“相も変わらずこんなSSを読もうと思った貴方へ”

   この話は前作、“一日の過ごし方編”とは直接的な関係はありません。
   が、読んでからのほうが何かと都合が良いです。
   一応、今回の作品は前作の1週間後くらいということになります。
   そんでは、本編の方ど〜ぞ。





ジリリリリリリッッ!!



なんともお約束な目覚し時計の音が部屋中に鳴り響く。
その時計を止めた後ムクッ、と起き上がったのは今作の主人公。
久瀬翔その人であった。
彼の朝は早い。品行方正、成績優秀で通ってきたからだろうか。
もちろん遅刻なんて1回もしたことは無い。彼にはまったくもって縁の無い言葉だった。
今までは。

「ん、……なッ!!」

ふと、自分が止めた目覚し時計を見、驚愕する。
自分がセットした時間からゆうに2時間は過ぎているのだ。
しかも、そろそろ家を出ないと始業時間に間に合わない。
今まで縁の無い遅刻という言葉が手招きをしているように彼は思えた。
ああ、これが遅刻ギリギリの時の心境か、などど感慨にふけることさえ出来た。
そして、何故こんな事になったのか考えようとして……やめた。
理由なんてわかりきっている……今もベットの下の床で寝返りを打っている2つの物体。
相沢祐一と北川潤だ。
昨日の夜中に転がり込んできてそのまま泊まったのだ。



何でも、昨日の夕方、相沢祐一がまた彼女達から逃げたそうだ。
まぁ、そろそろ月末だし、これは相沢祐一の金銭面から考えて仕方ないだろう。
しかし彼女達にとってはそんな事は問題じゃないらしい。
もはやこの街名物となった“8対1鬼ごっこ(もちろん鬼は8人、逃げるのは相沢1人)”を商店街で繰り広げ、ほうほうの体で北川邸へ逃げ込んだらしい。
だが、その事は彼女達の予想の範囲内だった…と言っても相沢の逃走ルートなどたかが知れてるが。
北川邸を襲撃されまた逃げ出しここへ辿り着いた……と、そういう訳だ。
家に来る頃にはすっかり日も暮れ、相沢と北川はボロボロで見るも無残な状態だった。
運がいいのか悪いのか、このマンションはオートロックで外部からの侵入は不可能だ。
そんなこんなで、逃げ切る事に成功した二人はそのまま崩れ落ちるように寝たのだった。
おそらく目覚し時計の設定を変えたのも彼等だろう。いつの間にやったんだか……

「……ふぅ」

今年になってからもう癖になりつつある溜め息を吐き、彼等を起こそうと行動を開始した。
しかし、彼は微塵も後悔なんてしていない。
何故なら、これが彼の選んだ日常だから―――――





  野郎だけの井戸端会議・それぞれの日常編
        久瀬少年の騒がしくも穏やかな日常





「まったく……やれやれだ、な」

そう僕は独り呟いた。
今は、一時間目の休み時間。
僕等は奇跡的に遅刻はしないですんだ。僕に関して言えば経歴に傷がつかずすんだのだ。
今の独り言は目の前の惨劇に向けられたものだ。
哀れな子羊こと、相沢祐一は怖い6人の狼に囲まれている。
つまり、いつもの事ということだ。
水瀬名雪を筆頭に水瀬家メンバーは僕等より遅れて学校に来た。タイミングはアウト。
ぶっちゃけた話遅刻したのだ。
その事も手伝ってかいつもより酷い事になっている。
助け舟を出すべき“相沢祐一の相方”北川潤は笑っている。いかにもこの状況を楽しんでますと言った様子だ。

「聞いたぜ。あいつら……お前ん家に行ったんだってな」

と、話しかけてきたのは同じクラスで悪友の一人の斉藤明彦。
彼も北川と同じように笑っている。相沢の不幸は蜜の味、と言った所か。

「ああ……、そういう君はまた朝早かったのかい?」

斉藤はこう見えてもバスケ部のエースだ。なんでも大学にもバスケの推薦で行くらしい。
だからバスケ部を引退した今も色々練習しているのだそうだ。

「まぁね……おっと、そろそろ始業のベルなるな」

確かにそんな時間だ。
斉藤も自分の席につき、僕はちらりと前を見た。いつの間にか惨劇は終っている。
そこには燃え尽きた相沢の姿が見るも無残に残されていた。

「やれやれだ、な」

僕はいつの間にか口癖となったその言葉を言わずにはいられなかった。
結局、この惨劇は午前中ずっと続いていた。




そして昼休み。
ドナドナを歌う北川に見送られながら8人(大学生の川澄舞、倉田佐佑理合流)に引きづられて行く相沢の姿が涙を誘った。
そして僕もいつもなら相沢、北川や斉藤と昼食を取る所だが、今日は生憎用事があった。
向かった先は生徒会室。
用事とは生徒会関係の事である。

