魔法戦国群星伝





< 第十三話  抜刀の刻 >





カノン皇国  水瀬城 郊外の森

殺気立った喧騒が、ここ水瀬城の城下を覆っていた。

三日前に先行出陣した水瀬勢に続いて、美坂香里を主将とする主力部隊が今日出陣するためである。

そんな軍勢の出陣準備に沸き立つ城下町から、一組の男女が誰とも無く抜け出した。

柏木耕一と柏木梓である。

彼らは町を出ると郊外の森へと入っていった。

何故彼らはこのようなところに訪れたのか。

無論理由は他には無い。女王美坂香里の誘拐の為である。

城の警備が厳重となったために、強襲という手段はさすがに取れなかった二人は機会を窺い作戦を立てていた。



美坂香里が出陣した時を狙う。



軍勢を率いているものの、相沢祐一・川澄舞といった一流どころは自分の部隊を率いているために近くにはいない。
その上奇襲をかければ、何万の軍勢がいようとも相手をするのは数十人ですむ。
なにより城を出てすぐに攻撃を受けるとは思っていないはずもなく油断があると考えたからだ。

最も、その考えは水瀬秋子が予想した通りの行動でしかなかったのだが。






街道から少し外れた森の中を歩きながら耕一と梓は最後の確認をしていた。

「ここらへんで仕掛けるの?」

「ああ、軍勢が通れるような街道はここだけだからな、待ち伏せにはもってこいだ。下を通ったら木の上から一気に奇襲をかける。梓は俺が手間取った場合周りの連中を片付けてくれ」

