仮面戦記KANON 序章「始まりは仮面と共に」

                 


キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が学校全体に響き渡ると教室が一気に喧騒に包まれた。
「それじゃあ、今日の授業はここまで」
「起立」
「礼」
学級委員が号令を掛け今日の授業が終了した。
「祐一放課後だよー」
「なにぃ!そうなのか」
名雪の一言に、何故かオーバーリアクション気味に驚く祐一。
「……」
「……」
沈黙
「いつもならここで香里か北川の突っ込みが入るのにな」
「二人とも用事があるみたいだよ。北川君なんか授業中に帰っちゃったよ」
「………いや、授業中はまずいだろ」
「すごく急いでいたみたいだったよ」
「まあいいけど。名雪はこれから部活か?」
「うん。そうだよ」
「ふーん。毎日たいへんだな」
そう言うと祐一は鞄に荷物をまとめて、椅子から立ち上がった。
「じゃあ俺は帰るから、部活がんばれよ!」
「うん!じゃあね裕一!」
名雪の笑顔に見送られて、祐一は教室を後にした。

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―俺は今非常に困っている。
そこには、腕組みをしながら真剣な表情で商店街を歩いている祐一がいた。相沢祐一は今非常に困っている。
いつもなら靴箱の中にある靴を履き、学校を出るために校門へ向かって歩き出せばいいだけの話だった。だが、今日は靴箱から靴を取り出せてすらいない。では、一体何が起こったのか?別に、靴箱の中に爆弾が仕掛けられていたとかそういう危険極まりない事態に直面したわけではない。だからといって、靴箱が大量のカミソリで埋め尽くされていたわけでもない。間違っても、靴箱の中に蛙の卵がしこたま入っていたなんて事もない。事態はもっと簡単なものだ。祐一の靴箱の中には一般世間で仮面と呼ばれるものが静かに横たわっていたのだ。
―ということで俺は今非常に困っている。

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時刻はそろそろ時計の短針が文字盤の5を指そうとするころ。
1人の少年が喫茶店の一角に座っていた。
年は15、16といったあたりだろうか。端正な顔立ちをしていて、髪は銀色をしている。服装は、黒いスーツの上に、真っ黒なコートを着込んでいる。
どうやら、誰かと待ち合わせをしているようだ。
しばらくすると、店の自動ドアが開き一人の少年が店の中へ入ってきた。
その少年は、銀髪の少年が座っている席の真正面の席に座った。
「ご注文は何になさいますか?」
「チーズケーキセット」
「かしこまりました」
注文を聞きウェイトレスさんが厨房の奥へと引っ込む。
「遅かったね」
「今ちょうど5時だ。遅刻じゃない。それで用件は?」
「チーズケーキセットになります。どうぞごゆっくり」
「………」
ナイスタイミングのウェイトレスさん。銀髪の少年はしばし沈黙した。
「で、用件は?」

何事もなかったかのように聞き返してくる。果たしてこいつは俺が沈黙した理由を分かっているのだろうか、などと考えてみる。
「たった今、観察対象の抹殺命令が下った」

抹殺命令。日常生活においてはほとんど聞くことのない言葉が男の口から発せられた。
だが、それを聞いた少年は眉ひとつ動かさない。
「動揺しないんだね」
「予想していた」
「なら、早いとこ終わらせよう」
銀髪の少年は席から立ち上がりレジに向かおうとした。
一方もう一人の少年はそんなことはお構いなしにオーダーしたケーキをぱくついている。
立ち上がった銀髪の少年はじろり、と座ったままの少年を睨みつけた。
「僕は行かないし、行く必要もない。相手はまったくの素人だ。おまえだけで十分だろうエプシロン」
「ユプシロン、ターゲットは奇跡と呼ばれる代物を起こしている。用心するに越したことはないと思わないかい?」
そう呼ばれた少年、ユプシロンは即答した
「思わない」
「どっちにしろ今回は気が乗らないから僕はパスだ。それに、少々のイレギュラーなら君だけでも切り抜けられるだろう?」
ハァー、とエプシロンがため息をつく。
「なるほど。だから、仕事用の服装ではこなかったわけだね」
「そういうことだ」
ユプシロンはそう言うや否や立ち上がりさっさとお勘定をして、店の外に出て行ってしまった。
後に残された男、エプシロンはハァー、と深くため息をついた。
「全く、相変わらず勝手だね。まあ、確かに俺一人でも十分かもしれない。問題は、いつターゲットが仮面と接触するかだよなぁ〜。まあ、なるようになるか」
何気なく、
本当にたいした意味もなくエプシロンは外を見る。
だが、それが現段階での最良の行動だった。
―運がいいかもしれない
何気なく外に視線を移したエプシロン。そこにはターゲットである相沢祐一を視界に捕らえていた。
エプシロンは透き通るような笑みを浮かべる。
「さて、行動開始と行きますか」

