魔法戦国群星伝
< 第二十一話 退き保科 >
ものみヶ原 カノン西部・南部混成軍
高らかに宣伝される御音共和国の参戦。
それを裏付けるように潮を引くようにして退いていく帝国軍。
勝利が確定した瞬間……それこそが最も危険な時間帯だった。
余りにも苦しい戦いであった故に、死闘からの開放感、勝利の高揚感が人々の思考を喪失させる。
「奴ら、逃げていくぞ。追いかけろ!」
「戦功をあげるチャンスだ、逃がすな!」
明らかに冷静さを失った声があがる。
湧き上がる熱に犯されたのは、中央に位置した西部・南部混成軍だった。
元々が寄せ集めであったために、全体に指導力を発揮できる将を持たなかった彼らは、敵の敗走に完全に統制を失い、我先にと無秩序に突撃を開始した。
暴走の始まりだった。
ものみヶ原 保科勢
「アホみたいに突っ込んできよるわ。好都合や、あんたらには盾になってもらうで」
敵の暴走を前にして、智子は壮絶としか言い様のない笑みを零す。
彼女の言葉通り、彼らの無思慮な拙攻は痛烈な反撃をもって返された。
まるで隊列も組まず、好き勝手に突撃してくる混成軍を背後に見ながら、智子はジリジリとタイミングを見計らっていた。
「まだ、まだやで……よし! 全軍反転! 銃兵隊射撃開始!」
混成軍の兵士たちは、撤退しつつあった最後の部隊がいきなりこちらに向き直ったことに驚きながらも突撃をやめなかった。自分達に向かって無数の銃口が並べられていることに気づくまでは……
気づいた時には彼らは既に死への境界線を踏み越えていた。
一〇〇〇を越える鉄砲が一斉に火を噴く。
なぎ倒される幾百の兵士
反撃を全く予想していなかった混成軍は一気に大混乱状態になった。
「よっしゃ、今や! 騎馬隊突撃せえ!」
この時の智子に容赦という文字は存在しなかった。
さらに二度、鉄砲による斉射を行った上に、各隊から掻き集め、臨時に纏めた騎馬隊一五〇〇を大混乱状態の混成軍に突っ込ませたのだ。
最初からまともに統制の取れていなかった混成軍にとって、大混乱状態への騎馬隊の突撃は致命的だった。
功名心に囚われ高揚していた兵士たちの精神は、すぐさま恐怖に取って代わる。
好き勝手に突進していた兵士たちは、今度は恐慌に包まれ、思い思いに味方の陣に向かって逃走を開始する。
西部・南部混成軍はこの瞬間――崩壊した。
完全に統制を失った一万もの人間が波のようにカノン軍の陣に押し寄せる。
「こ、この馬鹿者どもがぁ!」
久瀬の張りあげた怒声が現状を現していた。
彼らは智子の言葉通り保科勢の盾となり、追撃に移ろうとしていたカノン軍全軍の前に立ち塞がる。
もがくカノン軍を尻目に再反転した保科勢は悠々とものみヶ原を後にしていった。
ものみヶ原 打撃騎士団
夜を思わせる漆黒の髪が、風に棚引いていた。
はためく髪の毛を他所に、微動だにせず馬上より敵軍の去りし彼方を見据える女性。
周囲の狂声から空間ごと切り離されたように静けさを纏っている彼女の姿は、一言で言うなれば…カッコ良かった。
彼女――川澄舞の視線が目の前に立ち塞がる人々の壁に移る。
舞はスラリと腰に提げた愛剣『神薙』を抜き放ち、剣尖を空に向けた。
銀色の剣身が陽光に輝きを増す。
そして一言…静かな…だが戦場に響き渡る声が発せられた。
「……威嚇射撃」
間髪入れず上空に向けて怒号のような銃声が鳴り響く。
銃声に動揺する人海。
「もう一度」
二度目の銃声が響いた時、人々は打撃騎士団の前から我先にと逃げ出し始めた。
