した祐一の表情が強張り、次の瞬間激怒で真っ赤に染まった。

「あ…ゆ? あゆー!! …てめぇ!!」

「…五月蝿い!」

「がぁ!」

ハティムは吼える祐一を無造作に、だが容赦なく蹴りつけた。
ゴミでも蹴るように。

さらに蹴る、蹴る。段々と、熱を帯びたように…彼は狂ったように少年を蹴りつづけた。

少年の悲鳴とも唸りともつかない声が、雪原に木霊した。




「ゆ…いち…ん……やめ…」

祐一の悲鳴が響く中、気を失いながらも、魘されるように呟くあゆ。その彼女を誰かがそっと抱き上げた。
彼は優しく少女の纏わりついた前髪を整え、撫でる。
その手が痙攣したように止まった。
やがてその手はもがれた左翼を癒すように傷痕を擦る。

「あゆ…」

少女の名を呟く。
愛しき娘の名を

男は少女を抱き上げたまま辺りを見回した。そして目的のものはすぐに見つかる。
白い雪の上に突き立った、白い白い純白の剣を

少年の、もはや微かとなった悲鳴が彼の耳朶を撃つ。
彼は声のした方を睨みつけた。
未だ転がる少年を殴り、蹴りつづける翼人を睨みつけ、ギリリと奥歯を軋ませる。


「…ハティム・カミールっ!!」


わんッ、と裂帛の声音が辺りに響く。
ハティムはその声に射抜かれたように硬直した。
そして我に返り振り返る。

「あ、天城殿!?」

振り返り、彼はさらに蒼白となった。
天城葛の眼光がナイフのように彼の全身を切り刻む。

「貴様、月の宮を傷つけるとは何事だ!! 下手をすれば儀式どころではなくなるだろう! 貴様、その行為、翔門儀室への反抗と見なすぞ!!」

「あ…いえ、私はそのようなつもりでは…」

「黙れ!!」

慌てて言い分けしようとした翼人を天城葛は凄まじい形相で一喝し、黙らせる。

「シャラ!」

「はっ」

いつの間にか、葛の背後に立っていた銀髪の男が答礼する。

「こやつを連れて先に戻れ。処分は上を通して下してもらう」

「わかりました。来い、ハティム」

「う…」

シャラと呼ばれた銀髪の男は、顔を蒼ざめさせたハティムを拘束し、召喚門へ向かった。
葛は苦々しげにそれを一瞥する。
いくら翔門儀室直属の者とて、月の宮を傷つけるという失態を犯したのだ。この処置に翔門儀室も文句は言えないだろう。

葛はあゆを抱きかかえたまま、大地に突き刺さった白い剣に歩み寄る。
そしてそっと娘の引き千切られた翼の痕を見やった。

「ゆういち…くん」

意識の無いまま、目の端に涙を浮かべてあゆが呟いた。
そんな娘のようすに彼は力無く、泣きそうになりながらフッと笑みを漏らした。

「あゆ…お前は自分の翼を断ってまでこの少年を助けたかったのか…」

天城葛は愛娘の柔らかい頬を愛しげに撫でた。

「天城殿」

残った最後の翼人…楯脇が背後から声をかけてきた。

「楯脇…月の宮を先に連れて行っておいてくれ」

「天城殿は?」

葛は視線を倒れたまま動かない祐一に注いだ。

「消去するのですか?」

まさか、と彼は首を振った。

「そこまでする必要はないだろう」

「ですが……ハティムの姿を見られています」

「我々翼人の…天翼界の存在を気取られてはならない…か。翔門儀室も何を恐れているのか……」

「我らの悲願をこの世界の者に知られる可能性は極力排さねばなりません」

悲願…か。

葛は内心で舌打ちした。
すべてがそれを中心にまわっている。そこに何の意味も見出す事など出来ないと、何故誰も気が付かないのだろう。

いや、誰もがそうではないはずだ。
……そう信じねば何もできない。

「この子供は私が記憶を消しておこう」

その言葉に楯脇は眉を顰めて不満の意を示す。

「ですが…月の宮は既に一週間も…」

「ならば、この地一帯を破壊し尽くすか? それこそ無謀極まりない」

楯脇は少し考え込むように視線を逸らすと、小さく首を縦に振った。

「…まあいいでしょう、お任せします。それで、月の宮は?」

「そちらも後で私が直接消す。どうせ翔門儀室は月の宮の全記憶を消せといってくるのだろう? 汚れた世界の記憶、我らを裏切った美由の記憶……今後新たな月の宮として育てるには不必要どころか害にしかならないからな」

