仮面戦記KANON 第二話「ゼーレ」

                 


電気の弾丸が唸りを上げて祐一に炸裂し、爆発音が当たり一体に木霊する。
周囲の温度が上昇したためひどくむし暑い。
爆煙がエプシロンとリヴァイアサンの視界を完全に塞がれた。視界がほぼゼロの状態でエプシロンはターゲットの姿を探す。
確実に相手を仕留められたかど否かの不安に駆られたのだ。
今までの不安に駆られたことなど数えるほどしかなかった。自分の能力に絶対の自信を持っていたはずだった。
―この感覚、久しく味わってなかったな。
そして自覚した。自分がターゲットである相沢祐一に恐怖を抱いてしまったことを。
ハァー、と、長いため息をつく。
自分の左腕にに視線を移す。自分の右腕の中に左腕がある、とてもとても奇妙な光景だった。
その光景がおかしかったのかエプシロンはクスリ、と、笑う。
「しかも…まだ君が残ってたんだっけリヴァイアサン!」
煙の中に居るはずの姿なきマスキレーンに向かってエプシロンが絶叫する。
まるで、それが合図だったかのようにリヴァイアサンの攻撃が始まった。煙幕のカーテンを貫き高速で飛来する物体をエプシロンは視界に
捕らえた。直撃すれば確実に致命傷となりかねない物だった。
それは、リヴァイアサンのマスカレイドの能力、ブラオシュラーク(青ざめた鼓動)≠ノよって作り出された高密度の水の弾丸であった。
エプシロンは水の弾丸を睨み据えたまま微動だにしない。
バチッ!バチッ!
エプシロンは周りの空間に無差別に電気をばら撒きこう電気の壁を作り出す。ジュッ、という音と共に水の弾丸が電気の壁にぶち当たり
一瞬で蒸発する。彼の姿が白い湯気に包まれる生身の人間が触れようものなら一秒以内で黒焦げになるのは明確だ。
続いて、第二波がエプシロンに迫る。エプシロンは冷静に電気の壁を解除し今度は球体状の無数の電気の塊を作り出す。
ぶわっ、と彼の銀髪が逆立ち、周りの空気が帯電する。
「閃光乱舞―」
スッ、と仮面の下の双眸を細め、電気の塊にイメージを送り込む。
電気の塊がいっそう強い輝きを放ち、マナクリスタルがそれに呼応するように光り輝く。
「舞雷!」
その声が引き金となり電気の塊が光の尾を引いて縦横無尽に宙を疾走する。
相手の姿が見えなければすべて消し飛ばせばいい。全方位三百六十度にばら撒かれた。
閃光の弾丸と化した電気の塊はリヴァイアサンが放った第二波の攻撃をいとも簡単に蒸発させ、煙の向こうに消えていき、そして爆発した。
沈黙がその場を支配する。時間が経つにつれ安心感が増し臨戦態勢に入っていた体が落ち着くのが分かる。
やがて煙が晴れ視界が復活した。真っ先に視界に入ってきたのは前方のクレーターだった。
注意深く周囲を見回しているといると、何個ものクレーターが視界に入ってきた。
一分。二分、と心臓の鼓動で曖昧に時間を計る。
視界に動くものはない。ここには自分以外誰も居ない。すべて、滅ぼしたはずだ。
「跡形もなく吹き飛んだか。全く……今日は厄日かな、まさか腕を切り落とされるなんて。しかも根元からバッサリと」
人事のように呟き、また長い溜息をつき視線を地面に落とす。血溜りはどうやら立て続けに放出した電気の余波で完全に蒸発してしま
ったようだ。唐突にエプシロンに影が指す。同時に上方から絶叫が聞こえた。
「右腕だけですむと思うなよ!」
上方を見る暇もなくエプシロンは左手の手のひらに電流を流しこんだ。
―攻撃をかわす必要はない。水は電気を通すし、蒸発させることもできる!
自分は圧倒的有利な立場にある。そう確信して上方へと適当に当たりをつけて左腕を薙ぐ。
エプシロンの左腕は上から叩きつけられてきた水の刃と接触した。
インパクトの瞬間に左腕にさらに電流を流し一気に水の刃を蒸発させようと、リヴァイアサンに電気を流し込もうとした。だが水の刃は蒸発することはなかった。蒸発するどころか、水の刃に電気が流れることさえなかった。
―!
状況の不利を悟りエプシロンはいったん後方に跳躍する。
「腑に落ちないって顔してるな」
「……」
その言葉には余裕が入り混じっていた。
自分の唯一にして最大の武器である電気が相手の水の刃には通じなかった。
だが、困惑することはなかった。その代わりに考える。何故自分の攻撃が効かなかったのかと
そんなエプシロンの胸中を知ってか知らずか、リヴァイアサンは続ける。
「確かにお前の考えは正しかった。水は電気を通すし、蒸発させることだってできる…だが、純粋な水はほとんどイオン化してないため電気
を通すことはない。最初に言ったはずだ、お前は俺には勝てないと」
種は解った。だが今は突破する術がない。
なら……
「ここはおとなしく退くよ。俺の目的は達成されたからね」
「達成?……本当にそう思っているのか?」
「それはどういうことかな?」
唐突に疑問は解消された。しかも最悪の形で。
突如として、膨れ上がった光が自分に向かってくる。
エプシロンはとっさに巨大な光に電撃をたたきつけた。
が、
―迎撃できない!
慌てて、避けようとするが間に合わない。しかし、巨大な光球は僅かに軌道を変えた。
迎撃することは叶わなくても、どうやら起動をそらせることは出来たようだ。
光球がエプシロンの足元で爆発し、爆風が彼を後方へと吹き飛ばした。
何回も派手にバウンドしながら地面を転がっていく。
「ぐ…う」
頭を左右に振り意識を覚醒させて立ち上がる。追撃は来ない。
エプシロンの視界に写った中には居るはずのない人物がそこには居た。
―…最悪の一日だ。
相沢祐一がそこに立っていた。彼の顔は純白のマスカレイドで覆われていた。

