階段を駆け上る。埃と瓦礫とガラスの破片が散乱しているため、足音は酷く殺し難いが今は気にする事も無い。
 爆音と銃声が轟く最中で足音を気にするほどの愚鈍さは生憎と持ち合わせてはいなかった。
 それでも階下からのオーケストラは階段を登るにつれて遠ざかる。同時に夜の静謐がヒシヒシとその密度を濃くしていく。上も下も変わらぬ戦場だというのに、この隔絶感はなんなのだろう。
 天国への階段を駆け上がっているかのようだ、と北川潤は苦笑混じりに連想した。それとも処刑台への十三階段か。どちらにせよ、死に近づく事には変わりない。そして、誰に対しての死かは、これから決定される。

「傲慢、だな」

 闇色のロングコートを身に纏い、両手にベレッタをぶらさげた暗殺者は、背中を壁に預けて瞑目する。
 人の生死を当然のように弄ぶようになってしまった自分の立場は、きっと傲慢極まりないものなのだろう。
 疑問を抱き、罪を意識し、後悔に塗れたとしても、もはや迷う事の無い自分の殺意。
 いや、違う。それは違う。迷わないのでは無い。自分は諦めてしまっているのだ。
 今更、繕うものもありはしないくせに、自身の内面すら誤魔化し、目を逸らす。
 そんな自分を嘲笑い、自虐し、侮蔑しながら標的を殺す。毎度の事だ。そうやって、サラームは人を殺す。
 救いがたき、スタイル。
 今になってそんなことを考えるとは、やはりあいつと再会したからなんだろうか。


 北川は階段を上がりきると、踊り場からフロアの気配を窺った。
 ここまでの階層に敵影は存在しなかった。多人数による待ち伏せに最適なのはこのフロアだろう。鉄骨が剥き出しとなり吹き抜けと化した広い空間と、適度に散らばる身を隠せる障害物。
 だが、神経を研ぎ澄ませて内部の様子を探っていた北川は、違和感に眉端を傾けた。
 全く人の気配がしない。気配を殺しているというイメージは不思議なほど湧かなかった。壁一枚隔てたそこは完全に隔離された別世界の如く絶対の静寂に満たされている。生気の消え失せた世界が広がっているかのような錯覚すら抱く。

 だが、いつまでも此処で燻っている訳にもいかなかった。敵の増援がいつ現れるか分からない。階下に敵がいないのは探索済みだが、工場部と繋がっている以上安心は出来ない。挟み撃ちなどされては流石に対応しきれなくなる可能性が出てくる。

「それに、グズグズしているのは性にあわねえしな」

 呼吸を整え眦を決す。ベレッタの残弾を確認し、沈黙なる世界へと突入する覚悟を決める。
 若き殺し屋は一挙動しか自らに許さない。反転、内部に突入すると同時に月明りに浮き上がるフロアの四方に視線を走らせ、同時に銃口を左右に巡らせる。
 だが、一歩フロアへと踏み入った瞬間、北川はそこが既に死界であると悟り、愕然と目を瞬かせた。
 まるで薄い幕が張り巡らされていたかのように、外と内は隔絶している。広々としたフロアのはずなのに、そこにそれはおぞましいほど満ち満ちていた。闇に潰れた赤い色。澱んだこれは血の匂いだ。嗅ぎなれた硝煙の匂いはまるでしないというのに、鮮血の残り香だけが静かにたゆたっている。

「なにが、あったんだ?」

 フロアに転々と転がるのはもはや呼吸の途絶えた骸ばかり。北川は一瞬だけ混乱に動きを止めた。仲間割れ? まさか、この状況で? 有り得ない。ならば、この惨状をどう説明する。
 銃器が使用された形跡はまるでない。目の前に転がっている骸は、驚愕と混乱に彩られた死に顔を天井に向けている。いったい何が起こったのか分からず絶命したのだろう。

