正しい正月の過ごし方





正月

それは、新しい年の始まりを祝う時。



正月

それは、お年玉を貰うことで子供たちの経済が潤う時。



正月

それは、特有の食べ物や遊びがあり大人も子供も関係なく楽しむ時。




そして―――――――










「―――だから、何度も言ってるだろうが!!北川ァ!!
 メイド服ってのは黒!!黒なんだよ!!それ以外は認めんぞ、俺は!!」

さっきから大きな声が部屋中に響いている。
その声の主は、もうずいぶん前から“メイド談議”なるものを展開している。


やれ、メイドはドジがオプションで必須だの。

いや、メイドたるもの完璧に家事を遂行してこそのメイドだの。


やれ、メイドは人間がやるものだの。

いや、メイドはロボやアンドロイドが望ましいだの。



ここ、水瀬家で宴会が始まってからはや1日。
相沢祐一が北川潤とメイドについての論争を始めてからもう12時間が経過するだろうか。


しかし、
このほっといたら永遠に続くんではないかという論争も意外でもなんでもない結末を迎えようとしていた。


「ぬ、北川!?」

いつまでたっても反論が帰ってこないのであたりをきょろきょろと見回す祐一。

「相沢さん、相沢さん」

「何だ、北川。相沢さんなんてサブいぼが出る呼び方を……って、き、北川ァァァァァッ!!」

「どうしたんですか、相沢さん。そんなに目を見開いて」

「き、北川がいつのまにか、女になってるぅぅッ!!」

ここで祐一に話し掛けていた少女―――天野美汐は、持っていたお茶をすすりながら言った。

「相沢さん。キレが今ひとつですね。酔ってるんですか?」

美汐の言葉にぬぅ。と唸る祐一。
美汐のその芸人殺しの一言は確実に祐一にダメージを与えていた。
落ち込みながら祐一は呟く。

「くっ、新年早々、美汐にダメ出しをされるとは…」

「それが嫌なら、新年早々からそんなろくでもないことなんて言わないで下さい」

またしてもお茶をすすりながら半眼になる美汐。
容赦のない追い討ちにもはや祐一ダウン寸前。
それでも何とか立ち直る。

「そ、それで北川はどこへ行った?」

「北川さんでしたら……」

あちらです。と美汐が指差した先には倒れるようにして眠っている北川の姿が。

「な、何てことだ……不沈艦と言われた北川まで撃沈してしまうとは……」

大げさとも言えるオーバーリアクションで手を額にあてて祐一は言う。
それをまた冷ややかな眼で見ながら美汐はお茶をすする。

「これで残ったのは俺と天野の二人だけか……」

「ええ、そのようですね」

と言いながら後ろを見やる。すると、そこには兵どもが夢の後。
もはや熟睡モードに入っている少女たちの姿が。

「しかし、天野。正月にお茶は邪道だぞ。邪道。正月に飲んでいいものは酒と雑煮だけと決まっているんだぞ」

先ほどからお茶を飲んでいる美汐をたしなめるように言う祐一。
彼の横には空になった日本酒が4本、5本。
すべてがこの宴会が始まってから彼と北川の二人が撃墜した酒の数だった。

「そんなこと誰が決めたんです、相沢さん。そんな正月に入ってからお酒しか飲んでいないなんて人として不出来ですよ」

逆に今も酒を飲んでいる祐一を注意するように美汐は言う。

「何を言うか天野。真昼間からこうして酒が飲んでもいいのは正月の特権だぞ!!」

「未成年である貴方が言う台詞ではありませんよ。相沢さん」

ぴしゃりと。
新年早々の初対決は天野美汐に軍配が上がった。
がっくりとうなだれる祐一。
そんな祐一を見ながら美汐はこれまでの経過を思い浮かべていた。






新年。

いつものメンバーで2年参りから帰ってきて。

水瀬家にて大宴会が催されることとなった。



まず、姉である美坂香里の手によって辛口の日本酒を飲まされて美坂栞、ダウン。

宴会開始、10分の事であった。

えぅ〜、と目を回す栞を見ながら、犯人である香里はニヤリと笑いを浮かべたとか何とか。

ともあれ、美坂栞、撃沈。




そして、ハイペースで飛ばす相沢祐一と北川潤について行こうとして月宮あゆ、および沢渡真琴、ダウン。

宴会開始、1時間の事であった。

天野美汐の再三の忠告も聞かずに倒れたのだから、自業自得である。

と言う事で、月宮あゆ、沢渡真琴、撃沈。




夜も深まったころ、今まで起きてたのが不思議だった水瀬名雪も順当にダウン。

宴会開始、1時間30分の事であった。

それまで一緒に飲んでいた美坂香里の証言によると目をあけたまま寝てたそうだ。

んなわけで、水瀬名雪、撃沈。




水瀬名雪がダウンしてから、相沢祐一、北川潤と飲んでいた美坂香里もダウン。

それでも、宴会開始から5時間後の事だから健闘していると言えよう。

うわばみである彼ら二人のペースはやはりきつかったと言う事か。

ってな感じで、美坂香里、撃沈。




宴会が始まってから二人きりで独自の空間を作っていた川澄舞、倉田佐祐理両名もダウン。

宴会開始から、12時間。すさまじい記録である。

無表情で淡々と飲む舞と、あははーと陽気に飲む佐祐理の姿はいつも通り過ぎて逆に怖かった。

そんなこんなで、川澄舞、倉田佐祐理、撃沈。




そしてたった今、撃沈してしまった北川潤。以上の面々が宴会が始まってから潰れてしまった。
今残っているのは、相沢祐一、天野美汐の2名だけだ。


天野美汐が酒を飲んでいたのは初めの30分だけで少ししか飲んでいない。
早期撃沈してしまった面々の介抱なり、ハイペースで飲み続ける面々のつまみを用意したり、
裏方の仕事をしているうちに出遅れてしまったと言うのが真相だった。
また、酒をかなり飲んでいるにもかかわらずそれを微塵も感じさせない水瀬秋子とついつい話しこんでしまった。というのも飲まなかった理由の一つだ。
その秋子さんは今は年始周りに出かけている。