「はぁ」

「もういい、行け」

娘を楯脇に渡そうとした時、その呟きは葛の耳に飛び込んだ。

「祐一君、奈津子さん、祐馬おじさん…」

ああ…

葛は悄然と空を見上げた。
混沌とした激情が一瞬、渦を巻いて噴き出ようと暴れ狂う。

私は…あの子の幸せだったであろう記憶を…消そうとしている。
母親の…美由の記憶すら…消そうとしている。

楯脇に抱きかかえられ、その場から去っていく娘に葛は小さく囁いた。

「あゆ…私は…お前に…謝る言葉すらない」

もはや、たった一人の家族である娘。
その娘を自分を傷つけ苦しめた…。

私は…その償いを出来るのだろうか…

彼女がその最後の役目を果たすまでに…


ガツン、と鈍い音が響いた。
沸騰した感情のままに木の幹を殴りつけた拳から、血が滴り落ちる。


最後…最後だと? 最後だと!? ふざけるな!!


歯を噛み砕かんばかりに歯軋りし、天を睨みつける。
葛は自分が思い浮かべた言葉に、今まで無意識に捻じ伏せていた感情に火がついたのを感じた。

種族の悲願? 醜悪なる世界を浄化するための神聖なる行為!? それがなんだというのだ!? それに何の意味があるというのだ!? 

葛は天を睨みつける。
自分たちの故郷たる蒼空。
だが、そこは灰色の雲が覆い、圧するように地上に被さっている。
雲を切り裂かんばかりに彼は天を睨みつける。

……美由! 美由! 約束だ。このあまりにも馬鹿げた悲劇は必ずお前で最後とする。この子は決して贄などにはさせない。
あゆへの償い、お前の思い、必ず果たそう!
美由…その時は私も…

葛はゆっくりと視線を落とした。
その眼差しの先には倒れ伏した幼い少年の姿があった。
葛は無言で身動き一つしない祐一の所へ歩み寄ると、身をかがめ様子をみる。

「酷い傷だな……」

彼は小さく呪を口ずさむと、光を帯びだしたその右腕をそっと倒れ伏すにかざした。
牙により穿たれた傷、爪により切り裂かれた傷、そして全身を蹴りつけられついた痣、それらが見る見るうちに跡形もなく消えていった。

祐一は朦朧とする意識のなか、暖かい光を放つ男を見上げた。

「動くな。傷は塞いだが失われた血は戻らない」

「あ…ゆは」

葛の顔が傷を抉られたように苦しげに歪んだ。

「…すまない。あの子は私が連れて帰る」

刹那、少年の目が見開かれ、その眼差しが怒りの光を帯びる。
純粋な、純真な、真っ直ぐな怒りを

「…ふざ…けるな。あいつは…俺が守って…やるって……」

たとえ意識が白濁しようとも、身体が言う事を聞こうとしなくとも、許せない言葉は許せない。
そう、絶対にだ。
祐一は右手を雪の上に突いて立ち上がろうとするが、全くといっていいほど力が入らず、そのまま倒れ込んだ。

「すまない」

葛はもう一度繰り返し、頭を垂れた。

「君は…あの子を必死になって守ってくれようとしたのだな…ありがとう……君の元にあの子を預けることが出来たならどんなに良かっただろう。あの子もどんなに幸せな日々を送れたのだろうか…」

だが、と葛は唇を強く噛んだ。血が滲み出るほどに…

「あの子はここには置いておけない。たとえ今私があの子をここに残しても、翼人は絶対に彼女を取り戻そうとする。どんな手を使ってでも……だからこそ今は私が連れて返る」

だが祐一は首を振る。駄々を捏ねるように、縋るように。

「…あゆを連れていくな…連れてかないでくれ! …あいつは俺たちの…家族…なんだから」

その言葉は、葛の心を撃ち砕くように貫いた。

家族…

ああ、そうか…君はあの子を家族としてみていてくれたのだな…

彼の胸の奥に温かな光が仄かに燈る。
葛はギュっと祐一の手を握った。
そして、小さく息を吸い込み、じっと瞼を閉じて耐えるように沈黙すると、その眼を見開き少年に語りかけた。

「少年。君にこんな仕打ちをしておいてこんな事を言う事はあまりに恥知らずかもしれない。親の身勝手な願いだ。だが聞いてくれ。いつか…いつかあゆが…私の娘が再び君の元に現れるだろう。だが君は記憶を封じられ、あの娘を認識できない。私が君の記憶を消すからだ。
だが、だがそれでも君に頼む。あの子を…我が娘を……あゆを迎えてやってくれ。あの娘を家族と言ってくれた君に……託させてくれ。