「違う、敵がいるのか」

 敵……誰に対しての敵か。決まっている、転がっているのが下にいた連中の同類である以上楊誡元の敵だ。だが、それがイコール自分の敵ではないという図式には当てはまらないだろう。敵の敵は味方などとほざけるほどこの世界は悠長ではない。
 それにしても、十名近い人間を発砲すら許さずに――それも見たところ銃によるものではなく――殺し切っている。闇に紛れての不意打ちであろうとはいえ、それがどれほど化け物じみているか。考えるまでもあるまい。
 自分には無理だ。断言できる。こいつは我が師崔尚成(チェ・ソーシュン)に勝るとは言わずともその実力に迫る力量を持つものの仕業だ。
 そして、そいつは戦慄すべき事に、間違いなくまだこの近くにいる。血の鮮度が、香りの濃さが、それを教えてくれた。
 これは、まさにたった今ぶちまけられた生き血に違いない。恐らく、二分と立っていないだろう。

 ――馬鹿な、オレは何を理屈づけてやがる。

 落ち着けと心の中で叫びながら、北川はカタカタと震え出す自らの精神を叱咤する。
 そうだ、そんなものは後付けの理由に過ぎない。本能が叫んでる。恐怖に慄いている。この惨状をぶちまけたであろう相手が、まだこのフロア内に存在しているという事を、泡立つ肌が教えてくれる。
 疑問の余地はまるでない。何しろ、背筋が震え上がるのを、膝が震え出そうとしているのを、今自分は必死に抑えているのだから。
 敵は今、此処にいる。どこからかじっと此方を窺っている。草むらに潜む獣のように。牙を突きたてるために。はらわたを食い千切るために。
 なんて……なんて無機質な気配。最初は気取る事すら出来なかった。その殺すという意思を向けられてやっと気付くとは。解かる。急造の自分とは違う。こいつは息をするように人を殺す本物の生粋の生来の人殺しだ。
 首筋が酷く寒い。今にも心臓に刃が突き立てられそうな恐怖が湧きあがる。恐怖、恐怖。そんなものを感じたのはいったいいつ以来の事か。いつだって死を身近に感じてきたというのに、これほど自身の死を意識した事があっただろうか。
 怯えている自分に苦笑する。なんて無様。これがあのSSSクラス暗殺者【サラーム】だというのか。まるで、肉食獣に前脚を掛けられたドブネズミではないか。何もかもを捨て去った愚か者も、生命としての本能には逆らえないという事なのか。

「今更、恐れるのかよ、オレは」

 そうだ。怯えるなど、恐れるなど、自分には贅沢すぎる。
 例え相手が完全に自分より格上の殺人者だろうと、そいつが自分の命を舌なめずりして注視しているのだとしても。もはや自分には怯える資格すらない。
 無機質になれ、と唱える。無感動になれ、と命じる。そうだ、冷ややかに心を凍らせろ。グリップを握れ。トリガーに指をかけろ。銃弾に殺意を乗せろ。殺すという罪を意識しろ。
 来る。敵が来る。どこから来る。どこからどこからどこから――

「後ろっ!!」

 内臓を素手で握り締められたかのような薄ら寒さが背筋を過ぎり、北川は身体を前へ投げ捨てるように投じながら腰を捻った。
 間一髪、首筋に突き入れられるはずだったナイフの切っ先が闇を薙ぐ。いったいどこから背後を取られたのかさっぱり分からない。気配を隠すというのもおこがましい完全なる神業。闇に紛れての事とはいえ人間業ではない。これでは、此処にいた連中がろくに抵抗も出来なかったのも無理は無いかもしれない。
 全身黒ずくめのナイフ使いは、辛うじて転倒を免れた北川へとタイムラグなしに両手のナイフを胸元で交差させつつ飛び掛った。

「ヒュッ!」

 鋭い呼気とともに繰り出されるナイフの乱舞。至近距離での戦闘においてはあらゆる火器の追随を許さぬ脅威、コンバットナイフによる連撃をだが北川は両手に握ったベレッタの銃身でもって凌ぎきる。

「くそ……ったれがぁ!!」

 肋骨の間に差し込まれそうになった切っ先を弾きながら、狙いもつけずに引き金を引いた。黒ずくめの爪先の床で9o弾が弾ける。
 それまでまったく見当たらなかった完璧なる(チェックメイト)への指し手がかすかに乱れたのを北川は見逃さない。
 よろけた相手の腹を蹴り、その反動で距離をあける。埃を巻き上げながら左手を跳ね上げ、ベレッタの照門を――――

