その北の町の新興住宅街にソレはあった。
誰が見てもごくごく普通のさびれたアパートにしか見えないソレに実は悪魔に魂を売った兄妹が住んでいるなどとは誰が考えるだろうか!!
いや、考えない。(反語)



しかし、しかしだ。
これは紛れも無い純度120%OVERの事実、いや真実なのだ!!
この真実を知った時、私も驚愕したものだ。キミが驚くのも無理は無いだろう。というか驚け。



だが、凡人なら知ってしまったこの真実を見て見ぬふりをするのだろうが、残念ながら私は凡人ではない。
人としての革新、いわばニュータイプと呼ばれる人種なのだ。
ああ、刻が見える。見えるよ。父さん。



その天才も裸足で逃げ出す人の革新(ニュータイプ)である私こと、相沢祐一特派員(17)が、
今回相棒……というか下僕を一人連れてやって来るは問題の秘密結社本部北川支社である。
下僕の久瀬翔特派員(17)であるが、ハッキリ言って何の期待もしていない。盾ぐらいにはなるか、程度の存在である。



そんな偉大な勇者(17)とその下僕(17)が今、そう正に今ッ!! 悪魔の館に……

「おい」

潜入しようと……って、どうした? 久瀬翔特派員(17)?

「その名前で呼ぶな。大体なんでいちいち年齢を呼ぶんだ?」

いや、何かあった時のために未成年である事を強調しようと……

「それは今思いついたな?」

うむ。

「はぁ……。さっきから聞いていればわけのわからん事をブツブツと……。おい、北川。君も何か言ったらどうだ?
 言われているのは君の家の事なんだぞ?」
「そうだな。色々ツッコミどころがあるが……、一つどうしても言っておきたい事がある」

何だ? 言ってみろ悪魔に魂を売った兄妹の兄、北川潤(17)。

「オレの家はアパートじゃない。マンションだ」

「「そこかよッッ!!」」








         野郎だけの井戸端会議
             熱闘!! 体育祭編・おんゆあま〜くB






「というワケで……やって来ました北川家!!」 
「何がというワケなんだ?」

目の前にある北川曰くマンション(しかしどこから見てもせいぜいアパートがいい所である)を指差す祐一に律儀に聞き返す久瀬。
祐一は久瀬の問いに薄ら笑いを浮かべ無視すると北川の方を向いて言った。

「そんな事はいいとして……、わざわざ俺たちを家に呼んだんだ。それなりの理由があるんだろうな。北川!?」
「んー、まぁな」
「おいおい。何だそのやる気なしな返事は」
「ま、ちょっと待て」

そう言って祐一を制すと北川は腕時計を見、時間を確認する素振りを見せた。
その誰が見ても誰かを待ってます、といった北川の様子に祐一と久瀬は思わず顔を見合わせた。

「お、来たな」

と、一人呟く北川。どうやら待合人が来たらしい。祐一と久瀬は揃って北川が見ている方向に目を向けた。
確かに向こうの方から自転車のライトらしき明りが見える。その明りがだんだん大きくなってきているという事はこちらに向かってきているという事なのだろう。
そうボンヤリと祐一が明りを見ながら考えていると、北川が待っていた相手が誰かわかるぐらいの距離まで近づいてきていた。
北川が待っていた相手とは………

「な〜んだ。誰かと思ったら斉藤じゃないか」
「おいおい。それが待ち合わせしてたヤツに向かって言う言葉か?」

落胆交じりの祐一の言葉に疲れたように斉藤が言う。斉藤は自転車を手近な所に止めると祐一たちの隣に並んで歩き出した。
4人揃ったところで久瀬が改めて北川に向かって言った。

「それで? 僕や相沢ならまだしも斉藤まで呼んだんだ。何か重要な用事があるんだろうな?」
「そうそう。このメンツが集まったんだ。一体どんな用件なんだ?」

久瀬の言葉に祐一も同意する。この2人の問いかけに北川は笑いながら言った。

「な〜に、ちょっとした作戦会議≠ウ」

「「作戦会議?」」

北川の言葉に律儀にハモって返す祐一と久瀬。
その様子に笑いながら斉藤が北川の言葉を補足するように話し出した。

「もうすぐ輝翼祭だしな、その下準備ってワケさ。それにアレだ。ウチのクラスには壮大な目標があるからな〜」
「ウム。無策で勝利が掴めると過信するほど私は愚かではないのだよ、諸君」
「あー、さいでっか」
「やれやれ……、そういうことなら仕方が無いか」

何故か偉そうな物言いの北川に疲れたように祐一と久瀬が言う。



そんなこんなのうちに北川邸の前までやって来た相沢祐一ご一行。
北川邸は本人曰くマンション(しつこいようだがどうしてもアパートにしか見えない)の3階の角部屋である。
ここに北川は妹と二人暮しなのである。