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「生憎、行動開始できるのはそっちだけじゃない」
公園のベンチ一人の男が座っている。その男は他の公園にいる人間と比べて明らかに異色を放っている。彼は黒いフードつきのローブのようなものを着ていた。体格はそれほど大柄なわけではない。だからといって小柄なわけでもない。髪はこれまた派手な金髪をしている。そして何よりも目を引くのが、男の顔を覆い隠してしまっている仮面。少し青みがかかった色をしていて、その仮面の額の部分では宝石のようなものが爛々と輝いている。
ハァーと突然ため息が男の耳に入ってきた。
視線を上げるとそこにはベンチに座っている男と全く同じ格好をした人影がいた。
ただ、違う点があるとすれば仮面の色が灰色だというだけだ。
「あまり、こういう場所でマスカレイドの能力を使うのはやめなさい。他の人に見つかったらどうするの」
声から察するにどうやら女性のようだ。ついでに声の調子から察するに彼女はおそらく呆れている。
「俺がそんなミスすると思うか?」
「思うから言ってるの」
「…………」
速攻で否定されてちょっと落ち込む仮面の男。
「ま、まあそんなことはどうでもいい。本当なら、今日は奴らの動向を探るだけだったんだ。
だが事情が変わった……」
そこで言葉を区切り、今までの軽い調子を一変させる。
「奴が動き出した」
「こんな時間に?」
「奴らに時間は関係ない。まあ、大方結界を作ることができるマスキーレンでもいるか、結界発生装置でも使うかのどちらかだな」
「俺は実働エージェントの方を潰すから、そっちは結界の方を頼む」
「もし、実働エージェントが結界を発生させる装置を持っていたら?」
「その時は、俺の援護に来てくれ」
「分かったわ」
仮面の男がスッ、と立ち上がる
「さて、こっちも行動開始と行くか」
まるでその言葉が合図だったかのように、突如として地面から水が染み出した。地面から染み出した水はまるでビデオをまき戻すかのように仮面の男のローブに吸い込まれていった。

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「あれ?」
ふと祐一は思考を中断させた。辺りを見回すとそこは祐一が知らない土地だった。どうゆう道筋でここまで来たのか祐一は覚えていなかった。しかも、まるでそこには誰もいなかったかのように人の気配がない。ついさっきまで、祐一は人がにぎわう商店街を歩いていたはずだ。では一体何故?祐一は中断させた思考を再び再開させた。
が、祐一の思考はまたもや中断された。
「死になさい」
「――っ!」
祐一は反射的に声がしたか(と思われる)方向に向いた。――瞬間、後方より飛来した電気の帯が祐一の体に炸裂した。
「ぐぅ!……か」
全身に激痛を感じて祐一は地面に倒れた。顔だけを上げ自分に激痛を味あわせた張本人――黒いスーツを纏い、いくえにも黄色い線が入った仮面をつけている男が立っていた。
「お…まえ…は」
祐一は激痛に耐えながらも喉から声を搾り出す。
男はただただ平坦に何の感情も込めずに平然と、ただ平然と言葉をつむぎ出す。
「マスキーレン」

次回予告
突然の襲撃に絶体絶命の祐一!
そして、祐一の危機に青いマスカレイドのマスキーレンが現れる。

「そいつを殺させるわけには行かない」
「ターゲットは殺す。それが僕たちの仕事だから」
敵対する二人のマスキーレン。
そんな中、祐一のマスカレイドが突然輝きを放ち始めた。

次回 仮面戦記KANON第1話「動き始めた事態」
遂に事態は動き始めた。



あとがき
どうも皆さまはじめましてメイジと申します。処女作にもかかわらず連載物を選んでしまいました。
しかも、文章能力がまだまだ未熟なのでかなり不安です。
とにかくいろいろと四苦八苦するかもしれませんがどうかよろしくお願いします。
  



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