「―――ッ!?」

 時間さえあれば声をあげての絶賛を惜しまなかっただろう。敵は躊躇いも迷いも無く常に最善手を最速の判断で選び実行していた。その挙動は完璧なまでに無駄がなく美しいとすら思ってしまった。
 照門と照星の向こう側に垣間見えたのは、鋭利なスナップにより虚空へと解き放たれたナイフの先端。その軌道の行き着く先は呆れるほど正確に此方の眉間へと――。
 首を傾けて避ける暇すらなかった。辛うじて銃口を数ミリずらしトリガーをひく。マズルファイア。眼前で悲鳴をあげてあらぬ方角へとナイフが弾かれる。
 瞬間、閃光と硝煙に霞んだ視界が晴れたその時にはもう、ヤツは手を伸ばせば喉を締め上げられるほど間近にいた。左手に衝撃が走る。やつの手にある最後のナイフが左のベレッタを弾き飛ばし、そのまま空を泳ぐ蛇のように鮮やかにのたうち、首へと流れた。

 ―――ガキッ!!

 金属同士がかち合い、かすかに火花が飛び散る。
 互いの顔前にてクロスし震えるベレッタとコンバットナイフ。北川潤は戦慄と胸の奥から湧き上がる獰猛な殺意に自然と歪む口端を釣り上げて、敵に、こいつに吠えかける。

「それが本物のお前かよ。とんでもないな、化け物め。それにしてもよ、これも因果か? 呪われた運命ってやつか? どちらにせよろくなもんじゃねえ。こんなところで会うなんて。だがな、次に会う時は躊躇しないとオレは云った。殺すと云ったぞ、相沢ァァァァッ!!」

 対して、黒きナイフ使い――相沢祐一の表情は欠片も動かない。眉をピクリとも動かさず、酷薄に輝く瞳を揺らぎもさせず。
 おぞましいほど冷たい声で、かつての親友に告げるのだ。

「そうだな、必然なのかもしれないな。避けられないのかもしれない。ならば躊躇う必要も無い。俺は決めたよ、北川。悩んで、呪って、憎み、決めた」

 ナイフが引かれ、均衡が唐突に消失する。勢いのまま流れていくベレッタ。北川は踏みしめる床に杭を打つかのごとく足に力を込め、腕の筋肉を弾けさせ祐一の眉間に銃口を押し当てた。
 ああ、分かっている。これは必然なのだ。ならば、この形もまた必然なのだろう。
 北川潤は獣のような薄らとした笑みを浮かべた。自身の額に当たる自動拳銃ヘッケラー&コッホP8、その無慈悲な叫びが放たれる口蓋の冷たさに打ち震えながら。
 互いの脳味噌を吹き飛ばすべく、銃を突き付け合ったまま。祐一は淡々と決意を伝える。

「お前を殺す。俺の手で、お前を殺す。そうすれば香里に伝えることができる。お前が待っているやつは死んだんだと。北川潤はもう二度とお前の元には帰ってこないんだと。そうして北川という香里の呪縛を叩き切ってやれる。だから――」


 ―――北川、お前は俺が殺してやる。


 それは甘美な提案だった。優しい言葉だった。死人と何ら変わることの無い今の腐った自分を、こいつの手で終らせて貰えるのなら。そして、香里が未だ諦められないものを解いてくれるのなら、きっとそれが最善なのだろう。
 もう戻れないのならば、いっそ終らせてしまった方が楽なのだろう。
 だが、だが。

「悪いな。オレはまだ死ねない。死ぬ訳にはいかねえんだわ」

 北川潤は刹那、獰猛な笑みを消し、見るものすべてに切なさを感じさせる、そんな微笑を浮かべて見せる。
 その双眸が見つめるは過去。すべての終わりの始まりだ。


 ――――『最低な父親だな、子供に地獄を歩かせようというんだから。だが、それでも、生きてくれ、頼む、あの子を守ってやってくれ』

 無数の弾丸に身体を穿たれながら、父親はそういって泣いた。
 そして、自身を呪いながら死んだ。
 そうだ、オレは託された。銃を取り、世界を諦め、友と愛する人を捨て、手を血で染め上げる事で地獄を歩くことを選んだ。
 ただ、この光の届かぬ世界に囚われた妹を守るために。最期まで自分たちを案じて逝った親父とお袋の遺志を守るために。
 そのためには、まだ地獄の中を歩き続けなくてはいけない。終わりの無い煉獄を、悶えながらも行かねばならない。死ぬ訳にはいかない。
 それが北川潤の選んだ道なのだから。

