魔法戦国群星伝





< 第十七話  アブソルート・マジック  >




ものみヶ原 独立魔導銃兵隊

「第六隊第二組頭討死!」
「第十六銃隊前方に硝煙沈滞! 視界悪化しています!」
「魔導兵3名被弾、詠唱継続不可!」

戦況が激化するにつれ、飛び込んでくる使番が一気に増加した。

「違うよ! 十四銃隊にサポート回して。そう、第十六銃隊! 魔導兵に風術起動命令は出してるはずだよ」

レミィの魔弾による混乱は、ここ名雪の独立魔導銃兵隊にも襲い掛かっていた。

必死に状況の維持に務める名雪に祐一からの使番が来たことが告げられる。

「水瀬隊長、相沢卿からの伝令です」

「祐一から? 通して」

名雪は不思議そうな顔をしながら応えた。
側近の女性に連れられて陣幕へと使番が連れられてくる。

「で? 祐一はなんて?」

「はい、相沢卿の命令をお伝えいたします」

ここで一度呼吸を整えた伝令兵は神の神託を告げる神官のような口調で命令を伝えた。

「『絶対魔術(アブソルート・マジック)』の使用を求める……とのことです」

その瞬間、喧騒に包まれていた陣幕内が石化した。

誰もが今発せられた言葉を理解する事が出来なかった。
いや、理解はしていたものの、それに全く脳も肉体も反応しようとしなかったのだ。

時と空間が停止した様な静寂が広がる。

その静寂の中に波紋を投げかけるように小さな声が響いた。

「了承だよ。祐一にそう伝えて」

その言葉が陣幕にいた人間たちに浸透するまでの数秒間、静寂は続いた。

次の瞬間、爆発したように喧騒が戻る。

「ちょっ、待って下さい」

「なにを考えているんですか!?」

「国が…、カノンが消滅してしまいますよ!!」

水瀬陣内は恐慌に包まれた。






絶対魔術(アブソルート・マジック)』―――いわゆる戦略級破壊魔術…その総称である。

盟約暦前、世界的に魔術が盛んだったこの時代、世界各国で次々と強大な術が生み出された。

一個の軍勢を、一つの都市を、それどころか国家そのものすら破壊する魔術。

決して平和ではなかったこの時代、各国は開発されたそれらの術を躊躇なく戦争で使い始めた。



大破壊戦争時代の到来である。



ある軍勢は超高熱の光に焼かれ、ある都市は大地震により崩壊し、ある国家は大津波により海に飲まれた。

文化は衰退し、歴史が失われ、文明すら崩壊しつつあった。

世界はまさに滅びを迎えようとしていた。



狂気の終末……だが、そんな世界の結末を拒絶した一人の魔法使いがいた。

空前にして絶後と言われる大魔法使い−名はマーリンと伝わっている。

マーリンは、彼の呼びかけに世界各地から集まった十二人の超一流の魔術師たち、後に『十二使徒(マジェスティック・トゥエルブ)』と呼ばれる者たちとともにある儀式魔術を行った。

その儀式魔術とは……世界との接触(コンタクト)

彼らは自分達が住むこの世界そのものと接触を図ろうとしたのだ。そのために彼らは本来あるはずの無い、この世界そのものの意識を目覚めさせ、召喚する事に成功した。
そして『十二使徒(マジェスティック・トゥエルブ)』たちは自分たちが世界意思存在、又は世界の女神と呼ぶ意識体と盟約を結ぶ事となる。

世界と結んだ盟約…その内容とは以下のようなものだった。

絶対魔術(アブソルート・マジック)の使用によるジェノサイドを禁忌とする事。

それは今、世界を滅ぼしつつある力である絶対魔術(アブソルート・マジック)の使用を制限しようというものだった。
無論、使うなと言われてはいそうですかと言うことを聞く国家はないだろう。だからこそマーリンたちは世界と盟約を結んだ。

もし盟約を無視し、絶対魔術(アブソルート・マジック)を無差別に使った場合、大量に発生する魂魄の肉体からの喪失を世界は感知し、盟約は発動する。

盟約の発動……それは絶対魔術(アブソルート・マジック)の使用者の現行世界からの強制的な消失を意味していた。
いや、使用者だけではない。使用の意思が個人ではなく、使用者が所属していた組織・国家にあった場合には、当の組織や国そのものまでもが根こそぎ消滅する。


