朝食はオープンカフェでと決めている。サンドウィッチを齧り、珈琲カップを傾けながら朝の空気の中を歩く人々をボヤリと眺めるのが毎朝の日課だ。
 そうする事で、自分も街路を行き交う人々と同じくごく普通の、そう……言うなればかつてその中に居る事に疑問すら思い浮かべなかった日の差す世界。その一員に戻ったかのような錯覚に浸っている。
 ささやかな至福。だがそれは同時に虚しい欺瞞であり、また手の届かない場所への羨望の充足と、精神的抑圧のくだらない発散でしかない。加えて多少の自嘲も覚える。考えてみるといい。もし、自分があのまま普通の生活を続けていたとして、こんな風に気障ったらしくカフェで朝食などというスタイルに生涯一度でも縁があっただろうか。

「ケッ、皮肉だね」

 こ洒落た紺色のスーツを身にまとい、少し茶色に染めたかつらと鼻面に乗せたアンティーク風の縁なし眼鏡が相まって、さながら青年実業家といった佇まいで白塗りの椅子に背中を預け珈琲を飲んでいた北川潤は、失笑めいた微笑を思わず浮かべた。
 何はともあれ、今の彼にとってこの行為が一種の息抜きである事は否定できない。
 だが無論、色々と不満――行為の価値の有無を別として――もある。一つはひらけた場所に長く居続ける事へのストレス。狙撃してくれと云わんばかりの所でじっとしているのは少々健康に悪い。まあ、それは自身の無神経さを奮起させれば我慢出来なくもない。  だが、もう一つの要因だけはどうにも我慢するには不愉快であり過ぎた。

「お前さんも物好きだな」

 不意に苦笑じみた声をかけられ、北川潤は視線を街路から正面の席に戻した。つばの広いグレイの帽子の影から穏やかな双眸が笑みを浮かべている。グレイで統一された紳士然とした小柄な老人は軽やかに椅子に腰掛けた。

「よくもこんなところで朝食を取ろうという気になる」
「習慣でね」
「あらゆる意味で欧州とは違うぞ」
「わかってるよ」

 日本という国の国民性を疑ってしまうのはこんな時だ。よくもまあ、すぐ横を乗用車は大型トラックが引っ切り無しに行き交い、排気ガスを撒き散らしている場所で、平然と食事などを出来るものだ。
 寛ぐという目的にこれほどそぐわない場所も無いと云うのに。

「斯く云うお前も、文句を言いながら同じ事をしているわけだ」

 笑いを含んだ老人の言葉に、北川はぐぅの音も出ず視線を逸らせた。

「しかし爺さんよ、いつまでオレたちは此処に居ればいいんだ?」
「さあな。だがヴォルフも幹部連中の取りまとめは順調に行っているようだから、さほど時間は掛かるまい」
「ふぅん」
「フェスタ派との主導権争いも優位に進んでいるようだしな。もうしばらくすれば大勢が決する。 もし我らが動くとなればその時だろう。政争で片付けば良し。だが、フェスタ一党が悪足掻きをはじめれば否応無く働かざるを得ん。それまでは遊んでおけ」
「そう云われてもな」

 北川は無関心に珈琲カップを傾けた。

「形勢が固まる前に、フェスタのヤツ何か直接的な手段で仕掛けてくるんじゃないか?」
「それは愚かな行動だな。下手をすれば円卓会議直属の戦闘部隊【粛清者(パニッシャー)】と【滅法者(バニシング)】を敵に回すぞ。 が、それだけのリスクを負うのも厭わぬほど追い詰められ、起死回生を狙うとすればありうるな。だが、レイシア嬢とアーロンが付いている。例え彼奴が手駒を総動員したとしてもそう簡単にヴォルフは死なんよ。だいたいあの男ほど逃げ足の速いヤツは見たことがない。あれは、この世界でも最も殺し難い人間の一人だ」
「まあな」

 北川はそれもそうだと首肯した。
 自分の知る限り、あれほど用心深く用意周到な男はいないだろう。危険を察知し回避する能力は野生動物を上回るかもしれない。ヤバいとなったら後ろも見ずにトンズラするその決断力・判断力も大したものだ。そして何より運がいい。
 かの名高くも懐かしきシシリーマフィアと同じ異名を抱く『ラッキー』アドルファス。
 もしヤツを仕留める方法があるとすれば――――