「わかった。…でも大丈夫なの? 前の時、美坂香里にやられちゃったんでしょ?」

梓の言葉に耕一は苦笑いを浮かべた。

「前はおもいっきり油断してたからな。でも今回は油断しているのは向こうだ」



「それはどうかな?」



「「なっ?」」

いきなりどこからともなく聞こえてきた声に二人は驚いて辺りを見回した。

「ふわっはははははは」

狂ったような笑い声が二人の頭上から降り注ぐ。

耕一は眉を潜めた。

何か覚えのあるシチュエーションだな。確か笑い声の次は……

「とうっ」

耕一の想像通りの掛け声と共に、木の上から一人の男が降ってきた。

こちらに背中を向けたまま華麗に着地を決めた薄茶色の髪の男は、フフフと含み笑いを漏らしながらもったいぶったようにゆっくりと振り返った。

「ああっ、やっぱりお前!!」

「耕一、知ってるの?」

男を指差した耕一に梓は不思議そうに聞いた。そんな梓を無視してビシッとポーズを決めて名乗り始める怪しげな男。

「ふっふっふ、どうやら覚えていたようだな。そうだ!! カノン最強の天才剣士北川潤とは俺のことだ!!」



     その頃の水瀬城

「陛下!! 北川隊長がいません!!」

「なんですって!?」

唖然とした香里の全身がプルプルと細かく震えだす。

そしてこめかみをピクピクと引きつらせながら深淵の闇から這い出してきた悪魔のような声で唸った。

「これから出陣って時にサボるとはいい度胸だわ。殺す、帰ってきたら殺す、殴り殺す、磨り潰す、フッフッフ、覚悟しなさいよ、楽に逝けると思わないでよね」

香里はどこからともなく取り出した対北川使用限定愛用のカイザーナックルを憑かれたように見つめながら、さながら魔王でも謝りそうな笑顔で笑いつづけていた。

これを遠巻きにして見守っていた北川の部下たちは震えながらため息をついた。

「今回の合戦、戦死一号は隊長になるのかな」



     再び郊外の森

そう遠くない未来に死亡が確定している北川は、勿論未来を知る力もないわけで、登場シーンが決まって大満足状態だった。

「で?何しにきたんだ?」

呆れながら言う耕一に上機嫌だった北川は心外そうな表情を浮かべる。

「何しにって、そりゃ女王誘拐を企てる悪党をこの北川様が成敗しにきたに決まってるだろう」

得意そうに説明している北川を指差して梓は耕一に聞いた。

「耕一、だから誰だよこいつ」

「確か、女王の近衛の隊長だよ。ほら話しただろ、女王に吹き飛ばされた奴」

「ああっ、こいつが」

色物を見るような梓の視線に北川の眉がピクピクと震える。

「おい! お前ら、なんか俺のことバカにしてるだろ!!」

「だって」

「なあ」

顔を見合わせる梓と耕一。

「フググググ」

怒りに震える北川を面白そうに眺めていた梓はふと気付いた。

「ちょっと、なんでこいつあたし達がここにいるってわかったの?」

「!! まさかばれてたのか?」

今更ながら慌てだした二人に、北川はなんとか怒りを収めつつ言った。

「あんたらがここに来るだろうって言われたんでね」

「もうばれてるわけだ」

悔しそうな耕一の呟きを聞き逃さず、北川はニヤニヤと笑みを浮かべた。

「いや、誰も知らねーよ」

「なに!?」

驚く耕一と梓

「何しろカノンの興亡をかけた決戦だからな、みんな忙しいんだ。俺がチャッチャと片付けりゃいいだけのことだしな」

唖然とした耕一だが、すぐに笑いがこみ上げてくる。
こいつは自分と敵の力量の差もわからないただの自意識過剰の愚か者だ。

「俺たちのことは知っているんだろ? その上で一人で勝てるとでも? それとも手柄でも焦ったのか?」

「手柄? そんなもん興味ないな。俺は美坂を守れればいい、それだけだ。お前らのことを言わなかったのもいらん心配を増やす必要もないからだな」

北川は携えた刀の柄に軽く手を当てるとあざけるように言い放った。



「一人で勝てる? 当たり前だ、俺の方が強いんだからな」



「お前の方が強い? ハハッ面白いことを言うな」

自身の優位を確信している耕一に北川はニヤニヤとした表情を変えず耕一の足元を指差した。

「……じゃあなんであんたは逃げてるんだ?」

「なに?」

「こ、耕一? なんであんた後ずさってるの?」

耕一は梓の方を見て気が付いた。隣にいたはずの梓が何時の間にか斜め前に立っている。

耕一は自分が無意識に後ろに下がっていたことを否応無く理解した。

愕然としている耕一に北川がさらにたたみ掛けた。

「逃げるんだったら退けよ。その方が楽だし別に追わないぜ。まあ最初から素人さんを殺すつもりもなかったけどな」

素人という言葉に耕一は我を取り戻し顔色を変えた。

「素人だと……俺が?」

耕一の呟きを無視して北川は言った。

「もう一度言うぞ。退くのならそれでよし。さもなくば……」

「貴様っ調子に乗るな!!」

怒りに任せて飛び掛ろうとする耕一に、北川は笑いを収め眼を細めて静かに言い放った。



「斬る」



その瞬間、耕一は全身が凍りつくような恐怖を感じ、まるで弾き飛ばされたかの様に後ろに飛び退いた。

耕一が自分が行った行動に疑問を覚える間もなく、視界が歪み意識が混濁する。

尋常ではない様子に梓は耕一に駆け寄ろうとして、次に起こった事態に呆然と立ち尽くした。

体内から吹き出る熱、違和感、開放感に朦朧とした耕一はすぐに意識を取り戻した。

そして自分の視界が普段より高いことに気が付き、自分の身体を見下ろす。

柏木耕一は、鬼へと姿を変えていた。

それも自分の意志ではなく。

「なんで、勝手に鬼に……」

呆然と呟く耕一に、北川が応えた。

「へえ、流石は魔界最強の戦士と謳われたエルクゥ種族の血脈。本能が危険を察知して無意識に全力を揮える状態になったって訳か」

梓は感心したような北川の呟きに聞き捨てならない単語が混じっているのに気付いた。

「あんた、なんでエルクゥの名を知ってるの? 柏木に連なる者しか知らないはずなのに。帝国の人たちだって知らないんだ、なのに…」

梓の言葉は実際は正確ではない。
帝国魔導師団では比較的魔界についての研究も進んでおり、柏木家が魔界に名を轟かすエルクゥ種族の末裔であると言う事は帝国魔導師団の首脳部では周知の事実であった。
最も…当の鶴来屋の面々はその事を全く知らなかったが。