                         #       #        #      

電気の塊が自分に向かって飛んでくる。足は全く動かない。祐一は恐怖という感情に完全に支配されてしまっていた。
―死にたくない!
祐一の願いは予想外の方法でかなえられた。
砕け散ったマスカレイドの破片が中に浮かび、祐一の周りを高速で回転し始めた。即席のの高速回転の壁が閃光の弾丸と接触し爆発する。
爆発の後に起こった爆煙のせいで祐一は視界をふさがれた。
その後、破片はピタリ、と、静止し地面へと落下した。
「………」
何が起こったか祐一はよく理解できていなかった。ただ理解しているのは自分が死ななくてすんだことだけだった。
《選ぶがいい》
声が聞こえた。ただ、耳で聞いたわけではない。頭の中に直接響いてきたのだ。
「選ぶって…何をどう選ぶんだ」
どうやら不思議な現象には慣れてしまったらしい。声の主が誰であるかというのは大して疑問に思っていないようだった。
《このまま逃げるか、あるいは我が運命操作を受けるか。二者択一》
「……」
《選ぶがいい》
さっきと同じ言葉が再び頭の中に響きわたる。
「お前の運命操作とやらを受け入れば、俺はどうなる?」
《マスキーレンとなり、戦う運命と共にあるだろう》
「逆に逃げればどうなるんだ?マスカレイドの運命操作を受けた人間は必ずマスキーレンになるんじゃないのか?」
《我は少し特殊なのだ。故に決定権は主にある。さあ、どうする》
「…」
わずかな沈黙の後、祐一は決意した、自分の進むべき道を。
「運命操作を受け入れば、あの銀髪電気うなぎ野郎と互角に戦えるか?」
《言ったはずだ。すべては主次第だと》
「俺次第か…成る程」
祐一は不適にニヤリ、と、口元をゆがめた。顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。
「あの銀髪電気うなぎ野郎には一発食らってるからな。このままで済ませるわけにはいかねえ。借りをかさなきゃならねえからな!いいぜ、
受けてやろうじゃねえか!お前の運命操作ってやつを!」
《よかろう。ならば受けるがいい我が運命操作を!》
そこで声が一度途絶えた。
代わりと言わんばかりに、今度はマスカレイドの破片一つ一つに光が宿る。
破片が再び中に浮かび上がる。そして、その破片が祐一の体の中に吸い込まれていった。
比喩表現ではない。文字どうり吸い込まれていったので。
《我が能力は変換。主の精神エネルギーや体力を削り強力な破壊エネルギーを生み出すことができる》
「マスカレイドの…あんたの名前を教えてくれないか?」