本当に……すまない」

その言葉は謝罪であり、懇願であり、自らへの決意の表明だった。
祐一は夢心地にその透き通った声を聞きながら、意識を失った。

幕が降りる。
その時を最後に、彼の記憶は閉ざされた。


葛の手を握っていた少年の右手、その手に残されたものは白き魔剣…それは…一人の少女の小さな思い。
そして…大切な思い出。

少年の往訪はこの時より始まる。








予感。
それは大概ろくなものではない。
感じたときには訳がわからず、その意味を悟った時には既に手遅れになっている。
そういった意味では彼女が感じたそれは、まさに予感だった。


手遅れだったのだ。





乱れ、荒れた雪原に立ち尽くす息子を見たとき、相沢奈津子はすべてが遅すぎた事を悟ってしまった。
自らの内側を抉るように駆け巡る違和感、不安感に耐え切れなくなった奈津子が、祐馬を引きずり出して子供たちを捜しにでた…その結果がこれだった。
血に染まり、ボロボロとなった少年の服が如実に何があったかを知らせてくる。
踏み荒らされ、紅色に染まった雪景色もまた、ここで戦闘があったことを示していた。

そして…あの日溜りのような笑みを浮かべる小さな女の子の姿はどこにもなかった。

「おい! 祐一、大丈夫か!?」

祐馬が慌てて息子に声をかける。
その声に少年は振り向いた。

駆け寄ろうとした二人の足が止まる。

少年は見知らぬ白い剣をぶら下げ、そして…その双眸から大粒の涙を止め処なく零していた。

「父さん、母さん」


天を覆っていた灰色の雲。
いつからだろう。雪が降り始めていたのは…
白い斑が景色を染める。
ただ音もなく染めあげる。

雪降る中で彼は泣く


「俺…何も思い出せないんだ」

「祐一?」

「この一週間、何があったのか全然思い出せないんだ」

「祐一、お前…」

愕然とする祐馬と、無言で息子を見つめ続ける奈津子に少年は力無く涙を零しながら笑った。
僅か十の子供が浮かべるには、あまりに深い自嘲の笑み。

「でも…でも、一つだけ覚えてるんだ…忘れられないんだ」


その笑みがクシャクシャに潰れる。
そして次の一言を吐いた息子の…あまりに悲愴な姿を…彼らの瞼は焼き付けて……



「俺は…守らなきゃならなかったやつを……絶対守ろうって思ったやつを…守れなかったんだ!!」



…離さなかった。






極限まで疲労しきっていたのだろう。
祐一はあの後、倒れ込むように気を失ってしまった。
息子を背に背負いながら、男と女は雪降る道をただ無言で歩く。

やがて女の方がぽつりと声を発した。

「なあ、祐馬」

「…なんだ?」

「祐一に話すのか? あいつが無くした記憶…あゆちゃんとの一週間の出来事を」

祐馬は少し考え、力無く首を振った。

「いや……やめておいたほうがいいだろう」

いつもと違った力のない双眸を、足元の雪に落としながら、奈津子はとうとうと呟いた。

「そうか…そうだな。記憶は教えられるものじゃない。教えられてもそれは自分のものとして実感できるわけではないからな。記憶は…いや、大切な想い出は思い出すものだ。いつか…この子が…」

声が歪む。
雪を踏む音が途絶える。

「奈津?」

祐馬は唐突に立ち止まった妻を振り返った。

「……祐馬」

「……あん?」

「私は…怒っている」

深、とその言葉は響いた。

奈津子は身動ぎ一つせず、顔を伏せ、佇んでいる。
祐馬は言葉もなくその姿に見入った。

「私はあの子に言ったんだ!」

蒼い髪が、ざわ、と揺らぐ。震える。

その声に込められていたのは疑いようもない怒り…
だが、それはか弱い囁きのように聞こえた。
崩れ落ちそうな悲しみ。
そして…無力感。

「あの子に…言ったんだ! 好きなだけここに居ていいと! ここを本当の家と思ってくれていいと! 私達を家族と思ってくれと! それが…それが…」

蒼い髪を振り乱し、奈津子が面持ちをあげた。
祐馬はかすかな驚愕と、少しばかりの納得とともにその光景を飲み込んだ。



相沢奈津子が…泣いていた。



「たった…たった一週間だったが、あの子は確かに私たちの家族だったんだ! 娘だったんだ!! それを…こんな風に…あまりにも理不尽じゃないか!」

目尻から透明な雫が流れ伝う。
振り乱され、透明な雫が虚空を舞う。

物心ついた頃から共に時を過ごした幼馴染。
だが、その彼をして初めて目の当たりにする彼女の涙。
こんな時に思うのは不謹慎かもしれないが…

祐馬は思った。

こいつの涙は綺麗だな。







だが、俺はこいつがこんな風に泣くところなんざ見たくなかったっ!