ともあれ、血相を変えた梓に北川はしまったと言わんばかりに口元を押えた。

「あちゃ、そうなの? 喋りすぎたかな」

「そんなことはどうだっていい!!」

耕一の叫びに梓はビクっと身を震わせた。

これまで感じたことのないような高密度の鬼気、そしてそれだけで気の弱い生物なら死んでしまい兼ねない強烈な殺気

梓はこれほど余裕のない耕一を見るのは初めてだった。

「お前なんかにエルクゥの血が危険を感じただと。味方に吹き飛ばされるような奴にか? くそっ、ふざけるなよ、叩きのめしてやる!!」

そういうや否や、鬼―エルクゥ形態へと変貌した耕一の姿が消失する。
神速で間合いを詰め、渾身の力を込めて北川の心臓目掛けて右手を突き出した。

だが手ごたえも無く、触れれば鉄をも切り裂くエルクゥの右手はただ何もない空間を削り取っただけだった。

「あ〜あ、スキだらけ。言っただろ? あんた素人だって。確かにあんたは強いけどなあ、戦い方は知らないみたいだな」

余りといえば余りに屈辱的な内容。だが耕一はその言葉に怒りを感じる事はなかった。
それどころか背筋を恐怖に凍らせた。


当然だ…ほんの一瞬前まで目の前にいた敵の声が、すぐ耳元で囁かれたのだから。


脇目も振らずに思いっきり後ろに飛び退き間合いを取る。

「おい、忘れもんだぜ」

その耕一に北川が何かを投げてよこす。

咄嗟に右手でそれを掴もうとするが、何故か右手は空を切った。

物体は耕一の胸にぶつかって地面に落ちる。
視線が物体を捕らえる。だがそれが何なのかわからない。

じっと見つめる。

その時、梓の震える悲鳴のような声が響いた。

「こ、耕一、腕が!」

その声に、耕一は漸くその物体が何なのか脳髄が理解した。

……鬼の手……!?

耕一は呆然と自分の右腕を確認する。

二の腕から先が存在しなかった。

「うわああああああああ」

耕一は自分が絶叫していることを他人事のように自覚した。

「だからいっただろ? 俺の方が強いって」

背後から聞こえた声に耕一の全身が戦慄した。

ものすごい勢いで振り返り、残った左手を叩きつけ……標的を捕らえられず空を切る。

半身となって避けていた北川に、耕一はさらに常人では視認すら出来ないような速度で右ハイキック、続けて再び薙ぎ払うように左手を振るった。

しかし北川はまるで風に舞う落ち葉のように、スルリと一度喰らえば即死しかねない攻撃を避けた。

「なんで当たらない!!」

混乱と驚愕を込めた叫びが虚しく響く。

そして耕一は死角に回り込んだ北川の一撃を首筋に受け、あっさりと意識を失い、地上最強の戦闘生物は大地に倒れた。

「う……そっ……」

言葉が出てこない。眼前で繰り広げられた光景は梓にはまるで悪夢だった。

端から見ていて北川の動きは決して速いようには見えなかった。それなのに、同じエルクゥである梓の目にすら残像としてしか認識できない耕一の攻撃が全く当らなかった。

そして自分たち柏木一族の中でも最強のエルクゥの力を持つはずの耕一が手も足も出ず、単なる峰打ちで倒されてしまったのだ。

「はい、終わりっと」

最初と変わらない軽い調子でそう言った北川は、ちょっと心配そうに耕一の切断された右腕を見ると梓を振り返った。

「ええっと、確かエルクゥの再生能力で腕くっつけられたよな?」

やっぱりこいつ、エルクゥの事を知ってる。

梓は硬い表情で頷きながらそのことを確認した。

そうかそうかとコクコク顔を上下させていた北川は、もう一度梓に視線を向け軽い調子で言った。

「……で、やっぱり退いた方がいいと思うんだけど……どうする?」

「………わかった」

梓はそう言うとギリッと北川を睨みつけながら、気を失ったまま人間形態に戻った耕一を担ぎ、斬られた右腕を掴んで森の奥に消えていった。

それを無言で見送っていた北川はポリポリと頭を掻くと苦笑を浮かべた。

「ちーとやりすぎたかな?」

そして視線を後ろに向けた。

「見てたんなら手伝ってくれてもよかったのに……川澄先輩」

その言葉に押されたように、太い木の陰から姿を現したのは愛剣「神薙」を携え厳しい表情を浮かべた川澄舞だった。





出陣準備を早々に終え、まだ仕事をしている佐祐理を手伝いに行くつもりだった舞は、まだ出陣の準備を終えていないにもかかわらず、こそこそと城を抜け出す北川を見つけた。

不信感…いや、ほんの僅かな違和感程度のものだった。

舞が先の先のスノーゲート脱出の時に北川に感じたその違和感は、彼の不自然な行動を目の当たりにした時、不信感に取って代わった。


そして、テクテクと森に進む北川潤の後をつけた舞は、先程の目を疑う戦いを目にしたのだった。

舞は戦慄を抑えられなかった。
北川の神業のような腕に、そしてその実力を完全に隠しきっていたことに。
今考えれば、あの素人くささも極限にまで達した自然体と解釈すれば納得できる。
だが、何故その腕を隠していたのかが分からない。何が目的なのかが分からない。もし彼が敵ならば……私は勝てるのだろうか。