と、いうわけで今活動しているのは相沢祐一、天野美汐の二人だけなのだ。
以上、回想終了。





「えらく作者に都合のいい回想ですね」

「まったくだ。そもそもこれは天野の回想ではないだろう」

まぁ、いいじゃないですか。というわけで酒がコップに注がれる。

「おっと、それじゃ改めて乾杯といくか」

「仕方ありませんね……」

祐一は嬉々として、美汐は不承不承、コップが合わされる。
それをグイ、と一気に飲み干す祐一。

「――――ぷはーっ、やっぱ美味いねぇ」

「一気飲みは身体に毒ですよ。相沢さん」

そう言いながらチビチビと酒を口にする美汐。
それを見て、祐一ははぁ、とため息をつく。

「まったく。天野は酒飲みの心意気、ってやつがわからんのか」

「そんなものわかりたくもありません。大体、相沢さん。なんで貴方が知ってるんですか」

まだ未成年でしょう。と美汐が言う。

「はっはっは。酒なんて中学の入学祝に親父から教わったぞ」

と、何故か胸を張って言う祐一。そこに美汐がボソリと。

「この親にしてこの子あり、という訳ですか」

疲れたように美汐、しかしその言葉は祐一の耳に届く事はなく。
しょうがないですね、と美汐も再び酒を口にする。



そんな時間がしばらく続いた。
新しく空になった瓶が3本目になろうか、とした頃。



「ぬぅ、なんだか頭が痛いぞ」

額をおさえるようにして祐一が言った。
当然だ、と言わんばかりに美汐がその頭痛の原因を言い当てる。

「飲みすぎです」

「この程度で頭をやられるなんて、俺も年ということか……」

「何を言ってるんですか。ちょっと待っててください水を持ってきます」

「いつもいつもすまないねぇ……」

と、ボケる祐一だったがもうすでに美汐の姿はなく。
不貞腐れた祐一はおさまることがない頭の痛みも重なって、横にゴロンと転がった。
火照った身体にこの冷たい床が非常に気持ちよかった。







「お待たせしました。相沢さん」

と、冷たい水が入ったコップを持ってきた美汐だったが返ってくるべき返事は、その返事の主とともに横に転がっていた。

「相沢さん、寝てしまったのですね」

声をかけるも返事はなし。
どうやら本格的に眠ってしまったらしい。
仰向けになったままピクリとも動こうとしない。

「しょうがないですね……」

と、コップをひとまずテーブルに置くと、今度はせっせと空き瓶を片付け始めた。,br> この辺は、美汐らしいといえば美汐らしい所であるといえよう。
こうして、美汐が宴会の後片付けをしていると今まで屍となっていた一人の少女がムクリと起き上がった。
起きた少女に気がつき、美汐はその少女に話しかける。

「真琴。起きたのですか?」

その少女―――沢渡真琴は目をゴシゴシとこすったあと、まだ焦点の定まっていない目を美汐に向けて唐突に言った。

「あ、美汐。明けましておはようございますぅ」


―――まだ、寝ぼけてるんですね。
と、苦笑しながら律儀に真琴に返事を返す。

「明けましておめでとうございます。そして、おはようございます」

でも、真琴はまだ寝たりないのか大きなあくびを一つすると、キョロキョロとあたりを見回した。
そして、当然のように大の字になった祐一のそばに行くとゴロンと寝転がる。
そのまま祐一の右腕を枕にして真琴は寝てしまった。

それを見て微笑みながら美汐は言う。

「良い夢が見れるといいですね」


真琴と祐一の寝顔を眺めていると、美汐も小さなあくびが出た。



「――――寝正月、というのもいいかもしれませんね」















それからしばらくして。

年始周りから戻ってきた水瀬秋子はリビングの現状を見て、いつもの手を頬に当てるポーズでいつもの台詞、あらあら。と呟くと自分の部屋へと向かった。
部屋から毛布を持ってきて一人一人にかけてゆく。風邪などひかぬように。

「あら、これじゃ小さすぎますね」

と、言うとひときわ大きな毛布を取りに部屋に戻った。

そこには、大の字になって眠る祐一と、

右腕を枕にした真琴。

そして、左腕を枕にして眠る美汐の姿があった。,br>
全員に毛布をかけ終えた彼女はやさしい口調でこう呟いた。


「今年は皆さんが良い年となりますように……」









んで、後日談として。
しっかり二日酔いの祐一と追い討ちをかけるように真琴と美汐と一緒に寝てるのが見つかって。
新年早々、祐一が地獄を見たのはまた別の話である。




おしまひ。





〜〜あとがき〜〜

 と、いうわけで皆様。新年明けましておめでとうです。
 今年初のSSは美汐さんからです。(って、あまりメインっぽくないんですけどね)
 これは酒の勢いで書きました。何を隠そう今現在頭、痛いです。
 どうも僕が短編を書くとシリアスなんだかギャグなんだか中途半端なやつしか出来ないんですよね。

 ま、なにはともあれ。
             今年もよろしくお願いします。

                                          はせがー
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