「そういえば、ここしばらくサファイアの姿を見ないが」

 無意味な方へと流れていく思索を断ち切り、北川は肩を竦めてみせた。

「知らないな。サフィがフラフラといなくなるのはいつものことだろ?」
「ふむ。そうか。まあ、連絡員とコンタクトを取っているのならそれでいいのだが」

 顎を撫でながらしばらく瞑目していた崔尚成(チェ・ソーシュン)は、前触れもなくフラリと立ち上がった。

「ん? 食べてかないのか、朝飯」
「このような所で朝食を取る趣味はないのでな」

 ヒラヒラと手を振って背を向けた崔であったが、ふと思いついたように踵を返し新聞を広げていた北川に向き直った。

「なんだよ?」
「この件が片付いたら、一度紐育に戻ってあの子に会ってやれ」
「あの子って…姫里か?」

 北川はただ一人自分に残された肉親であり、自分がこのような稼業に黙々と従事している最大の理由でもある妹の名を、小さな後ろめたさとともに口ずさんだ。
 崔は頷く。

「もう半年以上会ってすらいないだろう」
「忙しかったからな。でも姫里にはアーロンが付いてる。心配ないだろう」

 組織を裏切った者に対する見せしめと、情報漏洩を防ぐために殺されるはずだった自分達。
 ヴォルフはそれを、自分を暗殺者に、姫里を護衛兼秘書とファミリーに取り込む事で一応の安全を確保してくれた。 だが、それで他の幹部達の全員が納得したわけではない。姫里は表向きには人質とされ、自分は仕事を確実にこなす事で常に有能さと忠誠を組織に対して見せ続けなければならなかった。
 それが二人の置かれた環境だった。そして、表向きには姫里の監視役。実際は守護者――いや、庇護者と言うべきか――として、姫里の身柄を引き受けたのが、フレデリック・アーロンだった。
 北川潤は、妹があの無口な大男に寄せている信頼とある種の複雑な好意をよく知っていた。それだけに、今更自分が取り立てて構う必要もないと思っている。
 だが、崔はそれを一笑に伏してみせた。

「それとこれとは話が違うな、若人。時には肉親の気安さにしばし浸るのも必要不可欠。この世に残されたただ二人の兄妹とすれば尚更だ。
 それに、彼女のブラザーコンプレックスを見損なってはいかん。あれでまだお前に甘えたい盛りだよ」
「う…んん」

 非常に困り果てた顔で黙り込んだ北川に含み笑いを浮かべ、崔は今度こそ踵を返して背中を向けた。

「まあ、考えておけ。ヴォルフが組織の主導権を握れば、お前達ももう少し拘束も緩むだろう。身動きも取れやすくなる。それも合わせて、な」
「身動き、ね」

 北川潤はさして動かぬ感慨のまま、詰まらなそうに鼻を鳴らした。













§  §  §  §  §













――――紐育郊外 高級住宅街



「あーあー面倒だな、畜生」
「文句言ってないで、ネクタイちゃんと締める。シアに起こられちゃうよ、ヴォルフ」

 栗色の髪の少女に窘められ、パーティー用の礼服に当り散らす金髪の男は、その狼にも似た不敵な面差しを台無しにする情けない面持ちとなった。
 不貞腐れたように舌打ちして、不器用に蝶ネクタイを首に巻くヴォルフ・D・アドルファスに、赤いフレアドレスで着飾った姫里が彼の上着を手に、呆れたようにヴォルフを見上げた。
 と、ドアの脇にひっそりと佇んでいたアーロンが、イヤホンに指を当て頷くと、促すように悪戦苦闘しているヴォルフに報告する。

「ボス、サザーランド卿とカルローニ卿が到着した」
「チッ、メインディッシュのパスタ野郎までもう来たのか。喰えなくなるくらいまで伸びてろってんだ」

 どうしてもネクタイが結べないヴォルフに、姫里はやれやれと溜息を付いて、彼の後ろに回る。

「ほら、上着持って。結んであげるから」
「う、む。すまん」
「主賓が何時までも顔を見せないと、お客様方が動揺するじゃない。ちゃんと準備しときなよ。だから、シアにいつまでも小言言われるんだよ」
「う、むぅ。すまん」
「ほら、結んだよ」

 長身のヴォルフに対して女性としても比較的小柄な方の姫里は、危なっかしくも背伸びまでして彼の蝶ネクタイを結んでやり、ポンと背中を叩く。
 そしてフワリとドレスの裾を翻して、佇むアーロンに向き直るとヴォルフの秘書らしい真面目な面差しを刹那閃かせる。

「リック、警備状況は?」
「問題ない」
「OK,じゃあ行こう。いつまでも幹部連中をシアに応対させてらんないでしょ」
「へいへい、畜生面倒なんだよ、こんな仰々しいパーティーなんざ」
「文句言わない」

 ぐうたらな父親の尻を蹴飛ばすかのようにヴォルフを追い立てて部屋を出る姫里。
 そんな彼女の後姿にほんの幽かな微笑を浮かべ、大柄な体躯に見事に礼服を着こなしたアーロンも続いた。