舞は空に掲げていた剣を大気を切り裂いて振り下ろし、切先を前方に向けた。
「…前進!」
そう叫ぶと騎馬を疾駆させ、逃げ惑う人の波へと乗り込んだ。
舞を先頭に疾駆する打撃騎士団は、まるで海を割るが如く人海を突破、そのまま追撃を開始した。
ものみヶ原 倉田勢
「舞……」
いち早く混乱を突き抜け、撤退する敵目掛けて追撃を開始した打撃騎士団。そしてその先頭を走る舞の背を見つめていた佐祐理はフッと眼を閉じると傍らの少年に語りかけた。
「一弥…ゴメンなさい」
謝罪という内容とは裏腹の、その凛とした声にハッと振り向いた倉田一弥は背筋を震わせた。
姉の暖かな日差しのような気配が、いつの間にか深い眠りから目を覚ました竜王のような、静かな威圧感を加えている事に気が付いたのだ。
一弥は初めて見る姉の迫力に無意識に唾を飲み込んだ。
そして大きく息を吸い込み、吐き出すと、少年は尊敬する姉に向かって、彼女似の向日葵のような笑みを向け言った。
「いえ、姉さま…存分に!」
そして指揮下の兵全員に向かって絶叫した。
「倉田勢全軍に告げる! 唯今を以って、倉田軍の総指揮は我が姉倉田佐祐理に委譲する! 姉さま!!」
弟に感謝を込めて頷いた佐祐理は、ニコリと彼女の最大の武器である笑顔で全軍を魅了すると決然と前方を指差した。
「あははー、命令は唯一つ! 前進、前進、ただひたすらに前進ですよーっ。舞に続けぇーっ」
ものみヶ原 久瀬勢
前方で大混乱を起こす西部・南部混成軍に向かって永遠と罵声を捻り出し続けていた久瀬は、ふと感じた気配に北を見た。
兵気が…変わった?
見れば長時間の戦闘で疲弊し切っているはずの、倉田勢の雰囲気が一変していた。
「なるほど」
変化の理由を悟った久瀬はニヤリと楽しそうに笑った。
カノン最高の兵術家「笑う恐怖」の評判も誇張なしと言う事か。次期総領殿も想像以上に戦上手だったがまだ姉君には敵わんようだ。まあまだ幼い彼と、かの天才を比較するのは酷というものだろうがな。
倉田勢が群集を掻き分け前進を開始する。
ふん、此方も負けてはいられんな。
「貴様ら! 何をグズグズしている! 宰相殿に遅れるな!!」
ものみヶ原 相沢勢
「名雪に通達! 近衛騎士団と合流して香里を守護しろ、そっちは任せたっ」
命令を受け取って走り去る使い番を見送る。
これで万が一、『真紅の暴風』が舞い戻って香里を襲っても、二〇〇〇近い銃と魔導兵がいればまず守りきれる。あとは……
「追撃する! 全軍、遅れるなっ!!」
篠街道 保科勢
「申し上げます! 後方より敵軍接近中、先頭は打撃騎士団っ!」
「わかった」
智子は応えながらも心中で舌打ちした。
ちぃ、思うとったんより速い。もうちょい時間稼げる思うたんやけど。
智子は素早く辺りを見回す。通称「篠街道」、大軍を布陣させるには狭すぎる場所である。つまり、数で劣る自分達には有利ということ。少なくとも圧倒的大軍に包囲される事は無い。
藤田君たちが安全圏に達するまで数時間、ここで粘るか…。
智子は全軍の進行を止めるために右手を振り上げた。
篠街道 打撃騎士団
先行させていた物見が、保科勢布陣開始の情報を持って帰ると、川澄舞は行軍に適した縦長の陣を解き、より攻撃に適した横陣への陣形変換を命じた。
部隊が素早く形を変えていくのを横目にじっと前方を睨んでいた舞は、チラリと街道脇の山林地帯に視線を巡らす。
舞はしばらく思考を走らせると傍らで号令をかけていた部下の一人を手元に呼び寄せた。
篠街道 保科勢