「ついに来たか……」

玄関のドアを前にし、緊張した面持ちでゴクリと喉を鳴らす祐一。ドアのノブを取ろうとする手が震えている。
が、そんな祐一をあっさり無視すると北川はドアを開ける。

「あ」
「ただいまー」

いきなりドアを開けられて声をあげる祐一をよそに北川は中に入っていく。
それに続くは久瀬と斉藤。
それを呆けたように見ていた祐一はやがて渋々中に入っていった。
家に入った北川たちを待っていたのはソファーに座ってTVを見ていた一人の少女だった。

「あ、兄さんお帰りー、……って、先輩方いらっしゃいませー」

少女はTVから目を放す事無く北川に声をかけるが、北川の他に誰か来ている事を足音で知ると慌てて立ち上がる。
そんな少女を見て北川はしまった、という表情になり頭を掻きながら目の前の少女に言った。

「ありゃ、唯居たのか」
「そりゃ居るわよ。今何時だと思ってるの? 兄さん」
「これは困った。なぁ、相沢?」
「俺に話を振るな」

いきなり北川に話し掛けられた祐一は、仏頂面で答えた。

「あら、相沢先輩が家に来るなんて珍しいですね」
「君子危うきに近寄らず。と言う言葉があるぐらいだからな」
「そうだ、お茶持ってきますね〜」
「無視かい」

祐一に話を振るだけ振っといてパタパタと奥に消えていった少女。名前を北川唯(きたがわゆい)という。
そんな少女の後姿を見ながら、久瀬は肩を落とした祐一に向かって話し掛けた。

「どうにも彼女とは相性が良くないらしいな?」
「まったくだ。流石は“相沢祐一の天敵”だな」
「ほっとけ」

久瀬も久瀬に続くように言った斉藤も祐一が振り回されているのを面白がっているようだった。
その事に気付き、ますます憮然とした表情で祐一は言った。



さて、この北川唯嬢。今までの言動でもわかると思うが、相沢祐一が唯一苦手としている少女なのである。
北川唯嬢は鍵峰学園高校の1年生。所属している部活は新聞部。なんでも“新聞部の期待の星”らしい。
こんな彼女の事を何故、相沢祐一が苦手としているのか? それは彼女が“相沢祐一問題担当”だからに他ならない。
彼女が書く“相沢ネタ”は新聞を読む学生たちに好評で、新聞の部数もうなぎ上りらしい。
ネタにされている祐一にとって、まさに彼女は“天敵”なのである。


余談だが、兄の北川潤は“相沢祐一の相方”と呼ばれるのに対し、妹の北川唯は“相沢祐一の天敵”と呼ばれている。
そんな北川兄妹のことを一部の学生の間で“相沢祐一の天使と悪魔”と呼ばれているらしいが……まだ未確認である。



「で、どうしようか?」
「どうしようか、って呼んだのはお前だぞ北川」
「いや、まさか唯のヤツが居るとは思わなくてな」

唯がお茶を取りに向かったのを見て、これ幸いと北川が言った。
その言葉に対する祐一の反論に困ったように北川は頭を書きながら言う。

「いいんじゃないか? やっちまおうぜ」
「いや、それじゃ“作戦会議”にならないぞ」

お気楽に言う斉藤に、北川が真面目な顔で言う。その言葉に斉藤は聞き返す。

「なんでだよ?」
「相手が悪い。相手はあの“北川唯”だ」
「まったくだ…」

冷静に指摘する久瀬に、心底同意するのは彼女の一番の被害者である祐一。これには斉藤も納得せざるを得ない。
男4人の間に気まずい沈黙が流れる。

「あら? どうしたんですか?」

そこにお茶を人数分持って唯がやって来た。
いきなり雰囲気が重たくなったので小首を傾げながら、みんなの前にお茶を出す。

「延期、だな」

お茶を一口飲んだあと、おもむろに北川は言った。

「結局そうなるのか」
「ま、しゃーないか」
「まだ時間はあるしな。そうするか」

久瀬、祐一、斉藤も同意した所で今日の“作戦会議”は延期となりました。

「延期って何が?」

当然、話の流れを理解していない唯から疑問の声があがる。しかし、北川はそんな妹の方を見るとキッパリと。

「お前には関係無い」

そんな兄の言葉に頬を膨らませ、怒ったように唯が言った。

「なっ、何よ!! 兄さんの馬鹿!!」
「いや、だってなぁ。本当の事だし」
「少しくらい教えてくれたっていいじゃない!! 兄さんのケチ!!」
「ケチと言われてもな……」
「いいわよ、もう兄さんには聞かないから!! ねぇ、久瀬先輩? ……って、露骨に目ェ逸らすし!!」
「この件に関しては僕はノーコメントだ」
「じゃ、じゃぁ斉藤先……って、居ないし!!」

斉藤の居たところは既にもぬけの殻になっていた。きちんとお茶を全部飲んでいる所など彼らしいといえば彼らしい。
ソレを見て、久瀬が感心したように言った。

「さすが斉藤。動きが素早いな」
「あぁ、見事な手並みだ」
「そこぉッ!! 逃亡者を賞賛する真似は辞めなさいッ!! ……ねぇ、相沢先輩?」
「あ、あぁ……俺を置いて逃げやがって斉藤のヤロウ……」
「何か言いましたか?」
「そのような事実はありません。大佐殿」