「ご苦労、クリフォード」

 パーティー会場となっているヴォルフ・D・アドルファスの邸宅。その一階フロアを一望できるテラスに位置取り、淡々と警備主任としての仕事をこなしていたアーロンは、近づいてくる女性に気がつき声をかけた。
 どうやらやっと幹部達の歓待から解き放たれたらしい。透明な美貌にも、やや翳りが見える。さすがの彼女も曲者揃いの幹部達を相手にしては平然としていられなかったようだ。
 緋色とすら表現できそうな鮮やかなストレートの赤毛を腰まで流し、しっとりとした紫紺のドレスを纏った魅惑的な女性――ヴォルフの片腕とも称される【氷の淑女(フローズン・ビューティー)】レイシア・クリフォードは肩を竦めて見せると、アーロンの隣に並び、会場を見渡した。

「ボスは?」
「あそこだ」

 気だるげに訪ねられ、アーロンは会場の一角を顎で差す。

「正統なるシシリーの系譜アントニオ・カルローニ。組織の重鎮と会談中、ね」

 恰幅の良い初老の紳士と酒の注がれたグラスを片手に談笑しているヴォルフを見つけ、鋭角な美女の目尻が幽かに緩む。
 どうやらあの我侭な狼も内心は兎も角、表向きは現在の組織の趨勢を一手に握る大幹部としての如何なく周囲に見せ付けている。
 今日は、特に自分たちの側に付くであろうノクターン幹部たちを呼んでのパーティーだ。今更支持を覆す輩もいないだろうが、フェスタ派の巻き返しもある。ここで着実に手綱を握っておきたいところだ。
 次回の円卓会議――ノクターン大幹部会合――はいよいよ来週に迫っているのだから。

 ふと、視線を脇に逸らせると、可憐な赤いドレスの少女が数人の男性に囲まれ笑顔を振り撒いている。

「あら、人気者ね、キィは」
「…………」

 意味深に口ずさみながら傍らを盗み見るものの、アーロンの表情は微塵も変わっておらず、レイシアは小さく微笑を浮かべた。

「まあ、あれで彼女、お偉いさん方にはウケがいいものね」
「特に重鎮方に、という訳でもない」

 ボソリと吐かれたアーロンの言葉に、レイシアは右手の指を形の良い顎に這わせた。
 アーロンの台詞に間違いは無い。姫里という少女はどういうわけか他人の好意を引き出す何かを持ち合わせているらしい。上は組織の重鎮から下はファミリー末端の兵隊に至るまで、斯く言う自分とてそうした側面は否定できない。
 それは才覚であろうとレイシアは思う。蓋し得難い才覚だ。
 そして、その才能とは即ち――――

「あの子は……」
「なんだ?」
「ううん、なんでもないわ」

 レイシアはふと浮かんだ想像を胸の奥に仕舞い、振り解くように長い髪を撫でつけた。
 その時、不意にレイシアの耳に小さな破砕音が飛び込んで来る。同時に、何か地面が揺れたような感覚。
 レイシアは傍らを振り仰ぎ、イヤホンに指を当て、外部と交信するアーロンと視線を交錯させる。

「何事?」

 巨漢のガーディアンは淡々と告げた。

「襲撃だ」

 それを耳にした瞬間、レイシアはヒラリと踵を返し、颯爽とヴォルフの元へと向かう。徐々に音量を増してくる戦闘曲に歓談していた来客たちがざわめき始めていた。
 無表情に近づいてくるレイシアとアーロンに状況のすべてを察したヴォルフは、特に慌てる風情も見せず二人に手早く指示を放つ。

「レイシア、客人方を案内して避難を。アーロン、状況を報告しろ」
「ライトバンが正門を突破。十数名が敷地内に侵入し、警備と交戦中」
「ふん、どこのどいつだ?」
「不明だ」
「該当する連中が多すぎて分からんか。ノクターンの幹部が大っぴらに集まってるんじゃ、むしゃぶりつきたくなる盛ったバカが出てきても仕方ないがな」

 敢えて、一番可能性の高いであろう人物には言及せず、金髪の男は嘲るように吐き捨て、唇をへの字に曲げた。

「ボスも奥へ。キサト」
「ん、此処だよ」

 流石に腹が据わっているのか取り乱しもしない幹部連中やその取り巻きを先導してこの場を後にするレイシアと二個三言言葉を交わしていた姫里が、呼ばれて小走りに寄ってくる。

「ボスと一緒に下がっていろ」
「……分かった」

 一瞬の空白。その刹那に彼女の瞳に映った揺らぎを、フレデリック・アーロンは見ていなかった。
 だが、彼女の瞳を見つめていたとして、彼女の浮かべた何かを目の当たりにしたとして、彼にその意味を悟ることがはたして出来たのだろうか。
 仮定は所詮仮定でしか無い。運命は決して覆らない。もし覆った過去が在ったとしても、誰もそれを認識できなければなかった事と同意でしかないのだ。
 運命は覆らない。何故なら、覆ろうがそのまま進行しようが、そのどれもが運命でしか無いのだから。