「どうも」

とだけ言ってドアを開ける。もう既にみんな集まっているかと思ったが実際は1人、ショートカットの少女がいるだけだった。
何か一心不乱に本を読んでいる。その少女はこちらの方を見もしないで話してきた。

「遅いぞ、久瀬ぇ」

彼女の名前は田中涼子(たなかりょうこ)。生徒会副会長だ。
……もうおわかりだろう。僕の彼女でもある。

「ん? 他のみんなはどうした?」

今日は僕としては珍しく時間に遅れたのだ。……と言っても理由は相変わらず相沢等にあるのだが。
しかし、今この部屋にいるのは田中涼子ただ1人……これはいくらなんでもおかしいだろう。

「え? あぁ…他のみんななら帰ったわよ」

今度はちょっとだけこっちを見ながら言った。しかしすぐに視線を本に戻す。



涼子がさっきから熱心に読んでいる本……残念ながらそれが何か僕は知っていた。
この学校の文芸部が出版している本……女子の層に圧倒的人気を誇っている本だ。
内容は…ユージとシュン、ヒコという3人の話だ。街の掃除屋という設定で、最近の展開は敵対関係にあったショウが紆余曲折の後に仲間になったというものだった。
……要するに僕達の事を書いてあるのだ。最近の頭痛の種でもある。
初めは出版を辞めさせようとしたが。それもできなくなってしまった。
それもこれも、ここにいる生徒会副会長の田中涼子が、

「いいじゃん。面白いんだし」

と言ったからである。
今では生徒会の後押しを受け、おっきなお姉ちゃん達に大好評だそうだ。



っと、こんな事は今はいいんだ。

「他のみんなはどうして帰ったんだ?」
「アタシが帰したのよ……決まってるでしょ」

何が決まってるんだ? と心の中でツッコミつつまた質問を帰す。

「どうしてそんな真似を?」
「貴重な昼休みつぶしたって仕方ないでしょ。そんなのは放課後にでもやりゃ〜いいのよ」

確かに一理あるな。と納得した僕はドアの方へ向かいながら言った。

「それじゃ、僕は教室へ戻るぞ」
「待ちなさいよ。どうしてアタシが待ってたと思ってんの。一緒に食べましょ」

と言ってこちらに向かって投げられる学食のパン。
難なくそれを受け取ると、近くの机に腰を下ろす。
その隣に涼子も腰をおろす。

「……こういう場合は普通、手作り弁当だと思うんだが」
「うっさい。オゴリなんだから文句言わない」

こうして久しぶりに平穏な昼休みは終っていった。




滞りなく午後の授業が終了し、これから放課後になる、というのにまだみんな席に着いたままだった。
今は週に一時間あるLHR(ロングホームルーム)の時間なのだ。
そして、教壇には美坂香里と北川潤の二人が立っている。
そういえば……男の学級委員って北川だったんだな……すっかり忘れてた。
たぶん、この教室に残っているみんなもそう思っているだろう。
しかし、みんなのそんな思いなどおかまいなしに北川は張り切っている。
そんな事を思っていると、いきなり声のトーンを変えて北川は話し出した。

「今日みんなに集まってもらったのは他でもない……」
「前置きは言いから早く話せー」

と、ダルそうにしながら相沢が言う。
ちなみに教室のほとんどの生徒が相沢と同じでダルそうにしている。

「ちっ、これからがいい所なのに……ま、いいか。
 今日は6月の始めに行われる体育祭――――通称、輝翼祭について話し合います」

後ろでは美坂が黒板に大きく輝翼祭、と書き種目を書き出していく。

「いいか、お前等!! うちのクラスの目標はただ一つだ!!」

と、いきなりヒートアップする北川。対して他の生徒たちの反応は少ない。

「何だ? 輝翼祭優勝か?」

おっ、ちょっとだけ相沢が食いついてきたかな?
しかし、北川はそれを鼻で笑うと言った。

「フッ……、相沢ともあろう者が温い、温すぎるぞ!!
 うちのクラスの目標とは……今までどのクラスも成し得なかった快挙。
 輝翼祭総合優勝と雪詠祭企画大賞の……2冠だ」

