“性懲りも無くこのSSを覗いてしまった好奇心有り過ぎの貴方へ”

 
  この話は前作、“一日の過ごし方編・前編”の続きです。
  それは、ぜったいに、ぜったいです。
  よって、まだ前作を読んでないという方は今すぐ読んでしまいましょう。

  
  余計な説明は不要!! とにかく本編へGO!!

 



野郎だけの井戸端会議
         一日の過ごし方編(改訂版)・中編





ある晴れた日、授業開始から40分後




と、いう事で今は自習中。そんでもって俺はまだ屋上に居たり。
とりあえず尖兵として斉藤が教室に帰っていった。
その5分後には、北川と久瀬が帰っていった。
そして、そのまた5分後に俺が何食わぬ顔で教室に帰るという寸法だ。
この時、決して俺が北川や久瀬と一緒に居たと思われてはならない。
俺は気分が悪くなって保健室で寝てた。という事にしてあるのだ。
ちなみにさっきの昼休みの時間、保健室には鍵がかかってある。
保健室の先生は俺たちの味方なのだ♪
なんでも北川が買収したらしい。どうやって買収したんだか……

「さてと、前置きはともかくそろそろ教室に戻るか……」

腕時計で時間を確認すると予定通りの時間になっていた。
そっと屋上のドアを開け、閉める。この時、久瀬から借りた鍵で鍵を閉めるのを忘れてはいけない。
鍵を閉め忘れた、なんて些細なミスで俺たちの最後の聖域を失うわけにはいかないからな。
そしてそのまま授業中で誰も居ない廊下を歩く。
こんな時、ちょっとした優越感に浸るのは俺だけだろうか?
3年の教室は最上階の3階にあるので屋上からはほんのちょっとの時間で教室に戻れる。
そして自教室のドアの前につくと、深呼吸を一回してそっとドアを開ける。
と、すぐに俺に向かって教室中から視線が集まる。
その中で非難めいた視線が3組、これは考えるまでもなく名雪、あゆ、香里の3人だろう。
その視線に気付かない振りをしながら自分の席へと向かう。
その3者から席が離れているのが不幸中の幸いだ。(用法違うか?)
これは学期始めの席順がアイウエオ順だったからに他ならない。
相沢なんて苗字は出席番号一番になるべくして創られたとしか考えられない苗字だ。
そんなわけで俺の席は通路側の一番前である。ま、これはどうでもいい話なのだが。
しかしいくら席が離れているとはいえ、今は自習中である。すぐにもこの3者が近付いてくるのが気配でわかった。
俺は3人に気づかれないように深呼吸をする。
オペレーションBはもう発動しているのだ。

「どうした? 3人とも、俺に何か用か?」

3人が近づいてくるタイミングをはかり、機先を制する。
この時嘘っぽい笑顔を作り白い歯を見せるのがポイントだ。

「祐一くん、昼休みは何処に行ってたの?」
「そうだよ、せっかくみんなで一緒に食べようと思っていたのに……」

と、予想通りの追求をしてくるあゆと名雪。しかし、ここで下手な言い訳をしてはいけない。
最大の敵である香里が、俺の返答の揚げ足を取ろうと待ち構えているのだ。

「スマン。気分が悪くなってな、保健室で休ませてもらったんだ」
「保健室には鍵が掛かっていたけど?」

俺の返答に間髪を入れずに聞いてくる香里。
やはり捜索の手は保健室にも及んでいたか……
ここは一応用意しておいた言い訳を使う事にした。

「いや、保健室の先生がな。うるさくならないようにって鍵をかけたんだ」

これについては保健室の先生とも話をあわせてある。
ボロは出ない筈なんだが……

「それってボク達のこと?」
「う〜、ひどいよ祐一」
「俺に言うなって、でも他の生徒も寝てたし保健室にみんなで来られると流石に迷惑だろ?」
「う〜、そうだけど、でも……」

まだ納得がいってない様子のあゆと名雪。しかし、救いの手は思いもしない方向からやってきた。

「相沢君がそう言うんだったらそうなんでしょ。ほら、席に戻るわよ」

と香里がまだ納得していない2人に席につく事を促す。しぶしぶ席に戻るあゆと名雪。
なんだか知らんが助かったらしい。

(で、本当の所はどうなの?)
(な、何がだ?)

いきなり香里に小声で話し掛けられて驚きながらも小声で返す。
俺は香里の追及は今から始まるんだと悟っていた。

(本当に昼休みに保健室に居たかってことよ)
(何だ? 疑うのか?)
(あたしはあゆさんや名雪とは違うわ。貴方の背中、汚れてるわよ?)