「ほら、ぼさっと突っ立ってないで。さっさと歩く」
「へいへい。行くから蹴飛ばさないでくれ。じゃあ、アーロン、さっさと片付けろよ。はぁ、あとでジジイどものご機嫌取りをまたしなくちゃなんねえじゃねえか。面倒だなあ」
「ヴォルフ!」
「分かってるって」

 まるで実の親子のように気安くじゃれ合いながら邸宅の奥へと姿を消す姫里とヴォルフ。その後姿を見送ったアーロンは、直接戦闘の指揮を執るために玄関へと足を向けた。










「しかし、少々不自然だな」
「なにが?」

 緊急時に立て篭もれるように設計してある書斎へと入ったヴォルフは、扉と鍵を閉めると同時にそのような事を呟く。
 音量を増してきていた銃声も、さすがに此処までは聞こえない。深ッと急に静まり返った書斎の中に、訝しげなヴォルフの声だけが響く。

「誰の差し金か知らんが、オレの屋敷にたかが十数人で襲撃をかけたとしても蹴散らされるのを分かっていない馬鹿がいるとは思えん」
「それだけ腕に覚えのある人を送り込んできたのかもしれないよ」

 後ろに立つ姫里に、ヴォルフは腕を組み、右手の親指を唇に押し当てて思考を走らせながら答える。

「馬鹿を言え。パーティーの最中だぞ。そんな警備が厳重な中に真正面から乗り込んでくるような間抜けたプロがいるか」
「じゃあ、答えは簡単だよ」
「なんだ」
「えっとね、正面から突っ込んできた奴等は、陽動」

 フッとそれまでの明るい声音が語尾を口ずさんだ一瞬だけ低く沈む。刹那、ヴォルフの身体が反射的に戦慄いた。
 自身の胸中に宿った暗雲。それが意味する所も分からないまま、ヴォルフは笑い飛ばすように告げる。

「陽動、だと? だが、それなら真打はどこから来る。アーロンの警備に穴はないぞ」
「穴から入らなくても中に入れる手段はあるよ」
「それは、興味深いな。言ってみろ」
「そうだね。例えば……」

 ヴォルフ・D・アドルファスは、ゆっくりと背後へと身を翻した。
 そこには彼女が立っている。書斎のデスクを背に、小柄な体躯をスラリと伸ばし、姫里はじっとヴォルフの双眸を見つめていた。
 その面差しには、薄っすらと誰か大切な人を愛しむかのような微笑。
 そして、その右手には、鈍く輝くメタリックシルバーの拳銃を手にしていた。
 銃口をピタリとヴォルフの胸に合わせ、彼女は静かに囁くのだ。

「最初から中に居れば問題はないでしょ?」

 豪胆不敵で鳴らしたはずの犯罪組織の大幹部は、誤魔化しようのない驚愕に犯されながら乾き切った舌を辛うじて動かした。

「何故だ、姫里」
「何故?」

 口元に浮かべた微笑を揺るがしもせず、栗色の髪の少女は目を細め、酷く醒めきった光をその瞳に宿した。

「それをアナタが聞くんだ、ヴォルフ」

 微笑が消える。

「パパとママを殺したアナタが聞くんだ」

 その静やかな言葉に晒されて、逆に乱れに乱れていたヴォルフの心から動揺が消え失せる。感情まで消え失せてしまったかのように、何もかもが醒めきった感覚にヴォルフは静かに瞼を降ろし、そして開けた。狼と呼ばれた男はその金色の髪を揺らし、首を振る。

「もし、お前のそれが復讐なら。復讐なら、お前にはオレを殺す権利がある。お前と潤には、その権利がある。どう云い繕おうと、お前達の両親を殺したのはオレだからな。だが……」

 ブルーの眸が射抜くかのような鋭さを持って、小さな少女の双眸を睨み据えた。

「だが、お前の眼にはそんな熱など欠片もないだろうが。怨みも、憎しみも、何もない。そんな目をした奴が復讐など語るものか。復讐など抱くものか。お前は何を、何を考えている、姫里っ」
「やっぱり、そう見える? うん、そうか。そうなんだ。ちょっとは、復讐心とかあるかなって、思わないでもなかったんだけど」

 そう消え失せそうな声音で囁いた彼女が浮かべたのは、酷く哀しげで、満足げな微笑み。
 普段彼女が見せていたあどけなさの欠片もない、大人の女の艶やかな微笑。

「そうだね、その通りだよヴォルフ。わたしは復讐のためにアナタを殺すわけじゃない。わたしはそんな事のためなんかにアナタを殺さない。あたしは、ただあたしのためだけにアナタを殺すの」
「なにを……」