「……何故、あの人たちがここに来るとわかった?」

舞はいつでも「神薙」を抜けるように構えながら聞いた。

最悪の場合は戦闘も辞さない覚悟を込め、慎重に間合いを計る。

だが…

「秋子さんに頼まれたんすよ。ここに行って柏木さんたちにお引取り願ってくださいって」

その北川の返答に舞はパチパチと目を瞬かせると、ギリギリまで高めていた緊張を解き、殺気を収めた。

ここを北川一人に任せたということは、秋子さんは北川の実力を把握しているということ。
舞が絶対的に信頼する秋子さんが北川のことを了承しているなら、彼は信頼に値するのであろう。

だが舞は一つ疑問に思ったことを聞いてみる事にした。

「…どうして、彼らを殺さなかったの?」

北川は肩を竦めて答えた。

「昔色々あってね、無意味な殺しはやらないことにしてるんですよ。でもね…」

舞は北川の言葉にゾクリと背筋を震わせた。


「あいつらに美坂を殺すつもりがあったなら、俺も遠慮はしないつもりでしたよ」


言葉の内容とは裏腹の当たり前のような軽い声音に舞の眉がピクリと動く。

暫し広がった沈黙に迷った挙句、舞はもう一つだけ聞いてみることにした。

「……潤」

「…なんすか?」

名前で呼ばれることには慣れていないのか、テレる北川。


「………何故、カノンに来たの?」


不思議な問いかけ。
だが、舞はその問いに自分の疑問の多くを込めていた。

重さの無い北川の雰囲気が微かに揺らめく。
まるで風にそよぐ木の葉のように。

舞は自分の言葉に反応したように、北川の表情がどこか懐かしげな、そして真剣なものに変わったように思えた。

「……約束……したんですよ。昔ね……」

「…約束?」

「たいしたもんじゃないっすよ。秘密です、秘密」

それだけ言うと北川は、微かに覗かせた雰囲気を普段のモノに戻し、城に戻るために歩き始めた

舞もそれ以上は問わずに後について歩いていたが、ふと思い出したように北川に声をかけた。

「……潤」

「はい?」

振り返らず歩き続ける北川に、舞はぼそりと呟いた。


「香里は……きっと怒ってる」


その言葉に北川の動きが硬直する。それに合わせて舞も歩みを止めた。

片足を半分あげたまま、ギシギシと反転して振り返った北川の引き攣った表情が、ふと思い出したように緩む。

その顔をじっと見返していた舞は無表情のまま先回りするように続けた。


「……ちなみに私はもう準備は終わっている」


その無情なる一言に北川の顔がみるみる泣き顔に変わる。

そして脱兎の勢いで駆け出し……舞に首筋を掴まれてひっくり返った。

「放してくれ〜先輩〜!! このままじゃ死ぬ〜!! 殺される〜!!」

「……お線香の匂いは嫌いじゃない」

「いや〜!!」

ずるずると引きずられていく北川を見かけた城の兵士たちは、北川の顔に死相がくっきりと浮かんできたと、後に痛ましげに語っている。




カノン皇国  水瀬城 郊外の森

やわらかい。

最初に感じたのはその感触だった。

それを機に徐々に意識がはっきりしてくる。そのやわらかい感触は頭の下から伝わってきていた。

目を閉じていることに気付き、重い瞼をゆっくりと開ける。
そこにはよく知った従姉妹の顔があった。

「…………梓?」

名前を呟くと同時に右腕に違和感を感じ、顔を動かして右側を見ると、梓が右腕を切断させた部分に押し当てている。

エルクゥの再生能力は切断面をゆっくりとだが癒着させていた。

なんで腕が切れてたんだろう

意識が急速にはっきりと戻ってくる。

そうだ、俺は………


「耕一、気が付いたの?」

そこで耕一は自分が梓に膝枕されていることにやっと気がついた。

ぼんやりとする目を一度閉じ、はっきりと開く。

「梓、俺は」

「耕一、今腕をくっつけてるから動かないで」

「俺は……やられたのか?」

どこか遠くを見ている耕一の眼をじっと見つめていた梓はやがてコクリと頷いた。

「………そうか」

短く応え、耕一は目を閉じた。

森の静寂が二人を柔らかく包む

まるで再び眠ったように黙り込んでいた耕一は、やがて眼を閉じたまま抑揚のない声で語り出した。

「……なぁ、梓。お前も知ってる通り俺は柳川と違って戦うことがそんなに好きじゃない。
だから伯爵なんかになったあいつと違って鶴来屋で平穏な日々を送って、血が騒いでもたまに請け負う仕事で発散して終わりだ。別に誰より強いだとか、そんなことには興味ないつもりだったんだ」