それはまさに世界が自らの内に存在する全ての生命体にかけた…呪いとしか言い様のないものだった。

世界と生命を守るために全てを消し去る呪い。


無論、マーリンが盟約を世界に宣言した後も、これを無視して絶対魔術(アブソルート・マジック)を使用した国家が続出した。
結果は王・貴族・国民、貴賎を問わないすべての人間の世界からの消失であった。

やがて盟約の恐ろしさが知れ渡り、王たちは絶対魔術(アブソルート・マジック)の使用を断念していき、それでもやめようとしない愚かな指導者は、恐怖にかられた家臣や国民たちの手により血祭りに上げられた。

そして絶対的な力が失われた虚脱感からか、世界に一時的だがいびつな平和が訪れる。
人々は世界を滅亡から救い、この平和をもたらした盟約に恐怖し同時に感謝した。
人々はこの盟約を『永遠の盟約』と呼び、盟約が結ばれた年を盟約暦元年とし、以後、盟約暦がつづられていく。



そして世界に「大盟約世界」の名が冠されることとなった。






絶対魔術(アブソルート・マジック)』の使用とは即ち、『永遠の盟約』の発動である。

名雪の参謀たちがこぞって止めようとするのは当たり前であった。だが…

「大丈夫……だよ」

静かな名雪の一言が喧騒を黙らせる。

「帝国軍に向かって使う訳じゃないから」

そして名雪はある場所を指差した。

標的(ターゲット)は…あそこだよ」

そうだよね?と問い掛けるような名雪の眼に、祐一の使番は驚いたようにコクコクと頷いた。
周囲はあっけに取られた。祐一の発想の無茶苦茶さに、そして名雪が祐一の考えを当然のように読み取っていたことに。

「さあ、みんな! 始めるよ!」





ものみヶ原 保科勢陣幕

「はぁ、なんちゅうかこれは。今回の一番手柄はレミィやなあ」

レミィたった一人のお陰で劣勢に陥っている敵カノン軍に哀れみに似た視線を向けていた保科智子は、余裕を持って自分の出番を待ち構えていた。

「委員長!!」

「なんや?」

自分の部下にまで委員長いわれるんは結構なんやな。

ちょっと不機嫌になりかけた智子は、飛び込んできたのが直属の魔導兵であることに意表を衝かれた。

「どないしたん? あんた使番ちゃうやろ」

魔導兵は智子の問いを無視して切羽詰まった様子で叫んだ。

「敵カノン軍陣内にて大魔力集中を確認!!」

「は? なんやそれ、どういう意味やのん?」

「とにかく、あれを見てください」

促されるまま陣幕を出て、魔導兵が指差した空を見た智子はあんぐりと口を開けた。

「なっ、なんやあれ!?」

智子の視線の先、カノン軍の上空に巨大な魔法陣が浮かんでいた。





ものみヶ原 独立魔導銃兵隊

開門式(ゲート・オープン・コード)解凍完了」

召喚法陣(サモン・ヘキサグラム)固定開始」

名雪直属の魔導師たちが補助魔術を次々に編み上げていく。

その中心では名雪が静かに準備を進めていた。

「我に眠りし果て無き導、大いなる力、夢の縁にて今ここに降りたたん……《全能力強化(フルポンテンシャル・ブースト)》だお〜」

その言葉と共に名雪の眼がトロンと塞がり糸目となる。



水瀬名雪は、もはや殆んど現存しない絶対魔術(アブソルート・マジック)の使用方を継承していたが、その術式は深層意識下に刷り込まれており、トランスモード−別名『眠り姫(スリーピング・ビューティー)』とならないと、絶対魔術(アブソルート・マジック)は使用できない。
ちなみに誰がそんな物騒なものを深層意識に刷り込んだかは、言わずもがなである。

眠り姫(スリーピング・ビューティー)』状態となった名雪はゆらゆらと両手を掲げると、全く気合の入らない声で叫んだ。

「うにゅ、『カノン・けろぴー』召喚だお〜!」





ものみヶ原 倉田勢

「なっ!?」

必死で戦線を支えていた一弥は後方のものすごい光に振り返り、仰天した。

独立魔導銃兵隊の上空に描かれた巨大な魔法陣から、体長十五メートルにはなろうかという巨大な物体が降りてくる。その物体は緑色の毛に包まれており、でかい瞳が異様につぶらだった。