 呆然と、呟くヴォルフの一言に、姫里という名の少女は「すべてを」と答えた。

「他者の力に、他者の思惑に、他者の駆け引きに翻弄されるなんてもう、耐えられないんだよ。わたしはね、何も与えられる事を望まない。誰に拘束される事も許さない。だから、わたしは与える者になる。他者から奪い、他者を拘束し、支配するものになる。それがわたしの願い、想い。それがわたしの本質なんだよ。
 ヴォルフ、やっぱりあたしはアナタを憎んでいるかもしれない。それとも、感謝しているのかな。あたしがあたしの望みを知ったのは、この闇に満ち溢れた世界を知ったから。知らなければ、あたしは過ぎた欲望を抱かずに済んだ。知らなければ、あたしはあたしの可能性を見出せなかった。どちらにせよ、アナタがあたしに新しい世界を見せてしまった。そして、アナタは死ぬよ。あたしの手で」
「キ…サト」
「アナタの弱点は一度信じた相手に対してはあまりに無防備だという事。こんな世界で、奇特だね。でも、悪くなかったと思うよ。多分、アナタに魅せられた人たちはアナタを裏切らないから。でも……結局はこうなる」

 苦渋に、ヴォルフは顔を顰めた。自分の信条に後悔は無い。その信条に殉じるなら本望とすら言える。だが――

「姫里、お前が求めるものは血に塗れた玉座だ。進む道は荒れ狂う暴海だ。お前は、そんなものを手に入れようとするのか?」
「古今、それを求めた者は絶えないよ。そして、あたしも魅入られた一人。否定はさせないからね、ヴォルフ。アナタもその一人だもんね」
「だが力の他に得られるものは、孤独だけだぞ」

 憫笑を色濃く刻む。

「アナタが恐れたのはそれだね、ヴォルフ。だから愚かしいほどに自分の信じた者たちを信じぬく。そうやって、孤独から逃れようとしていた。そうだね、その通りだね。孤独は怖いよ。独りはイヤだ。でもねヴォルフ。

 あたしは、孤独を許容する」

 その穏やかな、そして決然とした言葉に、ヴォルフは碧眼を見開き、虚脱したかのように肩を落とした。

「馬鹿者め。お前は、この上なく愚かだ」
「うん、そうだね。その通りだ」

 手元から去る愛娘を嗜めるかのような男の一言に、素直に頷き、北川姫里は眠るように囁いた。

「Good−by My Father」

 そして、トリガーは引かれる。







「ボス、キサトッ! 今の銃声はなん――――」

 もどかしげに鍵を開け、蹴破らん勢いで書斎へと飛び込んだアーロンは氷の杭を背中に打たれたかのように硬直した。
 硝煙を吐き出すシグ・ザウエルP−232。その銃把を握り、無表情に床に倒れる人物を見下ろしている姫里。そして、仰向けに倒れ伏しているヴォルフ・D・アドルファス。
 その右手が押える胸は、真っ赤に染まり、今尚血潮を吐き出している。何が起こったのか、あまりに一目瞭然で、逆にアーロンは何が起こったのか理解できなかった。
 この世で最もありえない情景が目の前に転がっている。

「ボスッ」

 駆けより、身を屈める信頼すべき部下に、まだ息の在ったヴォルフは幽かに眼を見開き、掠れ切った声を吐息を吐くように押し出す。

「ア…ロン。キサ…を、この、子を……れ」
「ボス…ボスッ」

 呆然と、力を失ったヴォルフの手首を握り、二度呼びかける。
 そして、呼びかけが無駄だと理解し、アーロンは愕然と面持ちをあげた。

「キサ、ト。いったい、これは……」
「見ての通りだよ、リック。あたしが、この銃で、ヴォルフを撃った。ヴォルフ・D・アドルファスを殺した。其れ以外に何がある?」
「……」

 絶句する巨漢の男に、姫里は銃をぶら下げマズルを下に向けたまま、不敵な笑みを浮かべて見せる。だがその笑みはどこか強張っていた。そして混じ入る確かな怯え。死に対する怯えではなく、自分の仕出かした事に対する怯えでも無論無く、それはどこか、飼い主に捨てられそうな子猫の面差し。
 だが、動揺するアーロンにそれを判ずる余裕も無く、ただ黙したまま自身が取るべき次なる行動を見出せず、彼は立ち尽くしていた。

「さあ、どうするリック。ボスを殺したあたしを殺す?」
「ッ!」
「それとも……今までどおりあたしを護ってくれる?」
「……キサト。分からない。これはどういう事だ? お前は……何を考えている」

 徐々に眼光に意思の光を戻し、眼上の自分を斬り殺すかのように睨みつけてくるアーロンに背を向け、彼女はヴォルフを撃った銃を胸に抱き締めた。
 そして告げる。

「あたしは、ノクターンを手に入れる」

 アーロンは、身体が天井から糸で吊り下げられているかのように無意識に立ち上がった。
 再び此方に振り向いた少女の瞳に狂気は無く、ただ温もりの欠片も無い強い意志と煮え滾るような覇気、そして吸い込まれそうな深みがたゆたっている。
 それを見た瞬間、アーロンは悟った。地に伏したヴォルフの切れ切れの言葉の意味を。そして、自身の想いと決すべき意思を。