おぉっ
とクラスからざわめきがもれる。
ちなみに雪詠祭とは文化祭の事だ。
そして北川はざわめいているクラスのみんなを見ながら言った。

「いいか……このクラスの面子を良く見ろ。言っちゃなんだが……最強だぜ?
 先ず、一応バスケ部のエース斉藤明彦!!」
「一応って言うな……」

疲れたように否定する斉藤。しかし一応でもエースと呼ばれ嬉しそうだ。

「そして、“悪徳会長”の久瀬翔!!」
「だから……はぁ、もういい」

コイツと相沢には何を言ってもムダだろう……半ば諦めてしまったのが少し悲しいが。

「そして、頭でっかちの美坂―――でっッ!?」
バコン、と後頭部を叩かれる北川。
なかなかいい音を立てた。アレは痛い。
そしてうずくまる北川を見下ろしながら冷ややかな目線で問う美坂さん。

「何よその頭でっかちって……後で詳しく聞きたいわね?」
「(無視)……えっと、陸上部部長で学園のアイドル水瀬名雪!!」

冷や汗をたらしながら無視してもしょうがないと思うが。
しかし、みんなの視線は水瀬さんのほうに向かった。
3年の倉田、2年の水瀬といえば去年非公式で行われた人気投票のトップ2だ。
しかも水瀬さんは陸上競技界のマドンナでもある……と北川が前に言っていた。
おかげで校外の人気も高いらしい。

「え? わたし?」

いきなりみんなの視線が自分に向いたので目を丸くする水瀬さん。
たぶん状況がわかってないだろう。

「んでもって、“食い逃げの女王”月宮あゆ!!」
「うぐぅ、北川君にも言われた〜〜」

といって涙目になる月宮さん。
“食い逃げの女王”というあだ名は、事あるごとに相沢がこう言って月宮さんをからかうためにすっかり定着してしまった。
どことなく親近感を覚えてしまうのは何故だろうか?

「そして、相沢“女ったらし”祐一と俺、北川“ナイスガイ”潤!!」
「何だその妙なミドルネームは……でも、面白そうだな」

と、北川を睨みつけるように相沢が言う。
しかし、その意見には大いに賛成したい所だ。相沢君。
もちろん北川に限っての事だが。

「そうね。……このメンバーなら本当に2冠、できるかもしれない」

美坂さんも乗ってきた事でみんなが乗り気になってきた。
やはり、学年首位の言葉には真実味があるのだろう。
美坂さんの人柄、とも言えるが。

「うんっ。ふぁいと、だよっ!!」
ここで水瀬さんお得意のやる気のなさそうな激励の言葉が出てくる。
しかし、これでいっそうみんながやる気を出したようだ。

「ボクもかけっこには自信あるよっ!!」

と両手を握り、ファイティングポーズみたいにしながら月宮さんが言う。
かけっこと言うあたりいかにも月宮さんらしい。
それに月宮さんにしてみればこういった行事は7年ぶりのはずだ。
気合の入り方が違うだろう。
ここでざわめきは最高潮になる。
今までのダラけていた空気が無くなり、みんなやる気が出てくるのがわかった。
その様子を満足そうに見ると北川は静かに言った。

「だから……この輝翼祭はステップにしかすぎない。俺たちの2冠の、な」




それから後、種目を選ぼうと席を立ち始めたその時に乗じて僕たち4人は屋上に来ていた。

「それにしても、北川。上手くみんなを丸め込んだな?」

と、僕が言う。僕は最初からわかっていたのだ。
北川がやる気を出させるためにわざとあんな事をいったのを。
この学校は進学校だ。だから受験生の3年になると体育祭なんかはおざなりになりやすい。
それを防ぐためのあの発言なのだ。

「人聞きの悪いことを言うな。……ま、俺の事は煽動者(ラジエーター)とでも呼んでくれ」

と、嬉しそうに北川。やはりみんながやる気になってくれたのが嬉しいのだろう。

「誰が言うか。…でも、みんなやる気出てきたじゃないか」
「ま、やる気ないままよりはよっぽどマシだし、良いんじゃないの?」

と相沢と斉藤が続けて言う。コイツ等は聞くまでも無くやる気になっている。
というか、こんな行事こそコイツ等の見せ場だろう。
やる気になるな、と言うほうが無理な話なのだ。
それぞれ床に寝っ転がり空を見ていると、北川が言ってきた。

「ま、高校最後だしなこういう行事こそ燃えないと……それにあの目標はマジだしな」

やっぱり、あの目標は本当なのか……
でも、出来そうな雰囲気はあるな。やる気になったみんなを見ていると。

「それなら、俺等もがんばらんとな」
「そういう事になるね」

と、気合を入れなおす相沢と僕。
もう僕たちの出る種目は決まっている。まぁ、だから出てこれたのだが。
ここで、腕時計を見たあと斉藤は言った。

「おっと、俺はそろそろ戻るぞ」
「頑張れよ〜〜」

と、相沢の言葉を背に教室に戻る斉藤を見送る。斉藤はこれからバスケの練習をするのだ。
そしてそのまま3人で時間をつぶそうとした時、校内放送が入った。

「ぴんぽんぱんぽ〜〜ん♪ 迷子のお呼び出しを致します。
 生徒会長でありながら時間も守れない久瀬翔ちゃま。
 とっとと生徒会室まで来なさい。ちなみに後3秒で罰ゲームです。
 1、2、3……はい、罰ゲーム決定」
「な……」