「来おったな」
見事な隊列を組みながらジリジリと詰め寄ってくる軍勢。
数時間前に蹴散らした混成軍とは違い、今度はカノンの最精鋭部隊である打撃騎士団である。
まだ新設されて数年という若い部隊だが、その名声は他国まで響き渡っている。
智子は身体の内から来る震えを抑えながら、打撃騎士団が接近してくるのを待ち構えていた。
あるだけの鉄砲を前衛に並べている。
「まだ撃つなや、もっと引きつけぇ」
間合いを計るかのようにゆっくりと前進する打撃騎士団をジリジリしながら待ち受けていた智子は、敵軍が距離八〇メートルを切ったのを見計らい号令をかけた。
「よっしゃ、撃――」
その瞬間、保科勢の右翼側の山林から五〇騎ほどの騎兵が不意に出現し保科勢の右備に襲い掛かった。
一瞬、保科勢の注意が打撃騎士団から逸れる。
たった五〇騎。だが智子からすれば最悪のタイミングだった。
「かまうな、はよ撃たんかい!!」
智子が怒号を発する。だが、突然の側面からの攻撃に動揺していた兵士たちはこの命令への反応がワンテンポ遅れる。
そして彼らが銃の引き金を引いた時、打撃騎士団は一気に進撃速度を上げ、八〇メートルの距離を駆け抜けていた。
「あかん! 槍隊出え」
間一髪、銃兵隊は後方に下がり、槍隊が迎撃する。だが悪鬼のように押しまくる打撃騎士団に保科勢はじりじりと後ろに追いやられていった。
智子の顔はもはや蒼白だった。
あかん、接近戦に持ち込まれてもうた。あの打撃騎士団相手に叩き合いをやれっちゅうんか?
智子は戦を前に仕入れた打撃騎士団の情報を思い出し表情を強張らせる。
『打撃戦においては彼の水瀬軍に匹敵す、その強さは無類なり』
その情報通り、打撃騎士団は保科勢を蹂躙しつつある。とても実戦経験の無い部隊とは思えない。
だが、苦戦の理由はそれだけではなかった。
追うものと追われるものの差。
自軍を遥かに上回る軍勢に追撃される身として、精神的に追い詰められている保科勢は一端劣勢に陥った場合、非常に脆かった。
兵士達は怯えに駆られ、突撃してくる敵に及び腰となる。
ここまで事態が悪化すると、全軍の崩壊も時間の問題だった。
「保科智子!! 覚悟!」
味方の壁を突破してきた敵兵の一人が智子に襲い掛かる。
一閃
智子はどこからともなく取り出した愛用のハリセンで敵兵を叩き倒すと、くわっと前方を睨みつけた。
まだや……まだやられるわけにはいかんねや!
兵力で圧倒されるならまだしも、たった八〇〇〇ごときに負けるようじゃこの統率者を意味する委員長の名が泣くわ!!
智子はハリセンを振りかざし咆哮した。
「貴様ら、何やっとんねやあ!! これ以上退くことは許さへん!! わたしはここから退かへんで! あんたら大将見捨てて逃げるつもりかぁ!!」
万を越す視線が一点に集まる。
その視線の先は仁王立ちに立ち、前方を凄まじい眼光で睨みつける彼らの指揮官の姿。
戦女神の叱咤激励に逃げ腰だった保科勢の兵士達は奮い立った。
一度は放り投げた槍を拾い、剣を抜いて敵目掛けて突撃していく。
突如復活した保科勢の勢いに、元々数で劣る打撃騎士団の優勢は影を潜めた。
逆にジリジリと押され始める打撃騎士団。
……これ以上やっても被害が出るだけ。
チラリと後方を確認した舞は攻撃に執着せず、あっさりと後退命令を下した。
潮を引くように退いていく打撃騎士団に智子は安堵の溜息を漏らした。
「今のうちに隊列を組みなお……」
命令を下そうとした智子はその光景に絶句した。
