その男は教師だった。

   その男は生徒に人気があった。

   その男は面白い事が大好きだった。



   他の教師から『対相沢祐一用秘密兵器』とまで言われたこの教師。
   実は相沢祐一を抑制するのではなく、一緒になって遊んでるのは生徒連中なら誰でも知っていた。


   知らないのは他の教師だけ。


   ま、それはともかく。

   その男―――石橋和志は今日も今日とて教壇に立つ。





                  野郎だけの井戸端会議
                      熱闘!! 体育祭編・おんゆあま〜くD





所変わって、ここは屋上。んでもって今は昼休み。
例の如く、まったりと昼飯を食べようとここに野郎どもが集まった。

「おや? 相沢の姿が見えないようだが?」

一人遅れてやって来た久瀬は早速購買で手に入れたやきそばパンを食っている北川に声をかけた。
確かにここには今やって来た久瀬を含め3人しかいなく、予定より一人少ない。
声をかけられた北川はパンを口にくわえたまま器用に肩をすくめて言った。

「あいつならお姫様たちの所だよ」
「またか…」

北川の言葉に久瀬もやれやれと嘆息する。

「ま、いいんじゃねーの?」

とは、もう一人の男――斉藤の弁。
それに同意するかのように北川も言った。

「まあな。最近じゃあまり奢らされる事も無くなった。って言ってたし」
「ほう。それは初耳だな?」

興味深いとばかりに久瀬が言う。
実際、『久瀬金融』として相沢祐一に貸している金額ダントツトップの久瀬君としては気にならないわけが無い。
その事を良くわかっている北川が笑いながら久瀬に言った。

「そりゃあんだけ逃げ回ってればな」
「まぁ、あの中には納得していない連中もいるんだろうけどな」
「ふむ…」

北川の言葉に続けるように斉藤も言葉を発する。
それに考えるようにして久瀬が唸りをあげた。
そんな久瀬を見ながら北川がぼんやりと空を見上げながら祐一について考えた事を言った。

「ま、相沢だって奢らされっぱなしじゃ黙っていなかったってワケだな。
 ただ、回数が減ったってだけで奢る事が無くなったワケじゃないんだろうけどなぁ」
「ヤツもヤツなりになんとかしようとしている、という事か」

なるほど、と久瀬が言うと北川と斉藤がニヤリと口元を歪ませて笑う。

「んなもんだから、今日も今日とてご機嫌取りだ」
「ご苦労様だよ。本当にな」

ワハハと3人が声を揃える。本当に相沢祐一という男は話題に事欠かない男である。
それだけこのメンツで中心を担っているという事か。祐一抜きの昼食はこのように祐一の話で終わってしまう事が多い。
しかし、この3人がそこいらの嫉妬心剥き出しの男どもと違うのは祐一の立場をしっかりとわかっている所だろう。
3人が3人とも祐一の事を心配しているのだ。


……うん。きっとそうだって。




「おっ!?」

一足先に昼飯を食べ終わり、ふとグラウンドの方に目を向けた斉藤が驚いた声をあげる。

「おいおい…」
「これはまた…」

斉藤の声につられるようにしてグラウンドに目を向けた北川と久瀬も呆けた声をあげた。
そして、3人でニヤニヤ笑い出してハイタッチなんぞをやっている。あの久瀬もだ。(←かなりポイント)

「だ〜から言ったろ! うちのクラスは最高だって!!」

興奮した声をあげるのはクラス委員の北川。どことなく誇らしげでもある。


彼らの視線の先には。
昼休みという事もあってたくさんの生徒がいる中、もくもくと二人三脚やハードル走の練習に励むクラスの仲間がいた。
もちろんこんな事は今まで無かった事だろう。選手リレーの練習ならともかく個人競技の練習などどこのクラスもやっていない。
それを自主的にやってるのだから、3人が喜ぶのも無理は無い。
3人がやる気を出すようにあれこれ画策した所でクラスの仲間が反応しなければまったくの無駄な行為となってしまう。
祐一たちだけで盛り上がったところでクラス行事なんだからクラスが盛り上がらなければひどく味気ないものになってしまっていただろう。
そんな祐一たちの呼びかけにクラスの仲間は最高の形で応えた事になる。