「もう一度問うよ、リック。あなたのボスを、皆のヴォルフを殺したあたしを、まだ護ってくれるつもりはある?」
「俺は……」
「この先悪夢と地獄しかあげられないわたしを、それでも護ってくれるつもりがある?」

 言葉を重ねる姫里からは、もう余裕は消え失せていた。ただ、鋼のように無機質で硬い声音に、能面と化した表情。だが、アーロンにはその声音は祈りと懇願の篭もったものにしか聞こえず、その眼差しは心細さに泣き出しそうな幼子のものにしか見えなかった。
 願望かもしれない。だが、確かにそう聞こえ、そう見えたのだ。
 ならば、それが、それこそが、フレデリック・アーロンにとっての真実だ。

「ボス? ヴォルフ?」

 ソプラノの音色をした戸惑いの声が響いた。
 戸口に、呆然と立ち尽くしている紫紺のドレスを着た美女。彼女は凍りついた眼差しで血に塗れて倒れ伏す男を見つめ、続いて向き合う一組の男女を見つめた。
 そして見つける。少女が胸に抱き締める、銀色の鉄塊を。
 見る見ると蒼ざめてゆく美貌。その変わり様を、姫里はどこか他人事のように眺めていた。

「キィ!! あな…あなたはっ、あなた何を。ヴォルフ、まさかっ、キィ!!」

 反射的に身につけていた拳銃を抜き放つレイシア。精神の動揺が嘘のように身体は精密機械のように滑らかに動き、一挙動で銃口は少女を指向し、銃弾が放たれようとする。
 だが、結局その引き金が引かれる事はなかった。ポロリ、と白魚のような指からガバメントが零れ落ちる。レイシアは苦しげにうめきながら放心しきった顔で、自分の腹腔に巨大な拳を埋め込んだ男を仰ぎ見た。

「アー…ロン。こん…なん…で」
「……すまん」

 痛切に零し、アーロンは気絶してグッタリと弛緩した美女の身体を床に横たえる。
 そして、のっそりと立ち上がると無言のまま此方を凝視している少女の視線を真正面から受け止めた。

「リック。それがあなたの答え?」
「俺はボスからお前に関するすべてを任されている。その命令が撤回されていない以上、俺は任務を遂行する。それだけだ」
「……リック」
「俺はお前と共にある」

 一瞬、そうほんの一瞬だけ、姫里は何も繕わない生の感情を表に曝け出すことを自分に許した。
 泣き出しそうな満面の笑み。
 だが、それもすぐに押し込めるように消し去る。残されたのは、小柄な体躯に威容を宿し、幼い容貌に相応の愛嬌、そして不敵さと酷薄さを滲ませる独りの新たな権力者の姿だった。

「【歩く要塞(クラッシャー・フォートレス)】フレデリック・アーロン。煉獄の宴にようこそ」

 表情一つ変えない大男にコクリと首肯し、少女は長年そうしてきたかの如く指示を飛ばした。

「あたしはノクターンの幹部達にお引取り願うから、リックはヴォルフとシアの始末をお願い」
「どうするつもりだ」
「襲撃してきた連中は片付けたよね。うん、幹部達にはヴォルフが重傷を負ったと説明するよ。伏兵に襲われて、とね。死んだことを表ざたにするのはもう少し後にする」
「信じるか?」
「信じるよ。あたしとリックが証言するならね。あたしだけならともかく、リックが言った言葉を疑う人は組織にはいないんだよ」

 それだけのヴォルフに対する忠誠と実直さを誰しもがアーロンという男に認めている。

「クリフォードは、どうする。まだ生きているが」

 刹那、少女は美女の横顔を一瞥し、溜息とともに告げた。

「リックが最善と思う方法を取って」
「……分かった」






 一時間後、何処かから邸宅へと戻ったアーロンを、普段着に着替えた姫里が出迎えた。警備の兵士たちはアーロンが下した命令通り警察への対応と、襲撃の後始末のために見当たらない。

「シアは?」
「……とりあえず信頼できるところに預けた」

 瞬きすらせず凝視され、アーロンは言い直した。

「監禁した。彼女の意思では何も出来ない」

 頷く。当面はそれでも構わない。だが、いずれは……。
 まったく、これでは結論を先延ばしにしただけに過ぎないじゃないか。

 唇を噛んで俯いた少女。大男はその細い双眸をさらに細める。

「これから、どうするつもりだ」
「ん?」
「お前は、ノクターンを手に入れるといった。だが、どうやって」

 少女はリビングのソファーにちょこんと腰掛けると、ブランデーの入ったグラスを指で弾く。カチンと、硬い音を立てるグラス。

「ヴォルフ・D・アドルファスは何者かの襲撃を受けて死亡。リックの裏付けさえあれば、しばらくはそれを信じてもらえる。そうだね、円卓会議が始まるまでは」
「円卓会議だと?」
「そうだよ。これがあるせいで急がないといけなくなったんだ。幸い、楊誡元が思うように踊ってくれてアーロンが二週間もいなかったから楽に動けたけどね」