斉藤の逃げっぷりに素直に感心するのは久瀬と北川。置いてかれて愚痴るのは祐一。
そんでもって、今祐一はとてつもない危機に直面していた。正に蛇に睨まれたカエル状態。

「で、優し〜〜〜い相沢先輩なら教えてくださいますよね?」
「う、ま、まぁ。俺でも分数の割り算くらいは教えられると思うが」
「延期、って何です?」

苦し紛れのボケもあっさりと無視され、祐一は袋小路に追い詰められていった。
ふと、隣を見ると久瀬と北川が揃ってテレビで野球観戦をしていた。

(こ、こいつら……後で殺す……)

心の中で久瀬と北川に対して死刑を宣告すると、今度は目の前の少女に自分が死刑を宣告された。

「ちゃんと答えてくださいね♪」
「あーーもう、わかった。ちゃんと教えてやるよ!!」

半ば自棄になって祐一は叫ぶ。

「俺らが話していたのは一週間後の輝翼祭について、だ!!」
「輝翼祭、ですか?」

興味深々とばかりに唯が食いついてくる。しかし、祐一は冷静さを取り戻したのか片手で彼女を制し言った。

「これ以上のことは言えないな。……まぁ、輝翼祭が終わる頃にはわかるだろうよ」
「……それは事実上の優勝宣言ですか?」
「さぁ、な」

いつの間にか記者モードになっている唯に笑いながら祐一が言った。とりあえずはこれで唯も納得したらしい。
と、話が終わったのを見ると北川が言った。

「じゃ、今日はこれでお開きだな」
「あぁ。斉藤のヤツはとっとと帰ったけどな」

やれやれといった様子で祐一が言う。そこへ唯が祐一と久瀬に向かって聞いてきた。

「あれ、先輩方帰るんですか? 今から先輩方の分も夕ご飯作ろうかと思ったんですけど」
「だとさ。どうする? 相沢に久瀬」
「僕は構わんが……、いいのか?」
「気にするな。困った時はお互い様だ」
「それじゃ、お言葉に甘えるとするか」
「相沢はどうする?」

北川の問いに、祐一はう〜んと考え込むと言った。

「辞めとく。この時間だと秋子さんがもう準備してる頃だからな」
「そうか。……それじゃ、また明日だな。相沢」
「遅刻するなよ」
「また来てくださいねー、相沢先輩」

「はいはい。お邪魔しました……っと」

手をヒラヒラさせながら祐一は部屋から出て行った。
時間は7時過ぎ。早く行かないと夕飯にありつけないかもしれない時間だ。

「こりゃ、急いで帰らないとな……」

そう一人呟くと水瀬邸へ歩を進めていった。
こうして相沢祐一君の北川邸訪問は終わりを告げることになる。







さて、それから数時間後。
久瀬と北川は2人で夜道を歩いていた。

「しかし、うまくやったものだな?」
「何の事だ?」

あくまでとぼけようとする北川に、久瀬はフンと鼻を鳴らすと言った。

「手段の為には親友も妹も駒にする、か」
「あ、やっぱりわかった?」
「当然だ」

久瀬の言葉にナハハと乾いた笑いを浮かべる北川。

「でもな〜、これが一番効率が良いやり方なんだよな〜」
「これで明日の鍵高タイムズの一面は決まったな」
「だな」




そして、次の日。久瀬の言った通り号外と銘打たれた鍵高タイムズが全校生徒の目に映った。
そこの一面には大きく『相沢祐一、優勝宣言!!』と書かれていた。

この記事こそ北川潤が生徒の意識改善の為に仕組んだものであると言う事は一部の者しか知らない事である――――――




    つづくっ!!





〜〜あとがき〜〜


   ぐあ――――っ。やっとできた………。
   しっかし、一ヶ月以上も何してやがりましたかねぇ、自分。
   ホンマに申し訳ないです。


   で、今回一応レギュラーメンバー予定の北川唯嬢登場の巻でした。

   そんなこんなでキャラ紹介です。

   北川唯(きたがわゆい)
     何を隠そう、北川潤の妹。なもんで結構顔立ちは兄である北川潤に結構似ている。男子の間でも人気があるらしい。
     髪の色は北川と同じ。それをポニーテールにしている。尻尾は結構長め。
     新聞部期待の星として、連日相沢祐一を追っかけている。通称“相沢祐一の天敵”。
     『相沢ガールズ』からは要注意人物としてブラックリストのトップに載っているとかなんとか。
      彼女からのコメント
        「わ、わたしにはアンテナなんて付いてませんからね!!」


   次回はその『相沢ガールズ』in水瀬家のお話。
   野郎だけなんて題名ですが、これは単にあくまで男連中がメインですよ。というわけでして。
   なにも彼女たちの話を書かないというわけではありません。
   その辺をご了承いただけると宜しいかと。

   では、次回はもっと早くお届けしたいと……
                                                                      はせがー
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