仮面戦記KANON 第三話「危機脱出」

                 


「君は何しに来たんだ」
「助けに来た」
即答。
しかも、全然説得力はなかった。

「ぜんぜん助けになってないだろう。大体どうして弾切れするわけ」
「だいたい、僕はお前がこんなに苦戦しているとは思わなかったんだ」
「君がいたらこんなに苦戦してなかったよ」
「知らん」

エプシロンの非難の声をあっさりと無視してユプシロンは現在の状況を分析した。
敵はリヴァイアサンとターゲットである相沢祐一。さらに、銃弾を叩き落したマスキーレンの参戦も予想されるため敵は三人。こちらの状
況は、負傷者が一人。黒い装飾銃ブリューナク≠ヘ使用不可。白い装飾銃グングニル≠ヘ銃弾のタフルム≠ェ無いためやはり使用不
可。グランツルーフ(輝きの叫び)≠ヘ大量の出血とダメージによってエプシロン自体がかなり消耗しているため、恐らく使用不可能だ
ろう。つまり大ピンチということになる。
これが、エプシロンとユプシロンが生き残るために、打開しなければならない状況だった。

「君のマスカレイド、ヴァールハイトフォーム(真実の方式)≠ナ何とかならないかな」
「まず不可能だ」
「だよねぇ。じゃあどうする」
えプシロンは紫色のマスカレイドの下でにやり、と笑う。
大ピンチであるにも関わらずエプシロンの内心は穏やかだった。何故なら自分がユプシロンと組んで失敗したことなど無きに等しかったか
らだ。

「強行突破しかないな」

ユプシロンは飛んできた光球を紙一重でかわすとすばやくコートの下からブリューナク≠引き抜く。
そして、再び戦闘が開始された。

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「おい。相沢」
「へ?」

突然、自分の名前を呼ばれたため祐一はまともな返事を返すことができなかった。

「一気にたたみ掛けるぞ。俺はあ銀髪のマスキーレンを潰す。おまえは紫色のマスキーレンを潰せ。いいな!」
リヴァイアサンはそう言うと両手に水の刃を作り出し、標的に向かって走り出した。
「おい、ちょっと待て!何でお前が銀髪野郎の相手なんだよ!」
「紫色のマスキーレンの能力はまだ確認されてないからな。しかも、灰色の奴の黒い銃は危険すぎる。当たらないようにがんばれ。それに
比べて銀髪は負傷してるからな。明らかに銀髪の相手をしたほうが楽だ」

くるり、とその場で方向転換してリヴァイアサンは平然と言ってのける。

「結局、手前が楽したいだけじゃねえか!」
「おう!当たり前だ!楽なほうが良いに決まってる!」

本音をさらりと言うリヴァイアサンに少しだけ祐一は殺意を覚えた。

「と言う事でがんばれ」
再びその場で方向転換して彼はエプシロンへに向けて走り出す。

「くそ!解ったよ!やってやろうじゃねえかこの野郎!」

ほぼヤケクソ気味に叫び、祐一はユプシロンがいる場所に向けて右腕を突き出す。
マスカレイドの額の宝石―マナクリスタルが輝きを帯びる。

「いくぞ!」

手の平に光の粒子が収束し、それは一つの光球へと姿を変える。
頭の中に一つの言葉が浮かびあがる。
祐一はそれを躊躇無く絶叫した。

「シャイニングレイ!」

光球がユプシロン目掛けて放たれる。
祐一は攻撃が効いたかどうかも確認せず、前方へと駆け出した。
祐一のマスカレイド、フライハイトゼーレ(自由意志)≠フ攻撃能力は高い。だが、能力を使う度に体力か精神エネルギーを削らなけれ
ばならない。つまり、長期戦に持ち込まれると祐一としてはかなり苦しい。
ならば、短期決戦それが祐一の選んだ方法だった。
案の定、数秒前祐一が放った攻撃はかわされたようだった。
走る速度は緩めずに、祐一は次の攻撃に移るために今度は両手を宙へと突き出した。
手を突き出した姿勢のままでユプシロンに一直線に向かっていく。
祐一の右手に光の粒子が収束する。
先程の攻撃と同じ攻撃のように思われたが。しかし、マナクリスタルの輝きは次第に強くなり光の粒子は手の平にどんどん集まっていく。
やがて、膨大な光球が祐一の手の平に出現した。
どうやら広範囲に渡って攻撃するつもりのようだ。

「もう一発!シャイニングレイ!」

シャイニングレイを放つのと同時にユプシロンが黒い装飾銃ブリューナク≠引き抜くのを祐一は見た。
ブリューナク≠フトリガーが引かれた。
シャイニングレイに負けず劣らずの光が銃口から発射された。
光球と光に帯が激突した瞬間に爆発が起こる。
祐一は又もや走り出そうとして、あることに気がついた。自分の息が荒くなっていることに。
脈拍が上がり、心臓の鼓動もかなり速くなっている。
ゆういちの体力は限界に近づいていた。

