KANONONE.

この二つの世界は互いにコインの裏表の如くでありながら、合わさる事のない同一にて別個の存在。

だが互いに干渉できない二つの世界が、実に数千年ぶりに再び接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Double Promise(ダブル プロミス)

 

 

 

序章

 

 

KANON最北端にあたる、篠雪という名の村。

相沢祐一は村で最も高い高台で空を眺めていた。

「ゆ〜〜いち〜〜っ?」

おそろしく間の延びた、聞き覚えのある声が後方から聞こえる。

振り向かずとも正体はわかる。

「お目覚めのようだな。名雪」

半年前から厄介になっている、従姉妹である水瀬名雪に、爽やかな声をかける。

「う〜、ひどいよ〜。祐一が起こさないでいたから、起きたらお昼になっていたよ」

未だに半分寝ぼけているのか、祐一の隣に座り、目を擦りながら抗議してくる。

「一応起こそうともしたんだが、反応がなかったしな。揺らしても無駄だったんで、蒲団から引き摺り下ろしたんだけどな、寝ぼけたまま這い上がって、また寝たんだぞ、お前」

「えっ、嘘!?」

「冗談だ」

「酷いよ〜。祐一」

真顔でさらりと言ってのける祐一に、頬を膨らませて文句を言う名雪。

ちなみに祐一が起きたのは今から四時間以上前のことで、名雪は昨日から眠った時間を計算すると、半日以上寝ている計算になる。

見事なまでの眠りっぷりだ。村中から『眠り姫』と呼ばれるあだ名は伊達ではないらしい。

放っておけば丸一日寝ているのかと祐一は思ったのが、どうやら杞憂に終わったようだ。

「う〜。何か酷い事、考えていない?」

「いや全然全くこれっぽっちも欠片ほどにも思ってないが」

「なんかこの上なく怪しいよ〜」

名雪がむくれるがいつもの事だからと思い、祐一はあっさりと無視する。

 

 

 

祐一がこの村に移り住んですでに半年が経つ。

住み慣れた街を離れ、従姉妹のいるこの最果ての村に向かう事を、祐一の知り合いたちは目を丸く見開いて驚いた。

祐一の資質を知る者は、てっきりそれを磨くために王都などといった都会に繰り出すものと考えていたため、皆祐一の行動が理解できなかった。

祐一も自分の行動に、今一つ理解できない部分もあった。

自分自身ついこの間まで、あの村に行くこと事態を嫌っていた。

昔はこの村に雪と従姉妹に会いによく遊びに行っていたものだが、いつからかばったりと行かなくなってしまっていた。

あの場所に行く事を拒絶しているかのように。

しかし、それでも祐一は行くことに決めた。

7年ぶりの従姉妹に再会するため。

そして胸にあるざわめきの真意を確かめるために。

 

そして向かったのはいいが、待ち合わせの場所で二時間近く待たされ、危うく出鼻を挫かれそうになった。

 

時間が経つにつれ、隣でう〜、う〜唸っていた従姉妹も落ち着いたのか、二人揃って空を眺めていた。

「そういえば祐一。今日の狩りの結果はどうだった?」

「別にいつもと変わらないぞ」

最北端ともなると流通もそれほど発達していないので、自然と自給自足が主体となる。

祐一はもっぱら狩りをする事によって、家計を助けている。祐一の『いつもと変わらない』は、しばらく生活するのに困らないといったほどの収穫だった。

「祐一って、相変わらず狩りとか上手だよね。それだけの腕があるなら、王都とか行って剣士になれば良いのに」

「そんなモンに興味ねーな。第一そういう所に使われるのが苦手だって、名雪も知っているだろう」

協調性がないという訳ではなかったが、祐一にしてみれば、好きでもない所に所属して、命を賭けるという大それた事を、出来るわけがなかった。

半年前に住んでいた街では、夜盗などの被害が多かったので仕方なく自警団として働いていたが、この村では特にそういう事もなさそうだし、暫くはのんびりするつもりだった。余談だがその自警団の中で、祐一に勝った者は誰一人としていない。

「けどもったいないとも思うよ」

「まーな、気が向いたらそういう事も考えておくよ」

そう言って祐一は再び空を見上げた。

「祐一ってね」

不意に名雪が空を眺めながら言った。

「よく空を見ているよね。何で?」

「『何で?』って言われてもな」

言われて祐一も首をかしげる。

祐一とて別に小さい頃から、空を眺めるのが好きだったわけではない。

気がついたら、空を眺める機会が多くなっていた。

そのきっかけが自分でも覚えていない。

祐一には7年前の記憶が欠落している。

一時的にだが、その時がまるで靄がかかったかのように思い出せない。

いや覚えている。たった一つだけ、胸に残った喪失感。

何か大切なモノを失った、確かその後からこの蒼穹を眺める事が増えたのだ。

――何を失った?

自分自身に、そう問い詰めても何も返ってこない。

 

「うぐぅ」

唐突に奇妙な鳴き声が聞こえ、祐一の思考が中断された。

「名雪。前から変わっているとは思っていたが、随分と変わった鳴き声をするもんだな」

祐一が呆れた表情で、名雪を見る。

「祐一、酷いこと言ってない? それに私、何も言ってないよ」

半分ぐらい拗ねた口調で、名雪が言い返す。

「そうか? あんな変わった鳴き方するなんて、お前ぐらいしかいないと思っていたが」

「やっぱり酷いこと言っているよ〜。それに私、変じゃないよ〜」

「自覚しとらんのか、お前は…」

「う〜」

「うぐぅっ!」

「ほら、変だろう。上の方からはっきりと…って上!?」

驚きつつも上を見上げると、お日様を背に奇妙な声を発する物体が、祐一の眼前にまで迫っていた。

そして祐一がそれを人だと認識するよりも早く、接触する。

いやこの場合、激突でも言った方が正しいかもしれない。それほどインパクトがあった。

ズドン!!

「わっ、すごい音がしたよ」

名雪がいつもと大して変わらない口調で言うが、当の祐一にとってはその程度で済むわけがなかった。

「ぬああああああっ。し、死ぬ」

どのくらいの高さから降ってきたかは推測できないが、ダイレクトに祐一にヒットしたのだ。痛くないほうがおかしい。

それでも何とか痛みを耐え抜き、降ってきた相手を自分の胸元から引き摺り落とす。

「変な声上げながら空から降ってくるなんて、非常識にも程があるぞっ!」

胸をさすりつつ非難の声を上げる祐一だが、振ってきた張本人は目を回して気絶していた。

栗色の髪に幼い顔立ち。見た感じで、女姓だとわかるし、自分よりも少し年下だろうか。

「おい、どうするよコレ?」

半ば呆れながら指差す。

空から降ってくるなんて怪しい事この上ないが、このまま放っておくわけにはいかないし、恨み言の一つでも言わないと気がすまない。

何より祐一は性格上、厄介事に巻き込まれるのをわかっていても、こういうのを見ると放っておくことが出来ない。

「とりあえず家につれて帰ろうよ」

名雪も従姉妹だけあって、祐一と同じような気持ちだった。

「んじゃ、この珍妙たる物体『うぐぅ』をつれて帰るか」

祐一は勝手に命名した未確認物体「うぐぅ」を背負うと、村に向かって歩き出した。

 

 

あとがき

どうもはじめまして作者の無雅霧衷です。

このたびはこのSSを読んでくださってありがとうございます。

管理人さんと呼んでくれている方へ多謝。

この作品はとりあえずKANONONEのクロスオーバーです。気長に見てください。

それではまた。

 

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