仲間が集まってガヤガヤと騒ぐ。
こんなものは何も男連中だけの話ではございません。
恋する乙女だって例外ではないのです。


今回は、そういうお話。


女の友情なんて儚いもの?
そういう言葉も世間様には有るようですが、彼女たちには当てはまりません。


だって彼女たちは同じ“獲物”を狙う“同士”なのですから。


彼女たちの絆は思ったよりも強いんですよ。


今回は、そういうお話。






          野郎だけの井戸端会議
              熱闘!! 体育祭編  おんゆあま〜くC







さて、現在は放課後。学生たちの自由の刻。
学校というしがらみから開放された学生たちが思い思いの場所へ向かっていく。
学校から出て行く学生たちの列は笑顔が途切れる事無く続いている。何せ今は快晴。これで明るくなるなと言うのが無理な話だ。


普通なら放課後の校門前の情景などそれだけで説明できるのだが、生憎と今日は違っていた。
どの男子学生も視線がある個所に一点集中されているのだ。
その個所にはこの学校に通うものなら誰一人として知らぬものはいない連中が一同に会していた。
この学校に通う男子なら一度はお近づきになろうと無駄な努力をし、その想いを木っ端微塵に砕かれる経験をするという。
こうしている今も撃墜数がどんどん増えていっている。もちろん特攻など効果はありゃしない。


もうおわかりだろう。その難攻不落の艦隊を人は『相沢ガールズ』と呼ぶ。


「まったく…、どうにかならないものかしらね…」
「これで18人目だよ…」

心底疲れたように溜息をつくのは香里と名雪。いつの間にか「ごめんなさい」担当にされてしまった二人だ。
彼女たちが校門前に来てからまだ10分も経っていない。それで撃墜数18とは脅威のハイペースだ。
誘いを断る、というのはそれが例えどんな相手であれ気を使うものだ。それを短時間にかなりの数をこなしていて、二人ともかなり疲れ果てている。今にもダウン寸前だ。
それでも何故、彼女たちが矢面に立ち続けるのかというと……

「うぐぅ…、なんか視線が怖いよ…」
「大丈夫。怪しいヤツは私が斬る」
「あははーっ。舞に任せておけば安心ですよーっ」
((安心じゃないーっ))

……と、いうワケなのだ。
あゆは周囲の視線に怯えるばかりだし、舞はどこから持ってきたのか剣をちらつかせてるし、佐祐理は笑うだけ。
なまじ良識が有る分、彼女たち二人の苦労は増えるのだった。



それからしばらく二人だけの撃墜ショーは続き、その数が30の大台に乗ろうとした時。
彼女たちに救いの手ともいうべき待ち人が現れた。

「すいません。遅くなりました」
「あぅ〜、待った?」
「ごめんなさい。掃除当番だったもので…」

現れたのは美汐、真琴、栞の2年生トリオ。急いできたのだろう肩で息をしている。
その様子を見て年長者である佐祐理はクスリと笑うと隣の舞に問いかける。

「佐祐理たちは全然待ってませんよーっ。ねー、舞?」
「はちみつくまさん」

この大学生コンビはその言葉通り、待ちくたびれたという様子を微塵も感じさせない。
名雪たちがHRが終わったらすぐこの待ち合わせ場所の校門前にやってきた時には既に二人の姿はあった。
それはもう30分は前の事である。実際に彼女たちが何時に来たのかはわからないが……

「ボ、ボクもそんなに待ってないけど……」

と、あゆがチラリと疲れ果てている名雪たちを見ながら言った。マイペース大学生コンビとは違いやはり罪悪感は感じているらしい。
あゆの目線に気付いたのか名雪がパタパタと手を振りながら言った。

「わたしも大丈夫だよ…、疲れたけど」
「アタシはてっきり栞がまた補修でも受けてるのかと思ったわ」

ここでいらん口を挟むのは香里。フッと口元を歪めながら鬱憤晴らしの一言を妹の栞に向ける。
補修、それは無理やり2年生に進級した彼女にとってかなり手痛い言葉。
口撃にさらされた栞は頬を膨らませお決まりの一言を。