「おい!! グラウンド見てみろ!!」

興奮した様子で屋上に駆け込んできたのは、誰あろう相沢祐一その人だった。
彼はお姫様たちと昼飯を取っていたのだがグラウンドの光景を目にするやいても立っても入られず屋上に向かって来たのだ。
その所為で後に彼は地獄を見るのだが……、これは別の話である。

「わかってるって」

と、息も絶え絶えになってる祐一に向かってニヤリと笑って見せた北川はそのまま祐一とハイタッチ。
そのままなだれ込むようにして久瀬と斉藤も加わって4人で手を叩き合う。

「やっぱ、俺の勝利宣言≠セろ!?」

興奮した様子で祐一が言う。
あれが北川の策略だと発覚した時には怒ってたというのに今ではそんな事微塵も感じさせない喜びようだ。
根が単純というか何と言うか。

「バーカ、そもそもあれはオレの計画だろうが」

反論するように北川が言う。
北川にしても、あの後うまく利用されたと知った妹の北川唯を宥めるのに大変だったというに全然そんな素振りを見せない。
まぁ、類は友を呼ぶと言いますし。

「まぁ、確かにそれもあるだろうが…」
「トドメは石橋先生のあの言葉だよな」

どっちがクラスの皆を焚きつけたかでガキの喧嘩レベルの口論に発展した祐一と北川を眺めながら、久瀬と斉藤は頷きあった。
その言葉を聞くやいなや胸元をつかみ合っていた祐一と北川の動きがピタリと止まる。
ゆっくりと二人は顔を久瀬と斉藤の方に向くと同時に言った。

「「やっぱり?」」

そんな二人にコクコクと頷く久瀬と斉藤。
はぁ、と溜息をつきながらゆっくりとつかみ合っていた手を離す祐一と北川。

「畜生。美味しいところ持ってかれちまった」
「まったくだ。大体あれが教師の言う事か?」
「まぁまぁ。あれが石橋先生の良い所だ」
「限度があるがな」

愚痴るように言う北川、祐一に苦笑しながら斉藤、久瀬が言う。
北川、祐一が悔しがるほどの石橋先生のあの言葉。それは今日の物理の授業中に遡る。




突然だが、理系クラスである3年7組――――ここは良くも悪くも“問題児”が集まるクラスとして学校内で有名だった。
「トラブルは彼の前に存在しない。なぜなら彼がトラブルだからだ」とまで言われた“キング・オブ・トラブルメイカー”、相沢祐一。
“相沢祐一の相棒”にして陰で何やってるかわからん生徒堂々ナンバーワンの北川潤。
2年連続生徒会長にして相沢祐一と北川潤に引っ張りまわされる日々の“悪徳会長”、久瀬翔。
今も昔もバスケ部のエース、だがその実態は相沢たちの同士にして悪友の斉藤明彦。
この学校の内はおろか外にまで名の知れ渡った“鍵高の問題児カルテット”を筆頭に、“学園のマドンナ”水瀬名雪、“食い逃げの女王”月宮あゆ。“ミス・パーフェクト”美坂香里まで揃ってしまったこのクラス。どの教師も担任になる事を拒んだ。石橋和志以外は。
このクラス編成を見たときに彼はこう言ったという。

「こりゃ、俺が担任になるために出来たようなもんだな」

実際、このクラスの担任になるように言われた時彼は二つ返事で了解する。
彼の担当する教化は物理。そして3年7組は理系クラスだから彼の授業は毎日と言っていいほど頻繁に合った。
そして輝翼祭まで残り5日を数えた今日も彼の授業はやって来た。


「そういや、お前ら輝翼祭で優勝するんだって?」

授業中、いきなりニヤニヤと笑い出したかと思うとそんな事を言ってきたのは壇上に立つ石橋。
来たか―――とクラスの生徒たちは内心でそう思った。
今日は朝からある話題で持ちきりだった。そう、『相沢祐一、優勝宣言』で。
そんな面白い話題に壇上の男が乗ってこないわけが無い。そんなことはクラスのみんなが嫌というほどに思い知らされていた。