退く打撃騎士団の隊列の隙間から、湧き出すように新たな部隊が前進してくる。
「冗談キツイわ…」
茫然と呟いた智子の言葉通り、まさしく阿吽の呼吸。
事前の了解なく打撃騎士団とこれほど見事な軍隊行動を行える部隊。
倉田公爵軍二万五〇〇〇。
「あははーっ 休む時間なんてありませんよーっ」
笑いながら疾駆する倉田佐祐理を先頭に、倉田軍が保科勢へと襲い掛かる。
保科勢は態勢を立て直す間もなく、再び苦しい戦いに突入した。
§
休む間もなく交互に繰り返される倉田・川澄両軍の攻撃。後続してきた相沢・久瀬勢も戦闘に加わり保科勢はじりじりとその数と体力を削り取られていった。
流石にもうあかんなぁ
大将首を取らんと次々と襲い掛かってくる敵兵をあしらう智子の姿は傍目にもボロボロだった。
軍装束は所々切り裂かれ、自分の血と返り血とで体中真っ黒になっており、その美しい髪も乱れきっていた。だが、それでも保科智子の美しさは全く損なわれてはいなかった。いや、むしろ戦女神としての美しさを際立たせていたといってもいい。
彼女の奮戦に応えるように保科勢は圧倒的劣勢を耐えに耐え切っていた。
だが……もはや保科勢が崩壊するのも時間の問題だった。
総大将である保科智子のところまで敵兵が押し寄せているのが何よりの証拠である。
もっとも、この時点で今だ軍勢が崩壊していないことを誉めるべきかもしれない。
しかしそれももう限界だった。
ガシィン
後ろから振り下ろされた剣をハリセンで弾き返し、よろけた敵兵の頭に一発食らわす。
だが、敵を倒したことでの油断からか、それとも疲労からか、一瞬、周りを確認するのを怠ってしまった。
「殺ったぁ!!」
その狂声に振り向いた智子の頭上に剣閃が煌めく。
しもた、殺られるっ!?
間に合わないことを悟りつつも必死にハリセンを振りかざす。
タァーーン
騒音に満ちた戦場の中で、何故か智子にはその銃声がよく聞こえた。
ベキン
「へ?」
自分の振りかざした剣がいきなり半ばから折れてしまったことに茫然とするカノン兵。
次の瞬間、自分の胸が赤く染まっていることに気づいてバタリと倒れた。
「ヘイ智子、危なかッタネ」
耳に飛び込んできたその声は心地よく、疲労し切った智子の身体に染み渡った。
半ば放心しながら声のした方向を見た智子の眼に、風に棚引く鮮やかな金髪が飛び込んでくる。
肺から漏れ出た吐息が叫びとなって放たれる。
「レミィ!!」
そこには銀色の長銃を担いた宮内レミィが、土まみれのドロドロになりながらもいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて立っていた。
「ははっ、やっぱりなぁ。あんたが死ぬはずないと思っとったわ」
親友の無事な姿に半泣きの智子にレミィは肩をすくめて見せた。
「ちょっとでも気づくのが遅れタラ、ヤバかったよ。それでも死ヌかと思ったけどネェ。ああ、それと智子」
「ん?」
ニヤリと笑ったレミィは前方を指差した。
「援軍……連れてきたヨッ♪」
その言葉を待っていたかのように、山林から赤い装束を纏った兵士や赤い毛皮の魔獣たちがカノン軍に襲い掛かった。
その中の一人がこちらに気づき、無邪気に手を振っている。
「あれは……神岸さん?」
「そうだヨ。独立近衛鉄熊部隊、途中で拾ってもらったんダ」
流石のカノン軍もいきなりの側面からの強襲には耐えられなかった。しかも相手はあの『真紅の暴風』である。
今まさに保科勢を殲滅しようとしていたカノン軍は、無残にも蹂躙されていった。