「はぇぇ、おっきいですねー」

妙に嬉しそうに手を合わせている姉に気付いた一弥は驚愕に顔を歪めたまま問い掛けた。

「ねっ、姉さま、あれはいったいなんですか?」

「ふぇ、知らないの一弥。あれは水瀬家に代々伝わる絶対魔術(アブソルート・マジック)『カノン・けろぴー』だよー」

「あっ、絶対魔術(アブソルート・マジック)ー!?」

「ちなみにカエルだってー」

「あれがカエルー!?」

動転しまくっている一弥をクスっと笑いながら佐祐理は『カノン・けろぴー』を見上げた。

香里さんか祐一さんか、どちらが考えたか分かりませんけど、この場面ではこの手段しかありませんねー。さすがです。

この策を思いついたであろう人たちの顔を思い浮かべながら佐祐理は思った。

でも、「けろぴー」ってかわいいですねー。




ちなみに同意見の人がもう一人。

「………カエルさん、かわいい(うっとり)」





ものみヶ原 白穂山

「ワ〜ツ、なんなのあのガチャピンはー!?」

しばらく呆然と緑色の怪物体を見ていたレミィは、表情を引き締めるとスコープを覗き込んで、カノン軍を見回す。

「見つけた!!」

明らかに謎の物体の召喚を行っているグループを発見したレミィは、中心にいる青い髪の少女にポイントを合わせる。
研ぎ澄まされたレミィの感覚が風を読み、気圧を感じ、弾道の細かいブレを調節する。

おやすみなさい(グッナ〜イ)

荘厳ともいえる声で呟いたレミィはおもむろに愛銃「孤高なる銀(アインザーム・ズイルバー)」の引き金を引く。その瞬間、銃に付与された魔術が発動。火薬によって押し出された銃弾に限定的な重力中和と大気を押し分けるフィールドが附帯される。

ターーーン

レミィにとっては心地よい銃声を残し、銃弾は名雪めがけて飛翔する。
狙いは間違いなく名雪の心臓を指向していた。

だが、標的が倒れるのを見守っていたレミィはスコープの中に映った光景に思わず舌打ちする。

銃弾が名雪の胸に着弾すると想われた瞬間、彼女の周囲に魔術文字の紋様が浮かび上がり、同時にその表面で火花が散った。

「シット、弾かれた。対銃弾防御幕(アンチ・ブリッド・シェル)か」

対銃弾防御幕(アンチ・ブリッド・シェル)とは、鉄砲全盛期のこの時代に対応して生み出された防御魔導術である。だが、完全な物理防御魔法なので高位の魔導士が数人がかりでやっと一人分を維持できるという代物であり、あまり頻繁に使用できるものではなかった。

だが、名雪はこの召喚という無防備になる状況に、用心して対銃弾防御幕(アンチ・ブリッド・シェル)を展開していた。

「ふぅ、これじゃ仕方ないネ」

名雪の狙撃を断念したレミィは空中に浮かぶ巨大なカエルに目を向けた。

「あれってきっと絶対魔術(アブソルート・マジック)なんだろうけど、まさか軍勢に向けるわけじゃないだろうしー、いったいなんに使うつもりナんダロ」

疑問を口に出して思考を巡らせる。

ふと、あのでかいカエルと眼が合ったような気がした。その瞬間、レミィは一つの考えに至り、みるみる顔色を蒼白にし飛び上がった。

「ジーザス!!」





ものみヶ原 独立魔導銃兵隊

「照準調整式の起動を確認」

召喚法陣(サモン・ヘキサグラム)固定完了」

「『カノン・けろぴー』魔力相(ルーン・インデックス)安定確認終了」

中心に名雪を置き、周囲に展開した魔導師たちがオペレーターと化し洪水のように口早に状況を報告していく。

「『カノン・けろぴ〜』砲口開放(マズル・オープン)だお〜」

名雪の呪文だか指令だか分からない声と同時に、『けろぴー』の短い両腕がゆっくり前に突き出され、閉じられていた口が開いていく。

「魔力充填開始〜」

「魔力充填開始、充填完了まで八七秒と確認、カウント始めます」

「方位角測定式転送完了」

「目標確認、距離二九五七.標的捕捉式(ロックオン・コード)転送します」

「八〇秒、七九、七八、七七、七六……」





ものみヶ原 東鳩帝国軍総本陣

「確かに絶対魔術(アブソルート・マジック)なんだな」

「はい、確かに伝承で伝わっている『カノン・けろぴー』と姿が合致します」

浩之は配下の魔導兵の言葉に眉をしかめて唸った。

いったいカノン軍はなんのつもりなんだ? 脅しか?