「えぇ、そうっすよ」

と、さも当然のように答えのは『優勝宣言』をした張本人の相沢祐一。
朝からその質問を幾度となくされてきた祐一は開き直ったのかそう答えることにしていた。

「そうか。で、お前らは勝算があるのか?」

祐一の言葉に満足そうに頷いた後、石橋は言った。
途端にクラスの生徒たちが顔を見合わせる。そこにはまだこの展開についていけてない不安が窺い知れた。
その様子を見た石橋はフム、と唸るとこう提案した。

「よし。それじゃ、お前らが優勝したら何かメシでも奢ってやろう」

その言葉が出た瞬間にザワザワとクラスがうるさくなった。
予想できたとはいえその喧騒に眉をしかめる石橋。しかしそんな事は関係無いとでも言わんばかりに生徒たちはヒートアップしていく。
そんな中、クラスを代表するように声をあげたのはやっぱりと言うかなんと言うか祐一だった。

「せんせー。それマジっすか?」
「勿論だ。良い教師ってのは生徒を裏切らないもんだ」

その良い教師ってのが誰を指すのかはともかくとして、その石橋の言葉に俄然クラスは盛り上がる。
最早、輝翼祭に優勝したかのような盛り上がりぶりを眺めながら、石橋は意地の悪い笑みを浮かべる。

「もし優勝できなかったら、お前ら俺にメシ奢れよ。このクラス33人だから……一ヶ月ちょい俺の昼飯代が浮くわけだ」

その言葉が出た途端、クラスのあちこちからブーイングがあがる。
それを鬱陶しそうに見ながら、尚も石橋は意地の悪い笑みを隠そうとしなかった。

「いいか。お前らな、俺に金を出させようってんならそん位の覚悟持っとけ。
 いいじゃねぇか、お前ら優勝するんだろ? そう言うから俺も気持ちよく奢ってやっても良いかって気分になるんだ。
 それとも何か? 他のクラスと勝負する前に俺との勝負、逃げるっていうのか? もっとも33対1だ。勝負にもならないがな」

その石橋の言葉にクラスの誰もが―――相沢祐一ですら―――黙り込んでしまった。
かくして3年7組は輝翼祭において担任の教師とも戦う事になったのであった。




「っとに……石橋にはやられたぜ」

まだ石橋に言いくるめられたのが悔しいのか祐一はブツブツと文句を言う。
そんな祐一を見ながら久瀬は北川に向かって言った。

「で、どうするんだ?」
「どうするって、決まってんだろ」
「そうゆうことだな」

久瀬の言葉に即答する北川に同意するように斉藤も声をあげる。

「そうだな。僕たちこそ練習しないといけないな」
「当然だろ」

北川と斉藤の言葉を受けて久瀬が頷きながら言うと、こっちの世界に戻ってきた祐一も話に加わってきた。
そして北川が4人の気持ちを代弁するかのように言葉を発する。
あまり知られていないが、こういった時にリーダーシップを発揮するのは祐一でも久瀬でもなく実は北川なのだ。

「よし、じゃあ早速今日の放課後から特訓だァ!!」

「「「おうッッ!!」」」


この時の雄叫びは晴天の真っ青な空に広く響き渡った。
なにはともあれ輝翼祭まで後少し、野郎たちのテンションは上がりっぱなしなのである。



  つづくっ!!





〜〜あとがき〜〜

はせ「あーもぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ――――い」
石橋「いきなりのセリフがそれか」
はせ「ここ一ヶ月近く盛大に死んでたので全然筆が進みませんでした……」
石橋「盛大に死って日本語間違ってるぞ」
はせ「おまけに書くとか言ってた記念SSは形になんないし……」
石橋「余計な事言うからだろ」
はせ「だァ――、さっきから余計な茶々入れすぎ―――っ」
石橋「余計って…、教師たるもの事実は事実として扱うものだ」
はせ「あー、そうすか。でコレなんですけどもういいかげんに終わらせたいと」
石橋「いらん事書きすぎ」
はせ「今回のは原点に戻って野郎に屋上で会話させようと思ったら失敗するし……」
石橋「俺が登場するのはもっと後だったんじゃなかったか?」
はせ「今は完璧に方向性見失ってます」
石橋「ま、なんとかなるだろ。もともとコレなんて方向性皆無だし」
はせ「それはそうなんだけどね」
石橋「書く前にウダウダ言ったって仕方ないだろ。とりあえず書いてみるんだな」
はせ「へいへい…」

                                                                      はせがー


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