「…祐馬」

「なんだ?」

祐馬は奈津子の前に立つと、俯いてしまった彼女に微風のような声で聞きかえした。

「少し…胸を貸してくれ」

祐馬は小さく苦笑いを浮かべた。

「ばか…そんなのはわざわざ言わなくていいんだよ、何のための旦那だと思ってる」

「ああ」

奈津子はコツリとその額を夫の胸に当て、顔を伏した。
祐馬もそれ以上何も言わず、震える妻の肩を片手でそっと抱き寄せる。



幻の様にいなくなってしまった少女。

気を失いながらも俺の背中を涙で濡らす息子。

そして、彼女は肩を震わせて、必死に嗚咽を堪えて蒼い髪のカーテンの奥で泣いている。

祐馬は妻に悟られぬように小さく歯軋りした。

これはいったいなんなんだ?
何故、こいつらが泣かなきゃならないんだ?

祐馬は自分の意識が真っ赤に染まるのを感じた。


日向のような笑顔で笑うあの小さな少女を苦しめるモノ

生意気だが真っ直ぐな俺の息子の心を傷つけたモノ

そして…そして、俺の女を泣かせたモノ

「畜生」

俺は…そいつを絶対に許さない。


そこには声も出さずに泣く女と、それを包むように抱擁しながら空を睨む男の姿があった。








泡沫の夢は、こうして泡の様に消え去った。
多くの人々に、消えない傷を残して。














――7年後 盟約暦1095年 冬の日




夢…夢の終わり

「夢か…いったい何の夢だろうな」

天城葛は燃えさかる炎を何の感慨も見出せぬ表情のまま眺めていた。

「もう…7年か」

火の粉の舞う造られた空を見上げて独りごちる。
空…造られた世界の造られた空。
思えば翼人という種族が元居た故郷へと戻りたかったのは、ホンモノの空を飛びたいというごく自然な欲求から生まれたものだったのかもしれない。
その結果、幾多の者を傷つけることになったのは許されざる罪だろうが…

許されざる罪……なら、果たして私がやっている事はなんなのだろう。
彼らに対する罰を与える者? 違う、私もまた罪を犯した者。
ならば贖罪か? 間違いではない。だが、正しくもない。

今、私がなしている事は、ただ一人の娘の父親としてのエゴ。それだけだ。それだけに過ぎない。

だが、必ず成し遂げねばならない事。
誓いであり、思い出との約束、そして……



美由が大盟約世界へと逃がした娘、あゆを連れ戻してから7年。
あゆは母に関する記憶、そして地上世界での記憶を完全に消された。正確には封印された。やったのは自分、天城葛だ。
そして、自分は次代の月の宮捕縛の功績から、月の宮の育成を任される。
7年もの間、娘と片時も離れずに時を過ごした。

それは決して望みうる最高の幸せではなかったかもしれない。
だが、彼ら父娘にとっては小さな、大切な幸せの一時だった。
たとえ、そこに終わりというものが見えていたとしても。

「あゆ…さあ、行こう」

「行こうって、どこに…」

つい先ほどまで自分が暮らしていた屋敷が燃える様を放心したように見つめていたあゆが、我に返り問いかける。
葛は答えず、ただ安心させるような深い笑みを浮かべて娘の手を取った。

屋敷から外に出たあゆ。彼女が見たのは炎に包まれた町並みだった。

「なに…これ?」

「叛乱が起こったのだ」

歩みを止めず、葛は告げる。

「叛乱?」

「そう…我らが指導者たる翔門儀室…彼らの考え方に賛同できなくなった者たちが一斉に蜂起したんだ」

「考え方って……」

「もはや、いつまでも傲慢ではいられないのだ。我々翼人は新たな道を行かねばならない。他の種族と共に歩むべきという新しい考え方だ」

あゆは、言葉を紡ぐ父の顔に虚しさを感じて眉を顰めた。

「お父さん?」

「だが、それもまだ当分先の事になるだろうな。叛乱は失敗しつつある。全てが早過ぎたのだ」

言いながら叛乱の首謀者である天城葛は自嘲の笑みを漏らした。

そう、本来ならばもっと時間をかけて準備しなければならなかったのだ。
あと、あと数年の時間さえあれば成功したのだろう。
だが…時間がなかった。
あと半年もせずに娘が贄として捧げられるというのに、数年も待てるはずがない。