「ハァ、ハァ、く、三発撃っただけでこれかよ。この調子じゃ、後一発ぐらいが限界か」

それはつまり後三発以内に勝負を決めなければいけないことを意味していた。あまり、有利とは言い難い条件だった。
だが、ユプシロンはブリューナク≠撃った。連射してこないことを考えると、次の一発を撃つまでに幾らかの時間がいるはずだと祐一
は考えた。

「惜しかったな」

次の瞬間、祐一の右胸に銃口が突きつけられた。

「お前の考え違いは致命的だ。僕はブリューナク≠連射できなかったんじゃない。連射しなかったんだ。ブリューナク≠ノは反動を
軽減するための装置がついている。だが、一発撃つごとにその装置のエネルギーが無くなるために充電が必要という訳だ。だが、反動が
あるからといって撃てないわけじゃない。多少、照準はずれるがこの距離なら絶対に外さない。腕が折れるかもしれないが、君を殺せる
なら腕の一本ぐらい安いとは思わないか?」

勝利を確信し引き金を引こうとした瞬間、突然銃身に衝撃を受け、ブリューナク≠ェ横にはじかれる。
しかし、ユプシロンはブリューナク≠横にはじかれながらも引き金を引く。
右ユプシロンは自分の右腕に莫大な衝撃が走るのを自覚した。銃口から伸びた光の本流が祐一の左肩の肉を削る。
祐一が咄嗟に身をよじっていなければ、左腕を失っていただろう。
ユプシロンは後方に跳躍し自分の勝利の妨げとなった主を視界に捕らえる。
チィ、と舌打ちしてユプシロンは敵を睨みつける。

―また厄介なのが現れた
視線の先にはリヴァイアサンと同じような服装の人影がそこに居た。
その人影のマスカレイドのマナクリスタルが輝きを放ちマスカレイドの能力が発動した。
ユプシロンは視界が一瞬ぶれたような気がした。
見えない何かが全身を圧迫しているような、そんな感覚がユプシロンを襲う。
しかし、それは祐一にとっても同じだった。
立っている状態を維持するのも辛いようだに見える。
遂には、立っていられなくなり、祐一とユプシロンが同時に片膝を地面に突く。

「マスカレイド名ストレンジャーネット(不思議な網)#\力は重力の操作」

声からしてどうやら女性のようだ。
透き通るような声で彼女は続ける。

「退いた方がいいわよ。貴方の相棒もやられたみたいだしね」
反射的にユプシロンはエプシロンが居た方向を向く。
そこには、全身から血を滲ませ息を荒くし、正に満身創痍といった状態で立っているエプシロンが居た。

―この状況下での指令の成功は不可能
「いいだろう。ここは、退いてやる」
そう言うとコートの下から丸い水晶玉のようなものを取り出す。
水晶玉に幾重もの線が入る。
ユプシロンの輪郭がぼやけ、続いてエプシロンの輪郭もぼやけ始める。

「相沢祐一。次は、殺す」

輪郭が完全に崩れ、二人のマスキーレンがその場から姿を消した。

「何で逃がした」

こちらに向かって歩きながらリヴァイアサンが厳しい口調で言い放つ。

「結構ぎりぎりだったくせによく言うはね」
「全然、楽勝だった」
「じゃあ何で服の所々から煙を吹いてるのかしら」
「……」
リヴァイアサンの服をよく見てみると、指摘された通り服の所々が焦げていた。

「楽勝だった?」
「ごめんなさい」

勝ち誇ったように指摘する彼女にペコリ、と頭を下げるリヴァイアサン。
少しだけ微笑ましい光景だった。
彼女が祐一のほうを向く。

「私たちはもう行くから、また会いましょう」

そう告げた後、二人が踵を返す。立ち去ろうとする二人を祐一は慌てて二人を呼び止めた。

「待てよ!」
しかし、二人は止まらない。
祐一の静止の声など最初から聞こえなかったかのように、黙々と歩いていく。
二人のもとまで走り寄り祐一がリヴァイアサンの肩をつかもうとした。
が、祐一のリヴァイアサンの肩を掴もうとした腕が何の前触れも無く重くなる。
堪らず、祐一は地面に片膝を突く。

「くっ、何のつもりだ!」

怒声を叩き付け、二人の後姿をを憤激の双眸で睨み付ける。
だが、またしても二人は止まらない。
やがて、二人の姿が祐一の視界から完全に掻き消えた。
しばらくして空に亀裂が走り、砕け散るのを合図に周りの景色がどんどん崩れ去っていく、景色の破片が地面に落ちると、そこは祐一の知
っている公園だった。もう既に辺りは真っ暗になっていた。
いつの間にか祐一の顔を覆っていた仮面は消えていた。
遅くなった理由をどうやって誤魔化そうかと考える祐一であった。




あとがき
メ「さてさて、祐一覚醒です」

リ「……」

メ「どうしたの?」

リ「また新マスキーレン出たなぁ、と思って」

メ「だって、出さなきゃ祐一死んでたし」

リ「そういう流れにしたのはお前だろうが」

メ「おう」

リ「さらりと言うなよ。それにしても、割とエプシロンたち弱かった様な気がする」

メ「本当はものすごく強いのですが弱く見えるのは作者の力量不足なのであしからず。それではまた次回お会いしましょう」

リ「それでは第四話「暴風雪」まで、さようなら」
  



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