 唾を飲み込む。サラームが確か言っていた。楊が自分の日本進出はノクターンの差し金だと。妄言かと思っていたが、彼女のいう事が正しければ、その策謀の張本人はこの目の前にいる少女という事になる。
 しかも、ただ自分を自身の近くからしばらく引き離すためだけに。今日幕を上げ、始まりを迎えた本舞台の準備を整えるために。
 言葉を失ったアーロンに、姫里はリズムに乗るように先を続けた。

「さて、ヴォルフの主導で行なわれ、恐らくはフェスタ一党の押さえ込みが成功するはずだった円卓会議。その主役であるヴォルフが消えれば、どうなる?」
「逆に…フェスタが主導権を握る……まさか」

 愕然とするアーロンに、姫里はニヤリと笑って見せた。

「キサト、お前はフェスタと共謀して…」
「色々とアイツの手札を利用させてもらったよ。ここを襲撃した連中もフェスタの差し金」
「馬鹿な」

 アーロンの眼差しが険悪なものへと変わる。

「フェスタに拠るつもりなのか。それは賛成し兼ねるッ」
「アイツが最悪だから? 分かってる、分かってるよ。あたしのパパとママをヴォルフに殺させたのはあいつなんだから。お兄ちゃんが人殺しになったのはあいつの所為なんだから。本当に反吐が出そうな人間だよ、フェスタは。狭量で凶悪で強欲で自尊心が高く、血に飢えて性格も蛇よりねちっこくて最悪。オマケに自分が誰よりも賢いと思ってる。嫌味な事に実際、頭はキレるしね。
 でも、だからこそ、まずはフェスタにノクターンを預ける」
「なんだと?」
「あの人の器量じゃあ、長くは持たないよ。あれはただの賢いバカでしかない。人の上に立つ器じゃない。ノクターンほどの組織を纏める事は出来ないよ。いずれ、すべてが瓦解する。間違い無いね」
「だが…それまでは血の雨が降る。もし奴の足元が崩れ始めても、奴はしつこく暴れるぞ。そうなれば、地獄のような混乱が起こる」
「それこそ、望むところだね」

 ニッコリと微笑む少女に、アーロンは今度こそ絶句した。
 今更のように、この少女の内側の在り様を認識する。父親代わりのヴォルフも、自分も、実兄である北川潤も、そして恐らくはこの世界に脚を踏み入れてしまうまで少女本人ですらも誰も知らなかったであろう、北川姫里の本性を。

「そうなれば、あたしみたいな小娘にもチャンスは訪れる」
「キサト」
「リック、あなたは早急にアドルファス・ファミリーを纏めて。これはあなたにしか出来ないことだよ」
「……ファミリー。それだけの手駒でフェスタに食い込み、政争の間を泳ぐつもりか。無謀だ」
「大丈夫、他の幹部の援護を得る自信はある。それに他にも手駒はあるもんね。例えば、『粛清者』とか」
「今、何と言った? 『粛清者(パニッシャー)』、と云ったのか、キサト」

 自分の耳を疑うかのようにうめくアーロンに、姫里は「言ったよ」と平然と答えた。

「バカな。あれは円卓会議直属、どこのファミリーにも繋がらない完全に独立した戦闘部隊だぞ。それをどうやって……」
「粛清者の隊長【ブラックジャック】フレッチャーの出自を知ってる? 彼も、そしてあの部隊もそもそもはね、かつて排斥され憤死したノクターンの創始者バーナード・オーウェン直属部隊なんだ。だから、あの部隊はどこのファミリーからも独立した部隊として存在してる」
「知っている。だが、それがどう繋がる」
「彼らは未だ忠誠を忘れていなかった。オーウェンの血に対する敬意を失わない騎士だった。あたしの殺されたママ、北川遥の本名はルクシアナ・ホージョー。でも、それは母方の名。本当の旧姓はルクシアナ・オーウェン」
「――ッ! まさか」
「そう。ママはバーナード・オーウェンの末娘。パパとママが組織から抜け出すに至った理由の一つが、その血筋だったんだよ。そして、あたしとお兄ちゃんは正式なノクターンの後継者たる権利を有している。
 知ったのは偶然。詳しく調べるには随分と時間がかかったよ。勿論、騎士様たちの忠誠を得るにもね」
「お前は、正統な権利を取り戻すために今回の――」
「違う、それは違うよリック。そんなもの、関係無い。きっかけかもしれない。この野心は血筋故かもしれない。でもね、その為に動くんじゃない。そんなものに動かされるんじゃないよ。血なんて、利用すべき手段に過ぎない。
 あたしはね、あたしの欲望のままにあたし自身の意思で力を、ノクターンを手に入れようとしてるんだ。奪い取ろうとしてるんだよ。決して、取り戻そうなんて思ってない」