「ハハハ、助かった。最後のチャンスや、全軍突撃せえ!!」
「アハハ、ワタシも手伝うネー」
智子はハリセンを振りかざすと先頭を切ってカノン軍へと突っ込んでいった。
逆襲を喰らったカノン軍は逆に一時撤退するはめになり、あかりやレミィと合流した智子はなんとか撤退を成功させる。
皇都で主力軍と合流した時、三万を誇った保科勢の兵力はわずか九〇〇〇であったという。
――ものみヶ原会戦の翌日
西園街道 来栖川勢
後方へと流れ行く景色。
秋色を色濃く残す光景を、どこかで楽しみながら彼女は馬を走らせていた。
切羽詰った状況にしては余裕がありすぎるような気もするが、これが自分のスタイルだとも自認している。
ふと、意識が周りの景色から、自分を取り巻く現状に移る。
自分が残されたのはあくまで保険でしかなかった。それもまず起こるはずの無い事態を想定しての……。
だからこそ、自分が動く事など万が一にもないはずだった。(その事は不本意としか言い様がなかったが)
それが今、軍勢を率いて戦場へと急いでいる。
その事実は万が一にも起こらないはずの事態が起こった事を示し、同時に保険をかけていた事が間違いではなかったという事である。
最も、自分にはそれが良かったのか悪かったのかはよくわからない。
暇を囲っていた自分に出番がきたのは個人的には楽しい事だが、保険を必要としない状態の方がもっと良いのも確かだからだ。
う〜ん、まあ結局は……
どうも、あまり現実には意味の無い事を、だらだらと思い巡らしている事に気が付いた彼女は、根が単純な事を示すように無理やり結論を出した。
「暇か面倒かのどちらかって事よねえ、私が…」
ある意味、身も蓋も無い事を言い放った彼女。名を来栖川綾香という。
その一報が届いたのはつい先日。
御音共和国軍約五万、帝国国境を突破。現在、帝都に向け進撃中。
五万という数字、三華大国の一翼を名乗るにはあまりにも少ない兵力だ。
だが、内乱明けという御音の現状の国力を考えれば、まさに総力出撃と考えて間違いない。
そう、御音は賽を振ったのだ。
これを迎撃する自分たちの戦力は来栖川公爵軍三万六〇〇〇、坂下勢七〇〇〇の総勢四万三〇〇〇。兵力では劣勢だが不利という程では無い。
「五万か、奮発したわね」
「ですが、脅威ではありません。こちらは主力が帰国するまで敵軍を進ませなければいいのですから」
「セリオ、あんたは消極的過ぎるわ」
綾香は傍らを並走する自分の親友でもあり、作戦面を補助する参謀でもあるセリオの冷めた意見にからかうように文句を言った。
セリオはその人形のように(人形なのだが)整った表情を全く動かさず返答する。
「これが最善です。ですが、綾香さまはそれでは満足なさらないようですね」
「当たり前よ。撃滅してやるわ。そうすれば、浩之たちがわざわざ本国まで戻る必要もないしね」
そう言いつつ綾香が浮かべた笑みは、獲物を前にした肉食獣のものに似ていた。
まるでお預けを許された犬のようですね。
…………セリオの感想は違うようだったが。
本人が聞けば怒り狂うようなことを考えながら、セリオは僅かに首を傾げた。
ですが、御音は正直すぎますね。我が軍を壊滅させる自信があるということでしょうか…。
勝気に逸る綾香が下手を打てばその可能性もあるかもしれない。
だが、それはあくまでこちらの動向であり、敵である御音が左右出来る問題ではない。
果たしてあの御音がそんな不確定要素を当てにして作戦を練るだろうか?
