「諸君、真琴は肉まんが好きだ」

手を後ろで組み、心持ち俯きかげんで―――それでも視線はこちらをねめあげる様に見下ろす感じで―――そう静かに、はっきりと言った。口元がらしくない程、怖いくらいに頬ごとニヤリと歪んでいる。
そしてこちらの反応を待つことなく間髪いれずにそのままの姿勢でくるりと体を回転させ、下げていた頭を持ち上げ空を見ながらこちらに背を向けてもう一度続ける。

「諸君、真琴は肉まんが好きだ」

―――暫しの間―――いや俺にそう感じられただけだろうか、他の者に焦れた様子が無いのではっきりとは分からない。
まぁ、そんなことはどうでもよいか。ともかく次の瞬間には再び体ごとこちらへ向きなおし、右手を掲げながら、

「諸君っ、真琴は肉まんが大好きだっ!」

大きく、威勢良く、そして訳の分からない自信を体中に漲らせ高らかに、どこぞの将軍様のように真琴は『宣言』した。


その掲げた手に持っている「本」の滑らかな表紙が陽光を浴びて輝くのをみた俺は――――――――――――――










―――――――――――――――――――――――――――――――小さく一つ欠伸をした。
















pleasure:喜び、満足

plenty:たくさん、多数

pork:豚肉、ポーク










吐く息が白い…。

辺り一面に、そして木々や家々の屋根に積もっている雪と同じ白さを周囲に広げながら、徐々に薄まって空へと消えていく…。

だ、が別段何かの感慨があるわけでもない。それはもう去年済ませてしまっている。

『俺の体の中から雪が出てきているのだろうか?』

昔はそんなことを思ったもんだ。
今でも理屈はわからんが、そんなものなのだろうと納得してしまっている。これが「大人になった」というやつなんだろうか?

そう、俺にとっては二度目の冬である。だが俺は冬があまり好きにはなれない。馬鹿正直に去年と変わらないこの寒さには全くもって辟易させられる。

自分でも寒さに対してある程度の耐性があるとは自認してはいるつもりなのだが、それでもやっぱりこの身を貫く寒さはとても慣れられるものじゃない。

冬が大好きだって奴が信じられないよ本当に。



俺は体をわずかに丸め、同時に小さく震わせながら正面の少女を見た。



――――――――あ…そうだ。こいつは―――真琴は冬が好きになってたんだっけ。まぁ件の食べ物は冬にしか売ってないからな。



『俺たち』の眼差しを受け、真琴は―――沢渡真琴は威風堂々と立っていた。
俺が寝食を世話になり、真琴もその恩恵に与っている家の前に立っていた。
そりゃあもぉ、何の説明も要らないくらいに立ち尽くしていた。

だがいつもの真琴ではない―――雰囲気もさることながら、外見からしていつもの真琴を知っている人から見れば恐ろしいほどの違和感をかもし出していた。

まずはその顔にかかっているもの。眼鏡だ。
とは言ったものの枠だけでレンズが入っておらず、その枠自体もプラスチックか何かで出来た安物のオモチャのようなものだと見受けられる。もちろん真琴の顔の形にあったものではないので、少々下にずり下がっている。
身に付けているものもお決まりのいつもの服装ではなくて、やや不似合いの大きな白いコートを前を開けて羽織っている。御丁寧にその下の服まで白だ。
確かあのコートは…家の誰かの物だったはずだ。もちろん真琴自身のものじゃあない。

俺が言うのもなんだが、きっぱりと似合わないな。
眼鏡をかけたからって賢く見えるわけでもなく、ましてや真琴の顔の形にあったものではないので少々下にずり下がっており、かなり格好悪い。
コートの方も減点だ。あれはある程度の身長がある人間だからこそ似合うのであって、真琴程度のそれではいいところ子供の仮装大会以上のものには見えない。その上サイズが大き過ぎるのか単に着るのがヘタクソなのかは知らないが、裾のほうを少し地面に擦ってしまっている。この陽気で少し溶けかけている地面をこのまま歩くとおそらくヒドい事になっちゃうんじゃないのか?