葛は嗤った。

私は……種族の行く末より、娘の行く末を選んだのだ。

無論、彼は後悔など微塵もしていない。
だが、自分が同志たちを裏切り、利用したことは心に刻み込み決して忘れはしないだろう。
それに関しての償いは、できそうもないが。

結局、私は私以外の総てを裏切ってしまった。
翔門儀室も、叛乱の同志も

そして、今から成す事は娘をも裏切ることかもしれない。
だが、迷いはない。
ただ、それは哀しいことなのだろう。



「お父さん、ここは?」

考えに耽るうちに目的の場所へと辿り着いた。
娘の問いに答えることなく、その手を引いて中に入る。
時間がなかった。



「ここは…」

あゆが小さく呟いた。

建物の最奥の部屋。
そこには透き通るような材質の石で出来た台座が置かれていた。
その四方には複雑な意匠の施された燈篭が設置されており、音も無く炯々と焔が燃えている。


知ってる。ボクはこの場所を知ってる。

音もなく燃えさかる聖火があゆの瞳に照り返した。
音もなく燃えている。



「あゆ」

ハッ、とあゆは我に返った。
どうやら少しの間呆然としていたらしい。

「お父さん…ボク、ここを知っている気がする」

そうか、と呟いた父の顔は、あゆには酷く哀しげに見えた。
葛はしばし目を閉じ、何か大切なモノを思い起こすように瞑目した。
そして葛は娘に告げた。

「あゆ…お前の記憶を今返す」

「え?」

驚いて振り返ったあゆが見たものは優しい光と燈して、じっと自分の瞳を覗き込む父親の黒瞳。

「お前が地上世界で見聞きした記憶、出会った人々との思い出…そして母の…美由の事を」

「お母さんの?」

ボクの母親。
知らない母親。
会った記憶のない母親。

その、お母さんの記憶が…

それに…地上世界で出会った人々…



「今から記憶の封印を解く。しばらく時間がかかるからじっとしていてくれ」

「う、うん、わかったよ」

そう答え、あゆは大きな掌が自分の額に当てられるのを身動ぎもせず受け入れた。
小さな呪が紡がれると同時に仄かな光が額に燈る。

朗々と呪の響きが祭壇の間に響く中で、ただ聖火の揺らめく影だけが動いていた。

「ねえ、お父さん」

「……なんだ?」

頭の中を、カタカタとパズルでも動かされているような不快感の中で、あゆは呪が中断したのを見計らい、問いかけた。

「お母さんってどんな人だった?」

「それは…記憶が戻れば…」

「ううん、ボクはお父さんから聞きたいんだ」

葛は静かに微笑んだ。

「彼女は…美由は素晴らしい人だった。強くて…優しくて…とても暖かい心で私を包んでくれた。彼女を愛せたことを、彼女に愛されたことを、私は誇りに思っている」

「そっかぁ」

柔らかく微笑む娘。その微笑みに葛は思わず一滴の涙を零した。
あまりに、それが彼女の母親に似ていたために…


ドスっ


唐突に…鈍い音が静寂の間に響いた。

「お父さん?」

不意に聞こえた音と、一瞬父の顔が強張ったのを見たあゆが思わず名前を呼ぶ。
葛は安心させるように優しく微笑みながら娘に語った。

「すまない…まだ記憶の封印解除は途中なのだが…時間がなくなってしまったようだ」


ドスドスドスっ


三度、小さく父の身体が震える。
父の背中の向こうはその大きな身体に遮られ、あゆには見えない。

「お、お父さん!?」

悲鳴に近い声をあげる娘の言葉を無視して、彼は続ける。

「今、この段階で封印解除を中断すれば、あゆ…お前の記憶は一時的に全て失われてしまうだろう」


「ははぁ! 死ねぇ天城葛ぁ!!」「やめよ、ハティム! 月の宮まで殺すつもりか!!」

背後に遠く誰かの声が聞こえる。だが、そんなことなどどうでもよい。
背中が灼熱の火に炙られたように痛むが、それもどうでもよい。
葛は小さく笑った。何もかもがどうでもよくなる。
いや、最初からどうでもよかったのかもしれない。
彼にとっては美由と、そしてあゆさえ在れば。