御音に対するセリオの評価はかなり高い。実際、東鳩・カノン・御音の中で一番戦が巧いのは御音だと考えている。
所詮、一時的な叛乱しか経験していないカノンや、まともな戦術も取れず、ただ突撃するだけが能だった魔王軍しか相手にしていない東鳩帝国とは役者が違う。
彼ら御音共和国は革命軍として強大な御音王国と長年渡り合い、苦闘を続けた歴戦の将と兵たちが集っている。
彼らの敵は思考する人間であり、時に勝ち、時に負けるという積み重ねを経てようやく国を立ち上げた連中だった。
総合力に勝る東鳩帝国だが、彼ら御音が本来の力を取り戻した時はどれほど苦戦するか分かったものではない。
そして藤田浩之、保科智子ら国の方針を決める面々が下した御音への評価も自分と同意見だと彼女は踏んでいた。
でなければ、彼らがこれほど戦争を急いだ理由が見当たらない。
カノンを潰し、返す刀で未だろくに国力を回復していない御音を切る。
少なくとも御音がどうしようと勝てるだけの力を差を明けている時期は、今がギリギリだったのだ。(もっとも、これは完全に誤っていたようだ。御音が帝国に侵攻している現状がそれを表している)
セリオにはその御音が、そんな杜撰な計画を立てるとは俄かに信じがたかった。
「なにか…裏があるはずです。なにか…」
呟くセリオを他所に、軍勢は御音共和国軍に向かい進撃を続けていた。
御音共和国軍仮本陣
「申し上げます。物見が西園平原に敵軍を確認。来栖川・坂下軍およそ四万五〇〇〇です」
報告を受けた少女は頷くと後ろを振り返る。そこにはこの軍団を構成する部隊の指揮官たちと見られる男女が揃っていた。
「聞いたわね」
「ああ、奴ら残った部隊全部をつぎ込みやがった」
そう言ってニヤリと笑った少年―住井護は砕けた調子で両手を広げて見せ、言い放った。
「帝都は空だ」
「じゃあ、みさきさんの策は成功したって考えてもいいのね」
腕組みしながら黙っていたこの軍勢の斬り込み隊長 七瀬留美は先ほどの少女に確認する。
「ええ、後は敵軍をここに引き止めておけばいいだけ……。でも最初は大げさに暴れて見せないとね。あんまり無茶しないでよね、七瀬さん。あなたすぐに暴走するんだから」
少女のその言葉には七瀬も不満そうに口を尖らせる。
「し、信用ないわね。わかってるわよ…佐織っ」
七瀬の言葉に御音共和国軍第二軍団司令官 稲木佐織は満足そうに頷いた。
続く
浩平(キョロキョロ)
八岐「どったのコウちゃん、落ち着かないねえ」
浩平「前回散々煽ったくせに呑気だな、おい。こっちはうぐぅ式生霊・相沢とか乙女セリオとかが出てくるんじゃないかとビクビクしてるってのに」
八岐「いや、流石にあとがきも暴走し過ぎだったんで、今回は腰を落ち着けていこうかと」
浩平「…まあ、本編もあとがきも両方暴走してたんじゃ世話ないもんな」
八岐「…………ぐは」
浩平「それって俺のセリフっぽい。まあいいや、しかしいい加減人数も増えてきたな」
八岐「ONEの面々もこれから出てくるしな。結構とんでもない数になってるよ」
浩平「とりあえず現状でもまとめてみよう」
八岐「まとめるの? へーい。えっと、ではまずおさらいから。地形など、もう記憶の彼方と化している方が殆んどだと思うのでそこから始めたいと思います。
大盟約世界の極東に位置する巨大な島・小さな大陸グエンディーナ。
その東側全土を治めるのが藤田浩之率いる東鳩帝国。残る西方のうち北側をカノン皇国、南側を御音共和国が治めております。
これまでカノンと東鳩の主力が戦っていたのがカノン皇国の南側を走る篠街道沿い、柳川勢と秋子さんが戦っているのがカノンの最北端を走る街道です。
そして今回、稲木佐織率いる御音第二軍団が侵攻を開始したのが、御音・東鳩の国境でも北側に位置する西園街道であります。
御音と東鳩を結ぶ街道でも、大規模な軍勢を通過させる事が出来るのはこの西園街道しかありません。それ故に留守を預かる来栖川綾香は全軍を引き連れて、稲木軍の迎撃に向かいました。
ですが……」
浩平「で、次回に続くという訳だ」
八岐「そう言う事です。では次回第22話「乱戦貫途・切開峠道・闇乃迷路」…長いタイトル(汗)」
浩平「単に内容を並べただけだな、ケケケ」
八岐「うるせっ。では駄文を読んでくださった方々と毎回載せていただく管理人さまにお礼をいいつつ、さようなら」
浩平「さらば」
SS感想板へ