――――――――――――後が楽しみだ。



当の御本人はそんなことにも気付かずに、さっき『宣言』したときのポーズそのままに立ち続けている。


ま、あれだな。

俺は顔を手で擦りながら推測した。

完全に自分の台詞に酔っていやがるんだ。
その陶酔した目を見れば、完全に自分の世界に入ってしまっていると容易に推測できる。
他の二人の呆れた、そして俺の退屈でそして若干意地の悪い視線を浴びても全く意に介さずに(当然だな。全然気がついてないんだから)真琴は自分の発した言葉の余韻に浸りきっており、まるでいつかの二世皇帝か独裁者のごとき堂々さ(言い換えれば中身のなさそうな、無意味な)をかもし出している。

呆れると言うよりは滑稽で笑える。
腕が疲れないか?



「えっと…(汗)」

「あの〜…」

そのまま待つこと十数秒―――――――――今度は確実に時間が経った――――――流石に他の二人も焦れてきたのか、盛んに互いに目配せしあってはモゴモゴと言葉にならない言葉を発している。

…不可解なもんだ。言いたいことがあればさっさと言えばいいのに。いくら他人が口を挟める雰囲気ではなさそうでも、言わなきゃどうにもならんだろうが。

だがその時、二人がおろおろして時間を潰してこのどうにも気まずい状況を打ち破る何かを言い出す前に、突と上がった声がその代役を務めた。
二人がはっとして姿勢を正し、そちらを注視する。
つられた訳ではないが、俺も同じようにそちらにふいっと顔を回した。

もちろん、もちろん我が肉まん大好き少女の御声だ。
聴衆の痛い視線を受けても臆すことなく、それまで掲げていた腕を後ろに組みなおして再び伏目がちになりながら今までの沈黙が嘘のように隆々と雄弁に、そして淡々と『愛』を語りだす。

「色が好きだ       形が好きだ      立ち上る湯気が好きだ 
 手触りが好きだ     歯ごたえが好きだ   喉ごしが好きだ 
 食道を通る感覚が好きだ 胃の中の重みが好きだ 味などは言うまでも無く大好きだ 

 朝方に 昼中に
 夕方に 夜中に
 食前に 食後に
 三時に 九時に
 起床に 就寝に

 食卓で 居間で
 廊下で 部屋で
 床上で 寝床で
 道脇で 公園で
 店前で 店中で

 この地上のありとあらゆる状況で食する肉まんが大好きだ

 目の前にずらりと一斉に並べられた肉まんを眺めるのが好きだ
 視線が同じ高さになるように寝転びながらどれから先に食べようかとぎんみしている時など心がおどる

 コンビニのショーケースに並べられてある肉まんを全て一気に大人買いするのが好きだ
 このときのためにいっしょーけんめーにガキの相手をして金を稼いできたことを考える時など胸がすくような気持ちだった

 白くちょーわのとれた形をした肉まんを手で縦に二つに割って中を眺めるのが好きだ
 その中からもぁっと湯気が立ちそして白い皮と肉色の中身とがぜつみょーのこんとらすとを描いている様など感動すら覚える

 それらを十分にめでた後食事のマナーなど全く気にせずに一気にかぶりつくことなどはもうたまらない
 口を離した後に口の周りや指などについてしまった脂などを舌で舐め取るのも最高だ
 全てを口の中に入れ充分にそしゃくし口内ねんまく全体でその旨みを味わった後一気に飲み下ししょくどーを通り胃の中にとーたつするのを感じると同時に肉まんが消化され私と一体になるのだなぁということを想像した時などぜっちょーすら覚える」

突然そこで、始めの宣言とは違って感情を押し殺したようにトウトウと語ってきた言葉を打ち切る。
いきなりなんだとこちらが不審に思ったのもつかの間、いきなり表情を少々嫌悪感の混じったものに変え、口調自体にも若干の険を交えながら真琴は再び続けた。

「だけど祐一に横から肉まんを奪われるのは嫌いだ。
 みぜにを払って購入し、後の楽しみと残していた肉まんを知らぬ間に祐一に掠め取られ、それをついきゅーしても証拠も無いのでうまくかわされてしまい泣き寝入りするしかないのはとてもとても悲しいものだ。