天城葛は事態を悟って自分を止めようと泣き喚く娘の頭を優しく撫でながら、感慨深げにこの部屋を見回した。
7年前、愛する女性が愛する我が子を逃がした場所。
彼女はどのような思いで、我が娘を逃がしたのか
どのような思いで、我が娘と別れたのか……
今はそれがよくわかる…そんな気がする。

美由…今こそ、お前との約束を果たそう。

葛は懐から空色の液体の入った小瓶を取り出し、握りつぶすように割る。
そして空色の液体を娘の片翼へとふりかけた。

みるみるとその存在を希薄にしていく娘の翼を確認すると、そっと撫でていた手をあゆの柔らかい頬に当て、じっとその泣き顔をのぞき込み、微笑った。

「だが…だが、あゆ…大丈夫だ。お前は地上世界である少年と出会うだろう。そしてきっと彼がお前を守ってくれる」

あゆは自分の意識が白濁していくことに気がつき絶望した。
パタパタ、パタパタと蓋がされていくように記憶が薄れていく。

「いやっ! お父さん! お父さん!!」

「私がお前を守ってやれるのはここまでだ。すまない、あゆ。無責任な父親を許してくれ」

「そんな! ボクはお父さんが大好きだよ! 大好きなんだよ! だから! だから!」

「そうか…ありがとう…あゆ」

葛は優しく、力強く我が娘を抱き締めた。
それは別れの抱擁だった。
聖火の焔が渦巻く。

「さらばだ、我が娘よ…願わくば、お前の行く末に幸の多からん事を……」

「お父さん!? いや! 待って! イヤだよ!? お父さん! ダメーーーーー!!」

光が周囲を駆け巡り、父の顔を見る事が困難になっていく。
代わりに、炎が瞼に焼きつく。
紅い、赤い、朱い炎が…

あゆは思った。

ああ、これは二度目だ。ボクはこれと全く同じ事を以前経験している。そして…あの女の人も、お父さんと同じ顔をしていた。



きっと、あれがボクのお母さんなんだ。


一瞬の想起。
そして母の微笑みが、父のそれへと重なる。

悲しみが重なる。

「お父さんーー!!!」

手が差し伸ばされ、だがそれは決して届くことなく光に飲まれて消失した。

光が収まった。
ただ、焔だけが渦巻いている。

「月の宮!? おのれ、そやつを殺して早く月の宮を取り戻すのだ!」


わらわらと30名近くの武器を携えた者たちが祭壇の間へと押し入ってくる。
彼らは荒れ狂っていた。翼の民の悲願が踏み躙られた事を。あの地上世界へと帰る日が断たれるという恐怖と共に。
だが、彼らの前に立ち塞がったのは、それら陳腐な怒りを消し飛ばす、凄まじい憤怒。
葛は凄まじい形相で彼らをにらみつけると静かに言い放った。

「あいにくだがお前たちがあゆを連れ戻すことはできない」

「な、なにぃ!」

「叛乱は失敗したが、お前たち翔門儀室の力は大幅に削がれた」

翔門儀室の長である老人が嘲るように言い返す。

「確かに我らは消耗した。だが、地上世界から月の宮を連れ戻すことなど造作もないわ」

葛は笑う。心底侮蔑したように。

「だが、この地上世界への門を壊し、貴様ら翔門儀室の中核を殺せばそれも無理だろう?」

「なっ!?」

絶句する面々を前に、葛は哄笑した。高らかに、高らかに。

「聖征官とは月の宮の巫女をその身をかけて守り通す守護者。翼を持つ者の最強の称号。私はその役目を我がものとし、今こそ全うしよう!」

そう、本来はただの巫女の監視者に過ぎない聖征官という役目。だが、今はこの役目を得た事を感謝しよう。美由と出会えた事。娘をこの手に抱けた事。そして、娘を守る事が出来ることを

「と、止めろ! 奴を殺せ!!」

老人の裏返った声に弾かれるように、幾筋もの矢が、魔力の奔流が葛に降り注ぐ。
鏃が右の太腿に突き刺さり、魔力塊が左の翼を消し飛ばし、脇腹の肉を抉り取る。
血に染められた羽根が舞い散る。