「耕一?」

感情の篭もらない声音に梓は思わず名前を呼んだ。

一瞬、耕一は言葉を詰まらせ、そして堰を切ったように吐き出した。

「なのに……なんでこんなに悔しいんだ? 興味がないなら負けたって別に平気じゃないか、くそっ」

右手を地面に叩きつける。

「結局俺は自分の強さに溺れてただけじゃないか。何が戦うことは好きじゃないだ、何が強さなんかに興味がないだ。ちくしょう! 俺はっ……、俺はっ……」

耕一は言葉を詰まらせ絶句すると左手で顔を覆った。

全身を震わせ嗚咽を漏らす。

必死に堪える耕一に梓は優しく囁く。

「耕一、悔しいときはね……泣いてもいいんだよ」

「あず………う、う、うおおぉぉぉーーーー」

耕一は泣いた。悔しさに涙を流した。零れ落ちる雫を拭おうともせず。

梓は初めて見る従兄弟の涙をただ優しく見つめていた。そしてその頭を無言で抱き締める。

ただ、じっと包み込んでいた。




カノン皇国  水瀬城 城下

先日、自分達の領主である水瀬軍の出陣を見送った水瀬城下に住む者たちは、今日、新たに戦場へと赴く兵隊たちの雄姿を歓声と共に見送っていた。

颯爽と馬に跨り、その凛とした姿を見せ軍の先頭に立つ美女、美坂香里女王に今日一番の歓声を上げた民衆は、その後ろに続く謎の物体に戸惑い、顔を見合わせた。

近衛兵の担ぐ戸板に乗せられたその物体は包帯にグルグル巻きにされており、まるで絶命寸前のようにピクピクと小刻みに震えていた。

「隊長、ちょっと聞いていいですかぁ?」

戸板を担いでいた近衛兵の一人が物体に問い掛ける。驚いたことにその物体はかすれ声ながらも返事をした。

「な……ん…だ……?」

「なんで死なないんですか?」

「ふ……ふふ……ふふぁふぁははははははは、愛する美坂を置いてどうして死ねるかぁ!! 愛ゆえに俺は不死身なのだああああぎゃああああ!!」

いきなり立ち上がり叫び出した包帯男こと北川潤は、突如、飛んできた電撃に撃たれて戸板の上で採れ立ての海老の様にのた打ち回った。

今、電撃を放ち、北川を包帯男にした張本人、美坂香里はジト目でそれを見ながらボそりと呟いた。

「ギャグキャラだから死なないのよ」 




    第14話に続く!!





  トークショー



セリオ「どうも、はじめまして。私はHMX−13セリオです」

マルチ「あっ、え〜とHMX−12マルチですぅ〜こんにちは〜」

セリオ「何故相沢氏と八岐氏がいないのか疑問に思われた方もいらっしゃるとは思われますが、今回は我々のみとさせていただきます」

マルチ「祐一さんと八岐さん、今、後ろで物凄い事になってるんですぅ。血みどろですぅ、ばいおれんすですぅ」

セリオ「相沢氏が一方的に凶行に走っているとも言えますが、まあ我々が止める必要もないでしょう」

マルチ「わたしたちが勝手にあとがきをやってる事に気がつかれるとまずいですからねぇ」

セリオ「それは違います。人間の男性の方は血で血を洗う闘いを経る事で真の友情を深めるそうです。それを邪魔する事は我々自動人形にはできません」

マルチ「ふぇぇ、さすがセリオさんです、わたしはてっきりあとがきを乗っ取るために見て見ぬ振りをしてるんだと思ってました。でもどうして友情を深めてるんでしょう?」

セリオ「八岐氏が元々単なる脇役に過ぎない人物に不必要な程の役割を与えたために、割を食ってる相沢氏がとうとう切れてしまったというのが真相ですね。
まあ気持ちはわかります。たかが妖怪アンテナ小僧より出番が少ないというのは私にとっても屈辱的な事態ですから」

マルチ「はうう、わたしもくつじょくですぅ。でも勉強になりました、人間の方はこうやって血塗れになる事で友情を深めるんですね」

セリオ「どうやらそのようですね。我々自動人形には理解できませんが」

マルチ「あ、そろそろ終わらせろとカンペに出てますよ」

セリオ「マルチさん、その言い方だとまるで我々が脚本通りに喋っているみたいではないですか。気をつけてください」

マルチ「はうう、すみません」

セリオ「では次回は第14話『北の戦場』です。そろそろ戦いも本番に入るようですね」

マルチ「そうですね、それではマルチとセリオさんの緊急あとがきジャックでしたぁ。ありがとうございました」

セリオ「ありがとうございました」



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