 祐一にからかわれるのも嫌いだ。
 買いすぎだ、食い過ぎだ、そのままだと金欠おデブと女の子にとっては取り返しのつかない存在になっちゃうぞと笑われながら頭をポンポン叩かれバカにされるのはくつじょくの極みだ」

と、そこでまた言葉を区切る。
だが今度はその前のそれとは違って、心持ち視線を上げてこちらを視界に入れる。

そして次に発された言葉を聞いて俺は少し驚いた。

一連のクドイまでの『好きだ』で一通り自分の肉まんに対する『アツイ』想いを語り終えたのか、次に口から出てきたのはそれまでと違ったこちらに問い掛けるような言葉だったのだ。

「諸君、私は肉まんを、世の至福のきわみである肉まんを望んでいる
 諸君、私に付き従う『同好の』諸君
 君達は一体何を望んでいる?
 更なる肉まんを望むか?
 情けよーしゃがないほど美味な肉まんを望むか?
 取れる限りの手段を尽くし、三千世界の人々を狂わすしこーの肉まんを望むか?」

初めてこちらを意識した呼びかけ。
明らかにこちらに自分の問いに対しての強い同意を求めている様に見える。
それまでと口調は変えずとも、何らかの心境の変化があったのだろうか?



他の奴がそんな考えを踏まえてかどうかは知らないが、その問いに俺たちはそれぞれ思い思いの答えを返した。



「うぐぅ………」

言葉に詰まったように。

「えぅ――――」

ちょっと泣きが入りそうな感じで。

『な〜〜〜〜〜』

そして『俺』は、やはりどうにもやる気の無い鳴き声で。



正に三者三様。
だが、全く持って同意の言葉に聞こえないという点で俺たちの言葉は意を共にしていた。

さぁ真琴のヤツがどんな顔をするか――――――



「よろしい ならば肉まんだ」

がばっとコートをはためかせながら両手のひら(片手に本を持ってだが)を自分に向ける様にして目の高さまで差し上げ、一連の会話にそう結論づけることだった。



――――――(ン――――――――――――)

俺はヤレヤレと思いながら地面に(といっても雪だが)爪を立てて大きく伸びをする。

やはりこちらの反応などどうでもよいのだ。まさにどこかの独裁者。

チョビ髭が無い分マシかもしれんが…もう勝手にしててくれ。付き合いきれん。

二人が『何でそーなるの!?』と言わんばかりに大きく口を開けて呆れているのを横目に見ながら俺は、そのまま毛づくろいを始める。


「我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ」

最近、首の右っかわのほうの生え方が気になってな…

「だがこの半年以上三つの季節の間を堪え続けてきた我々にただの肉まんではもはや足りない!!」

あ〜あ、枝毛になってやがる…っと。これでよしっと。

「肉まんを!!
 一心不乱に『専門店』の肉まんを!!」

さぁてどうするか。二丁目の三号さんにでも会いに行くかな…。 

「我らはわずかに4名 片手に足りぬ小集団に過ぎない
 だが諸君はいっきとーせんの古つわものだと私はしんこーしている
 ならば我らは諸君と私で……………………………………………………………………………………………………………………………」




…ん? なんだ、また間をもたせるのか? 演出過剰にも程が…。

俺はもう一度、顔を巡らせた。

おやおや。

そこには額に脂汗が一つ。
我が総統様は視線を宙に泳がせながら焦りを浮かべていたのだ。

「…えっと…」

溜まっていた汗がつうと流れ、なんとも不気味な均衡を程よい感じに味付けする。

お? 何だ何だ?

誰も何も言い出さない。言い出せない。
余りにも間の悪い空気を肺に吸引しながら俺は多少面白そうに真琴の顔を覗き込んだ。
うぐぅとえうーのコンビも今までとはうって変わった真琴の様子に戸惑いながらも固唾を飲んで見守っている。

「―――あ…あぅ〜〜〜」

六つの目から投射されるプレッシャーに耐えかねたのかどうかは分からないが、真琴は突然ガバっと後ろを振り返った。


…何してんだ?