だが、葛は笑い続ける。

高らかに、高らかに、血色の羽根が舞い降りる中で、高らかに。
そして、す、と笑いを収めると、一寸の温かみすら感じさせぬ冷え冷えとした眼差しで、同胞たちを睥睨した。

その声は、死を招く宣告。

「貴様ら愚者どもはこの私が滅ぼし尽くす。それが……我が娘を守る道、我が愛する妻の遺志に応える意味! もはや二度と貴様らを我が娘の前に立たせぬよ」

焔が燃え上がり、翼がはためく。

「やっ、やめよ天城ぃ!! それは、自壊の――」

「我とともに消えよ。そして消滅の果てに自らの愚かさを悔やめ」

祭壇の間が紅に包まれ、翼人たちの怒号と悲鳴が鳴り響いた。

「我は死の御使いとなり、汝等を死出の道へと導かん…」

そして、父であり、夫であった男は、安らかな微笑みを浮かべ、囁いた。


あゆ…元気でな………美由…今そちらへ…




やがて、喧騒は死の静寂へと帳を変えた。

その年、天翼界では内乱の嵐が吹き荒れたという。
過去に縛られた者たち、明日を見据えた者たちの争い。
その行方は伝わってはいない。
だが、これ以後、月宮あゆを追う者が現れた事はついぞなかった。








―――現という名の夢



すっと、こめかみを雫が伝う感触に、あゆは目を覚ました。
涙が両の目端から伝っている。

あゆは身の上にかけられた毛布の上から自分の胸を抑えた。
今まで失われていたものが帰って来た。
それは過去…思い出。

「夢から…覚めてしまったんだね」

「夢か…どうなんだろうな」

突然、横から声がかかる。
あゆは首を傾けそちらを見た。

祐一が椅子に腰掛け、少し口端を歪めてこちらを見ていた。
その傍らには純白の剣が立てかけられている。
彼の相棒であり、彼女の分身である翼の剣。
それはもはや『失われた記憶(ロストメモリー)』と呼ぶには相応しくないのかもしれない。
失われたものは返ってきた。
ならば、その剣は新たな名前を必要としているのかもしれない。
名前……そう…いうなればそれは――『思い出(メモリーズ)

あゆは小さく、静かに微笑みを浮かべて言った。

「おはよう…って言うべきかな? 祐一君」

「そうだな…こういう場合は…久しぶりっていうべきなんじゃないか?」

久しぶり…

あゆは小さく頷いた。

そうだ…これは再会。
数ヶ月前の再会は知らないもの同士。
だが、今、 二人は全てを思い出している。
いや、それどころか知らないはずの過去すらも共有している。

だから…これは二度目の、そして本当の再会。

「ねぇ、祐一君。無くしたものは見つけた?」

「…ああ、見つけたよ」

そう小さく言った彼の瞳は、澄んだ空のようにも思えた。
あの高く、高く晴れ渡った、翼の故郷のように…

「そう…ボクもだよ」

あゆはじっと自分を見つめる少年の顔を見つめた。
祐一は小さく、そして優しい目で照れたような笑みを浮かべた。

あゆの胸にジワリと何かが滲み出てくる。
想い出は楽しいものだけじゃなかった。そして辛いものだけじゃなかった。
いろいろなものを失った。
でも、たくさんの大切なものを手に入れた。

ボクは、それを全部取り戻すことが出来たんだ。

それが…再会。

「祐一…くん、祐一君…ゆーいちうくーん! ずっとずっと会いたかったんだよー!!」

「あゆ…」

あゆは輝かんばかりの満面の笑みを浮かべ、涙の雫を零しながらベッドから身を起こした。
そして感極まったように祐一に抱きつく。


ベチャ


思わず避ける祐一。
床に鼻から突っ込むあゆ。

「……」

「……」

げにまっこと恐ろしき沈黙が彼らを包みこむ。


「うぐぅぅぅ!! 避けた! 祐一君が避けたぁ!!」

「あ、いや、思わず」

「酷い! 酷すぎるぅ! うぐぅぅ、なんかこの物語で一・二位を争う感動的場面をぶち壊しにされた気分だよーっ!!」

「ああ、それは避けられない運命だったのだ」

「もっともらしくナレーションしないでよーっ!! しかも避けられない運命って避けたじゃないかぁ!!」

「いや、これはもう相沢家の血なせる業なんだ」

あゆ、ジト目で呟く。

「……ホント、祐一くんって祐馬おじさんに凄く似ちゃったね」

「ガァーン!!」

なにやら精神的な致命打を喰らってよろめく祐一。

一矢報いてコロコロと笑うあゆ。




恐らくは耐えられないほどの重い過去を背負っているだろう二人。
だが、彼らはそんなことを微塵も感じさせず、わいわいと楽しげに騒いでいる。
そんな二人を少し離れて見守っていたぴろは小さく笑った。