だが、と浩之は戦場に目を向けた。謎の物体の出現に多少の混乱は見られるものの、致命的なものではない。「永遠の盟約」の恐ろしさは今でも十分に伝わっている。

あれが絶対魔術(アブソルート・マジック)と分かっても、それが自分たちに向けられるはずがないという安心感が帝国軍内にはあった。逆にカノン軍の方が動揺しているようにすら見える。

なにか目的があるはずだ。いったいなんなんだ? 俺たちに向かって使えばジェノサイドになって「永遠の盟約」に抵触するんだぜ。やつらに国ごと心中するつもり…………まてよ、ジェノサイドだと?

その時、閃光のように浩之の脳裏にその答えが閃いた。

……まさか!!

「やべぇ!!」

血相を変えて立ち上がった浩之に周囲の人間の驚いた視線が集まる。

それらを睨み付けて浩之は叫んだ!!

「いそいでレミィに使番をだせ!! 奴らの狙いは……」

その瞬間、ものみヶ原は閃光に染まった。





ものみヶ原 独立魔導銃兵隊

「カウント終了! 魔力充填一二〇%!!」

目標固定完了(ターゲット・ロック・オン)

光が『けろぴー』の両手、そして開かれた口の前方に集束していく。

「対閃光防御」

その場に詰めていた全員がどこからともなくサングラスを取り出し、スチャっと装着する。

うにゅ、と開いていない糸目で前方を見据えた名雪が叫んだ。

「≪カノン・けろぴ〜・プラズマブラスト≫…斉射(サルヴォー)〜!!」

その言葉を引き金に『けろぴー』が一瞬、爆発したような煌きに姿を消す。光の渦から解き放たれる三条の光の帯。遮るものの無い虚空をまさに高速で駆け抜けた光の帯は一瞬にして白穂山に突き刺さった。
その途端、まるで白穂山が噴火したように爆発した。ただし吹き上がるのは溶岩ではなく光の柱。

ものみヶ原は光に飲み込まれた。




「目標……完全消滅」

「『カノン・けろぴー』魔力相(ルーン・インデックス)異常変動ありません」

開門式(オープン・ゲート・コード)再起動開始。召喚法陣(サモン・ヘキサグラム)固定解除」

再び虚空に出現した魔法陣の中に姿を消していくけろぴーに向けて名雪は微笑を浮かべた。

「うにゅ、けろぴーごくろうさま」



    第18話に続く!!






   あとがきってなあにと思う今日この頃


八岐「しまったぁ!!」

祐一「なっ、なんだ!?」

八岐「いや別に…ちょっと叫んでみたかっただけとか」

祐一 (怒)

八岐「じょっ冗談です。実は第14話のあとがきでカノン組全員出したとか言ってたけど一人出してなかったんだ」

祐一「…誰?」

八岐「けろぴー」

祐一「…あれは一人とは数えないのでは? まあいいや。それで今回で全員出した訳だな?」

八岐「……出した…かな?」

祐一「…何故間がある? 何故疑問符が着く?」

八岐「いや、出ない予定だけど存在はしてる人たちがいるんだよね」

祐一「はあ? 誰だよ」

八岐「君の両親」

祐一「……おお!! ちゃんと親父とお袋いたんだ。存在薄いから忘れてた(オイ)。で? どこにいるんだ?」

八岐「海外」

祐一「……ヘンなところでゲーム本編と一緒だな。重要なところは完全に無視してるくせに」

八岐「ナハハ、ごめんなさい。ああ…でも出ないかもと言ったけどあゆ絡みで出るかも…いや出そうだな、うん出そう」

祐一「……だからそういう節操無いところ気をつけないと収拾着かないって言ってるだろう。だいたい今回だって訳が分からん状態になってるのがあるし」

八岐「なにが?」

祐一「盟約だ! 永遠の盟約! ほんと…こんなんでいいのか?」

八岐「う〜ん、殆ど核兵器使用禁止条約並。永遠の盟約って言うより永遠の条約って感じだな」

祐一「じょ、条約って…」

八岐「最初にこの話考えた時に合戦の時にド派手な魔法使われたらお終いだよなと思ったのが始まりでねえ」

祐一「そのド派手な魔法ださなきゃいいじゃないか」

八岐「いや、使いたいのが人情やん」

祐一「……ちょっとは控えろよ」

八岐「は〜い(誠意なし)。さてと次回予告行きましょう。長引いたし…。次回は第18話『オペレーション・ヤック』…カノンに最大の危機迫る!?」

祐一「漫画雑誌の信憑性の薄い予告みたいな文句だな」



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