真琴は少し背を丸めながら、こちらに見えないように何かゴソゴソとしている。
俺はひょいひょいと二・三歩足を進め、何をしているのか確認できるように回り込んだ。

「確か…後ろのほう…あ、こら!」

サッと片手で何かを体に押さえる。
そしてもう一方の手で猫でも追い払うように(まぁ俺はネコなんだけど)シッシと手を振る。

「ちょっとあんた向こうに戻ってなさいよぅ!」

俺は元の位置へと追い立てられてしまった。
だが俺は目の端に、真琴が押さえたものをしっかりと捕らえていた。

まぁ考えんでもそれしかないだろうが…。
問題はそれを使って何してるかだな。

と、すっと俺に影がかかる。
見上げると、俺と一緒にこの茶番に付き合わされてる少女の一方が俺を覗き込んでいた。

「ねぇ…真琴ちゃん何してたの?」

―――俺(ネコ)に聞くな。答えられるわけないだろ。

俺は当然の如くその問いかけに無視をする。

「…うぐぅ」

そんな間にも真琴は後ろを向いたまま、何事かを呟きながら作業に没頭している。

「あった…! そうかぁ…「とーせん」の「せん」が「千」だからえ〜っと…よしっ!」

どうやら解決したようだ。
パタンという音と同時にこちらに振り向く。その顔には先ほどの自信がすっかりと戻っていた。
顔を見合わせていた二人も慌てて視線を戻す。

さっき言葉を切ったときと反応が同じなのが少し笑えるな。

「え〜〜〜〜〜コホン」

俺の思惑をよそに真琴はエラそうに咳払いを一つしてから、さっきまで持っていた本―――――――――そして今後ろでゴソゴソとページをめくって何かを探していた本を改めて片手に持ち直してから、おもむろに途切れた続きを語りだした。

「我らはわずかに4名 片手に足りぬ小集団に過ぎない
 だが諸君は一騎当千の古つわものだと私はしんこーしている
 ならば我らは諸君と私で総力4000と1人の軍しゅーだんとなる

 肉まんをぼーきゃくのかなたへと追いやり眠りこけている水瀬の家を叩き起こそう
 腕をつかんで食卓に引きずり込みまなこを開けさせ思い出させよう
 連中にしこーの味を思い出させてやる 連中に我々のよっきゅーを思い出させてやる
 天と地のはざまにはかれらがどうあれの永久不変のか確固たるものがあることを思い出させてやる
 4人の(戦闘団)カングルツペで
 テーブルを埋め尽くしてやる」

言い終わると同時にズパッと手を横一文字に振り払う。
またここで黙るのかと思ったが、次の行動は迅速だった。

しゃがみこむと、そのまま手を伸ばし俺をむんずと掴みあげたのだ。

びろんと垂れ下がる俺。
理由も無いのでさしたる抵抗もせずに従った俺だが、その事はすぐに後悔することとなった。

再び立ち上がった真琴は俺を目の高さまで持ち上げ、くるりと残りの二人のほうに向けるとこう言い放ったのだ。

「全隊員かつどー開始!
 副隊長始動!」

事もあろうに俺を副隊長にしやがった!   ・・・
冗談じゃない! こんなアホなことに、それも真琴側で参加させられるなんてこっぱずかしい以外の何者でもないぞ!?

じたじたと俺は真琴の手の中で暴れるが、そんな俺をを押さえつける様に真琴は手に力を入れる。
所詮人間の力には敵うべくも無く、俺は食い込む爪に顔をしかめながらただ空中でフラフラするだけだった。

「 てんこーよーし きおんよーし かざむきよーし………」

いちいち状況確認をし、その区切り一つ一つごとに俺をぶんかぶんかと激しく上下させる。

三半規管を激しく揺さぶられた俺は見る見るうちに抵抗する気力を失っていく。

段々気持ち悪くなってきた…
ああネコというわが身の空しさよ…太陽が目にまぶしい。

「【個数限定肉まん奪取大隊】大隊指揮官より全隊員へ副隊長が伝える!
 目標、商店街八百屋の隣にオープンの、本場から来た肉まん専門店!!」

…俺そんなこと言ってない。

「第1次肉まん作戦」

…まんまじゃねーか…第一次って事はこれから毎回こんなことするのか…?