「そんなこと言うお姉ちゃんなんて大っ嫌いですッ!!」

途端に少女たちの表情に笑みが浮かぶ。
今は春。苦難の季節を乗り越えた少女たちにとってまさに希望の季節―――――


「それではそろそろ参りましょうか」
「早く、早くッ!!」

暖かい風に吹かれ髪を押さえながら美汐が控えめに言う。見ると真琴は既に50m先でこちらに向かって手を振っている。
少女たちは浮かんだ笑みを消す事無く水瀬家に向かって歩き出した。





水瀬家に着いた少女たちを待っていたもの。
それは人数分そろえられた温かい紅茶、秋子さん特製カップケーキ。そして秋子さんの柔らかい笑みだった。

「忙しいところわざわざ呼んでしまって、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ呼んでいただきありがとうございます」

恐縮そうに言う秋子さんに代表して佐祐理さんがペコリと一礼。それに続く一同。
そして彼女たちの他愛の無い、本当に他愛の無いお話は始まった。


「でねー、祐一君ったらホンットにひどいんだよ」
「はえー、そうなんですかー」
「まったく相沢君の思考回路ほど覗いてみたい物は無いわ」
「それについては同感ですね」
「…手伝う?」
「先輩。それはちょっと…」
「あらあら」

先ほどから鬼の居ぬ間に…とばかりに相沢祐一の悪事を暴露しているのがあゆ。それに律儀に頷いているのが佐祐理。
あゆの話を聞き、溜息をつきながら言うのは香里。それに同意するは美汐。
何を思ったか件を持ち出すのは舞。青スジ立てながら舞を止めているのは名雪。
そんな光景を見ながら秋子さんは嬉しそうにいつものポーズでいつもの言葉。

「勝ったーッ!!」
「えぅぅ、負けました…」

いつもなら先頭にたって騒ぐはずの真琴と栞。静かだったのはあまったカップケーキをめぐってゲームでバトルしていたから。
最初はジャンケンだったのがこの二人が勝ち残ってしまったのが運のつき。
正々堂々とゲームで勝負する事になったらしい。
で、結果は真琴の勝ち。普段祐一と対戦していた経験が勝因といえるだろう。
負けて灰になった栞は「連邦のMSはバケモノですか…」と呟いていたとかなんとか。


かくして勝者である真琴のもとにカップケーキが渡り、それをおいしそうに頬張る真琴。
それを微笑んで見守りながら美汐は秋子さんに向かって言った。

「それにしてもこのカップケーキは美味しいですね」
「うふふ、ありがとうございます」
「なにか美味しさの秘訣でもあるんですか?」
「そうですね…、なんなら作り方、教えましょうか?」
「ハイ、お願いします!」
「佐祐理も教えていただいて宜しいですか?」
「構いませんよ」

途端にわたしもボクもと全員が名乗りをあげる。それを嬉しそうに見ながら秋子さんは言った。

「それじゃキッチンへ行きましょうか」
「「「「「「「ハイ、先生!!」」」」」」」

そしてみんな連れ立ってキッチンへと消えていった。
キッチンから笑い声が絶え間なく聞こえてくるのにはさほど時間がかからなかった。




水瀬秋子講師による講義も終わり、それぞれが思い思いの時間を楽しんでいる時。
何気なくカレンダーに目をやった秋子さんはあら、と声をあげた。

「そういえばもうすぐ輝翼祭ですか」

そんな秋子さんの言葉に佐祐理は同じようにカレンダーに目をやった。

「あははーっ、もうそんな時期なんですねーっ」
「はちみつくまさん。時の流れは速い」

何かしみじみと感慨に耽る大学生コンビ。
彼女たちは生活環境の変化もあり、あっという間の出来事だったのだろう。

「ボクは運動会初めてだから楽しみだな…」
「真琴だってそうよっ!!」
「私も……そうです」

あゆと真琴、そして栞はどこか嬉しそうに言う。彼女たちの言葉を聞いた周囲の目線は暖かいものに変わる。
彼女たちにとって遠いものだった日常がもう手の届く場所にあるのだ。それを喜ばないものはこの場所に居ない。
まだ実感が湧かないように呆ける彼女たちに香里は笑いながら言った。