しまった。すっかり忘れていた…しかも罰ゲーム決定……って、罰ゲームって何?
この声は…涼子か…しかも結構怒ってるな……

「そして、輝翼祭運営委員長の北川潤ちゃま。アンタも同罪」
「うぁ…俺もか……」

肩を落とす僕と北川。そういえばコイツ…こんな役職に着いてたんだっけ……
すっかり忘れていた。

「大変だねぇ」

とニヤニヤ笑う相沢。しかし、彼の天下は続かなかった。

「そ・し・て♪ 相沢祐一ちゃま。貴方のカワイイ彼女達が玄関前でお待ちです。
 とっとと出てきて貢ぎなさい。ちなみに逃げてもムダだからね♪」

いきなり沈んだ相沢の方を叩く、僕と北川。
しかし、そんな男の友情を再確認している暇など僕たちには無かった。
そして肩を落とした敗北者3人が屋上から出て行くのにそんなに時間はかからなかった。
はぁ……




そして、ここは校門前……水一杯のバケツを両手に持つ僕と北川。
何でも、これが遅刻者に対する伝統的罰ゲームらしい。
しかし校門前でする必要はないんじゃないか? みんなが笑いながら通り過ぎていく。
ちなみに相沢は首尾よく8人に囲まれて学校を後にした。
今ごろは百花屋にでもいるのだろう。
これで当分は逃げようなんて思わないだろう。あくまで当分だが。

「……なぁ、俺たち何でこんなことしてるんだ?」
「僕に聞くな、僕に」

こんな不毛な会話を交わしつつ罰ゲームは続いた。
そしてこの罰ゲームは暗くなるまで行われた。
ちなみに今日の生徒会の集まりは明日に延期らしい。
はぁ……




夜。学校から帰ってきた僕は誰もいない部屋の電気をつけた。

「ただいま、っと」

何故かは解らないが今日は疲れた。今日も、と言うべきか。
何もする気が起こらない。夕食もコンビニで弁当を買ってきた。
一人暮らしをする前はコンビニ弁当なんて食べた事無かったな……
だいぶ“こっち”の世界に馴染んできた僕自身に対して苦笑しつつ、今日という日を終えた。




そして、朝。学校への道を走っている僕がいた。ちなみに時間はギリギリだ。
何て言う事はない。目覚し時計の設定を変えるのを忘れていただけだ。なんていう大失態だ。

「よっ、遂にお前も時間を敵に回したか」

と、同じように走ってきた北川。
コイツはいつもの時間だ。慣れてるのか若干余裕すら感じられる。

「馬鹿な事を言うな……今日だけだ」

走りながら僕が返す。
結構走りながら話すのは大変なんだな……覚えておこう。

「ふ〜ん。ま、いいや。それよりもペースあげるぞ」
「あぁ、そうした方が良いだろう」

2人頷き合うと走るスピードを上げた。


こうしてまた、僕の騒がしく穏やかな一日が始まる。





〜〜あとがき〜〜

   ということで特別編からそれぞれの日常編と名を改めての久瀬君の一日の話でした。
   これはいつか北川とか斉藤とかの一日の話も書いてみようかな〜、とか思っているからで。
   でも、今回の話はあまり上手くいったとは思ってません。
   なんでできることならばまた久瀬で短編、書いてみたいと思いますけど。


   ま、それはそれとして。
   今までは昔の作品のリメイク版でしたが、ようやっと次からは新作です。
   そんなわけで久瀬の彼女、出してしまいました。限りなくオリキャラです。
   キャラ設定はこんな感じで。
  
   田中涼子(たなかりょうこ)
    生徒会副会長にして、久瀬の彼女。
    黒髪のショートカットで勝気そうな目が特徴的な少女。
    面白ければ何でもいい、という性格で久瀬の頭痛の種No.3。
    彼女からのコメント
     「オトコってのは権力があってナンボなのよ」

   ん〜な感じとなっております。
   まだまだオリキャラが出てくる予定ですがご了承いただけると幸いです。
   そして次も読んでいただけると感無量です。


   ………てか、こんなあとがきまで読んでる人はいるのかね?
                                         はせがー
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