「状況を開始せよ」

そうして俺を定位置へと押し付ける。
俺が落ちないようにと思ってか、右手を常に俺に沿え、頭を上下させながら商店街に向かって足を踏み出す。

「征くわよぅ! 諸君!!」

持っていた本を上着のポケットに入れながら大またで一歩一歩雪を踏みしめて行軍を始めた。

あ〜あさっさと逃げりゃ良かったな枝毛の処理なんていつでもできるんだしいやいやそういう問題じゃなくてはなから相手にしなけりゃこんなことにはという激しい『後の祭』感にさいなまれながら、俺はその頭に張りついたまま歩くのにあわせて体ごと上下する。
ガキのころは心地よかったんだが、今となっちゃあどうにも…むずがゆいと言うか何と言うか。
ロボットの操縦者ってこんな感じなんだろうなぁ…。

その諦めが多分に入った俺の頭に、後ろから聞こえる声があった。

「真琴さん…一体どうしちゃったんですか?」

「えと先週のことなんだけどね、祐一君が真琴ちゃんに漫画無いかって詰め寄られて、貸した本があるんだけど…」

「ひょっとして今持ってた本ですか?」

「うぐぅ…多分。それから真琴ちゃん、おかしな行動が目立つ様になったんだよ…祐一君に『楽しい!こんなに楽しいのは久し振りだ!』って言いながら悪戯したり…」

「その漫画の影響ですか…」

「ただ真似してるだけなんだと思うけど」

「で、どうして私たちがこうなちゃったんですか?」

「ボクに聞かれたって分かるわけないよ〜〜〜無理やりつき合わされてるんだし…」

「大事な用があるからっていうから来たんですよ? 今日お姉ちゃんと買い物行く予定だったのに…何で私を呼んだんですか!」

「だ、だって真琴ちゃんが誰か呼べって言うんだもん…他に頼めるような人いなかったし…」

「そんなこという人嫌いです!」

「僕だってたい焼き買いに行くつもりだったんだよ!」

「…あゆさんはいつものことだからいいじゃないですか。私なんて滅多に無いことなのに…」

「うぐぅ! やりたいことに『きせん』はないよっ!」

「私肉まんなんて嫌いなのに…どうしてあゆさん止めなかったんですか?」

「うぐぅ無視するし…栞ちゃんこそ何も言わなかったじゃない!」

そんな『ザ・文句言うだけ責任なすりつけ後の祭り』会話を聞きつけたのか、真琴は顔だけ振り向いて(当然俺も振り向かされる)、

「なにしてるのよぅっ! 戦いはあたまかずがじゅーよーなのよ!! たいちょー命令よさっさと来なさい!!」

有無を言わせずまくし立て叱りつける。
この位置では真琴の顔を見ることはできないが、さぞかし…

「「ごっごめんなさいっ」」

見事に声をハモらせる二人。これでどんなのか想像できるな。

それに満足したのか真琴は再び進軍を始めた。

後ろからボソボソと声が聞こえる。

「やっぱり逆らえるような雰囲気じゃないですね…」

「うぐぅ…ボク達ってちっぽけだよ…」

どうやら大きく泣きそうな勢いで溜息をついたようだ。
そして諦めたような重い足音が聞こえる。

嫌なら嫌って言えよ人間なんだから。
こっちはそれすらできんと言うのに。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――泣いて溜息尽きたいのはこっちだよ。





















にしてもまぁ…いきなり芝居じみたり、自分を押し殺したり、無理やり他人を巻き込んだり、責任押しつけたりと―――――――――










「申し訳ありませんお客様。店内はペットの持ち込みは禁止になっております」

「ペットじゃないわよぅ!」

「…お客様?」

「それに入らないとこの子の分の肉まんも買えないじゃない!」

「あの…お嬢ちゃん? 限定の肉まんは『人間』お一人様2コまでって決まってるのよ?」

「どーしてだめなのよぅ!! この子だって一人じゃないの!?」

「そうは言われましても…」










―――――――――――――――――――――――――まさしく人間とは複雑怪奇。





俺はもう一度欠伸をしようとしたが、喉の奥でつかえて出てこなかった。



















PIROSHIKI(ロシア語のためローマ字変換):ピロシキ ロシア製の肉まん


後書き

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