「面白いな…本当に、この子たちは面白い」

永い時を生きれば、たまにこのような者達と出会うことができる。
常に前を向き、周囲に笑みと幸せを自然ともたらすようなものたち。
こうして、そんな者達と知り合い、時をともに過ごせるのなら、この永劫に近い寿命など苦痛でもなんでもない。
それは幸せなことなのだ。

「そういえば、お前はこんな簡単なことにも気がつけずにいたな…」

ぴろは久しく会っていない古い友人の顔を思い出し、独りごちた。

「お前は今もまだ自らを縛り付け、苦しんでいるのか?」

永劫の時をただ苦しみとしか感じることが出来ない彼。いつか彼も気づくことが出来るのだろうか…


笑い声を背に、一匹静かに物思いに耽るぴろ。
だが、彼の身にも最後の時が迫っていた。


ギィとかすかな軋みを響かせて、突然、だがゆっくりと扉が開いていく。
そこに立っていたのはゆらゆらと海藻のように青い髪の毛を虚空に漂わせている一人の少女。
少女は笑った。ギタリ…と。

「ネコサンミツケタオ〜」

その足元では廊下を引きずりまわされたのか、ぼろぼろになったかつて真琴と呼ばれた少女が息絶えていた。

「あうー。死んでないわよぅ。死にそうだけど」

「あらあら、ごめんなさい。とめられませんでした」

何故貴女は楽しそうに言うんですか? 秋子さん。と祐一とあゆはどこか諦観しきった心で思う。

あまりの事に石化しているぴろに《猫さんバーサーカーなゆなゆ》は一歩一歩ゆっくりと近づいていった。



「うっ、うっ、うぎゃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




    続く












――そして蒼は帰り来る




東ムディール王国 カトキン



「じゃあな、敬介君、後は頼むぞ」

「頼むって……本当にあなたたちは…」

「すまんなぁ。だが、八年ぶりに家族に会いに行くんだ。勘弁してくれ」

「……わかりましたよ。止めたってあなた方は行ってしまうんだから。全く、僕を連れてきた時だってこっちの意見なんか聞きやしない。物資の方は栴帝国を経由するつもりです。僕は一度そちらの方に顔を出しておきます」

「ああ、君に全部任せた。じゃあな」

諦めたように溜息をつく青年を残し、口元に髭を整えた渋みを滲ます中年男は足音も軽やかに港へと到着した。
そして一際大きな威容を誇る船へと乗り込み、船首へと向かう。
そこには先客がいた。
蒼い髪を潮風に棚引かせる鋭い目つきをした若い女性。
彼女は歩いてくる男を一瞥すると、

「遅い」

と一言切って捨てる。

「悪い、敬介君に色々と引継ぎを頼んでいたんでな」

「どうせ敬介が文句でも言っていたんだろう。あいつはいつもそうだ。私が拾ってやった時もなんだかんだと文句を言って此方を困らせた」

男は無言で苦笑した。彼が文句を言いたくなるのもよくわかる。

「さて、行くか。船の行く先は?」

「無論我が家、カノン皇国へ」

鐘を打つように女は答え、遥か水平線の先を見通すようにここではない場所を見つめて言った。

「あの娘にもう一度会うために」











  あとがき

奈津子「(ギロリ)」

八岐「ひえ! ちょっと、ちゃんと終ったじゃないですか!?」

栞「まあ、終わりといえば終わりですけどねぇ」

奈津子「うん、仕方ない、許してやろう。いくら延長されたとはいえあゆちゃんの過去編が終った事は確かだしな」

八岐「ほっ」

栞「奈津子さん、自分が再登場できそうだからって甘くなってません?」

奈津子「私が本編に再登場する事は必然だよ。当たり前のことになぜ酌量を入れなければならないか?」

栞(……本気で言ってますね)

八岐「というより、いつの間にかあとがきにも居続けてるし」

バコン

八岐「あだっ!!」

奈津子「つまらん事をウジウジ言うな。言われずとも私は帰らせてもらうよ。それでは皆さん本編でまた会おう」

栞「あ、行っちゃいましたね」

八岐「ふー、痛かったよ〜。あうー、さて次回ですが……」

栞「は〜い、過去編が終って現代編に再突入。現在大陸はラルヴァの大量発生で大混乱の真っ最中です」

八岐「ということで、次回第41話『VALKYRIE GARDEN』 対ラルヴァ作戦を巡る大本営こと『戦女神の庭園』を中心にお送りします」

栞「それでは、また近いうちに」
八岐「さようなら〜」



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