しまったぁぁっ、屋上で寝てたから背中が汚れてしまったのかぁっ。
相沢祐一、一生の不覚っ。
しかしそんな事は顔には出さずあくまでポーカーフェイスでシラを切り通す。

(おぅ、本当に保健室に居たぞ)
(ふ〜ん。ま、そういうことにしといてあげるわ)

余裕の笑みで席に戻っていく香里。がっくりと項垂れる俺。
くぅっ、やっぱり最大の敵は香里だったか……
香里には大きな貸しが出来てしまったな……




ま、そんなこんなで今は6時間目。
さっきの休み時間に栞たちが押し掛け、香里と同様に美汐に見破られてしまったのはここだけの話だ。
退屈な授業も後五分もしないうちに終る。
今日の放課後の予定は久瀬の家で朝まで飲み会だ!!
こればっかりは譲る事は出来ない。
誰にも気付かれないように帰り支度を整え、チャイムが鳴ると同時に教室を脱出するのだ。
久瀬たちにはオペレーションBを発動してある。
彼等もこの時間が終ると同時に行動を開始するだろう。
と、今まで熱弁をふるっていた壇上の先生が静かに言った。

「あー、では、授業を終る」

おしっ、ミッションスタート!!
授業の終わりの礼をするか否かのタイミングで教室を飛び出す。
ここで通路側の一番前という席の位置が幸いした。
ほれぼれするようなスタートダッシュだ。
しかし、そうは問屋が卸してはくれなかった。
教室を出て、一目散に玄関を目指す俺の目前に飛び出す3つの影。

「祐一さんっ」
「止まりなさいよ祐一っ!!」
「そんなに急いでどちらに行かれるのですか?」

目の前に立ちはだかるは栞、真琴、美汐の2年生トリオ。
突然の不測の事態に俺は思わず叫んでしまう。

「何でこんなに早いんだ? まだ6時間目が終ったばかりだろ?」

その俺の言葉に栞はいつもの指を口に当てるポーズをすると言ってきた。

「私達のクラス、授業が終るのが5分早かったんです」
「祐一っ、一緒に帰ろ」

真琴の言葉を聞きながら俺はガックリと項垂れた。
何と言うことだ……神は我を見捨てたのか?
何でこんな日に限って……
そうこうするうちに後ろにも気配が……

「うぐぅ、祐一くんがまた逃げた〜」
「祐一酷いよ〜、極悪だよ〜」

相沢祐一包囲網完成。
こんな単語が頭をよぎった……今日はもうダメなのか?
このまま百花屋に直行か?
そう思った矢先の事である。

ピンポンパンポ―――ン

廊下に放送のチャイムが鳴り響く。その音に思わず固まってしまう一同。
そしていつも昼の放送なんかで聞きなれた放送委員の女生徒の声が聞こえてきた。

「相沢祐一さん、ご両親からお電話が入っております。至急、教務室まで来てください」

と放送が入った。これは……もしかして……
ふと後ろを振り返ると、そこには久瀬の姿があった。久瀬はこちらの方を見ている。
俺と目が合うと久瀬は無言で頷いた。
そうか!! 北川がやってくれたか!!

「そういうわけだから。それじゃっ!!」

と教務室の方向へ駆け出す。あっけにとられる名雪たち。
その一瞬の間のうちに俺は近くの階段に向かい、階段を一足飛びで駆け下りていた。
そう、この放送は嘘っぱちである。何かと妙な人脈のある北川が動いたのだ。
もちろん教務室へ行くはずもなく玄関に直行する。


一方、その場に残された面々の中でこの放送に不信感を感じた者が2人いた。
成績優秀で通っている美坂香里嬢と天野美汐嬢である。
この“相沢ハーレム”のブレーン2人(佐佑理さんがいたら3人)は既にこの放送がフェイクであると見破っていた。