「地獄ってのはさ、幾ら墜ちても墜ちても底が見えないよ。それでも、オレは墜ち続けなきゃいけないんだ。オレの前に立ち塞がるというなら、相沢……オレはお前を」

 刹那、唇が戦慄き、喉に千切れるような痛みを感じた。決別の言葉は、こんなにも重たく、苦痛に満ちて、発せられる事を拒絶する。
 ああ、相沢よ、皮肉だな、キツイ皮肉だよ。この後に及んで、いやこういう状況だからこそ此れ以上なく断言できるなんて。互いを殺しあおうとしている今だからこそ、限りなく実感しているなんて。
 北川は瞳に慟哭を宿して、声にならない歌を唇に乗せた。

 相沢祐一、お前はやっぱりどうしようもなくオレの一番の親友なんだな。

 同時に、引き金に力が篭もる。トリガーを引く冷たい意思、二人のそれは兄弟のように似通っていた。
 決定的な別離。もはや交錯する事も叶わない分岐への一歩。それはいずれ彼らの間に訪れざるを得ないものなのかもしれない。

 だが、まだ早いのだ。

 血と憎悪を好み、悪夢を愛でる運命の女神は、此処で結末を迎えてしまう事を許さない。
 彼女は何より残酷なる悲劇をこそ慈しむ者であるが故に。


 ガラスが残らず割れ落ちた窓の外から飛び込んできた一発のライフル弾が二人の眼前を通過したのは、殺意が起爆しかけたその瞬間。
 途端、混ざり合うほど重なり合った祐一と北川の激情と意識がチャンネルを変えたかのように無機質な戦闘機械(プロフェッショナル)のそれへと戻った。
 祐一と北川は背後に飛び退りながら、互いに突き付け合った銃口を弾かれたように工場部との通用口へと向ける。今、まさに此方に向かってサブマシンガンの弾をばら撒こうとしていた男の額に黒い空洞が穿たれ、後頭部から赤黒い脳漿がぶちまけられる情景が二人の視野に映された。
 その倒れ行く骸の向こうに蠢く無数の人影もまた二人は認める。

「増援か、早かったな」

 呟きながら牽制にP8のマガジンが空になるまでばら撒いて、祐一は抜き放った『CZE Vz61“スコーピオン”』短機関銃のセーフティを外す。
 それにしても、敵がトリガーに指をかけるまでその存在に気付かなかったとは、自分もそして北川も自覚以上に周りを見失っていたようだ。

「今の狙撃、誰だ?」
「……名雪だ」

 柱の影に身を置きながら、北川は酷く複雑そうに窓の向こうを一瞥した。闇に沈んだ廃ビルが窺える。

「水瀬が? あそこから?」

 北川は思わず舌を巻いた。

「ふん、あの水瀬がね。人は見かけに寄らないもんだ。彼女にそんな才能があるとはな」

 これでも狙撃に関しては組織でもトップクラスの自負はある。それだけに、あの距離、この風、この暗がりの中で平然と味方がいる狭いフロアに銃弾を放り込めるその技量の凄まじさは嫌という程解かった。
 多分、自分よりも上。もしかしたら組織で最高の狙撃手と謳われるあの【インヴィジブル・ランサー】とすらタメをはれるかもしれない。

「さて、それはいいとしてどうする、相沢」
「…………」
「このまま三つ巴といくか?」

 祐一は先にスコーピオンの弾をばら撒いて敵を牽制すると、北川の方を見ずに一言問うた。

「お前のターゲットも楊か?」
「ああ」

 一瞬、目端に困惑を走らせ黙考した祐一だったが、壁の向こうの敵が怒鳴り声混じりに集結しつつあるのを察し、舌打ちする。

「共倒れはごめんだからな。北川、お前が行け」
「ふん、いいのかよ」
「なんだ、後ろから撃つか?」

 北川は少し考え、首を振った。

「いや、そこまでする必要を認めない。お前と違ってな。だが、抑えられるか?」
「名雪がサポートについている。それに装備も俺の方が揃ってる。お前はベレッタ二挺だけだろう」
「ああ」
「……あのな北川、忠告させてもらうとお前映画に影響されすぎだぞ」
「……いいだろうが、別に」