 捲くし立て、肺の中の空気をすべて吐き出した姫里は、大きく息を吸って呼吸を整える。

「ともかく、あたしはあたしの手札を揃えてる。リック、あなたというカードも手に入れた。もう、全部揃え切った。あたしは、万全を整えて勝負に打って出る事が出来る」
「揃えた? ボスの子飼。俺やクリフォードと同じ『アドルファスの牙』と呼ばれる者たちはどうする。彼らは、ボスでなければ御せんぞ」

 消えない危惧に半ば勢い込むかのような口調になってしまい、アーロンは前のめりになった自身の体躯を持ち直し、威圧するが如き気配を緩めた。
 もっとも、少女はニコニコと笑うだけで、何らの挙動も見せない。
 それどころか、彼女は唇の歪みを深めてみせた。それはもう、嗤っているとしか言い様のない程に。

「ねえ、リック。なんで彼らがわざわざ分散させて土地鑑もバックアップも受けられない場所に待機させられてると思ってるのかな」
「……キサト、お前は――」
「彼らはヴォルフと同じ狼。誰の手綱も受け付けない。決して飼う事の出来ない誇り高き狼たち。いずれ、ボスを殺したのが誰かも知れる、その時彼らの内の多くがどういう行動に出るか。危険な要素は排除しなくちゃいけないね。
 円卓会議が終れば、フェスタが動くよ。あの男にとっても彼らは目障りだろうから。あれの犬がし損なえば、粛清者を使えばいい。手順は決めてある」

 覚悟を決めていたとはいえ、やはりアーロンは動揺を抑えきれなかった。彼女ははっきりとこう言ったのだ。犬になれない狼は全部殺してしまうのだと。
 東京、ブルゴーニュ、バルセロナ、シアトル、ケベック、ブルックリン。各地に散らばった全14名の牙たちの運命は、もうとうの昔にこの少女によって握られ、握りつぶされてしまっていたのだ。
 何もかもが、この少女の掌の上。戦慄を抑えきれない。彼女が危ない橋を渡ったのは、自分を味方に引き入れる時のみだろう。その時だけは彼女は賭けをしたという訳だ。すべてを台無しにする危険をおかして。
 そこまでの価値が自分にあるかは分からない。だが、例え仲間を裏切り、皆殺しにしたとしても後悔はしないとアーロンは再度、覚悟を決め直した。
 『俺はお前と共にある』――その言葉に繰り返し。

「だが、キサト。お前の兄はどうする。彼はお前の行動を認めるとは思えない。彼が望むものは平穏だ。穏やかな陽射しの下の世界を彼は懐かしんでいる。お前の行動は、その正反対に突き進むもの。彼は、間違いなくお前を止めようとするぞ」
「……お兄、ちゃん」

 紛れもない愛しさを篭めて、姫里はその言葉を舌先で転がした。まるでワインの美味を楽しむかのように。

「リック、お兄ちゃんにはナンバーS57YのARESの命令を送って」
「……? それは、どういう内容だ?」
「ある製薬会社からの暗殺依頼。莫大な利益をもたらすであろう革新的な特効薬、その独占販売に邪魔な存在だそうだよ」
「……分からん。この状況で、どうしてそんな仕事を命令する」

 姫里は、乾いた喉を手にしたグラスに入った液体を流し込む事で潤そうとした。
 だが、それは焼け付く火照りとなって、何一つ渇きを癒さない。

「それはね、選択なんだよ。お兄ちゃんに贈る、あたしからの選択」

 それでも湧き上がる高揚を抑える事無く、姫里はそのまま唇に乗せて吐き出した。

「あの人には、お兄ちゃんには選んでもらう。この選択を突きつけられて、もしお兄ちゃんがあたしを選んでくれるのなら、それはあの人があたしだけを見て、あたしだけを思ってくれる。そうするしかなくなるという事。あたしだけを愛してくれるという事」
「選ばなければ?」

 少女は右手で眼を覆い、甘く切なく口ずさむ。

「手に入らないくらいなら――――

   あたしのものにならないくらいなら――――


殺すしかないね」




 笑いが、溢れ出して来る。喉の奥からせり上がってくる凶暴な感情を、少女はそのまま哄笑として吐き出した。
 箍が外れたかのように笑い続ける。



 ――――そう、お兄ちゃん、これは選択。
 ――――殺してもらうよ、自身の手で。
 ――――お兄ちゃんの心のすべてを占めているあの人を。


「……美坂香里を、殺してもらうよ、お兄ちゃん」




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