「大丈夫。絶対忘れられない輝翼祭になるわよ」
「祐一たち張り切ってたもんね〜」
「そうですね。こんな行事こそ相沢さんたちの見せ場ですから」

香里の後に続けて名雪、美汐も言う。
今ここに居ない相沢祐一、そして北川潤と久瀬翔の顔を思い出し少女たちは笑う。
彼らの奮闘する姿を想像するのは簡単な事だった。そして少女たちは確信する。

この輝翼祭が忘れられないものになる事を――――


「それじゃ、お昼のお弁当はみんなで作りましょうか」

少女たちを微笑みながら見ていた秋子さんは唐突に言った。祐一さんたちを驚かせましょう、と。
そしてその返事は了承(1秒)ばりの素早さで帰ってきた。

「うんっ、わたしもお弁当作り手伝うよっ」
「ボクもお料理得意じゃないけど…頑張る」

「美汐っ、一緒にやろっ」
「そうですね。そうしましょうか」

「それじゃ、佐祐理は舞とだねーっ」
「お弁当……じゅるり」

「栞、アンタあんまり量多くしちゃダメよ?」
「わかってますッ!!」

「あらあら」


こうして輝翼祭に向けて彼女たちのお弁当作りはスタートした。
内訳はこうだ。名雪あゆコンビで一段。真琴美汐コンビで一段。佐祐理舞コンビ、一段。そして美坂姉妹で一段の計4段。
秋子さんはみんなのコーチ。そしてデザート及び飲み物を担当する。
彼女たちは意気揚々にまた明日ここで詳細を決めると約束して帰っていった。




「ただいま〜」

そして夜も深まった頃、相沢祐一は北川邸から帰ってきた。
遅くなると電話を入れてはいるがどうせみんな待っているんだろうな、と思いながら。
そんな祐一の考えはドタドタと聞こえてきた3人分の足音で正しいと証明された。

「祐一君、お帰りッ!!」
「遅いわよ、祐一!!」
「ご飯できてるよ」

そんな予想通りの展開に苦笑しながら夕食の席につく祐一。
話題は今日のお茶会の話からいつしか輝翼祭の話題に移っていった。
もっともお弁当の件は祐一にはナイショなので伏せてあるが。

「祐一君」
「ん、どした? あゆ」
「輝翼祭楽しみだねッ!!」
「もちろんだ。な、真琴?」
「当ったり前じゃない。むしろ楽しくないと承知しないんだからね!!」
「やれやれ…、こりゃ大変だ」

気付かぬうちにあゆと真琴にプレッシャーをかけられる形になった祐一は苦笑する。そんな祐一にニッコリと名雪は微笑みかける。

「ふぁいと、だよっ」





      つづくっ!!



〜〜あとがき〜〜

秋子「あら?」
はせ「あ、これはこれは秋子さん。ようこそおいでくださいました」
秋子「これは……あとがきですか?」
はせ「お恥ずかしい話しですが。今回からこのような形にしたいと」
秋子「また人マネですか。貴方も懲りない人ですね」
はせ「うっ……、そんな事言っても……」
秋子「ま、いいです。今回は珍しくKanonヒロインのお話ですか」
はせ「そゆことです」
秋子「それにしてもヒロインの口調、怪しいですね」
はせ「おっしゃる通りで」
秋子「キャラの書き分け、ちゃんと出来ているんですか?」
はせ「何せKanon最後にやったのはもう一年以上前だし……、正直自信ないです」
秋子「無様ですね」
はせ「ぐはっ!!」
秋子「でも今回は早かったですね。前は一ヶ月近くかかったのに…」
はせ「がんばらさせていただきました」
秋子「次回もその調子でお願いしますね。……無理でしょうけど」
はせ「しくしく…」
秋子「それでは次回は…、次回は…、あら? 次回の予定のところが白紙なんですけど?」
はせ「次回は未定。以上!!」
秋子「あらあら。やっぱり懲りてないみたいですね」
はせ「ごめんなさぁぁぁぁい」


                                                    一ヶ月以内にはお届けしたいと思っています。
                                                                          はせがー



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