 憮然とした北川に一瞬祐一は微笑を閃かせ、だがすぐさま無機質な面持ちに戻ると顎を杓った。

「行け。お前を殺すのは後回しにしてやる」
「ほざけ」

 軽口のように返し、足元に転がるベレッタの片方を拾い上げながら上階に繋がるフロア奥の昇降口に向かって背を向けた北川に、祐一は引き止めるように唐突に声をかえた。

「北川」
「なんだよ」
「姫里はどうした」

 北川を視界に捕らえていなかったにも関わらず、祐一にははっきりと彼の背中が戦慄いたのが見えた。

「いるさ。オレと同じ場所にな」

 吐き捨てるように言い残すと、パラパラと銃弾が飛び込んでくるフロアを北川は走り去っていった。
 刹那、祐一は虚脱したように薄汚れた天井を見上げる。

「そいつがお前の『理由』か?」

 その問いかけに答える者は既にこの場から去り、またその答えを聞きたいとも思わない。聞くだけ無駄だ。
 運命。唐突に祐一の脳裏を過ぎる。そいつが冷笑を浮かべて嘲るようにこちらを見下している姿が見えた気がした。

 ドンという衝撃音。もう一箇所存在するエントランスからの非常口。枠がずれ開閉が不可能になっていたそこが蹴破られる。
 だが、そこからなだれ込もうとした一団は、名雪の狙撃に狙い撃ちされのたうちまわる怪我人を残してすぐさま押し返された。

 頼もしいことこの上ないが、そう長時間は支援を期待できない。すぐに狙撃ポイントは特定されて、名雪の下に別の一団が襲い掛かることだろう。
 本来ならば、狙撃地点は一度場所を晒したらすぐに別の場所に移動するのがセオリーなのだが、名雪にその動きは見られない。
 多分、自分の支援をするためにギリギリまでその場から動かないのだろう、と祐一は幽かな苦味とともに恋人の思考を慮った。彼女の最大の欠点がそれだ。彼女は相沢祐一に拘りすぎる。
 だが、祐一は彼女に苦言を呈しようとは思わなかった。少なくとも、彼女は拘りすぎてすべてを台無しにしてしまうほど愚かではない。祐一は水瀬名雪の判断を信頼していた。

「それにしても……」

 スコーピオンの弾倉を換えながら、祐一は先ほどの北川との会話で抱いた困惑に再び意識を向けた。

「おかしいな。楊の日本進出はノクターンのお膳立てだと聞いてたんだが」













  to be next bullet.





目次



【CZE Vz61“スコーピオン”】
 作者の中では『ファントム』のエレンが使っていたのが特に印象に残っている旧チェコスロバキア製小型短機関銃。1961年に制式採用される。
 使用弾は7.65mm×17(32ACP)。近年主流の9mmパラベラムと比べるとやや力不足の感があるが、その分フルオート射撃時の反動が小さいとされ、コントロール性については折り紙つきである。 これはグリップの下側にあるレイト・リデューサーというノブを回すことで発射速度を一分間に最高750発まで調整、つまり発射速度を落とす事が出来(最高は毎分950発)、これがフルオート時のコントロールを容易にしている因の一つといえる。 この種の小型なサブマシンガンはボルトが小さくピストンの後退量も少なくなるために発射サイクルが速くなりすぎてしまう欠点を備えているために、非常に制御に難がある。例えば『イングラムM11』など。それだけにこの種の装備は有効であると言えよう。
 形状としても色々と特殊。フロントサイトはストックを折り畳んだ時のストッパーと兼ねたフロントサイト・ガードで守られている。 またマガジンはフォアグリップとして使用できるように設計されている。これによりスコーピオンは左手でマガジンを握り、親指をトリガーガードに当てて保持できる。右手はフリー。つまり片手で扱えるのである。
 またとにかく小型なためか特殊部隊用として扱われる事も多く、専用のサイレンサーなども製作されている。他にもテロリストやゲリラにも大人気。 ちなみにスコーピオン(蠍)のニックネームの由来はフォールディングストックの形状からきているらしいです。
 ただ、やはり7.65mmx17弾は威力不足なのか、Vz64は9mmショート(380ACP)、Vz65は9mm×18(9mmマカロフ)、Vz68は9mm×19(9mmパラベラム)などの威力を増した新作モデルが登場しているとか。

 全長:269mm /重量:1.31Kg /口径:7.62mm×17 /総弾数:10/20


inserted by FC2 system