          《フライハイトゼーレ(自由意思)=t
マスカレイドが発動し、視界が晴れ渡る。祐一は目標を補足した。
               #       #        #      
「……まずいなぁ」
立て続けにくらった攻撃のダメージが蓄積している。
自分はおそらく勝てないかもしれない。
心の何処かで一瞬そう考えてしまった。だが、実際この状況はエプシロンにとって、不利以外の何者でもなかった。
片腕を切り落とされ、大量の血を失いさらには不幸なことに自分に敵対しているマスキーレンがこの場に二人いるということが最大の問題
であった。一人ならまだ何とかなったかもしれないが、目覚めたばかりとはいえ二人のマスキーレンを同時に相手にして勝利するのはかな
り絶望的といえる。
しかし、エプシロンは唐突に目をつむり何がおかしいのかクスリ、と笑う。
「全く…遅かったじゃないか。ユプシロン」
目をつむったまま、独り言のように呟くエプシロン。
そして、次の瞬間その場に居る全員の耳に、高らかな声が響き渡った。
「薙ぎ払え魔槍―」
リヴァイアサンと祐一が声がした(と思われる)方向に向き直る。
そこには、右手に黒塗りの銃を持った青年が立っていた。やはり顔はマスカレイドで覆われている。
銃口に黒い光が宿る。体をこれでもかと言うくらい黒い軌跡を残しつつ銃を横に振りかぶり
「ブリューナク」
銃口から黒一色の光の本流が迸り、ユプシロンは銃を剣でも振るかのように、巨大な光剣と化した銃を横殴りに薙ぎ払う。
放出されたエネルギーはエプシロンの頭上を髪の毛を数本消滅させながら通過し、リヴァイアサンと祐一を薙ぎ払うコースを進んでいく。
リヴァイアサンと祐一は体制を低くしてユプシロンの攻撃をやり過ごすし、すぐさま攻撃に転じようとした。
しかしユプシロンの方がわずかに速かった。コートの下から二つ目の、今度は純白の装飾銃を抜き出す。
「撃ち抜け魔弾―」
銃弾はあらかじめ装填されているようだった。
「タフルム」
トリガーが引かれた。
発砲音は六つ。実際は一つしか聞こえなかった。恐るべき連続早撃ち。
最初の三発をリヴァイアサンに放ち、残りの三発を祐一に向けて放つ。
が、弾丸はリヴァイアサン当たることはなかった。放たれた弾丸はリヴァイアサンに当たる寸前に地面に突き刺さる。
ユプシロンは舌打ちして、すぐさま第二波を放つ。
結果は同じだった。
銃口から発射された弾丸は、二人に当たる寸前でまたも地面に叩き付けられた。
ユプシロンは黒い銃をコートの下に仕舞う。この黒い銃の弱点は一発打つごとに数分の時間を必要とすることだった。
―現在、使用可能な武器はこの、ブリューナク≠セけか…
ポケットの中から銃弾を取り出し、装填しようとした。
だが、ユプシロンは重大な事実に直面した。
「…弾切れ」
「君は何しに来たんだ」
事態は単純で致命的なものだった。



メ「どうも駄文にお付き合いいただきありがとうございます」
祐「どうも、本編の主人公、相沢祐一です」
メ「いやー、遂にマスキーレンになりましたなぁ」
祐「遂にって…。まだ二話目だぞ」
メ「置いといて。次回は、第三話はまたまた新しいマスキーレンが登場します」
祐「あの銃弾を叩き落した張本人が出現」
メ「そんでもって、きみが活躍するかどうかはまだ未定」
祐「しくしく(泣)」
メ「まだ未定なのでわかりません」
祐「絶対活躍してやるぞ。ちくしょー!」
メ「それと、最後に一つ。舞雷はまういかづち≠ニ読んで下さい」
祐「次回こそ活躍してやるー」
  



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