「……香里さん、今の放送どう思われますか?」
「十中八句、嘘でしょうね」
「やはりそう思われましたか……」

頷きあう2人。それを隣で見ていた栞が驚いた声をあげた。

「えっ、そうなんですか?」
「ええ、多分……北川君の差し金でしょうね」

すでに黒幕まで見破っている香里、それを聞いた名雪たちはそれが何を意味しているのかわかり始めていた。

「祐一を追いかけるんだよっ」
「そうね。逃がさないんだからっ」

と、追跡者は頷きあうとそろって祐一を追いかけ始めた。

「うぐぅ、待ってよぅ……」

若干、この展開についていけない人も居るみたいですが。




「さて、と……囮が動いたか……」

と、今まで名雪たちに気付かれないように事態を静観していた久瀬が呟いた。
そんな久瀬の隣に斉藤が近づき、声をかける。

「そんじゃ、ま。俺等も動きますか」
「そうしようか」
「それにしても相沢の奴、いつもながら大変だな……」
「あぁ、気の毒としか言いようが無いな」

と、久瀬と斉藤は苦笑しあうとそろって玄関に向かって歩き始めた。
オペレーションBにおいて彼等の役割は食料や酒類の買出しである。
要は相沢祐一を会場である久瀬邸へ運べばいいのだ。
久瀬邸に入ってさえしまえばいくら彼女たちとはいえ追跡を諦めざるを得ない。
それほどまでにセキリュティがしっかりしているマンションなのだ。
祐一は必死に彼女たちから逃れ久瀬邸まで辿り着くようにする。そのサポートは北川が担当する。
そしてその間に買出しを久瀬と斉藤でやってしまうというのがオペレーションBの基本的な内容である。
また、久瀬邸で行うという事を彼女達に悟らせないようにするために作戦行動中に祐一と久瀬が一緒に行動する事は厳禁としている。
よって、今、彼女達は祐一の逃亡先に久瀬邸という選択肢は無いのだ。


こうして、彼女達が知らないうちに宴会の準備は整う事になる。




一方、その頃……
首尾よく学校からの脱出に成功した俺は、思わぬ伏兵に足を取られる事になる。
俺の行く先をふさぐようにして舞と佐祐理さんが立っていたのだ。

「あははーっ、祐一さん待ってましたよー」
「祐一、遅い」

いつも通りなテンションの佐祐理さんと何故かこっちを睨んでる舞。てか、何で俺が睨まれてんだ?
そんな彼女達と今、逃げてきた6人の間には今や暗黙の了解となっている一つのルールがあった。
それを人は“相沢祐一不可侵の条約”である。
なんでも、取らず奪わず抜け駆けせず……らしい。よく意味がわからんが。
ということで行動する時は8人一緒に行動する。これがまた金の巡りを良くする一因となっている。
はっ!! そんな事はどうでもいいんだ。この状況を脱出しない事には……
こうしているうちにもあの6人がやってくるだろう……
そうしてしまったら一巻の終わりだ!!
その時である。

「相沢っ!! こっちだっ!!」

突然聞こえてきた声に後ろを振り返ると、そこにはバイクに乗った北川の姿があった。
そういえば、コイツはバイトで溜めた金でバイクを買ったんだっけ。
自習中に教室に戻った時も久瀬の姿はあれど何故か北川の姿がなかった。
そして6限が始まる直前まで北川は戻ってこなかった。そうか、家にバイクを取りに帰ってたんだな……
おそらくどこか学校の近くにバイクを隠してたんだろう。目的はもちろん俺の逃亡用に使う為。
なんてタイミングのいいヤツだ。

「よし、わかったっ」

俺はそう叫ぶと天の助けとばかりに北川の方へ駆け出す。
流れるような作業でメットを受け取り素早くバイクの後ろに乗る。

「それじゃ、行ってくれ……佐佑理さん、舞っ!! また会おうっ!!」

そのまま俺を乗せたバイクは発進した。
残されたのはいきなりな展開でついていけなかった佐佑理さんと舞。

「ふぇー、行っちゃった……」
「…逃げた」

とりあえず今回は俺たちの勝ち、ってことのようです。




そんなこんなもあってここは久瀬邸。

「まずはオペレーションBの成功を祝して……」

幹事みたいに俺はグラスを持ち上げる。それに倣う3人。
そして全員で声をそろえる。

「「「「かんぱーい」」」」

そしてそのままビールを一気に飲み干す。
いやぁ、やっぱり何かを成し遂げた後のビールは格別ですな。
それになにより勝利の美酒って感じがまた良い。


結局あの後、バイクには流石について来れなかったようで何とか久瀬邸にたどり着く事ができた。
そこには久瀬と斉藤が既に来ており、準備は万端だった。
ちなみに、今日泊まる事を秋子さんに電話したら……

「了承(1秒)」

でした。


まぁ、いくらなんでもここまでは追ってくるまいて。
だから何の気兼ねも無く、宴会ができるというわけだ。


そんなこんなで、俺たちの長い夜は始まった……





〜〜あとがき〜〜
 
  はい。というわけで前編に続き、一日の過ごし方編・中編をお届けしました。
  ちょっとキャラの位置関係なんかがわかりにくいかな〜、とは思うんですが……
  わからん事とかあったらメールくれると嬉しいです。
  では、次は後編でお会いしましょう。








  あ、18歳未満の飲酒は法律で禁じられてますよ〜〜〜。
  これはフィクションです。実在する人物……っていいたい事はわかりますよね(笑)
  僕が言っても全然説得力無いですが………
                                    はせがー
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